ネットで出会うということ
2001年4月15日号
UP01/05/29
本文約2000字
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最終更新03/02/13

リード

 
 出会い系サイトが人気だ。ネットを通じて同好の志が集う。インターネットが登場する以前では考えられない人と人との交流が可能となる。しかしネット社会には、様々な人がいる。人と人との組み合わせから生ずる病理現象も増加している。そこで今回は、出会い系サイトの病理現象を手がかり、「ネットでの出会い」を考えてみたい。





「出会いと別れ」


 人は1人では生きていけない。もちろん出会いがある以上、悲しい別れもある。軋轢もあるだろうが、人は他人との交流を通じて成長していく。

 こうした出会いという人間の不可欠な営みのきっかけに、最近、携帯電話やパソコンを使った「ネット」が加わった。メール友達という意味の「メル友」という言葉が生まれ、インターネットでは、出会い系サイトが隆盛をきわめている。お見合いサイトも人気だ。しかし人と人が出会う以上、事件もおこる。

 2001年1月15日午後8時ごろ、宇都宮市内の高校3年の少年(18)が「女性を刺した」と宇都宮東署に自首して来た。少年は、15日午後3時ごろ、埼玉県岩槻市内の会社員(34)方で、主婦(32)の首と腰を文化包丁で刺した。主婦は約2週間のけがだった。少年と主婦は、昨年10月に、インターネットの出会い系サイトで知り合い、2人が会うのは、この日が2度目。少年は、主婦から「殺してくれ」と頼まれたことが動機だと主張した。

 宇都宮家裁は、3月1日、少年の主張を認め嘱託殺人の未遂罪を認定したが、少年には、中等少年院送致の保護処分が出された。

 1月31日には、福岡県警は、福岡高裁裁判官の妻(39)を脅迫容疑で逮捕している。その後この事件、検察庁や裁判所の捜査情報漏洩疑惑がおこるなど、戦後最大の司法スキャンダルの様相を呈しているが、この脅迫事件のきっかけも、「出会い系」だと言ってよい。
 1997年夏、主婦と男性会社員(37)は、不特定多数の相手にメッセージを残せる伝言ダイヤルで知り合った。しかし会社員が、99年初めごろから、福岡市内の別の女性(34)とつき合うようになったことを理由に、主婦は、昨年9月から4カ月間、女性の携帯電話に、「死ね」「博多湾に捨ててやる」などと約200通の電子メールを送った。

 福岡県警によると、主婦は、女性の自宅にも脅迫電話をかけており、脅迫は電子メールも含めて、99年秋から昨年12月の約1年3カ月間に及んだ。
 ちなみに主婦とこの男性は、メールや電話などでやり取りをしたが、実際には会ったことはなかった。ネット社会を象徴する事件だろう。



同好の志の顛末


 2月8日、山形県警は、運送業の男性(32)を、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕した。男性は、昨年11月下旬ごろ、「出会い系サイト」で、中学2年の女子生徒(14)と知り合い、現金約5万円を渡して、ホテルでみだらな行為をした。驚いたことに、この生徒は、中学校のパソコンルームから出会い系サイトにアクセスしていた。

 2000年11月に、わいせつ図画販売の容疑で逮捕された成蹊大学の男性教授(44)と無職女性(20)の事件も、世間を驚かした。2人は、1999年5月に出会い系サイトで知り合い、短絡的な犯行におよんだ。

 出会いは、男女の仲を取り持つだけではない。2月27日午後6時ころ、福岡県飯塚市で、同県内の中学2年生(14)と名古屋市の高校2年生(17)の女性2人が、飛び降り自殺を図った。自殺は失敗に終わったが、2人は、「メル友」で、家族からは家出人捜索願が出ていた。
 昨年10月26日には、自殺系サイトで知り合った福井県内の歯科医師の男性(46)と愛知県内の元会社員女性(25)が、実際に心中するという事件もおきている。2人は、睡眠薬を大量に服用し、遺体は、福井県内の民家で発見された。



ネットの危険を知る


 これらの事件は、ネット社会が出現する以前なら考えられない人と人との組み合わせでおきている。ネット社会は、人と人との交流を加速させたが、この加速に、人がついていけない。

 僕は、以前から、ネット社会を生き抜くための7つのルールを提唱している(筆者のサイトhttp://homepage1.nifty.com/kito/7rules参照)。

 その第1のルールは「危険を知る」だ。現実社会には、危険な町もあれば、安全な町もある。繁華街での警戒基準と、自宅近くの警戒基準はおのずから異なる。

 ところがネット上には、ネットの向こうに広大な一つの町が広がっているだけで、危険な町と安全な町の区別がない。しかもネットを利用する側は、主に自宅から接続するから、その警戒基準が、自宅基準となりがちだ。

 こうした警戒感覚の鈍さから、事件もおこる。

 2月4日、茨城県の会社員男性(28)が窃盗容疑で栃木県警により逮捕された。男性は、昨年8月、栃木県の女子高生(16)とメールで知り合った。昨年11月11日の3回目のデートの際、女子高生がトイレに行っている隙に、預かったバッグから、現金1万5000円とキャッシュカードが入った財布を盗んだ。

 2月19日には、横須賀市職員(37)が、1月に出会い系サイトで知り合ったメール友達の女性から、ひらがな表記の名字などを聞き出し、庁内の住民基本台帳から漢字表記のフルネームを入手したという事件が発覚した。

 繁華街では「ナンパ」されない人が、ネットでは犯罪に巻き込まれる。出会は大切だ。しかし危険もつきものだということを、重々心すべきだ。





■関連原稿「サイバースペースの共鳴現象-自殺系サイトの闇」