読売新聞速報(2001年 10月9日14:04)


第2のテロ?高まる不安…米の炭疽菌感染

 米軍による連夜のアフガニスタン空爆が続く中、米フロリダ州では、生物兵器にも使用可能な「炭疽菌(たんそきん)」の感染者が相次いで確認され、新たなテロに対する不安が高まっている。ニューヨークでは抗炭疽菌剤が飛ぶように売れ、毒物の散布を防ぐため、水源地は立ち入り禁止措置に。捜査当局も感染ルートの特定など本格捜査に乗り出した。

 【ニューヨーク8日=河野博子、大屋敷英樹】ニューヨークの街の薬局では、炭疽菌に有効な抗生物質「シプロ」が急に売れ出した。

 マンハッタン中心部のスーパー内の薬局では、7日午後零時半(米東部時間)の空爆開始後、「シプロ」を買い求める客が押し掛け、夕方までに在庫の500錠がすべて売り切れた。同時テロ事件以前は、1日に100錠程度しか売れなかったという。

 薬局の女性店員、スーザンさん(25)は「とても恐ろしい現象。あまりにたくさんの人がパニックに陥り、なんとか安心感を得ようとしている」と話す。

 世界貿易センタービルから約3キロ北のグリニッジ・ビレッジにある「ビレッジ薬局」でもシプロの売れ行きはテロ前の5倍になった。

 ビレッジ薬局の薬剤師、ガス・トルリダキスさんは「かかりつけの医師に(炭疽菌に対し)『何か対策がないか』と尋ね、処方せんを書いてもらう人が増えているのではないか」と推測する。

 炭疽菌は全身の発疹(ほつしん)や高熱など激しい風邪のような症状を引き起こし、80%以上の人が2日以内に死亡するといわれる。元々は家畜や野生動物の感染症で、地中で数十年も休眠し続け、地域全体を長期汚染することもある。人間には、感染した動物やその遺体から、傷口などへの接触で感染する。

 生物兵器として使われる代表的な細菌の1つで、第二次世界大戦前の1930年代から、日本でも陸軍「731部隊」が生物兵器として研究した。

 オウム真理教も大がかりな噴霧装置で都内の道場屋上から周辺へ散布したことがあるが、周辺に悪臭を放っただけに終わった。噴霧装置で圧力をかけすぎたため、菌が死滅したとみられている。首都高速をトラックで走りながら散布したことも、別の幹部が法廷で証言している。

 一方、アメリカでは、飲料水の水源に細菌や毒劇物を投入するテロ攻撃に対しても、警戒が強まっている。

 ニューヨーク州環境保護局は同時テロの翌12日、湖畔での釣りや貯水池、湖でのボート遊び、ハイキングなど水源地区域での一切の行楽を禁止する措置を取った。今月2日には、例年シーズンとなるシカ狩りも禁止された。

 同州には飲料水供給のための3つの水系があり、計18の貯水池・湖があるが、そのすべての周辺地域が立ち入り禁止となった。それぞれ、貯水池・湖のはるか手前で林道が封鎖され、「立ち入り禁止」の掲示板が掲げられた。地元警察のパトロール隊が区域に近づく人への職務質問を実施している。

 アトランタ、ロサンゼルス、シカゴなどの大都市でも同様の措置や、浄水場での水質検査強化などが取られた。先月21日、連邦捜査局(FBI)は水道供給会社に細菌テロに対する防護策を取るよう警告。環境保護庁も5日、飲料水供給をテロ攻撃から守るため専門調査団を設置した。