【事件番号】東京地方裁判所判決/平成16年(ワ)第22529号
【判決日付】平成19年2月26日
【判示事項】自己啓発セミナーの主催者によるマインドコントロールが違法であるとしてセミナー生からの損害賠償請求及び慰謝料請求が認容された事例
【参照条文】民法709
民法715
【参考文献】判例時報1965号81頁

       当     事     者

原告甲野 花子
訴訟代理人弁護士紀藤 正樹
弘中 絵里
野村 修一
山口 貴士
大城 季絵
荻上 守生

被告倉渕 透
〈ほか3名〉
上記4名訴訟代理人弁護士佐藤 仁志
被告出山 香
〈ほか1名〉
上記2名訴訟代理人弁護士市河 真吾
冨田 秀実
松村 博文
河井 匡秀
藤川 網之
上田 裕介
吉川 愛

       主   文

被告らは、原告に対し、連帯して1543万3508円及びこれに対する平成15年1月27日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
この判決第1項は、仮に執行することができる。


       事   実


第1 当事者の申立て

原告は、「被告らは、原告に対し、連帯して2134万4083円及びこれに対する平成15年1月27日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。
被告らは、請求棄却の判決を求めた。

第2 事案の概要

自己啓発セミナー(被告ホームオブハートが従属関係にある被告トシオフィスを共催者として実施するもの)に平成14年に 参加した原告が、トレーナー(セミナー指導者)である被告倉渕、被告ホームオブハートのスタッフ(被告加田及び被告桃井)並びに被告トシオフィスのスタッ フ(被告出山)らの共謀による原告の生活全般にわたる不当なマインドコントロール、詐欺、脅迫、暴力行為などの違法行為を加えられ、自己啓発セミナーの受 講を止めたり、被告らの指示する商品購入その他の行為を拒絶したりすると、地獄のような生活を送らざるを得なくなり、著しく不幸になると信じ込まされた結 果、セミナー参加費用、商品購入代金、出店費用等の名目で多 額の金銭を支払わされたと主張して、被告らに対し、連帯して、不法行為(民法709条、719条)及び使用者責任(民法715条)に基づき、金銭支出額と 慰謝料の合計2134万4083円の損害賠償を求める事案である。

第3 原告の主張(請求の原因)

1 被告倉渕、被告出山、被告加田、被告桃井の不法行為責任

(1) 被告倉渕、被告出山、被告加田及び被告桃井は、被告ホー ムオブハートまたは被告トシオフィスの業務の執行として、トレー ナーである被告倉渕を中心に共謀の上、原告に対し、多額の金銭を 支払わせて被告ホームオブハートが開催(被告トシオフィスが共催) する自己啓発セミナーのセミナー生としてその労働力を搾取し、究 極的には被告倉渕の言いなりになる人物に仕立て上げるという目的 をもって、平成14年後半から平成15年1月にかけて次の(1) から(5)までの行為を伴い、原告に多額の金銭を支払わせた。

(1) 原告の有する悩みや葛藤などを聞き出した上で、被告 倉渕が主宰する被告ホームオブハートのセミナーに参加すればその 悩みが解消されるなどの虚偽の事実を述べて、原告を誤信させてセ ミナーに参加させた。
(2) 誤信した原告を、自らの支配圏にある施設内に連れ込 み、外部からの情報が遮断される環境においた上で、原告がお金の トラウマを抱えている「ネットワーカー」(お金に対するトラウマ が強く、お金に対する間違った観念を持っている人のことを指す被 告ホームオブハートのセミナー用語。「ネット」ともいう。)であ り、このままではそのトラウマのために原告及び原告の子供が悲惨 な運命をたどると、虚偽の事実を述べ、その不安感・恐怖感を煽っ た上で、そうならないためには、原告が被告倉渕の主催するセミナー に参加するしかないと誤信・畏怖させた。
(3) セミナー中に、原告に対し、長時間連続して罵倒句を 浴びせ続けて原告の考え方が間違っている旨を繰り返し恫喝的に指 摘し(フィードバック)、集団心理を応用して困惑させたり、セミ ナーを深夜・早朝にまで実施したりして極度の睡眠不足と疲労状態 に追い込み、原告の不安感・恐怖感を煽り、判断能力を減退させた。
(4) セミナー中に、原告を床に押し倒して長時間にわたり その背中を執拗に強く叩いたり、毛布で密閉して息苦しくなるほど 押さえつけたり、殴打するなどの暴力を加えた。
(5) セミナー中でなくても、原告に対し電話で(3)のよ うな罵倒句を長時間浴びせ続けたり、原告の自宅前で待ちかまえる などして、原告の不安感・恐怖感を執拗に煽った。  上記(1)から(5)までの行為は、原告から多額の金銭を搾取 しようという目的に向けられた一連の行為であって、被告らは 709条、719条に基づき不法行為責任を負う。

(2) 上記被告らの上記(1)から(5)は、具体的には、以 下のセミナーその他の機会に継続的に実施された。

  1. 被告らによる勧誘行為
  2. 「ホームコンサート」(平成14年7月27日~同月28日)における脅迫及び欺罔行為
  3. 「マサヤ個人ワーク」(平成14年8月30日)における脅迫行為
  4. 「コンサートリハーサル」における脅迫行為
  5. 豊原ツアー(平成14年9月27日~29日)における脅迫行為
  6. アイランドセミナー(平成14年10月4日~7日)における脅迫行為、セラピー(鎮圧の解放・暴れながら泣き叫び続けること)の強要など
  7. 家出直後の商品代金の欺罔行為
  8. 伊豆ツアー(平成14年10月12日~14日)における罵倒行為
  9. 美術館にアロママッサージの店を出店することに関する欺罔行為
  10. ハワイレコーディングツアー(平成14年10月20日~25日)における脅迫・欺罔行為
  11. お花の小道帰途ツアー(平成14年11月1日~5日)におけるフィードバック
  12. マネートレーニング(平成14年11月9日、10日)におけるフィードバック
  13. 屋久島ブレーバートレーニング(平成14年11月18日~21日)における欺岡行為
  14. 山の学校オプショナリーツアー(平成14年11月22日~24日)における脅迫行為、混浴風呂への入浴強要
  15. Childish Tour(平成14年11月31日~12月1日)における欺罔行為
  16. ヒーリングセラピー(平成14年12月13日~15日)における欺罔行為
  17. 「思考を止めるトレーニング」と称して、サラ金業者に融資の申込みを強要した行為
  18. 原告宅で深夜に繰り返されたフィードバック
  19. マスタートレーニング(平成14年12月27日~31日)におけるフィードバック
  20. 山の学校(平成15年1月1日~3日)におけるフィードバック、被告倉渕による暴行
  21. ハーブ講習会(平成15年1月6日、7日)における欺罔行為
  22. エンロールメントトレーニング(平成15年1月18日から90日間の予定)における勧誘行為の強要、フィードバツクなど

2 被告ホームオブハートの責任

被告ホームオブハートは、社内にセミナー事業部をおき、上記のとおり、トレーナーである被告倉渕を中心として被告ホーム オブハートのスタッフが会社の業務として連携して原告に対し不法行為を行ったものであるから、被告倉渕その他のスタッフ(被告加田、被告桃井を含む。)の 行った不法行為について使用者として責任を負う。

3 被告トシオフィスの責任

被告ホームオブハートのセミナーの準備及び実施は、被告株式会社トシオフィスの業務の一つでもあり、被告出山は被告トシ オフィスの業務として被告ホームオブハートのセミナーにスタッフ的な立場で参加していたといえるから、被告出山の行為によって生じた損害について、民法 715条により、使用者責任を負う。

4 損害

原告は、前記1の不法行為を受けている間、被告らの計画的なマインドコントロール、恫喝、詐欺、暴力行為などの結果、被告ホームオブハートに対し、別紙1から4までに記載のとおり金員を支払い、その結果次のとおりの損害を受けた。

会員権名目の損害133万6000円
セミナー参加費用等による損害494万2849円
オーガニックビレッジ代等の名目の損害610万円
商品購入代金名目の損害146万5234円
慰謝料500万円
弁護士費用250万円
合計損害額2134万4083円

5 よって、原告は被告らに対し、民法709条、715条、 719条に基づき、連帯して2134万4083円及びこれに対する 平成15年1月27日(被告ホームオブハートに対する最後の金銭 支払日)から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損 害金を支払を求める。

第4 被告らの主張(請求の原因に対する認否・反論)

1 被告ホームオブハート、被告倉渕、被告加田、被告桃井
(1)請求の原因1、2はいずれも否認ないし争う。
(2)請求の原因4のうち、原告の支払については、別紙1ないし4の「被告ホームオブハートの認否」欄記載のとおりである。
その余は、否認ないし争う。
2 被告トシオフイス、被告出山  請求の原因1、3、4はいずれも否認ないし争う。

       理   由

第1 認定事実

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1 当事者の形式的身分、肩書、目的等

(1)原告は、昭和43年生まれの女性であり、平成14年8月当時、夫及び娘と同居して生活しており、夫の姓である甲田姓を名乗っていた。その後、平成15年2月 17日、娘(秋子)の親権者を父親と定めて夫である甲田夏夫と協議離婚し、娘とも別居して、甲野姓に復氏する(甲75~77)とともに、同年5月30日宇 都宮地方裁判所大田原支部において、破産宣告を受け、同年8月19日免責決定を受けた(甲64、65)
(2)被告倉渕(MASAYA)は、「MASAYA」の名で音楽活動を行う男性であり、被告ホームオブハートのゼネラルトータルプロデューサーであり(乙イ1)、 取締役には就任していないが、同被告の実権を握っており、その開催するセミナーではトレーナーの地位にあった(甲8の2枚目)。被告ホームオブハート内で は、「マシャマシャ」とか「クーマン」とか「クマスン」などと呼ばれていた。
(3)被告加田は、被告ホームオブハートの代表取締役社長の女性であり、被告倉渕の片腕と言われていた。被告ホームオブハート内では「カダリシ」と呼ばれていた。
(4)被告桃井は、被告ホームオブハートの代表取締役会長の女性で、リゾート事業部長でもあった(乙イ1)。鹿児島県屋久島にある施設の管理も担当していた。
(5)被告出山香は被告トシオフィスの取締役兼従業員の女性であり、「TOSHI」の名で音楽活動を行う出山利三の戸籍上の妻であった。実際には、平成13年こ ろから出山利三と別居し、出家して、栃木県那須地域にある被告ホームオブハートの施設に住み込み状態となっている。被告ホームオブハートのセミナーなどで は「カオスン」と呼ばれていた。
(6)被告ホームオブハートはCD、書籍、自然食品などの販売、ラジオ番組の制作、リゾートホテルの運営、心と身体に関する生涯教育事業を主たる業務として掲げる 会社であり(乙イ1)、「小さな森の美術館ホテルin屋久島」「Big Bear ClubHouse in 羽鳥湖高原」「屋久島森と花のふるさとの木 美術館」「那須高原松田賀江ふるさとの木美術館」などの施設を有し、心と身体に関する生涯教育事業としていわゆる自己啓発セミナーを開催及び運営する会社 である。
(7)被告トシオフィスは、「TOSHI」の名で音楽活動を行う出山利三のCDの企画・制作、コンサートの企画・制作などを目的とする会社である。被告ホームオブ ハートと協力関係にあり、被告ホームオブハートの実施するコンサートや自己啓発セミナーについては、参加者の募集、スタッフ(被告出山)の派遣などの業務 を分担して自ら行っていた。

