ネット上の表現における名誉毀損の必然性
2003年4月15日号
初出タイトル:名誉毀損の必然性
UP03/11/04
最終更新03/11/04
本文約2000字
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 インターネットの影響力が拡大するにつれ、インターネット上の掲示板やホームページで名誉毀損の被害を受けたという苦情が増加している。名誉毀損による逮捕例や損害賠償の例も報道されている。インターネットで表現する以上、他人も名誉を毀損する可能性は避けて通れない問題である。そこで今回と次回の2回にわたり、名誉毀損の法理を考えてみたい。





名誉毀損トラブルの頻発


 名誉毀損は、違法な行為であり、民事上の不法行為として損害賠償の対象となるとともに、刑事上の犯罪である。
 ただし刑事事件にまで発展したケースもあるが、表現の自由とからみ、名誉毀損事件を刑事事件として立件するのはまれである。

 そこで今回、名誉毀損の法理を考える材料として、インターネット上の名誉毀損について、民事事件の処理を中心に見ていこうと思う。

 2002年12月25日、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」に「ヤブ医者」などと書き込まれ、削除を求めたのに応じなかったのは不当だとして、東京都墨田区の動物病院と経営者の医師が、管理人である西村博之氏を訴えた訴訟の控訴審判決が出された。

 一審の東京地裁は、既に2002年6月26日、原告側が計500万円の賠償などを求めたのに対し、西村氏の責任を認め、計400万円の支払いと該当発言の削除を命じており、これに対し西村氏が控訴していた。

 東京高裁は、地裁判決を全面的に支持して控訴を棄却した。西村氏の責任については、「発言が真実かどうか分からなくても、被害者が発言者を特定できず、救済手段が極めて不十分な掲示板を運営している以上、直ちに削除する義務がある」と判断、「批判には反論で対処すべきだ」との反論に対しては、「掲示板の発言者は、匿名の陰に隠れ自己責任を負わないことが前提になっており、論争での解決は望めない」とした。

 「2ちゃんねる」には、テーマ別に1日計約80万件の書き込みがあるとされており、今回、問題となったのは、2001年1月以降に、2ちゃんねる内に開設された「ペット大好き掲示板」内のスレッド。
 原告の動物病院の具体名などをあげたうえで「過剰診療、誤診、詐欺、知ったかぶり」「えげつない病院」などの記述がなされた。

 「2ちゃんねる」問題では、ほかに、2001年8月28日、東京地裁が、西村氏に対し、日本生命や同社社員に対する誹謗・中傷の書き込みの削除を求める仮処分決定を出した例もある。
 日本生命によると、誹謗・中傷の書き込みが見られ始めたのは2000年秋ごろから。同社は書き込みの削除を要請したが応じなかったため、2001年3月21日、東京地裁に対し申し立てをしていた。

 「名誉毀損ではないか」という苦情は、掲示板やホームページに限らない。オークションサイトとして、人気のYahoo!オークションには、現在、常時約330万点の出品と1日あたり約10億円の落札が行われているが、出品者と落札者が、互いの満足度を評価するというシステムが存在する。
 オークションサイトを舞台とする詐欺事件が頻発したことを受け、出品者と落札者の評価を事前に知らせることで、将来の被害を防止しようという狙いだ。
 こうして評価された「良い」「悪い」「どちらでもない」という評価は、評価人数として公表され、さらには「良い」「悪い」という評価には、評価に至るコメントも添えられる。

 コメントに対しては反論も可能だが、「悪い」という評価がトラブルとなることもある。ちょっとした行き違いを「悪い」と評価することは、出品者にとっても落札者にとっても、将来の信用度に対して致命傷となりかねないからで、「悪い」という評価が「名誉毀損ではないか」と感じるゆえんだ。


名誉毀損とは?


 ところで刑法230条は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と定めている。名誉とは、人の「社会的評価」であり、毀損とは文字どおり「害すること」つまり「人の社会的評価を低下させること」を意味する。

 「最近の小泉首相は人相が悪くなった。疲れているのでは?」と書くだけでも、名誉毀損が成立してしまう可能性があることに注意してほしい。

 表現は、社会事象に対する批評・批判を必然的に伴う。他人のことを批判・批評すれば、必然的に他人の名誉を毀損する可能性がある。そのため名誉権を保護しすぎると、表現の自由の制限してしまうおそれがある。

 そのため刑法は、230条の2という条文で、表現の自由や国民の知る権利を尊重して、次のような特例措置をもうけている。


 「行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」(第230条の2の1項)。

 つまり@表現された事実が、公共の利害に関する事実(「公共性」の要件と言われる)にあたり、A目的が専ら公益目的(「公益目的」の要件と言われる)B真実の証明(「真実性」の要件と言われる)、この3つの要件があれば「罰しない」とされている。


 ちなみにYahoo!オークションでの評価は、一般的に「公共の利害に関する事実」にあたり、「専ら公益を図る」目的でなされることは明らかだ。問題は真実性の要件だ。ここで紙幅がつきた。次回、さらにこの問題を深めたい。