<オウム真理教休眠宣言>―9月29日付け

 オウム真理教は、明日9月30日をもちましてここ足立区谷中の本部施設から撤退し、翌10月1日以降、教団としてのすべての対外的な宗教活動を全面的に休止し、暫定的な措置として、破産管財人から使用禁止の通告を受けている教団名「オウム真理教」の名称使用を一時的に停止します。

 長野県北御牧村を発端として、今年1999年に入って全国各地で発生したいわゆる地域問題を通じて、オウム真理教は厳しい国民的批判にさらされました。

 信者が新たに移り住んだ地域では、地元住民が信者住居を包囲し、建物への接近・出入りの妨害、地域ぐるみの不売運動、その他様々な物理的・精神的な排除が加えられたほか、これまで何の問題もなく住民と共存してきた地域にまで、かつてなかったような激しい反対運動が広がっていったのです。

 一方で、住民だけでなく自治体が先頭に立って行なった、オウム信者を追放しようという動きは、転入届不受理をはじめとして、あらゆる行政サービスを拒否するという、自治体による違憲・違法な処分にまで発展してしまいました。

 また、5月の下旬以降は、教団のチラシを配布していた信者に対する住居不法侵入容疑による逮捕事件が相次ぎ、捜索個所は延べ293個所以上、押収品目は数千点にも上り、出家信者だけでなく在家信徒の修行と生活の環境も深刻に脅かされるに至ったのです。

 そして、8月の下旬には、松本サリン事件民事訴訟原告の家族が拉致されるという事件が発生し、たちまちオウム真理教への疑惑が集中し、各支部への抗議やいたずら電話、嫌がらせが相次ぎました。この事件以降、支部に通う信徒は激減し、脱会する者も出てきました。その結果、各地の支部は事実上活動不可能な状況に追い込まれ、9月6日に名古屋支部が閉鎖したのを皮切りに、16日までには全国の13の支部すべてが閉鎖を余儀なくされたのです。

 また、9月に入ってからは、本部の移転問題をめぐって都内の自治体が次々とオウム信者の転入拒否を表明し、信者を取り巻く社会的環境はますます悪化していきました。

 教団への社会的批判が信者個々人にまで及んでおり、信者が直面している生活不安は極めて深刻です。信者は肉体的にも精神的にも疲弊し切っており、限界に近い状態にまで追い詰められているのが現状です。信者からはこれまでの教団のあり方について見直しを求める声が、いよいよ高まってきました。

 こうして、社会との摩擦によって教団が大きく揺さぶられる中で、8月25日、突然オウム真理教の破産管財人から、教団名「オウム真理教」の名称使用を禁止する通告がありました。

 破産管財人の阿部弁護士は、教団に対してインターネットやチラシ、街頭活動などにおいて、「オウム真理教」の名称を使用することを中止するよう求めるとともに、教団に対する根強い社会的批判を背景に、現在の教団活動の自粛を強く促しました。

 この通告を受けて教団内では大きく動揺が広がり、長老部では広く一般信者の意見も参考にしながら、この問題について議論を続けてきました。破産管財人との協議は今後も継続していくことになりますが、はっきりとした結論が出るまで、「オウム真理教」の名称使用を一時停止することを決定しました。

 こうした議論を進めている最中、9月22日、地下鉄サリン事件に関する豊田・杉本両被告の公判に証人出廷した麻原尊師が、これまで拒否されていた証人宣誓に応じ、事件について証言を始められるという出来事がありました。証言は、ご自身の関与は否定しつつも弟子の直接関与をはっきり認める内容になっているだけに、多くの信者は驚きをもってこの証言を受け止めました。

 教団が事件についての認識を示し得ていないことは、国民的な非難の対象であったと同時に、かねてから教団内部からも批判の声が上がっていました。信者間では、麻原尊師の証言開始を冷静に受け止め、今後迅速に公判が進行し、事件の真相解明が進んでいくことに期待する声が出ていることもまた、事実です。