2 被告ホームオブハートの開催する自己啓発セミナーについて

(1)被告ホームオブハートの実施する自己啓発セミナーは、これを部外の通常人からみるときは、猜疑心を持ってはならず、思考も停止しなければならず、それまでの 人間関係、家族関係、仕事、財産を捨てなければならず、これに反すると地獄のような苦しい人生を送ることになるというものであった。人間は生まれた時は無 垢であるが、親などからいろいろな「観念」を刷り込まれて不幸になっており、親から刷り込まれたあらゆる「観念」を捨てて、空(くう)になり、子供の純粋 な心に戻らなければならないとされ、そのような状態を万物に貢献する牛き方と称していた。
MASAYAとか、マシャマシャとか、クーマンと呼ばれていた被告倉渕を絶対的な指導者として、被告倉渕への抵抗を一切許さないとする点にも、大きな特色があった。
し かしながら、外部からの参加者に対しては、初期段階ではセミナーのこのような実態を覆い隠していた。最初は癒しをもたらす商品の販売や癒し系の催しを開催 する会社のように装って癒しの音楽が中心の被告倉渕のコンサートに勧誘し、コンサートへの参加者に対して他の催しとしてセミナーの存在も紹介するが、被告 倉渕の音楽が一般に認識されているのと同様のイメージの癒しを提供するセミナーであるかのように装っていた。
(2)セミナーが進行していくと、マインドコントロールを施し、これにひっかかってしまった一部の参加者は、セミナーを止めると社会の中で人を傷つけることしか言 えないような人間として地獄のような人生を送らなければならないと思うようになり、なかなかセミナーから抜け出せないようになっていった。さらに、通常で は考えられないような高額のセミナー施設の会員権の購入指示や、同様に通常では考えられないような高額の関連商品の購入指示などにより、これも高めのセミ ナー参加料金の支払と併せて、借金をしてでも次々と金銭を被告ホームオブハートに支出することを余儀なくされ、その累計額が巨額にのぼる点(借金が巨額に のぼると自己破産を余儀なくされる者も出てくる点)も、被告ホームオブハートの実施する自己啓発セミナーの特色の一つであった。金銭がなくなるのは不安で あるとの観念が捨てられていないから借金をためらうのであって、そのような状態は万物に貢献できていない状態であるとか、金銭の支出は万物に貢献する素晴 らしいことであるとか、説明されていた。また、被告ホームオブハートから購入した商品が不良であっても、購入したセミナー生のエネルギーが悪いのが原因で あり、抗議をするのは万物に貢献できていない証拠であって、セミナー生が悪いとされていた。外部からの参加者には、支出累計額が巨額にのぼったり、借金や 自己破産を余儀なくされたりすることは、初期段階では説明されていなかった。
(3)セミナーの内容は、被告倉渕のレクチャーを聞くこと、被告倉渕のレクチャー等を他のセミナー生等に伝えていくこと(「シェアー」と称する。)、セミナーの内 容に関して自分の気付いたことをセミナー生同士で伝えあうこと(「ワーク」と称する。)のほか、通常では考えられないような暴力的な要素を含むものが含ま れていた。
その一つは、フィードバックであり、セミナーの内容に懐疑的な態度や否定的な意見を示すと、被告倉渕らの指示により、特定のセミナー生 に対し、被告ホームオブハートのスタッフや他のセミナー生が、対象となるセミナー生のネガティブな部分を指摘する罵倒句を長時間にわたり大声で言い続けて 集団的恫喝をするというものである。もう一つは、セラピーであり、セミナー生に自分の持っている(被告ホームオブハートでは異常だとされている)「観念」 について話させ、トレーナーである被告倉渕が横で独特のノウハウにより当該セミナー生をあおり、セミナー生を興奮させて暴れてしまうような心理状態にさせ た上で、セラピー室(防音室)に連れて行き、当該セミナー生を暴れながら泣き崩れさせるというものであった。フィードバックやセラピーにおいては、心底自 分の非を認めて泣き叫んだり泣き崩れたりする状態にならないセミナー生(「シフトしていない」と言われる。)は、抵抗しているとみなされ、激しい罵倒句に よるフィードバックが行われ、心底自分の非(自分は観念が抜けていないバケモノのようなダメな人間であること)を認めて泣き崩れる状態になるまで、他のセ ミナー生もフィードバックやセラピーにつきあわされ、その日のセミナーが終了しないことになっていた。
宿泊セミナーでは、連日深夜早朝までこのよ うなセミナーが続けられ、それにもかかわらず次の日の日程は午前中からセミナーが行われるというのが通常であって、セミナー生が緊張と睡眠不足から正常な 判断ができないほど疲労した状態になることも、被告ホームオブハートのセミナーの特徴であった。
次回のセミナーの申込みや関連商品の販売は、セミ ナー生がこのように著しく疲労した状態にある深夜・早朝やセミナー終了時に行われるのが通常であり、スタッフの意に反してセミナー申込みや商品購入をしな いセミナー生に対しては、再度フィードバックが行われることも頻繁であった。
宿泊セミナー以外の時期においても、セミナー生には、被告ホームオブ ハートのスタッフから電話でシェアー(被告倉渕のその日の被告ホームオブハートにおける言葉などを伝えるもの)やフィードバック(当該セミナー生のネガ ティブな部分を指摘する罵倒句を電話口で長時間にわたり大声で言い続けるもので、集団的恫喝でない点だけが宿泊セミナーの場合と異なる。)を受けるのが通 常であり、抵抗すると、宿泊セミナーの場合と同様に、心底自分の非を認めて泣き崩れる状態になるまで電話が終わらない(電話を切ってもまたかかってくる) のが通常であった。被告ホームオブハートから離れると地獄のような苦しい人生を送ることになると信じ込まされているセミナー生にとっては、電話を切ること は困難であった。

3 被告トシオフィスの業務について

被告トシオフィスの業務の中心は、「TOSHI」の名で音楽活動を行う出山利三の全国各地でのコンサートなどの芸能活動と被告ホームオブハートのコ ンサート等の勧誘であり、被告出山が取締役兼従業員で、平成14年ころは、他に、出山利三のコンサートに全国に付き添っていくマネージャーと、アルバイト 的に事務作業を行う乙野冬子ら数名の女性従業員がいた。

出山利三と被告出山は、被告倉渕及び被告ホームオブハートの開催するセミナーに心酔していた。出山利三などは、第三者からみたときは、被告倉渕のマ インドコントロールにかかっているのではないかとみえるような状態であった。出山利三と被告出山も、他のセミナー生と同様に、被告倉渕の指示を絶対的なも のとしてこれに服従していた。そして、被告倉渕の指示により、出山利三と被告出山は、被告トシオフィスの収入の大部分を被告ホームオブハートに送金するこ ととし、その送金の名目として、通常では考えられないような高額の出山利三と被告出山のセミナー受講料などを用いていた。
また、被告出山は、出山利三の了解の下に平成13年ころから出家して栃木県那須地区の被告ホームオブハートの施設に住み込み状態になり、被告ホームオブ ハートのセミナー関係の事務に従事していた(甲71、100)。被告出山は、被告トシオフィスから被告ホームオブハートにセミナー受講料支払の名目で多額 の金銭を支払うために、形式的には被告ホームオブハートの実施するセミナーのセミナー生という立場にあるが、実質的にはセミナー主催者側のスタッフの仕事 をしており、いわば、被告トシオフィスに在籍しながら被告ホームオブハートに出向したような状態にあった。このような状態は、被告ホームオブハートのセミ ナーの実施に被告トシオフィスも協力しており、被告トシオフィスは、いわばセミナーの共催者のような立場にあるとも表現できるものであった。

さらに、被告トシオフィスは、アルバイ卜社員のセミナー費用名下に被告ホームオブハートに多額の金銭を支払うため、アルバイト社員に研修命令を出し て被告ホームオブハートのセミナーを受講させていた(受講しないと解雇)。次第に、乙野冬子らのアルバイトの女性社員に対しても原告に対するのと同じよう にマインドコントロールを施して、自費でセミナーを受講させたり、高額商品を購入させたりするようにもなっていった。このように、被告ホームオブハートの セミナー実施は、被告トシオフィスの業務そのものでもあった。

4 最初の勧誘

原告は、平成11年から、化粧品のネットワークビジネス(連鎖販売取引)の仕事を行い、それなりに順調な業績を上げていたが、勧誘した傘下の販売員 の中には借金をかかえる者も出てきて、平成14年には、この仕事を続けるべきか悩むようになっていた。元来純粋なところもある原告は、お金に強い執着を 持っていることその他の自分の性格についても思い悩み、心の問題に関心を深めていた。同時に、栃木県那須地区に化粧品の販売店を開くことを計画するように なった。

原告は、そのような心境の下で、平成14年7月、栃木県那須地区へのドライブ中に立ち寄った雑貨店で聞いた被告倉渕の癒し系の音楽に心ゆさぶられ、 CD販売場所として教えられた被告ホームオブハートの施設である那須高原の松田賀江ふるさとの木美術館(以下「那須美術館」という。)を訪問した。原告 は、那須美術館を運営する被告ホームオブハートのスタッフである長谷川悦子から、美術館の説明のかたわら質問を受けて、ネットワークビジネスへの疑問や自分 で店を持つ計画のことを話した。長谷川は、「MASAYAコンサート」を原告に勧めたが、参加費用が高いと感じた原告はこれを断った。

その後も、被告ホームオブハートのスタッフである鈴木乙枝や長谷川から電話でしつこいほど「MASAYAコンサート」の勧誘があり、原告はその度に 断っていた。ところが、原告の妹が興味を示したこともあり、原告は被告ホームオブハートのセミナー施設である福島県羽鳥湖高原の施設(ビッグベアークラブ ハウス)で一泊二日の日程で行われる被告倉渕のMASAYAコンサートに参加することに方針を変更し、代金4万5796円を被告ホームオブハートに送金し て支払った(別紙2の1、乙イ14)。代金が高いという話をすると、鈴木から「心の問題はいちばんたいへんな問題なのに、安いわけはない。」との説明を受 けた。

この時点では、原告は、被告ホームオブハートが自己啓発セミナーを実施していることは全く知らず、被告ホームオブハートは「癒しのグッズを扱い、癒しを提供する会社」であるとの説明を受け、これを信じていた。

5 MASAYAコンサート

平成14年7月27日、原告は、原告の妹及び原告の娘を連れて、MASAYAコンサートに参加した。

冒頭に、ラジオ公開録音として宗教はよくないという内容の被告倉渕によるレクチャーが行われた。これにより、原告は、被告ホームオブハートは新興宗教団体のような教義を信じ込まされる団体ではないと思い込んだ。

コンサート中に、被告倉渕は「生まれたばかりの子供は無垢で、本当のことを全部分かっている。大人は、親から間違った観念を植え付けられ、本当のこ とが分からなくなっている。」という話をした。コンサート中に別室で被告加田から被告倉渕と同様の話を吹き込まれていた原告の娘が、原告の前でたまたま被 告倉渕の前記発言と同じようなことを言ったため、原告は、自分も親から間違った観念を植え付けられた存在なのかもしれないと不安に思うようになった。

コンサート終了後、被告ホームオブハートのスタッフである戊原三江は、原告は苦しそうに生きている、自分のトラウマが分かると楽に牛きられる、被告 倉渕(MASAYA)は見ただけでその人のトラウマが分かるなどと言って「MASAYA個人ワーク(クーまんワーク)」(被告ホームオブハート主催のセミ ナー)への参加を勧誘した。

翌28日の午前中、被告出山が参加するオプションプログラムがあり、草むしりや花植え(羽鳥湖の施設の維持管理作業にすぎない。)をしながら、シェ アー(被告出山がセミナー的な気づきと小さい頃の経験談などを話し、他の参加者が感想を述べるもの)が実施された。当時の原告には、これが被告ホームオブ ハートの自己啓発セミナー中のシェアーというものであることは、皆目、分からなかった。

原告は、この日の帰り際に30万円支払って羽鳥湖「ビッグベアークラブハウス」会員になることを勧誘されたが、断った。

6 親友を装った鈴木乙枝による原告の勧誘と原告についての情報収集

(1)7月29 日以降、被告ホームオブハートのスタッフである鈴木乙枝が毎日のように原告に「MASAYA個人ワーク」への参加を勧誘するようになった。鈴木は、聞き上 手である一方、鈴木自身の生い立ちやトラウマ、悩み、辛い思い出を繰り返し話し、原告を信用させて、親友のように思わせることに成功した。なお、鈴木は、 被告ホームオブハートに所属してから自己破産したことがあるが、このことは原告に隠していた。
鈴木は、原告から、原告の生い立ち、親の新興宗教が 嫌だったこと、ネットワークビジネス上の悩み、店を出したいと思っていること、貯金はかなりあることなどの原告の情報を上手に聞き出していた。鈴木が聞き 出した原告に関する情報は、被告ホームオブハートにおいてカルテ(乙イ28)として記録化され、勧誘やその後のセミナ―進行が被告ホームオブハートに都合 良く進行するように利用された。鈴木は、「MASAYA個人ワーク」の参加費が高額であることについても、原告に対し、心の問題にお金がかかるのは当然で あり、通常はもっと高額であること、原告にはお金のトラウマがあるようにみえるが、被告倉渕なら上手に原告のトラウマを言い当てられること、自分のトラウ マが分かることは人生の貴重な時間の対価であることなどを説明し、平成14年8月13日には、原告に参加費用8万8227円を送金させて「MASAYA個 人ワーク」への参加を約束させることに成功した(別紙2の2、甲91、乙イ15)。
(2)丁 川は、その後も原告に連日電話をかけ、福島県羽鳥湖の「ビッグベアークラブハウス」の会員権130万円)の購入を勧誘した。原告がネットワークビジネスの 世界と同じに思えることを理由に断ると、別の被告ホームオブハートのスタッフである甲川四江が説得役に代わり、被告ホームオブハートはこうするべきだとい う価値観をなくして楽になれる日本で唯一の場所であって、価値観を植え付ける宗教とは異なるという説明をした。原告は、自分が「こうしなくてはならない」 という枠にとらわれすぎることを気にしており、親が新興宗教の教えにがんじがらめになっているのも嫌だったので、こうするべきという価値観をなくすとかが 宗教とは違うという説明に心を動かされ、持ち前の純粋さから鈴木を疑ったことが恥ずかしい気分にもなり、会員権(30万円)を購入することにした。
そして、原告は、福島県羽鳥湖のビッグベアークラブハウスの入会金と年会費の合計33万6000円(別紙1の1)及び10月に羽鳥で実施される予定のアイランドセミナーの参加費用12万6595円(別紙2の5)を、被告ホームオブハートに送金した(甲92、乙イ13)。

