くろ坊のこと
UP02/01/03
更新02/01/04

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第4話「決 意」


 「猫を飼っているでしょう?」

 くろ坊、ちゃあ坊を飼い始めて2ヶ月が経過しようとしていたある日、ノックの音がしました。
 「紀藤さん」
 その日は、晴れて天気もよく、ちょうどくろ坊とちゃあ坊は、散歩中で、部屋にはいませんでした。1人下宿でくつろいでいた昼間の時間帯です。ドアをあけると、そこには大家さんが立っていました。そして言われました。

 「捨ててきてください」
 
 声が出ません。息を飲みました。僕は突然のことに、ただ黙って立っていました。

 「紀藤さんが捨てられないなら、私が捨ててきてもよいですから・・・・・」
 
 もう結論を決めてこられたのでしょう。こう畳み掛けるように言われました。
 僕は、ついに来るべき時が来たと思いました。下宿で動物を飼うことは禁止されていました。大家さんの言い分、それは頭ではわかります。ただその日までは、現実として受け止められませんでした。
 
 それまでの2匹との楽しかった日々が頭をよぎります。「部屋に入れなければどうだろう?」「えさだけ外でやるなら許されるだろうか?」などとも考えました。ただ大家さんは即答を求めてきます。

 「捨てるなら遠くに捨ててきてくださいね。近くだと戻ってきますから」
 ――〈確かにそのとおりだ〉
 
 僕は小声で答えました。
 「少し待ってください。考えさせてください」
 こう答えるのが精一杯でした。
 「じゃあ明日まで待ちますから、それまでにね」

 大家さんが帰った後、僕はベッドに寝転んで考えました。でも妙案は出てきませんでした。
 口笛を吹きます。しばらくすると2匹は何事もなかったように、僕の部屋に戻ってきました。えさをあげます。そして代わりばんこに抱っこしてあげます。そして抱きしめます。2匹と1人、ベッドに横になります。2匹は何事もないように、すりすりしてきます。こちらも毛をなでなでします。しばらくすると2匹は、ベッドの上で、毛づくろいを始めました。
 猫は体が柔らかく、体中を、そのざらざらした舌で嘗め回します。こうして抜け毛や体についた汚れを自らの舌でふき取るのです。時には毛づくろいをしながら、僕の手をなめてくれます。これだけ僕のことを慕ってくれている2匹をとても捨てることはできません。
 僕は決心しました。
 
 翌日、僕は大家さんのところに返事をするために出かけました。大家さんの家は、下宿のアパートから徒歩で1分ほどの距離にあります。毎月の家賃は、大家さんの家まで、持参して支払っていました。そしてこう伝えました。
 
 「とても捨てられません。これからも飼います。もし反対なら裁判でも何でもおこしてください。くろ坊とちゃあ坊を勝手に捨てるようなことをされるのなら訴えます。くろ坊とちゃあ坊を守るためなら何でもします。戦います」

 今度は大家さんが沈黙する番でした。
 「それでは失礼します」
 伝えるだけ伝えて、大家さんの家を出ました。

 その日以後、くろ坊とちゃあ坊を飼うことは、黙認という形になりました。僕は大学に入ってからずっとその下宿で生活をしており、大家さんとはそれなりの信頼関係がありました。そして何よりも大家さんも、犬を飼われるなど、動物好きだということも幸いしました。ですからその後も大家さんと仲が悪くなったわけではありません。

 今となっては、黙認してくれた大家さんにとても感謝しています。その後も続くくろ坊とちゃあ坊の素晴らしい思い出を下さったのですから・・・・・・。
 大阪大学法学部に入学して7年。下宿生活7年目の夏のことでした。



 3話を書いたのは2000年7月27日です。なんと今回の中断は、1年以上となりました。21世紀に入って始めての「くろ坊」はどうだったでしょうか?次回は、初めての発情期に戸惑うくろ坊とちゃあ坊、そして僕です。あいかわらず驚きの生活が続きます。まだまだ続きます。今後も応援してくださいね。




第1話「出会い」 UP99/04/11最終更新02/01/04
第2話「抱き癖」 UP00/04/15最終更新02/01/04
第3話「きずな」 UP00/07/27最終更新02/01/04
第4話「決 意」 UP02/01/03最終更新02/01/04




なおこの内容は、いつか書籍(絵本や童話)にすることを考えており、
どなたかご興味のある出版社の方は、ぜひご連絡ください。