 これまで麻原尊師ご自身の証言が得られないがために立場を明確に示すことができなかった教団としては、麻原尊師が具体的な証言を始められた以上、今後は、事件についての本格的な検証と見解の表明、及びそれらを踏まえた教団運営のあり方について検討していく方針です。これは、単に形式的なものにとどまらない、実体を伴ったものを実現させたいと考えています。

 以上のような、教団全体の方向性についての根本的な見直しを図るために、初めに述べた「教団の対外的宗教活動の全面休止」及び、教団活動と密接に関わる「教団の名称使用の一時停止」を、10月1日をもって実施いたします。

 「教団休眠」及び「名称使用一時停止」について具体的にご説明します。

 今回の教団休眠の目的は、

 1. 事件認識を含む教団の基本運営方針の見直し
 2. 名称使用禁止を巡る対応についての検討

 の2点です。休眠を実施する理由は、
 1. 今後の運営方針が定まらないまま、対外的活動を継続することが社会に与える影響を考慮しての自粛
 2. これらの重要案件を検討するために一定数の人員が割かれるため という2点です。

 次に、休眠の具体的な実施項目について述べます。

 1 支部活動
    [1]各支部の閉鎖=教団による支部運営の中止
    [2]セミナー、勉強会等の集会禁止
    [3]ビラ配り・街頭宣伝等の対外布教及び勧誘活動の禁止
    [4]入信手続きの中止

  2 広報部
    [1]ホームページの大部分停止(トップページでは今回の休眠宣言のみ告知し、記事の更新は休眠宣言 に関わる情報に限ります)
    [2]マスコミ対応は縮小し、必要に応じて一部継続

  3 出版
    機関誌紙、ビデオ等の印刷・頒布停止

  4 新規大型物件取得活動信者の小規模な個人住居についてはやむを得ませんが、信者には極力自粛を促します

  5 その他 祭典・コンサート等、信者集会の禁止

 尚、刑事裁判の傍聴、国家賠償請求訴訟、各種民事訴訟、人権救済申し立て等の法的手続きについては、休眠期間中も継続して行なうことになります。

 最後に、8月の女子大生拉致事件の際に教団に集中した社会からの強い不信感、あるいは、教団本部の移転問題を受けて、東京23区をはじめとする各自治体が示した過剰な反応を目の当たりにして、現在の教団の活動のあり方について、社会の中にまだまだ多くの誤解が存在していることを思い知らされました。

 教団が過去の事件について立場を明らかにしてこなかったことに対する国民の不安が大きいことは、もはや否定できないでしょう。いまだにこのような眼差しを向けられること自体、その事実を示しています。

 これらの強い国民的反発の中で、今回退去を余儀なくされる足立区谷中の本部に代わる施設は、とうとう見つけることができませんでした。当面は、現在閉鎖中の東京本部に法務部・広報部の機能を暫定的に移し、対外的な窓口とさせていただくことになります。

 また、対外的な問題に限らず、深刻な生活不安に直面している信者の存在をはじめとして、教団内での様々な問題点や矛盾、意思統一の不徹底など、様々な内部的な問題が表面化してきていることも事実です。中にいる信者からも将来の不安を訴える声が上がってきています。

 そんな状況の中で困り切っていたときに、各方面の様々な立場の有識者の方々と接して意見をお聞きする機会に恵まれ、有益な助言やお叱りの言葉をいただくことができました。

 それらの意見も踏まえて長老部で検討を重ねてきた結果、一連の事件への認識を教団として明確に示し得ず、地域住民の方々をはじめ、国民の皆様、さらには教団の一般信者にまで必要以上の動揺と混乱を与えてしまったことを深く反省するに至り、教団の活動を停止してでも、これからどうしたらよいか検討しようということになったのです。

 どこまで皆様の理解が得ることができるのか、これはやってみなければわかりませんが、わたしたちなりの誠意をかたちにしていくことができればと思っています。

 どうか今後の教団の姿を冷静にお見守りくださいますよう、お願いいたします。

1999年9月29日
オ ウ ム 真 理 教