7 MASAYA個人ワークにおけるマインドコントロールの始まり

(1)「MASAYA 個人ワーク」は、平成14年8月30日から一泊二日で、福島県羽鳥湖のビッグベアークラブハウスにおいて実施された。被告ホームオブハートにおいては、既 に鈴木乙枝や長谷川悦子らが原告から聞き出した情報をもとに、原告についての「参加者カルテ」(乙イ28)を作成していた。カルテには、「父親は男の子が欲 しかった。女性への否定が強い。」とか、「お金に関するトラウマ」「お金持ちが悪い、お金持ちと闘え、負けるなと育てられる」とか、「被害者会話が強い」 「裏切られたという会話が多い」「人のせいにするアクトをくり返す」などの記載があった。もちろん、原告は、このようなカルテが作成されていることも、こ れを被告倉渕をはじめとする被告ホームオブハートのスタッフらが閲読していることも知らなかった。
被告ホームオブハートにおいては、その有する心 理学や精神医学の知識をもとにした自己啓発セミナー運営のノウハウを用いて、セミナー生として勧誘した者のうち信じ込みやすい状況にある者を選別して、被 告倉渕の言うことを聞かないととても不幸になり地獄のような人生を歩まされると誤信(いわゆるマインドコントロール)させることを試みていた。そして、マ インドコントロールに成功した(被告ホームオブハートの罠にはまった。)セミナー生に対しては、思考を止める訓練を行うことを命じてマインドコントロール を維持するほか、一般社会では考えられないような高額なセミナー料、会員権、商品購入代金等を被告ホームオブハートに支払うように命じた。所持金がない者 については、返すあてのない借金をさせて、被告ホームオブハートに支払うように命じていた。原告も、このような信じ込みやすい状況にある者の候補として、 組織的に、鈴木乙枝らから高額のセミナーに勧誘され、羽鳥湖の30万円の会員権を購入させられていたものであるが、この「MASAYA個人ワーク」におい ては、被告倉渕の言うことを信じないと不幸になると原告に信じ込ませるために、カルテをもとに、被告倉渕が、原告の不安や悩みに切り込んでいった。
被 告倉渕は、原告に対し、いきなり大きな声で、原告には男女のトラウマとお金のトラウマがあること、猜疑心が強いことを指摘した。原告は、自分のことを知ら ないはずの被告倉渕がいきなり自分の気にしていることや悩みの本質的な点を断定的に指摘したので、被告倉渕の音楽が素晴らしく、被告倉渕の心の中もとても きれいに違いないと思っていたこともあり、被告倉渕と被告ホームオブハートのセミナーを強く信頼する気持ち(マインドコントロールに入った状態)になって いった。そして、被告倉渕が「お金にトラウマがある奴はお札を目の前に持っていくと、恐怖から手で払いのけるんだ」と言って原告の娘の目の前で紙幣を振り 回すと、原告の娘は、被告倉渕の予言のとおり、これを手で払いのけた。被告倉渕は、純粋なはずの原告の子に親(原告)の間違った観念が乗り移ってお金のト ラウマがついているという子供だましの指摘をしたが、原告は、自分のお金のトラウマが娘に乗り移って娘も不幸になってしまうと信じてしまった。被告倉渕 は、原告をネットワーカー(お金に対するトラウマが強く、お金に対する間違った観念を持っている人のことを指す被告ホームオブハートのセミナー用語。 「ネット」ともいう。)と呼び、「ネットワーカーのお前の子だからたった4歳にして既にお金のトラウマがある」「お金のトラウマは、代々継いでひどくなる んだ」「お前がこの子供を育てたら、お前よりも、もっと苦しい思いをすることになる」などと言い続けた。
また、被告倉渕は、原告に対し「お前が幸せな人生を過ごせていないのは、疑いをもつ心があるからだ」と言い、考えること(思考すること)は悪であること、思考を止める訓練を日常生活でしなければならないことを強調した。
そ して、被告倉渕は、原告に過去の記憶をたどらせ、被告倉渕の指摘が当たっていることを原告に確認させていった。原告は、被告倉渕の指摘が当たっていると感 じ、被告倉渕の言うこと(原告にはお金のトラウマがあること、セミナーを受けてトラウマをなくさないといけないこと、猜疑心をもってはならず、思考を止め る訓練をしなければならないこと)を信じ込むようになっていった。
(2)そ の後、被告倉渕は、原告に対し、セミナー中の別のセミナー生(ネットワーカー)の様子を見せた。そのセミナー生らは、お金が恐い、お金のない世界になれば よいなどと泣き叫びながら力の限りマットを叩きつけていた。被告倉渕は、原告に対し、「セミナーを止めると地獄のような人生を送らなければならない。この セミナー生らは続けてセミナーに来ないからなかなか良くならない。お前もこうなりたいか。」と言って、継続的にセミナーに参加しないとお金のトラウマがな くならず、将来はこのセミナー生のような悲惨な状態になってしまうと信じ込まされた。他方、被告倉渕は、原告は自分のトラウマの気付きが早く優秀だなど と、原告をおだてる発言もした。このようにして、原告は、セミナーを止めると原告も原告の娘もお金のトラウマから地獄のような人生を送らなければならない と信じ込むようになり、マインドコントロール状態に一歩入っていった。原告は、被告ホームオブハートから高額なセミナーへの参加を指示されると断り切れな いような心理状態におちこんでいった。

8 原告をその気にさせるホームオブハートの代理店の話

鈴木乙枝は、原告が化粧品の販売店を出すことを考えていると言っていたことに目をつけ、平成14年8月31日の「MASAYA個人ワーク」終了後、原告に 対し、ホームオブハートの商品の販売店を営むことを提案した。さらに、被告倉渕が、原告のような入門のセミナーを受ける前の段階の人に代理店の話をするの は前代未聞だが、原告は気づきが早いから特別だと原告をおだて、ホームオブハート商品の販売は、人をトラウマから解放して癒し、苦しんでいる人を助ける本 質の仕事だと説明し、将来原告に出店費用を被告ホームオブハートに対して支払わせることの布石を打った。

9 コンサートリハーサルでの突然の初めてのフィードバック

原告は、鈴木乙枝から東京で開催される予定のMASAYAコンサートのリハーサルへの参加を強く勧められ、平成14年9月14日に、一人で自家用車でリハーサル会場として指定された那須の美術館に行った。参加費用5000円を、現金で支払った(別紙2の3、甲80)。

だいぶ待たされたあげく、午後7時ころになって会場が同じ那須地区の山奥の豊原(「HANAZAKURA」という名称の被告ホームオブハートの施 設。以下「豊原」という。)に変更になったと連絡があり、指示により原告の乗用車を那須の美術館に置いたまま、被告ホームオブハートの乗用車で原告の知ら ない暗い夜の山道を豊原に向かった。乗用車に同乗したセミナー生である乙原五江は、原告と異なりお金のトラウマがない者とされており、乙原五江が原告に対 し、借金をしたことがあるがサラ金の取り立てなどこわいと思ったことがないこと、被告倉渕に反発してセミナーを止めたときに父親が自殺したこと、豊原 (HANAZAKURA)の会員には選ばれた人しかなれず、被告倉渕の引きで豊原に行ける原告は特別であることなどを話した。

コンサートリハーサルでは、被告倉渕は、まず、ラジオの収録において、猜疑心があると損をすること、ネットワーカーの観念のために貧民になることなどを話した。

被告倉渕の音楽が始まると、原告以外の参加者全員が床にうつぶせに倒れて、いわゆる五体投地(腹ばいでうつぶせに横になり、手を横にだらりと垂らし た状態)の姿勢になり、泣き始めた。原告が戸惑っていると、被告ホームオブハートのスタッフである渡辺由香里が、原告の頭を強く押して床にうつぶせに押し倒 し、原告の体の上から毛布をかけ、原告の背中の上に覆い被さって毛布の中の密閉空間に閉じ込め、背中を強く押しながら、ドスのきいた声で「ネットワーカー の異常な観念のために苦しかったことに気づいてごらん」「いったい何人だましてきたんだよ。いったい何人の人を犠牲に、この間違った観念のために、してき たんだよ」などと、原告のネガティブな部分を指摘する罵倒句を繰り返した。その後、鈴木乙枝や甲川四江も、原告に対して同様の行為を1時間以上も繰り返し た。1時間以上たっても、原告は、他のセミナー生のように泣くこともできず、何の反応も出来ずに戸惑っていたが、次第に集団心理やマインドコントロールが 効き始めて、原告が間違った心をしていたために、ネットワークビジネスをしていたころも他人を犠牲にし、原告の人生も台無しにしてしまったと感じるように なり、原告は、涙 がとまらなくなり、泣き続けた。原告が受けた初めてのフィードバックであった。

そのような状態になった後、被告ホームオブハートのスタッフである戊野と鈴木は、乙原と原告が豊原の会員になることを被告倉渕から許されたと言い、 100万円の会員になることを勧誘した。乙原は、いわゆるサクラとして100万円の会員権購入の意思表示をした。原告は、躊躇していたが、それが乙原と比 較してお金のトラウマがとれていないことの表れであると指摘され、自分の間違った心を治さないといけないと信じ込まされていたこと、深夜に他人の車で山の 中の施設に連れてこられ、一人では帰れない状況におかれたことなどから、最終的には100万円の会員権の購入を決め、鈴木にせかされて、9月17日に代金 100万円を支払うことを約束した。

原告は9月17日、銀行の定期預金を解約して100万円を預金口座から引き出し、会員権代として100万円を被告ホームオブハートに送金した(別紙1の2、甲6)。

10 豊原ツアーとマインドコントロールの強化

(1)平成14 年9月14日の初めてのフィードバック後は、原告には、鈴木乙枝から毎日長時間の電話がかかってくるようになった。鈴木は、9月27日から豊原で開かれる セミナーへの参加を強く勧誘し、原告が支払を躊躇すると、MASAYA個人ワークの時の体験やコンサートリハーサルでの初めてのフィードバックを受けた時 の心境を原告に思い出させて、参加しなければいけないという気持ちの方向にマインドコントロールすると共に、金額が高い点を気にするのは原告のお金のトラ ウマのせいであり、自分で支払日を決めてがんばって支払うのもトレーニングだと説明した。マインドコントロールのかかり始めた原告は、豊原でのセミナーへ の参加を約束し、平成14年9月25日、参加費用23万0230円を現金で支払った(別紙2の4、乙イ16の2)。
(2)平成14年9月27日から29日までの豊原ツアーにおいては、被告倉渕のレクチャーと施設の維持管理作業がセミナーの内容として行われ、参加者は皆レクチャーを泣きながら聞いていたが、泣き崩れるまで続くセラピーやフィードバックは行われなかった。
被 告倉渕のレクチャーは、主に原告を話題の対象にして、「ネットワーカーのお金のトラウマの思考を持った人間は特に強い洗脳にあっているので、その洗脳から 出ることはすごく難しい。お金のトラウマが有る奴は他のトラウマがないかわりに、お金のトラウマが異常に深く、そのトラウマから抜け出せた奴は今までにい ないほどだ。子供も家族も捨てて取り掛からない事には絶対に無理だ。」「ネットワーカー2000人扱ってきて、出られた奴はいまだに一人もいない、それ位 ひどいトラウマなんだ。」「甲田のようなトラウマのきつい人間は、全てを捨ててかかる位でないと解消されない。」「子供も家族も捨ててトレーニングだけを やる覚悟がないと無理だ。それほど洗脳がきつい。」「甲田の娘は可愛い子で純粋なのになあ、お前に育てられたばっかりに醜いネットワーカーになるんだよ。 あわれだな。可哀相になあ。これからもっと酷くなるぞ。」と言うものであった。原告はこれを聞きながら泣き続けた。
被告倉渕は、「幸い、甲田が他 のネットと違う点は、ネットワーカーを辞めたくてうんざりしてきている点だ。」「捨て身でトレーニングをすれば代々のトラウマを解消できる可能性はあるん だぞ。」「甲田家のネットのカルマから出られるかもしれないんだぞ。」などと言って、原告のことをおだてることも忘れなかった。原告は、被告倉渕に言われ たとおりやるしかないという強迫観念を植え付けられて、セミナーを終えた。セミナー終了時には、原告は、ますますがんばってセミナーを受け続けて、トラウ マから抜け出さなければならないという心境に陥っていた。

11 被告倉渕と複数の女性の共同生活

被告ホームオブハートの 施設内には、被告倉渕のほか、出家状態のセミナー生(被告出山及 び被告加田を含む。)が共同生活をしながら起居していたが、その ようなセミナー生はほぼ全員が女性であった。そのような共同生活 の状態は、外部の第三者の目からは、一夫多妻制の家族のようにも みえるものであった。

栃木県黒磯市(当時)にあった被告ホームオブハートの事務所には、当時、学齢期にある子を含め、未成年の女子数名が他の女性スタッフと共に、起居し ていた。被告倉渕の、学校はエゴのとんでもない連中がいる危険な場所であるという考え方に基づき、義務教育年齢の児童であっても学校に進学させず、他のス タッフと一緒にセミナーを受け、激しい罵倒句によるフィードバックも受け、また、那須地区の豊原にあるHANAZAKURAでセミナーが実施されるとき は、参加者の宿泊や食事の準備なとの重労働もさせられていた。このような児童福祉の観点から違法な状態については、平成16年以降、監督官庁による是正の 措置がとられている。

ただ一人、丁野七江(当時6歳)だけは、被告倉渕が万物の子として育てたため、無垢であり、生まれながらのトレーナーであって、その発する言葉も素 晴らしい、ありがたいものとされていた。セミナーにおいても、丁野七江は、被告の倉渕の横に着席し、他のスタッフやセミナー生と異なり、罵倒句による フィードバックにさりされることもなかった。また、丁野七江のわがままとしか言いようのない言動や、他の未成年女子に対するいじめとしか言いようのない言 動があっても、常に丁野七江が正しいと扱われていた。

