インターネットの匿名性
1999年1月1日/1月15日号
UP99/03/22
最終更新03/03/30
本文約1300字
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 インターネットの匿名性が、ホームページ上による名誉毀損や、電子メールでのいやがらせなどの被害者を生んでいる。相手がわからなければ民事裁判もおこせず泣き寝入り。こうした状況を打破するため、現在郵政省(現総務省)が進めている対策とは? 





 「私を強姦してください」-こんな文句とともに女性の自宅住所と電話番号が、あるホームページの掲示板に掲載された。いたずら電話が殺到し、女性はノイローゼ状態に。インターネットの匿名性の陰で被害者は泣き寝入りをするしかないのか。

 現在、郵政省(現総務省)は、1999年7月10日、「情報通信の不適性利用と苦情対応の在り方に関する研究会」を設置し、インターネットの匿名性がどのような場合に制限されるかをについて、検討を重ねている。

 1999年11月6日、この問題に詳しい?僕と、牧野二郎インターネット弁護士協議会代表、この問題の先駆的訴訟であるNIFTYへの名誉棄損訴訟に勝訴した藤原宏高弁護士の3名の弁護士が招かれ、16名の委員と、ざっくばらんに意見を交換する機会を得た。

 研究会では、有識者からなる第三者機関を設置して、被害者からの苦情を受けつけ、権利の侵害があると認められるなど一定の要件を満たす事案については、プロバイダの持つ発信者情報を被害者に開示する手続を導入したい構えだ。

 しかし発信者情報の開示が、「通信の秘密はこれを侵してはならない」と定めている憲法21条に抵触するおそれもあり、通信の秘密侵害罪(電気通信事業法、有線電気通信法、電波法に規定がある。電気通信事業法の場合、最高で2年以下の懲役または50万円以下の罰金)の適用を免責する立法創設も視野に入れているという。報告書は12月までにまとめられ、立法作業に入る予定だという。

 ところで電話の場合、これまで弁護士会照会(弁護士法23条の2 注1)という方法で、NTTに問い合わせれば、電話番号という一種のIDから、契約者名、電話の設置場所などの個人情報が、弁護士会に開示される取り扱いがなされてきた。

 携帯電話番号でも同様だ。電話の世界では、こうした情報は単なる顧客情報と考えられ、通信の秘密の問題とは考えられてこなかった。ところが単なる顧客情報であるはずの、発信者情報を通信の秘密にあたると誤解するプロバイダが多いという現実があり、弁護士会照会をしても発信者情報を開示しないプロバイダが少なくなかった。

 このような取り扱い自体、非常に問題だが、プロバイダにとっても安易に発信者情報を開示すると、逆に発信者から訴えられるのではないかという危惧を感じてきたのも事実である。そんなとき第三者機関のお墨付きがあれば、プロバイダも堂々と開示できるので助かる。研究会には、学者委員にまじり、NTT、IDO、NIFTY、BIGLOBE、IIJなど大手プロバイダーも参加しており、一定のスキームのもと発信者情報を開示することに強い拒否反応はなく、むしろ積極的な姿勢がうかがえた。

 一方加害者Aが、Bプロバイダーを経て、Cのホームページの掲示板に問題ある表現を掲載したという場合には、被害者は、順次C→Bとたどらないと、Aまでたどりつけない。前述したとおり、AとBとの関係は顧客関係とも言えるが、CとBとの関係は、直接通信の秘密の問題となる。そのため、この領域では、発信者情報の開示が通信の秘密に抵触しないよう新たな立法が必要になる。ここで紙幅が尽きた。この稿重要なので、再度取り上げたい。乞うご意見 注2





以下の注は、03/03/30現在のものです。


注1 弁護士法第23条の2
(報告の請求)
 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
 2  弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。


注2 以上のような議論を経て、2002年5月27日、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆる「プロバイダ責任法」)が施行されたが、プロバイダの責任を制限しつつ、発信者情報の開示も制限した、きわめて偏頗・不十分な法律である。