12 森のおかしやさんについて

平成14年9月ころ、原告は、鈴木乙枝から、「森のおかしやさん」(ホームオブハートのスタッフである戊山八江(当時10歳)が作ったお菓子及び被告加田 と丁野七江(当時6歳)のメッセージカードをセットにした単価5000円の商品)の購入を勧められた。鈴木は、原告に対し、電話で「すばらしい商品ができ ました。七江(丁野七江)はずっと万物の子としてくーまんさん(被告倉渕)に育まれたから、そのままでトレーナーなんですよね。七江がその人に合ったメッ セージを書いてくれるんです。心に響く、本物のすばらしいものですよ。」「カダリシ(被告加田)のメッセージはなかなか貰えないから貴重です。」「八江 ちゃん(戊山八江)が心をこめて作りますから。」などと説明した。原告は、被告倉渕が万物の子として育てた最も無垢といわれる丁野七江や被告倉渕の片腕と いわれる被告加田のメッセージカードが付くと言われて、要らないとはとても言えない心境に陥れられ、一般社会では売り物になるかどうか分からないような 「森のおかしやさん」を、現金5000円を支払って購入した(別紙4の1、甲114の20頁)。

13 アイランドセミナーでの初めてのセラピー体験と原告の家出

(1)被告ホー ムオブハートの本格的な入門セミナーといわれる「アイランドセルフトレーニング」が、平成14年10月4日から福島県羽鳥湖の施設で行われ、原告もこれに 参加した。被告ホームオブハートのスタッフらは、「自分のトラウマなどに対する気付きが早い原告は、被告倉渕から特別に扱われている。」とか、「早くネッ トワーカーの観念から出してあげたい、出してあげられるのは被告倉渕だけだ。」と何度も繰り返して原告に強調した。
アイランドセミナーでは、原告 が自分のトラウマの原因について話をさせられ、被告倉渕のあおりが加わって原告が泣き出すと、被告倉渕の指示で防音室であるセラピールームに入れられ、セ ラピー(暴れながらトラウマを嘆いて泣き叫び続けること、鎮圧の解放)をさせられた。セラピーの際は、被告出山が常に原告の横にいて、原告の肩や背中を継 続的に叩きながら「お金持ちの人が悪い人だなんて思う間違った観念を言われて育てられて、そんなに醜くなったんだよ。」「ほらほら、気づいてごらん、どれ ほど醜いんだって、甲田は。」「どれだけのことをされたんだよ、お前は。だから、その甲山(原告の親戚の姓)にやられたからネットになったんだろう。全部 出せ、全部出せ。」などと徹底的に口汚い罵倒句を大声で原告の耳元に浴びせ続けた。原告はパニックになり、泣き叫びながら、全身をマットに叩きつけるよう にして暴れた。このようなセミナーが連日深夜早朝まで続けられたため、原告は、著しい緊張を強いられた上に、十分な睡眠時間を確保できず、意識がもうろう とする状態に陥った。
セミナー最終日のセラピー終了直後(10月7日早朝)に、原告は、次回以降の様々なセミナーやツアー、トレーニングなどの申 込用紙を渡され、申し込むように指示された。原告が全ての申込用紙に記入することができないでいると、被告倉渕に呼び出された。被告倉渕は、「甲田も乙川 のようになりたいか。」と言って、その場でひれ伏している別のセミナー生である乙川の背中を強く何回も叩きながら「醜いネットワーカーめ!しぶといや つ!」と乙川に怒鳴り、「お前も同じなんだよ!甲田。この服の色みたいに心がいつも赤いドロボウの思考で燃えているのがネットワーカーの甲田のような人 間。醜い!」と原告を怒鳴りつけた。原告は、土下座のような姿勢でいたため、被告倉渕から抵抗しているとみなされ、拳で背中を強く床に押さえつけて、五体 投地の姿勢(腹ばいでうつぶせに横になり、手を横にだらりと垂らした状態)にさせられた。被告倉渕は「お前の夫はキチガイで異常者で、お前が家に帰ったら 金のことで暴れまくる人間だ。」「甲田と夫は同じお金のトラウマがあるもの同士が引き合うから結婚した。」「子供は、お前らのトラウマを代々引き継いで、 どんどん悪くなっていくだけだ。」などと原告の夫が異常者である旨の発言を繰り返した。
(2)原 告は、アイランドセミナーを終えて帰宅すると、たまたま原告がそれまでに百数十万円もセミナー代や会員権に使用していたことを知って、激しく怒っていた原 告の夫との間で、セミナー代のことで口論になった。原告は、「お前の夫は金のことで暴れまくる」という被告倉渕の言葉が現実化したことに強い衝撃を受け、 被告倉渕にお前の夫はお金のトラウマがあり、キチガイで異常者、子供もだんだん悪くなるなどと言われていることもあって、お金のトラウマの強い夫と同居す ることがこわくなり、衝動的に家出した。もう夫とは一緒にいることができない、家を出てセミナーを受け続けるしか私の救いはないと思い込んでしまったゆえ の行動であった。
原告が被告ホームオブハートの黒磯オフィスに電話をすると、被告出山が電話に出た。被告出山は、原告から家出をしたいきさつを聞 いて、「甲田さんは優秀だから。早く夫のもとを出られて優秀ですよ。」などと賞賛するような言葉をかけた上で、戊原に電話を代わった。戊原から「夫婦で、 お金はいくらあるんですか。」と聞かれたため、原告は「1000万円くらいはあると思います。」と答えた。すると、戊原が「夫婦の財産を妻は半分もらえる 権利があるんですよ。印鑑と通帳を取りに帰って下さい。明日、ご主人がいない昼間に取りにいけばいいんです。」と言った。
その翌日、被告倉渕の言葉や被告ホームオブハートのことで頭が混乱した原告は、体が震えていた。体が震えていることを鈴木に伝えると、鈴木は原告に対し、それは、体の浄化が始まり、トラウマが抜けて良い方向に向かっているしるしである旨の説明をした。
原告は、原告の夫がいない昼間に通帳や印鑑を取りに自宅に帰ったが、原告が知っている置き場所にはなかったため、そのことを戊原に報告すると、「通帳を隠すなんて、お金のトラウマから異常になっているような夫だからすることだ」と言われた。

14 商品代金の支払等

平成14年10月8日、伊豆ツアー代金15万円とハワイツアーの代金の一部15万円の合計30万円を被告ホームオブハートに対して送金した(別紙2の6・7、乙イ24)。

同月9日、原告は、鈴木から「MASAYAからホームオブハートの商品を販売してもいいと許可が出た」と伝えられ、鈴木の指示を受けて、62万 1000円(セミナー代40万円、ハワイツアーの代金の一部20万円、ビデオ代2万1000円)を被告ホームオブハートに対して送金した(別紙2の7、同4の 2、甲6、乙イ24)。セミナー代40万円は、別紙2の8以下に記載のセミナーに対する支払分に充当された。

さらに、原告は、鈴木の指示を受けて、ハワイツアー代金の一部7万円を被告ホームオブハートに対して送金した(別紙2の7、甲6)。

原告は、家を出た後、9日から黒磯市内にアパートを借り、入居した。

原告は、収入がないことを鈴木に話すと、鈴木から「とりあえず場所が決まるまではホームオブハートの商品を友達などに売ったらいい、ネットワーカー なのだから、友達にCDを売ることは簡単にできるだろうから、今までネットワークビジネスをやってきた要領でやるようにとMASAYAが言っている。」と 言われた。そして鈴木から「MASAYAから許可が出たからには、すぐにも商品を仕入れなければならない。」と言われた。原告は、セミナー代や生活費を稼 ぐ必要があったことから、鈴木に対し、「商品を仕入れます。」と伝えた。原告は平成14年10月11日に90万円を支払った(別紙3の1)。このとき商品 の見積書や一覧などを示されることもなかった。

同日、原告は娘の分のハワイツアーの代金33万円を被告ホームオブハートに対し振り込んで支払った(別紙2の7、甲6)。

 このころ から、原告は被告倉渕らからお金を被告ホームオブハートに入金すること自体が原告のネットワーカーの間違った観念を捨てるためのトレーニングだと言われる ようになった。原告は、同月16日に20万円、19日に20万円、20日に19万9000円を銀行預金、郵便貯金から引き出し、そのほとんどをセミナー代 として、被告ホームオブハートに対して支払い、これらは、別紙2の8以下のセミナー代の一部に充当された(乙イ22の一部がこれに対応するものと推定され る。)。

原告はこのころ、自分は金銭のトラウマがあり、猜疑心が強く、MASAYAのいう本質的な生き方に切り替えないと自分や自分の娘が永久に不幸になる と信じ込みきっていた。同時に、自分の行動がトラウマにとらわれた悪いものか、MASAYAのいう本質的な行動である良いものかも、自分で判断できないほ ど混乱していた。また、商品販売の方法などについて、MASAYAその他のスタッフに質問しても、その時その時の気まぐれな対応をされ、同時に厳しい非難 の罵倒句を長時間にわたって受けた。このようにして、原告は自分で考える力を奪われていき、思考を停止し、被告ホームオブハートのスタッフの言うことを無 批判に受け入れることが多くなっていった。

15 伊豆ツアー・フィードバックと絵画等購入の強要

原告は、平成14年10月12日から14日まで、被告ホームオブハートが主催し、その施設(伊豆高原松田賀江ふるさとの木美術館)で実施されたセミ ナーに参加した(代金15万円は支払済み。乙イ24)。被告倉渕は、その両親ゆえにエゴや間違った観念が薄いとされており、伊豆在住の被告倉渕の両親を訪 問することが、セミナーの大きな目的の一つであった。

このセミナーにおいても、原告やその余のセミナー生に対して激しい罵倒句による長時間のフィードバックが繰り返し実施された。例えば、原告は、被告 倉渕の母親が丁野七江に裸のままの5000円札を渡すのを見て驚いた表情を示したが、被告出山と渡辺から「ネットワーカーだから驚いた」「異常な化け物 だ」などと長時間フィードバックされた。その後のレクチャーにおいても、原告は、被告倉渕から名指しされて、「それを見て異常な反応を起こすのは甲田のよ うな人間だけだ。」と繰り返し罵倒された。このようにして、原告の金銭感覚は、被告倉渕や被告出山らによって、マヒさせられていった。

 原告は、10月7日に家を出て娘とも別れて暮らすようになって以降、鈴木から原告が原告の娘にプレゼントすれば、原告と離れて暮らしていても、絵 を見る度に娘が元々自分が万物の子であったことを思い出すことができて最高のプレゼントになるとの説明を受けて、松田賀江の複製画の購入を勧められてい た。当時、被告倉渕から、無垢な万物の子として生まれてきた娘を原告のネットワーカーの観念で汚染させてしまったと思い込まされ、そのことで深刻に思いつ めていた原告は、伊豆ツアーにおいて松田賀江の複製画2枚(30万円のものと5万円のもの)合計36万7500円(消費税込)の購入を、強引に鈴木乙枝に 決断させられた。原告は、クレジットカード(セゾンカード・リボ払い)で購入した(別紙4の3・4)。

 伊豆ツアー終了後ハワイツアー出発前までの間、鈴木乙枝から、被告ホームオブハートのスタッフの一人である丙原九江(通称イミグラシ)作の絵画 (将来、原告のために、お金のトラウマを許すというイメージで描くもので、原告が改心できたときに完成し、いつ出来上がるかは原告のトレーニング次第であ るという説明のもの)の購入を勧められた。被告倉渕から「いい絵を描く」と言われていた丙原九江の絵の購入に躊躇していると、原告は、鈴木らに観念を終え たくないのか、一生地獄の生活でいいのか、などと強く脅され、被告倉渕や被告出山らにネットワーカーの観念に汚染されていると当時思い込まされていた原告 は、平成14年10月20日より少し前ころ、「イミグラシアート」を現金6万円を支払って購入した(別紙4の5、乙イ22、甲114の9頁)。納品された のは翌年1月で、絵画そのものではなく、その複製が納品されたにすぎなかった。

16 出店話(ハーべストファーム)‐オーガニックビレツジの前段階

原告は平成14年10月19日、被告倉渕、渡辺及び鈴木から、那須の美術館に呼び出された。家出をしてきた原告に対して、被告倉渕から今後何をした いのか質問があったが、このころの原告は、何か自分の意見を言うと被告倉渕や他のスタッフからエゴだ、ネットワーカーの観念だ、異常だ、バケモノだと長時 間罵倒され続けるのが常であり、また、ネットワーカーの思考が出てきたりエゴが高揚したりすることを防止するため思考を止める訓練を繰り返し行うように指 導されていたため、疑問を抱くこともできず、何も言えずにいた。被告倉渕は、そこを巧みに突いて、原告の元々の希望である出店をかなえる方向に一方的に話 を進め、被告ホームオブハートにおいて世界最高の技術といわれる被告倉渕のマッサージ技術を学んだ上で、ホームオブハートのアロマ製品等の販売及びマッ サージ施術を行う店を那須に開業すること、店名をハーべストファームとすること、初期の商品仕入代金、建物内装代金に500万円くらいかかるので既受領の 商品代金90万円(別紙3の1)を控除した410万円を用意することを指示し、原告にこのことを約束させた。被告倉渕は、話の合間に、このような本質的な 仕事をすることで、 ネットワーカーの地獄のような観念から脱出できると言い、渡辺及び鈴木も本来200万円かかる「経営者ワーク」というセミナーを被告倉渕は無料で原告に受 けさせたもので、原告は特別扱いされており、ありがたく幸せなことであると強い口調で何度も強調した。

ハーべストファーム用の残金の取り立て目的で、後記17のハワイツアー終了後も、鈴木ら被告ホームオブハートのスタツフは、原告に対し、用意周到な 計画的かつ陰湿なフィードバックを実施し続けた。鈴木や長谷川から、那須の美術館に呼び出されて、又は電話で、長時間、原告の金銭に対する考え方がおかしい という趣旨の罵倒句が繰り返され、原告に反論を許さず、原告が自分の醜さを認めて、「私はお金のことばかり考えている醜いネットワーカーで、一方で、金持 ちは悪い人だとか、金を稼ぐのはいけないことだとか、お金は汚いとか間違った思考でいっぱいで、その片方で奪ってやる、取ってやる、もうけてやると泥棒の 思考を回している醜い邪悪な人間です。あの家で育ったために、そういう会話しか聞いたことがなく、借金をすると恐い目にあうとくそばばあ(母のこと。くそ ばばあと言わないとスタツフに怒鳴られる。)が言っていたので、その言葉を信じ、お金を払うのがこわくなり、万物に貢献する最高の仕事(ハーべストファー ム計画のこと)をさせてもらえるのにお金を出し渋ってしまうようなトラウマにとりつかれていて、このカルマから本当に出たいです。私の代でこの会話も思考 も止めて、本気でト レーニングしたいです。こんな醜い私にチャンスを与えてもらったことを、心底幸せであると思い、がんばります。」と言いながら、泣き崩れるまで続けられ た。

フィードバックが終わり、原告が泣きやんだころ、鈴木は、原告に郵便局の定額預金を解約して被告ホームオブハートに100万円くらい入金することを 約束させ、さらに、現金をおろすときにどういう気持ち、感情になるか報告するよう指示した。原告は、平成14年10月31日、黒磯の郵便局で定額預金を解 約し、128万円を被告ホームオブハートに現金で支払った(乙イ18)。このうち120万円は「ハlべストファーム」の出店費用の一部として入金した(別 紙3の2、甲2)。残余の8万円は、別紙2の8以下のセミナー代の一部に充当された。

原告は鈴木に対し、預金をおろすとき、こわくなり、ハーべストファームでやっていけるか不安になり、夫と一緒に貯めたものなので夫のがんばっていた 姿を思い出し、罪悪感を感じたと報告した。鈴木は、「こわいとか夫に申し訳ないというのはネットワーカーだから思うので、私だったらそんなこと思わずに淡 々と入金できますよ。」と言った。このようにして、被告ホームオブハートは、計画的、組織的に原告の金銭感覚をマヒさせていった。

17 ハワイツアーでの出来事

原告は、平成14年10月20日から25日にかけて、アメリカ合衆国ハワイ州で実施する「ハワイレコーディングツアー(ハワイツアー)」という被告 ホームオブハートのセミナーに特別に参加を認められたと言われ、原告の娘を連れて参加した。ハワイに同行したスタッフには、被告ホームオブハートの役員、 従業員は一人もおらず、被告トシオフィスの役員(代表取締役出山利三)及び乙野冬子を始めとする被告トシオフィスの従業員が、スタッフ又はセミナー生とし て同行していた。

原告は、当時夫と離婚話をしていたが、被告ホームオブハートのセミナーに行くことを隠して夫の所から娘を連れ出すことに成功し、家出をした10月8 日以来の娘との再会となった。原告が母娘で仲良くしていたところ、被告倉渕は、「エゴの親子は気持ち悪い。」と言い、スタツフやセミナー生に対して原告に フィードバックすることを指示した。原告がスタツフから長時間汚い言葉で怒鳴られ、罵倒され続け、原告が異様に泣いたり叫んだりし続けている姿を原告の娘 にも見せることになってしまった。

なお、帰国後原告の娘が原告の夫に被告倉渕の話をしたために、原告のうそ(友人との旅行)が発覚し、原告は夫から2度と絶対に娘に会わせないと言われた。

原告は、娘の子供心を傷付ける体験をさせてしまったことを後悔している。さらに、このことが、原告が親権を奪われ、いまだに娘との面接交渉もできない原因となっており、娘と会えなくなってしまった原告の精神的損害は、非常に大きなものがある。

18 お花の小道帰途ツアー及びセミナー後の入金

原告は、平成14年11月1日から5日にかけて、「お花の小道帰途ツアー」という名称のセミナーに参加した。参加費用29万9180円(参加料26 万6000円、宿泊代1万3860円、食事代1万9320円)を支払った(別紙2の8。なお、この金額を上回る参加費用等の支払の事実を的確に認めるに足 りる証拠はない。)。このセミナーの5日間は、連日、被告倉渕のレクチャーと参加者への長時間のフィードバックが続けられた。

原告は、セミナー参加者中ではセミナー経験の多い方であったので、他のセミナー生に対して激しくフィードバックをする役をさせられ、被告倉渕に命じ られて大声で「平等じゃないといけないという観念がおかしいことに気づいてごらん。」などと罵倒句を長時間言い続けることを強いられた。そうしないと、自 分が厳しいフィードバックを受けることは必至であった。原告が19歳の女性にフィードバックする一方で、被告倉渕と被告出山は10歳の少女にフィードバッ クを繰り返し行っていた。原告は、被告倉渕から「新人なのに万物に貢献できている」と言われ、皆の前で褒められた。原告は、このセミナーの経験によって、 親から受け継いだ観念でお金のトラウマなどの自分の思考ができあがっていること、万物に貢献するために金を使い、本質的な仕事で金をかせぐことによって自 分の代でこのトラウマから出られるという思いを強くさせられた。

このお花の小道帰途ツアー中に、原告は、当時10歳の戊山八江から前記12の「森のおかしやさん」の購入を勧誘された。戊山八江の勧誘の様子は、無 表情で、棒読み口調で「森のおかしやさんです。おいしいケーキです。私が手作りで一生懸命作りました。買って下さい。」というものであった。原告は、この 戊山八江の勧誘もトレーニングであること(買ってくださいと営業することはトラウマをとるためのトレーニングであるとされていた。)を知っており、戊山八 江がセミナー中に被告出山その他のスタッフから長時間フィードバックをされたことも知っていたため、心が傷んだ。セミナー終了後原告は、鈴木乙枝から、再 度、前記12と同様の説明を受けて強く購入を勧められたので、11月25日ころ、一般社会ではとうてい売り物になりそうもない「森のおかしやさん」を現金 5000円を支払って購入した(別紙4の9)。

セミナー(お花の小道帰途ツアー)終了後、間髪を入れず、鈴木は、平成14年11月5日、原告に電話で、ハーべストフアームの費用として全所持金を 被告ホームオブハートに入金すること、クレジットカードのキャッシング機能などを使ってでも入金することを被告倉渕の指示として告げ、原告が貯金を取り崩 すことやキャッシングの高金利への不安を告げると、鈴木は原告に対して、電話口で怒鳴り、「金利がどうのこうのと言っていることは、万物に貢献する次元の 話ではない。恥ずかしくないですか。いつもお金のトラウマがあるから甲田さんは止まるんですよ。他の人はそんなところでは止まらないですよ。」などと長時 間罵倒句を言いながらフィードバックを行った。

原告は、11月6日、銀行の定期預金を解約し、被告ホームオブハートに対し200万円を入金した(別紙3の3・4、甲3、6)。原告は、入金時にお 金がなくなることのこわさ、生活の不安から手が震え、激しい腹痛、下痢の症状が生じたことを鈴木に伝えると、鈴木は「お金が恐いという異常な観念から出し ているエネルギーがそうさせるし、カルマから抜け出そうとする体の抵抗が下痢という現象になったのです。それでも、勇気を絞って入金した甲田さんはすばら しい。」と言った。11月7日にもセゾンカードのキャッシングコーナーで50万円を借り出して、ハーべストファーム代として被告ホームオブハートに支払っ た(別紙3の5、甲4)。原告が鈴木にキャッシングの限度額は50万円以上あったが50万円しか借りられなかったと告げると、鈴木は「マネートレーニング の後で限度額の残り分を払ったらいいですね」と言った。

19 マネートレーニング及び出店計画の変更(オーガニックビレッジ)

原告は、平成14年11月8日の夜から11日にかけて福島県羽鳥湖の「ビッグベアークラブハウス」において「マネートレーニング」というセミナーに 参加した。参加費用15万4650円(セミナー代12万円、宿泊代3万4650円)は、現金で支払った(別紙2の9。なお、この金額を上回る参加費用等の 支払の事実を的確に認めるに足りる証拠はない。)。

このセミナーでは、被告倉渕は、原告がためらいなく全財産を被告ホームオブハートに渡すようにするために、レクチャーなどで、「MASAYAは万物 に貢献することしかしていない。」「正しい金銭エネルギーの使い方は万物に貢献するために使うことだ(つまり、被告倉渕の指示のとおりに金を使わないとい けない。)」とか、「内外の不況は甲田のような醜いネットの思考のやつが増えているからだ。」「お金はどんどん借りるほうがいい。借りるのがいけないとい うのはネットの間違った観念だ。お金はどんどん使ったほうがいい。金がないと恐怖になるのは、甲田のようなネットの奴らだけだ。」などと繰り返し原告のこ とを汚い言葉で罵倒した。被告倉渕のレクチャーの後、連日、原告に対するフィードバックが行われ、午前2時、3時まで続いた。原告に対し、大声で、原告の 金に対する観念を罵倒する言葉が浴びせられ、原告が自己のネットの観念の悪どさや自己のお金への執着の醜さを認めて泣き叫ぶまで続けられた。

原告は、被告ホームオブハートのスタッフから、疑問を持つことは間違っていると言われ続けていた。

マネートレーニング終了後の原告は、前にも増して、お金のトラウマから自分自身を解放して間違った観念を落とさないといけないと思うようになった。 また、自己や他のセミナー生が被告ホームオブハートの商品購入やセミナー申込みを断ると被告倉渕、被告出山その他のスタツフから長時間のフィードバックを 受けるのを何度も経験しており、被告ホームオブハートへの金銭の支払について抵抗することに恐怖感をもつようになっていた。したがって、被告ホームオブ ハートからお金のことを言われると従わざるを得ないというマインドコントロールを受けたような状態になっていた。

マネートレーニング終了後の11月11日、鈴木は、原告を那須の美術館に呼び出し、被告倉渕の20万円のビデオ(未来経営者ワークショップビデオ全 25巻)及び6万円のCD(ラジオ素直な自分に戻りたい三か月コース12枚)をクレジットで購入させた(別紙4の6から8まで)。鈴木は「現金は後で必要 になるから、今のうちにローンを組めるだけ組んだほうがいい。ローンを組むとキャッシングできるカードもついてきてお金を借りられるから、それも今のうち に作っておいたほうがいい。」と言って、原告にさらにキャッシングで借金をして被告ホームオブハートに入金すべきことを示唆した。

鈴木は、翌日の11月12日、原告に対し、ハーべストファームについて原告が支払うべき費用が500万円から800万円に増額されたと、電話で一方 的に告げた。原告が不満を示し、「せめて建物の名義を自分のものにして欲しい。800万円の契約書も欲しい。」と言うと、鈴木は、フィードバックをすると きの罵倒口調になり、「ネットワーカーはキチガイだからそんな疑問を言うんですよ。」「お金のことになると、また懐疑心がわくんですね。その異常さに気づ いてごらん。」「本質に貢献できないドケチ、ドロボウの思考です、お金への執着のすごさに気づいて下さい。」「今までのお金は返せません。ここまでやって きて降りるつもりですか、もったいないですよ。自然界に貢献する仕事をやりたかったんじゃないんですか。」などと、突然の一方的な増額という自己の非常識 を棚に上げて、不満を言う原告が異常で非常識であるかのように怒鳴り続けた。原告はいったん電話を切ったが、鈴木は、また電話をかけてきて、「少し冷静に なりましたか。ネットの観念でそうなっていることが分かりましたか。自分の異常さに気づきましたか。」などと罵倒句によるフィードバックを3時間ほど繰り 返した。結局、原告が 泣き崩れて「自分は醜いネットワーカーです。クーまん(被告倉渕)だったら、お金の使い道を聞かないのに、私はたった300万円のことで話が違うなどとキ チガイのようなことを言った。お金のことばかり考えている邪悪な人間です。」と言い、総額800万円を支払うことを約束し、その日のうちに、手持ちのクレ ジットカードのキャッシング機能を用いて限度額いっぱいの40万円を借金し、被告ホームオブハートに40万円を送金した(別紙3の6・7、甲5、6)。さ らに、鈴木の指示に従い、新たに複数のクレジットカード会社から資料を取り寄せ、カード会員の入会申請をした。ハーべストファームの開業費用として合計500万円を支払ったことになったが、総額がさらに300万円増額されたため、残額は300万円となった。

鈴木は、平成14年11月18日ころ、原告に対し、出店場所が変更になり、新しい場所での出店費用は2000万円であるが、被告倉渕の指示で原告だ けは特別に1000万円の支払に減額されたと一方的に告げ、即時入金を要求された。新しい場所の店の名称は「オーガニックビレッジ」であり、被告ホームオ ブハート側が全面的にバックアップして宣伝をすること、土地建物が原告名義になることも併せて説明された。

原告は、被告ホームオブハートのマインドコントロール下にあったことから、以前よりも条件が良いと思い、既に支払った500万円のほかに急いで500万円を調達しなければならないと思うようになった。

20 屋久島ブレーバートレーニング

原告は、平成14年11月18日から21日にかけて、鹿児島県屋久島の被告桃井が管理する被告ホームオブハートの施設である「のいのいの小さな森の 美術館ホテル」で行われた「ブレーバートレーニング」に参加した。参加費用として28万円を支出した(別紙2の10。なお、この金額を上回る参加費用等の 支払の事実を的確に認めるに足りる証拠はない。)。

ブレーバートレーニングでは、作業をしながら自分を見ていくトレーニングと称して、被告倉渕用のプール作り(コンクリート打ち)作業をさせられ、実 質的には金を払って被告倉渕のために無償労働をしに行ったようなものであった。作業の合間に被告倉渕のレクチャー、フイードバツクなどが実施されたにすぎ なかった。

このセミナーでは、原告は、被告ホームオブハートのスタッフでないのに被告倉渕に同行して東京から屋久島に移動したこと、1時間50万円が相場の被 告倉渕の経営者ワークを無料でやってもらえたことが前代未聞の特別扱いだと言われた。被告倉渕は、経営者ワークで、原告に対し、同席していたアロマテラ ピーに詳しい被告桃井からアロマテラピーの話をよく聞くように指示した。また、被告倉渕は、原告は他のネットワーカーと違って純粋さが残っているし、気付 きも早いので本質に帰してやりたい、そのかわリネットの観念は深いから大変な思いもするだろうなどと原告に言って、原告にオーガニックビレッジをやる気に させた。

21 山の学校オプショナリーツアー

(混浴事件)及びその後のセミナー
(1)原告は、 平成14年11月22日から24日にかけて、那須の豊原HANAZAKURAで行われた「山の学校オプショナリーツアー」(参加費用等18万0230円を 支払った。別紙2の11、乙イ19)に参加した。セミナー生2人の予定が原告だけの参加となり、セミナーの内容も、ワーク(被告ホームオブハートのスタッ フ的な役割をしていた被告出山と2人で実施)よりも、被告ホームオブハートの施設への備品搬入等の作業や後記の混浴などが目立つものであった。
こ のセミナーの途中で、被告倉渕は、一夫多妻制のような外観で共同生活中の女性10名程度(被告出山、被告加田その他の被告ホームオブハートのスタッフの女 性)に「風呂に入るぞ」と言って、施設に併設されている露天風呂に入っていった。すると、原告以外の女性も皆裸になって被告倉渕と同じ風呂に入っていっ た。原告は驚いたが、被告加田に促され、その場の雰囲気もあり、これもトレーニングなのかと自分を無理矢理納得させて、恥ずかしい気持ちをおさえて被告乙 山らと共に混浴をした。被告出山らは湯船の中で被告倉渕に飛びついていくことを繰り返していたが、恥ずかしい気持ちでいっぱいの原告にはとてもその真似は できなかった。
(2)被 告倉渕は、11月24日の朝、原告に対し、オーガニックビレッジをやる意思を確認した上、金の借り方を被告加田に相談するよう指示した。被告加田は、国民 金融公庫への1300万円の融資申込みを指示した。原告は、被告加田から、申請書には審査を通りやすくするための虚偽記載(美術館の敷地上の既存ログハウ スをオーガニックビレッジと偽って申請する。甲83の「店舗用建物概要」参照)をすることを指示され、被告加田と鈴木が相談して作成した見積書を添付し た。さらに、原告は、国民金融公庫における面接の練習をさせられた。結局、原告は、融資を受けることができなかったが、鈴木乙枝から「ネットワーカーの思 考がそうさせている」「原告のお金に対する思考が原告にお金を貸さないようなエネルギーを作るから、ちゃんと思考を外すトレーニングをするように」と言わ れた。
(3)原 告は、平成14年11月30日と翌12月1日に実施された被告ホームオブハートのセミナーであるチャイルディッシユツアー(Childish Tour) に参加した。参加費用11万3000円を送金した(別紙2の12、甲80の78頁)。なお、原告は、参加費用を16万0355円と主張するが、11万 3000円を超える額の支払をしたことを的確に認めるに足りる証拠はない。

原告は、平成14年12月6日から8日にかけて那須の豊原HANAZAKURAで行われたセミナーに参加した。参加費用等21万3260円 のうち、現金で5万円を支払い、残金16万3260円の支払についてはクレジットカードのリボ払いを利用した(別紙2の13、甲114の27頁、 122)。

原告は、平成14年12月13日から15日まで実施された被告倉渕の誕生会を兼ねた「ヒーリングセラピートレーニング」に参加した(参加費用等25 万7720円を支払った。別紙2の14、乙イ20)。このセミナーにおいて、被告倉渕は、「オーガニックビレッジの土地は12月中に購入する。12月末ま でに入金しないと、1月からは一週間毎に100万円以上を上乗せするぞ。」と怒鳴られた。このセミナーに参加していた被告トシオフィスの女性スタッフのう ち、オーガニックビレッジの説明を受けたが参加(2000万円の出費を伴う。)を希望しなかった女性一人(乙野冬子)が、被告倉渕や被告出山から、長時間 徹底したフィードバックを受け、原告は、2000万円の支出を即決しないだけで長時間罵倒されフィードバックを受けさせられるのを見せつけられて恐ろしく なった。また、このセミナーでは、連日早朝まで、フィードバックやセラピーをやらされ、最終日には原告は、気力、体力が消耗しきって考える力もないような 状態になっていた。

なお、別紙4の商品のうち15の「クーマンサンタからの贈物」(レクチャービデオ五巻セット)6万円及び16の「クリスマスMASAYAQ&Aビデ オ」5万円は、このヒーリングセラピーの最終日の疲労困ぱい状態の中で、被告出山らに言われるがままにクレジット(リボ払い)で購入させられたものであっ た。

原告は、平成14年12月21日から23日にかけてのレクチャー ワークに参加した(参加費用等28万7750円を支払った。別紙2の16)。なお、平成14年12月21日のクリスマスコンサート参加費用2万円(別紙2の15)の支出については、これを的確に認めるに足りる証拠がない。

22 健康食品や水の購入

原告は、被告ホームオブハートから良い商品であるとして購入を勧められたのに断ると、エゴが出ている、ネットの観念が残っているなどの罵倒句による 長時間のフィードバックを受けるので、商品購入を断ることができない心理状態におかれていた。原告は、平成14年11月末から12月はじめころ、鈴木乙枝 から勧められた商品を、同種商品の一般的な価格の数倍以上の価額で、通常はありえないほど大量に購入することを勧められ、別紙4の10から29まで(15 及び16を除く。)に記載の商品を、別紙4記載の価格で、クレジットカード(ただし、うち2820円は現金払い。甲123)により購入させられた。別紙4 記載の商品のうち、11の「くまスンの森の癒し水」はミネラルウォーターで、「くまスン」とは被告倉渕のことを指す言葉であるが、実際に納品されたのは賞 味期限切れ間近のミネラルウォーター500ミリリットル入り240本であった。そのほかのものも、いわゆるゲテモノ(ルンブロンHは赤ミミズ粉末のカプセ ルにすぎない。)やB級品、マニアックな商品ばかりであり、品質不良のものも多く、原告がマインドコントロールを受けた状態になければ、絶対に購入しない ようなものであった。

23 借金をするトレーニングという名の破産への道

原告は、オーガニックビレッジの残金の納期が近づいてきた平成14年12月中旬ころ、鈴木乙枝の指導により、「借金をする(思考を止める)トレーニ ング」をさせられた。電話帳(タウンページ)の金融業者の欄に記載されている金融業者に順番に電話をかけて融資を申し込むというトレーニングであった。数 日間このトレーニングを実施しておびただしい数の金融業者に電話をかけても、どこからも借りることができなかった。鈴木は、被告倉渕がセミナーで言ってい るのと同様に、「甲田さんのネットの思考で、どうせだめだとか、どこも貸してくれないとか、借金が怖いから借りたくないとか、思っているから、どこも貸し てくれないんですよ。甲田さんはエネルギーが悪い。私だったらこんなに借りられるというくらい借りられたし、同じことを三江ちゃん(戊原三江)も言ってい ました。すべて甲田さんのネットの思考のために借りられなくなっていることを気づいてごらん。」と繰り返し言い、借金をするトレーニングの継続を指示し た。

また、鈴木は「お金を借りるのは悪い事だと思っているでしょうが、貸す方が悪い。返せない人から取り立てて返せというのは、法律違反。返せないとき は、交渉する。交渉もトレーニング。怖い気持ちになるのは、なんで怖いんですか。」「お金を借りるのがいけないとか、借りたら返さないといけないというの は、ネットワーカーのとんでもない間違った観念だ。」「スタッフで借金をちゃんと返している人はいないが、皆返さなくてすむようになった。」「自己破産な んて何でもないことだ。破産する前と後では何も変わらない。」「万物に貢献するためだったら借りてでもお金をつくらないとだめだし、みんなそうしてき た。」などとも繰り返し言った。

その後、原告は以前から持っていたクレジットカードのキャッシングで20万円を借り、平成14年12月19日に20万円を被告ホームオブハートに送 金した(甲6)。何日か借金をするトレーニングを続けた結果、12月20日に一社から40万円を借りることができ、同日中に40万円を被告ホームオブハー トに送金した(甲6)。これらの金員は、別紙2の17以下のセミナー代の一部に充当された。

12月27日には乗用車を担保にもう一社から40万円を借りることができ、同日中に40万円をオーガニックビレッジ代として被告ホームオブハートに送金した(別紙3の8)。

原告は、アルバイト収入が月に6万円程度しかなく、手持ちの現金、預貯金が底をつきそうになったので、「セミナーを中断して働きに出たい。」と言ったが、鈴木はこれを拒否し、「セミナーがうまくいっていないからそうなる」と言って、セミナーへの参加を強要した。

12月末ころから、ほぼ毎晩のように深夜3時ころ、鈴木一人または鈴木及び長谷川の2人が原告のアパートを訪問し、朝7時くらいまでお金の入金ができないことが原告の観念の異常さからくるものであると繰り返して罵倒して、フィードバックを行った。

原告は、12月26日には、金利年15%のフリーローンを申し込んでいた栃木銀行からも100万円を借りることができ、同日、100万円を被告ホー ムオブハートに送金した(甲85)。原告は、送金手数料840円を負担した(別紙2の22、甲85)。鈴木乙枝の指定により、うち30万円は、平成15年 1月18日から29日までの「マネートレーニングⅡ」というセミナーの参加料(別紙2の21)、残りの70万円はオーガニックビレッジ代(別紙3の9)と して送金した。なお、マネートレーニングⅡは、1月の予定日には実施されず、その代わりに、被告倉渕のレクチャーのカセットテープ一本を受け取ったのみで あった(甲87の1・2)。

原告は、親類や知人に借金を申し込んだが、いずれも断られた。マインドコントロールされていた当時の原告には、貸してくれない親類や知人が、猜疑心 が原因で敵対してくるネットワーカー思考の人にしか見えなかった。最終期限と言われていた12月中(年末のマスタートレーニングの開始日である12月27 日)までにオーガニックビレッジの残金500万円の全部を作ることはできなかった。 原告は、平成14年12月27日、マスタートレーニングの集合場所に 行くまでの間や集合場所からセミナー会場に向かう間も、オーガニックビレッジの残金を調達しなければいけないとの強迫観念から、運転しながら金融業者に電 話をかけ続け、赤信号に気づかないなどの危険な運転を同乗者から注意されるほどであった。

24 年末のマスタートレーニングにおける極限状態

このような状態の下で、原告は、平成14年12月27日から平成15年1月1日まで、主に福島県羽鳥湖のビッグベアークラブハウスで実施されたマス タートレーニングに参加した。参加費用等45万7750円を支払った(別紙2の17。なお、この金額を上回る参加費用等の支払の事実を的確に認めるに足り る証拠はない。)。

原告は、セミナー初日に、激しい頭痛に見舞われ、トレーニングを中止しようとしたが、被告出山にトレーニングの継続を強要された。

このマスタートレーニングでは、従前のセミナーと同様に、連日午前中から翌日の午前3時ころまで、食事時間も含めて被告倉渕によるレクチャー並びに ワーク、セラピー、フィードバックなどのトレーニングが続けられ、原告を始めとするセミナー生は常時睡眠不足の疲労した状態に置かれていた。

前記のとおり、原告は、このマスタートレーニング開始直前までに、オーガニックビレッジの費用やセミナー参加費用調達のために、返済のメドが具体的 に立たないまま多額の借金をさせられ、自家用車も借金の担保にしてしまい、クレジット(リボ払い)で多額の商品購入をさせられ、預貯金も底をつき、毎月の アルバイト収入もわずかで、自宅アパートの家賃滞納も始まっているという状態におかれ、通常人であれば当然今後の生活に経済上の強い不安を覚えるところで あった。原告も、通常人と同様にそのような不安をいだき、被告ホームオブハートのスタッフに対し、「車を担保にしてまでお金を借りて、今後の生活をどうし ていけばいいのか分からない」と話をすると、被告出山からは、「甲田がまたネットの観念になって、お金がいけない怖いもんだと、キチガイ、化け物のような ことを言っている。」「ネットの観念になっているから車が取られた大変だと思う。アゴ(被告出山の戸籍上の配偶者であるTOSHI、すなわち被告トシオ フィスの代表取締役である出山利三のこと)や私だったら、無限に稼げると思うから、そんなところで止まらない。そこから見たら甲田は異常だ。」という趣旨 の罵倒句をくり返し浴び せかけ、原告の身体を床に倒し、背中に乗りかかり、背中を激しく叩くなどの長時間のフィードバックをした。

結局、原告は、このセミナー期間中は連日、被告倉渕、被告出山その他のスタッフらから、「甲田だけが変なエネルギー、荒い波動を出している。」と何 度も言われ、長時間罵倒され、背中を強く叩かれ、何人ものスタッフに背中に乗りかかられるなど、激しいフィードバックを長時間繰り返し受けた。このセミ ナーでは、原告だけが本気で自分の観念が悪いと思うことができず泣き崩れて自分が悪い観念の持ち主であると泣き叫ぶことができなかったため、いわゆる抵抗 している(改心できていない)状態にあるとみなされたからであった。このような状況下にあっても、いわゆる抵抗している(改心できない)状態にあるのは自 分の異常なお金のトラウマが原因なのだと、原告は、思い込まされていた。

25 山の学校における極限状態

原告は、平成15年1月1日開始予定の「山の学校のトレーニング」というセミナーの参加費用を、前日になっても払えずにいた。原告は、自宅アパート の預金通帳に20万円あるはずだが、これを使うと家賃支払も借金返済もできなくなることを被告ホームオブハートのスタッフにしゃべってしまった。スタッフ は、全部捨ててからが新しい道が歩ける、迷っているほうが馬鹿だと言い、原告が逃げないようにするために被告ホームオブハートのワゴン車で原告の自宅にお 金を取りに行くこと、監視役として他のセミナー生3名を同行させ、全員で集団行動をとることを指示した。運転していた丁田は、原告のアパートの手前の曲が り角で、被告ホームオブハートのワゴン車を塀にぶつける物損事故を起こした。鈴木ら被告ホームオブハートのスタッフは、事故の原因は原告にあり、原告が修 理代を被告ホームオブハートに賠償すべきことにした。事故車の状態を見た鈴木は、いきなり後から原告におおいかぶさるようにして殴りかかり、「ネットワー カーはいつだって皆が本質に帰ろうとすると邪魔をする。化け物。醜い奴。お前のようなエゴイストは今まで見たこともないんだよ。」などと原告を罵りなが ら、原告をうつ伏せの 姿勢にして床に押し倒し、原告が泣き始めるまで、背中に体重をかけて頭と体を床に押しつけ、背中を叩くなどのフィードバックをした。

原告は、自宅のアパートで通帳に残金がないことを知ったが、被告加田は、特別に山の学校の参加費を後払いでよいことにした。

平成15年1月1日から1月4日まで、那須地区の豊原HANAZAKURAで「山の学校」というセミナーが行われ、原告はこれに参加した。参加費用等21万9760円は、現金で後払いした(別紙2の18、乙イ17)。

このセミナー中の原告は、感情も思考もなく、自分は死んでしまうのだろうかという言葉が頭の中を回っているという、幽霊のような感じの状態であっ た。被告倉渕のレクチャーの内容を聞く気力もなかった。原告は、連日深夜、早朝まで、被告出山をはじめとする被告ホームオブハートのスタッフから集団リン チを受けているような状態になり、長時間にわたり、「キチガイのネットワーカーがとんでもないエネルギーを出して。」「これだけ言っても分からないの か。」などと罵倒され、床の上にうつ伏せに押し倒され、背中の上から乗りかかられたり、青痣になるほど背中を何度も何度も強く叩かれた。

1月3日の入浴後、被告倉渕が原告の部屋に来て、1月1日の丁田の運転による被告ホームオブハートのワゴン車の物損事故につき原告が責任がないと 言っていることについて、原告を怒鳴り付け、非常に強い力をこめて平手で原告の顔を3回往復して殴り、原告はそのたびに体を左右に大きく振られるほどで、 頬骨の痛みが数日間残るほどであった。

結局、被告ホームオブハートに支払うべきワゴン車の修理代17万円は、原告が9万円、丁田が8万円を負担することになった。原告は、平成15年1月27日に、被告ホームオブハートに対して、この9万円を送金した(別紙2の23、甲6)。

原告は、平成15年1月6日、7日に福島県羽鳥湖で開催されるハーブ講習会(アロマテラピー協会理事の講習を受けるもの)に参加した。参加費用8万 円を支払った(別紙2の19、甲24の1、甲80の97頁。なお、この金額を上回る参加費用等の支払の事実を的確に認めるに足りる証拠はない。)。

26 エンロールメントトレーニングとホームオブハートからの脱退

原告は、他のセミナー生と共に、平成15年1月18日から90日間のエンロールメントトレーニングへの参加を指示され、参加費用33万6960円を支払って参加した(別紙2の20、うち3万6960円の支払につき甲6、乙イ23)。

エンロールメントトレーニングとは、建前上は「人をいいエネルギーに巻き込んでいくために日常生活をセミナー的に改善していくもの」と言われていた が、実際は、被告ホームオブハートの実施するイベントへの参加を友人や知人に勧誘するもので、併せて被告ホームオブハートに支払う金銭の金策を生活の一部 に組み込むことを目的とするものであった。セミナー生が無償で新規顧客勧誘の営業をするようなもので、自己啓発セミナーによくあるプログラムであった。

平成15年1月18日と19日にエンロールメントトレーニングの導入セミナーが実施され、被告倉渕やスタッフらの指示で、原告は、二つあるうちの一 つのグループ(原告を含めて4名のセミナー生で構成)のリーダーとなり、グループの勧誘のノルマを与えられ、グループ内で90日間でノルマを達成するため の計画を立てさせられ、提出した。セミナー開始後は、毎日、多数の電話(被告出山へのその日の目標のコミット(誓約)や報告の電話、被告出山からの被告乙 山の言葉を伝えるシェアーやフィードバックの電話、友人、知人への勧誘の電話、グループのセミナー生への報告、連絡の電話)に1日に10回前後(一回30 分以上のものを含む。)出なければならなくなった。そのため、原告が、長時間電話をしなければいけないので、アルバイト収入も満足に得られず、経済的に困 窮していると被告出山に対して訴えると、被告出山は「気持ちの悪いネットの醜い観念を絶対手放そうとしないんだよ、お前は。」などと言って、また長時間罵 倒した。このようにして、原告は、出口の見えない苦しさを味わっていた。

原告は、夜にファミリーレストランでアルバイトをして深夜午前1時か2時ころに自宅アパートに戻っていたが、このころは、鈴木が、連日のように深夜 にアルバイト帰りの原告を自宅アパート前で待ちぶせ、早朝まで長時間オーガニックビレッジの残金を入金するようにしつこくフィードバックした。同じスタッ フの長谷川悦子と2人で来ることもあった。鈴木や長谷川は、原告に対して、借金をしてでも残金を入金すること、借金が返せなくても貸したお金が万物に貢献でき れば原告を通じて貸主も万物に貢献できるのだから良いことであること、しかしながら借金の口実は(オーガニックビレッジ代ではなく)生活のためにお金に 困っているとうそを言えばよいこと、被告ホームオブハートのスタッフ達も皆そのようにして借金してきたことを、連日のように長時間強く説得した。人をだま して金を借りることにならないのかという原告の質問に対しても、鈴木及び長谷川は貸主が原告を通じて万物に貢献できるから問題ないとの一 点張りであった。

原告は、人をだましてでもお金を借りることを強要されたり、エンロールメントトレーニングが前に自分が疑問に感じていたネットワークビジネスと同じ ではないかと感じるようになり、被告ホームオブハートに対する疑問が膨らみ、カウンセラーや弁護士に相談した結果、マインドコントロールによる自己啓発セ ミナーの被害の典型であるとの指摘を受けた。原告は、平成15年1月下旬に、被告ホームオブハートのセミナー等への参加をやめる決意をし、セミナーやト レーニングへの参加を取りやめた。原告は、被告ホームオブハートのイべント参加を勧誘した友人、知人にも、参加取りやめの連絡をした。その後、前記のとお り、原告は離婚と自己破産を経験した。

27 被告ら側の証人、本人の供述の信用性について

証人鈴木乙枝、被告出山及び被告加田は、前記認定と異なり、被告ホームオブハートは、セミナーを心理カウンセリングと勘違いしたり、ネットワークビ ジネスをセミナー内で広めたりするおそれがある原告をセミナーに参加させることに消極的であったが、原告の強い希望によりセミナー参加に応じたものであ り、原告は他から強制されることなく積極的にセミナーの実習を行っていたもので、原告主張のような違法行為は一切していない旨の供述をする。

しかしながら、鈴木証人、被告出山及び被告加田の供述は、迫真性に欠け、具体性に乏しく、反対尋問に正面から答えようとしない態度が顕著であることから、採用することができない。

また、本件の争点に照らし被告倉渕の当事者尋問申請がないのは不可解であるというほかはなく、そのような事情の下で反対尋問を経ていない被告倉渕本人の陳述書を事実認定に用いることは不相当である。よって、被告倉渕本人の陳述書(乙イ61)は採用することができない。

第2 被告らの行為の違法性について

1 被告倉渕、被告加田及び被告出山について

(1)前記認定事実によれば、次のような事実を推認することができる。
被告倉渕、被告加田及び被告出山は、セミナー生の積極財産の全部を被告ホームオブハートに提供させることはもちろんのこと、当該セミナー生の借入能力(貸金 業者等がある程度機械的に設定する与信限度額に基づくものであって当該セミナー生の弁済能力は考慮されていない。)をフル活用し、複数の貸金業者やクレ ジット業者から借入限度額満額の借入(利用限度額満額の商品購入を含む。)をさせてその全額を被告ホームオブハートに提供させること(全財産と全信用能力 を被告ホームオブハートに提供させること)を、共謀の上、企てていたものとみるのが相当である。
このような企ての実現のために、前記被告らは、被 告ホームオブハートが癒しの商品やサービスを提供する会社であるかのように装って、悩みをかかえている女性に被告倉渕以外の女性スタッフを接近させ、具体 的な悩みの内容とその原因、経歴、家族関係その他の個人情報を聞き出し、被告倉渕のコンサートなどに参加させた機会に、精神医学や心理学の知識を基礎とす る自己啓発セミナーのノウハウを流用して、前記個人情報をもとに被告倉渕がその者の悩みとその原因、解消法を本人がいかにもそのとおりだと納得してしまう ように言い当て、その不安を煽り、困惑させて、このような罠にひっかかる女性の出現を待つことを共謀していたものとみるのが相当である。
そして、 このようにして罠にひっかかりセミナーに参加するようになった女性に対しては、さらに、精神医学や心理学の知識を基礎とする自己啓発セミナーのノウハウを 流用してマインドコントロールを施し、被告倉渕の言うことを聞かなかったり、セミナーへの参加を止めたりすると、地獄のようなつらい人生を送ることになる と信じ込ませ、猜疑心を持たないようにすべきこと、思考を止めるべきこと並びに所持金が底をつくこと及び借金が返せなくなることに対する恐怖感をなくすべ きであることという考え方を刷り込み、被告倉渕らの指示するとおり所持金や借入金を被告ホームオブハートに支払ってくれる人間に改造していったとみるのが 相当である。
また、このようにマインドコントロールされた状態を維持するために、思考を停止する訓練を継続させ、フィードバックやセラピーにより被告倉渕の言うことが正しいと思いこませ続けたものと推認するのが相当である。
(2)1)に記載したような目的及び手法をもってマインドコントロールされた状態に意図的に陥れる行為は、社会通念に照らし、許容される余地のない違法行為であることは、明らかである。
精神医学や心理学の知識を濫用してはならないことは当然のことであって、これらの知識を濫用して他人の心を傷つけることが、およそ血の通った人間のやるよう なことではないことは、論をまたないところである。他人に考える余裕や反論する余裕を与えずに、特定の考え方、価値観に基づき集団で長時間一人の相手を罵 倒し続けることは、精神的な拷問に等しく、相手の心に深い痛手を永遠に残すことになるのであって、このような行為がおよそ血の通った人間のやるようなこと ではないことも、また、論をまたないところである。
(3)そ うすると、被告倉渕らの指示に基づき実施された、平成14年7月の被告ホームオブハートのスタッフによる原告に対するMASAYAコンサートへの勧誘に始 まる原告へのセミナー等への参加の勧誘、商品及び施設会員権購入の勧誘並びにオーガニックビレッジへの出店の勧誘行為は、原告にマインドコントロールを施 し、その状態を維持する意図に基づく一連の行為であって、平成14年7月の最初から全部違法な行為と評価されるべきものである。したがって、平成14年7 月のコンサート費用の支払(別紙2の1)に始まる原告の被告ホームオブハートに対する前記認定の金銭支払行為は、被告倉渕らの違法行為がなければ発生しな かった支出であって、原告に現実に生じた支出の限度において、その全額が被告倉渕らの前記違法行為と相当因果関係のある損害に該当するものというべきであ る。
(4)被告らは、被告倉渕は被告ホームオブハートの実権を把握しているものではなく、プロデューサーとセミナーのトレーナーにすぎないと主張する。
し かしながら、前記認定事実によれば、被告倉渕は、単なるセミナー実施上のトレーナーであるにとどまらず、セミナー以外の分野においてもスタッフに対して重 要な指示を出す地位にあり、誰を豊原の会員にするか、誰に被告ホームオブハートの商品販売事業を許可するかなど、被告ホームオブハートの経済的な諸活動に ついても実質的な最終決定権を有していたことが明らかである。また、前記認定事実によれば、取締役である被告加田や被告桃井を含む被告ホームオブハートの スタッフも、被告倉渕の指示を絶対的なものとして扱っていたことが明らかである。被告倉渕がレクチャーにおいて代表取締役社長である被告加田に対しても恫 喝するような罵倒句を浴びせかけていること(甲22)や、被告倉渕が自分が被告ホームオブハートの決定権を握っていると発言したことを聞いた者がいること (甲24の1)は、このことを裏付けている。
被告らの前記主張は、採用することができない。
(5)被告加田について
(4) に説示したとおり、本件違法行為の首謀者が被告倉渕であることは明らかであるが、前記認定事実によれば、被告加田も、被告倉渕の片腕として、また、被告 ホームオブハートの代表取締役社長の地位にあった者として、被告ホームオブハートのマインドコントロールシステムを十分に理解し、これが意図した成果を産 むように部下のスタッフを指揮・命令していたことは容易に推認することができるところであって、共謀者として被告倉渕と同様の責任を負うものというべきで ある。
このことは、オーガニックビレッジの費用負担やその借入のための国民金融公庫に提出する書類作成について被告加田が原告に命令していること、被告加田が原告にフィードバックを繰り返し行ったことなどからも、裏付けられるところである。
な お、被告加田は、株式会社である被告ホームオブハートの取締役であるところ、会社が原告に対する違法行為を積極的に行っていることを知りながら、これを中 止させるための努力を何ら行っていない点において、取締役としての職務の執行につき悪意又は重大な過失があったものである。したがって、被告加田は、会社 法(改正前の商法の旧規定上の該当条文を含む。以下同じ。)429条1項の規定によっても、これによって原告に生じた後記損害を賠償すべき義務を負うもの である。
(6)被告出山について
(4) に説示したとおり、本件違法行為の首謀者が被告倉渕であることは明らかであるが、前記認定事実によれば、被告出山も、被告ホームオブハートのマインドコン トロールシステムを十分に理解し、これが意図した成果を産むように、被告トシオフィスからの被告ホームオブハートへの出向者として、被告ホームオブハート のスタッフを指揮・命令していたことは容易に推認することができるところであって、共謀者として被告倉渕と同様の責任を負うものというべきである。
こ のことは、被告出山が家出した直後の原告を非常にほめたこと、エンロールメントトレーニングにおいて原告を指揮、監督する地位にあったこと、それ以前のセ ミナーにおいても多くの場合において原告の傍らにいて原告に対するフィードバックやセラピーを繰り返し施していたことからも、明らかである。
な お、被告出山は、株式会社である被告トシオフィスの取締役であるところ、会社が被告ホームオブハートと共に原告に対する違法行為を積極的に行っていること を知りながら、これを中止させるための努力を何ら行っていない点において、取締役としての職務の執行につき悪意又は重大な過失があったものである。した がって、被告出山は、会社法429条1項の規定によっても、これによって原告に生じた後記損害を賠償すべき義務を負うものである。

2 被告桃井について

前記認定事実によれば、被告桃井は本件当時鹿児島県屋久島所在の被告ホームオブハートの施設の管理の仕事をしていたもので、原告との接点は必ずしも多くないところではある。

しかしながら、平成14年11月中旬に鹿児島県屋久島で実施されたブレーバートレーニングにおいては、被告桃井は、被告倉渕が原告に対して実施した 経営者ワークの際に同席し、その後、被告倉渕の指示により、原告に対して、オーガニックビレッジに出す店で行う予定のアロマテラピーの話をしたものであ る。この事実と、被告桃井が被告ホームオブハートの代表取締役であり、会長の肩書きも与えられていたことからすると、被告桃井も、被告ホームオブハートの マインドコントロールシステムを十分に理解し、これが意図した成果を産むように部下のスタッフを指揮・命令していたことは容易に推認することができるとこ ろであって、共謀者として被告倉渕と同様の責任を負うものというべきである。

なお、被告桃井は、株式会社である被告ホームオブハートの取締役であるところ、会社が原告に対する違法行為を積極的に行っていることを知りながら、 これを中止させるための努力を何ら行っていない点において、取締役としての職務の執行につき悪意又は重大な過失があったものである。したがって、被告桃井 は、会社法429条1項の規定によっても、これによって原告に生じた後記損害を賠償すべき義務を負うものである。

3 被告ホームオブハートについて

被告倉渕は、被告ホームオブハートの被用者であり、その業務の執行として原告に対して前記の違法行為をしたものであるから、民法715条により、被告ホームオブハートも当該違法行為により原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

被告加田及び被告桃井は、被告ホームオブハートの代表取締役であり、その職務を行うについて原告に対して前記の違法行為をしたものであるから、会社法350条により、被告ホームオブハートも当該違法行為により原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

4 被告トシオフィスについて

被告出山は、被告トシオフィスの取締役兼従業員であり、その業務の執行として原告に対して前記の違法行為をしたものであるから、民法715条により、被告トシオフィスも当該違法行為により原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

被告らは、被告トシオフィスからみると被告ホームオブハートはCDの仕入れ先にすぎないと主張する。しかしながら、前記認定のとおり、被告トシオフィスは、女性従業員に対し、研修命令を出して被告ホームオブハートの開催する自己啓発セミナーを社員研修として受講させ、セミナーを受講しないと解雇す るとまで言っていたほか、被告ホームオブハートのコンサート等に勧誘することを被告トシオフィスの業務として行っており、被告トシオフィスは被告ホームオ ブハートの広報、営業活動を担当する一部門としての機能を有していたことが明らかである。そして、被告出山は、代表取締役である出山利三の了解の下、出家 状態になって栃木県の被告ホームオブハートの施設に住み込み、被告ホームオブハートの事務も行っていたのであって、これは、被告出山を被告ホームオブハー トに出向させた上その指揮命令を受けてその業務に従事することを被告トシオフィスが命じたものと評価することも可能である。また、金銭的に、被告トシオ フィスが被告ホームオブハートに隷属するような関係(被告トシオフィスの収入のほとんどを被告ホームオブハートに様々な名目で送金する関係)にあったこと も、前記認定のとおりで ある。被告倉渕は、かねてから被告トシオフィスについて、「アゴ(トシオフィスの代表取締役である出山利三)が決めることなんて何もない。」「トシオフィ スのスタッフの給料も俺が決める。」などと言っていたこと(甲69)も、このような関係を裏付けるものである。

以上によれば、被告トシオフィスは、被告ホームオブハートに隷属しながら、そのセミナー実施の一部に協力し、セミナーの共催者ともいうべき立場に あったのであって、被告出山の行為はこのセミナーの共催者の業務を行うという意味において被告トシオフィスの業務の執行に当たるというに十分である。

第3 損害

1 財産的損害

(1) 前記認定事実によれば、原告は、被告らの違法行為により、セミナー参加費用、商品・会員権等の購入代金、オーガニックビレッジ出店費用等の 負担を負わされたものである。これらは、被告らの違法行為がなければ負わなかった負担であるから、原告に生じた損害算定の基礎となるべきものである。
その損害算定の基礎となるものは、別紙1、3及び4の全部並びに別紙2の一部である。
別紙2のうち次に掲げるものは、そこに定める額の限度で損害算定の基礎となり、それ以外のものは別紙2記載の金額が損害算定の基礎となる。

お花の小道帰途ツアー29万9180円
マネートレーニング15万4650円
10屋久島ブレーバートレーニング28万円
12Childish Tour11万3000円
15ホームコンサート0円
17マスタートレーニング45万7750円
19ハーブ講習会8万円

以上によれば、別紙2のうち損害算定の基礎となる金額は、466万6948円となる。

(2)(1)に記載した原告の負担のうち、原告が実際に自己の財産から現金の交付や銀行送金等の方法で被告ホームオブハートに支払った分及び原告が負担した送金費用は、原告に現実に生じた損害であって、その全額を被告らが賠償すべきものである。
これに該当するものは次のとおりで、合計1203万3508円である。

別紙1の全部133万6000円
別紙2の一部450万3688円
(別紙2の13のうちカード利用分16万3260円を、(1)で認定した466万6948円から控除した金額)
別紙3の全部610万円
別紙4の15000円
別紙4の22万1000円
別紙4の56万円
別紙4の95000円
別紙4の10から29までの一部2820円
(甲123)

(3)(1)に記載した原告の負担のうちその余のものは、原告がクレジットカード等で被告ホームオブハートから商品を購入し、又はサービスの提供を 受け、商品又はサービスの代金はクレジット会社から被告ホームオブハートに支払われ、原告はクレジッ卜会社に所定の分割金を支払っていくというものであ る。

この場合、原告に直ちに商品代金相当の積極財産の減少による損害が生じることはない。むしろ、被告ホームオブハートが返済の当てのないカード使用を 原告に行わせて商品又はサービス代金を各クレジット会社から騙取したという点で各クレジット会社に積極財産の減少による損害が発生しているという状態にあ る。平成15年5月に破産宣告(同年8月に免責決定)を受けた原告は、平成15年の早い段階で支払停止状態に陥っていたものと推認され、支払停止以前の平 成14年暮れから平成15年初頭にかけて何回か分割金の弁済をクレジッ卜会社に行ったものとも推測されるが(甲121、122)、その支払額の総額を的確 に認めるに足りる証拠はない。原告は平成15年8月に免責決定を受けているから、原告がクレジット会社等に対して負っていた債務は免責されているので、こ の債務の存在を損害と評価することもできない。

したがって、クレジットカード等による購入分についての原告の損害については、クレジット会社等に対する少額の支払金額が損害として発生していたも のとは推測できるが、証明があった金額はないものというほかはない。この点については、原告が、被告らの無謀なマインドコントロールにより、多額の借金や クレジット債務を負担させられ、自己破産のやむなきに至ったという点についての慰謝料額の算定において、若干の加算による調整を図るのが相当である。

2 慰謝料
(1)前記認定事実によれば、原告は、被告らの一連の違法行為により、マインドコントロールされた状態に意図的に陥れられ、罵倒句を浴びせかけた上で五体投地の姿勢で叩かれ続ける集団的恫喝(フィードバック)を継続的に受けるなど、激しい精神的苦痛を受けたものである。
精神医学や心理学の知識を濫用したり、他人を意図的にマインドコントロールされた状態に陥れる行為が著しく反社会的な行為であることは言うまでもない。ま た、考える余裕や反論する余裕を与えずに、集団で長時間一人の相手を罵倒し続けることは、精神的な拷問に等しく、半永久的に被害者の心に深い痛手を残すこ とになり、これまた、極めて非人間的な行為であるというほかはない。

原告がセミナー等において受けた暴力的、恫喝的行為による精神的損害を慰謝す るための慰謝料の額は、その被害の期間、程度、加害者の反社会的な意図、本件訴訟においても事実関係を全く認めようとしない加害者の態度等を総合すると、 100万円を下ることはないものというべきである。
(2)前 記認定事実によれば、原告は、被告らの一連の違法行為により、(1)で説示した被害のみならず、原告の生活の全面にわたるマインドコントロールを受けた結 果、家庭の崩壊から離婚に至り、かつ、被告ホームオブハートのような反社会的集団に一時的にせよ所属していたということを理由に、離婚に際して娘の親権を 得ることができず、娘と面接交渉をすることすら元夫に拒否されるという状態に陥れられたものである。また、原告は、被告らの一連の違法行為により、マイン ドコントロールに陥らされた状態下で、弁済のあてがないことが明らかであるのに、多額の借金やクレジットカード等を利用した商品購入を無謀にもさせられ、 これらの債務を返済していくことができず、その結果自己破産のやむなきに至らされたものである。
原告が離婚に追い込まれたばかりか、娘に会うこと すらできない状態に置かれ、自己破産にも追い込まれたことによる精神的損害を慰謝するための慰謝料の額は、その被害の程度、加害者の反社会的な意図、本件 訴訟においても事実関係を全く認めようとしない加害者の態度等を総合し、実額の厳密な証明ができないクレジット会社等への支払による損害の発生の事実も若 干加味すると、100万円を下ることはないものというべきである。
(3)以上によれば、原告に生じた慰謝料は(1)と(2)の合計の200万円であり、この限度で原告の慰謝料請求は理由がある。

3 弁護士費用

原告は、被告らの不法行為の結果として、弁護士である原告訴訟代理人らに対し本件訴訟の提起、追行を委任せざるを得なくなったこ とが認められ、これによる弁護士費用相当分の損害は、前記1及び2の合計額(1403万3508円)の約10%に当たる140万円と認めるのが相当であ る。

第4 結論

よって、原告の請求は、被告らに対し、連帯して1543万3508円及びこれに対する不法行為以後の日である平成15年1月27日から支払済みまで民事法 定利率年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につ いて民事訴訟法61条、64条、65条を、仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野山 宏 裁判官 村田渉 遠山敦士)

 別紙1 会員権代(会員登録料)名目での被害額《略》

 別紙2 セミナー参加費用等による被害額《略》

 別紙3 オーガニックビレッジないしショップ代等の名目による

被害額《略》

 別紙4 商品購入代金等による被害額《略》