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【判例番号】 L07932617 
   
【事件番号】 東京地方裁判所決定/令和5年(ホ)第30087号

【判決日付】 令和6年3月26日

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集79巻3号1020頁

       主   文

 1 被審人を過料10万円に処する。
 2 本件手続費用は、被審人の負担とする。

       理   由

第1 事案の概要
  被審人は、東京都渋谷区松濤一丁目1番2号に主たる事務所を置く宗教法人である世界平和統一家庭連合(平成27年8月26日付け変更前の名称は「世界基督教統一神霊協会」。以下、同変更の前後を通じて「本件宗教法人」という。)の代表役員である。
  本件宗教法人を所轄する文部科学大臣(以下「通知人」という。)は、本件宗教法人について宗教法人法(以下「法」という。)78条の2第1項3号(法81条1項1号所定の解散命令事由があること)に該当する疑いがあると認め、宗教法人審議会に諮問してその意見を聞いた上で、本件宗教法人に対し、令和4年11月22日付け、同年12月14日付け、令和5年1月18日付け、同年3月1日付け、同月28日付け、同年5月24日付け及び同年7月26日付けで法78条の2第1項に基づく報告を求めたが(以下「本件報告徴収」という。)、本件宗教法人が、本件報告徴収に対して、本件宗教法人が報告を求められた事項の一部について報告をしなかったこと(以下「本件不報告」という。)から、通知人は、同年9月7日、当裁判所に対し、本件宗教法人が本件報告徴収で報告を求められた事項のうち別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項について報告をせず、これが法88条10号所定の事由に該当するとして、被審人を過料に処すべきであるとする通知(以下「本件過料通知」という。)をした。
第2 当裁判所の判断
 1 本件不報告の存在
   一件記録によれば、被審人が、本件報告徴収において本件宗教法人が通知人から報告を求められた事項の一部について報告をしなかったこと(本件不報告)自体は争いなく認められる(ただし、報告をしなかった「一部」の範囲については、通知人と被審人との間で争いがある。)。
   もっとも、被審人は、①通知人による本件報告徴収自体が違法であるから、本件宗教法人が報告を拒否したことが正当であること、②実質的にみても、本件宗教法人が各事項について報告をしなかったことには正当な理由があることを主張して、被審人を過料に処することはできないと陳述するため、かかる被審人の陳述を踏まえつつ、以下、これらの点について検討する。
 2 本件報告徴収の適法性(解散命令事由がある疑いに関する点を含む。)について
 (1)本件報告徴収の経緯及び手続
    一件記録によれば、通知人は、本件宗教法人に関し、通知人が把握していた22件の民事訴訟事件の判決(以下「22件の民事判決」という。)において、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為について、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が認められ、うち20件の判決では本件宗教法人が同法715条に基づく損害賠償責任を負うことが、その余の2件の判決では本件宗教法人自身が同法709条に基づく損害賠償責任を負うことが、それぞれ認定されていること、22件の民事判決で認定された事実関係によれば、全国各地において、長期間にわたり、本件宗教法人の信者らによって、100名を超える多数の被害者らに対し、その財産権や人格権を侵害する違法な行為が繰り返されていたとされており、22件の民事判決で認容された被害者らの損害額の総額が15億円超に上っていること、これに加えて、22件の民事判決で認定された献金勧誘等行為と類似の信者らの行為によって被害に遭ったとする多数の者が、その代理人から本件宗教法人に対して通知書を送付し、被害の申告及び返金等の要求をしていることが、文化庁に参考送付された多数の通知書によって確認されたことを踏まえて、法81条1項1号の「法令に違反」に民法の不法行為が含まれると解し、22件の民事判決で認定された事実関係からは、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為の不法行為が、社会通念上本件宗教法人の業務ないし活動として行われたものと評価できるとして、本件宗教法人について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」(法81条1項1号)に該当する事由がある疑いがあると認め、あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞いた上で、本件宗教法人に対する本件報告徴収をしたことが認められる。そして、上記の報告徴収の手続について、違法の廉はうかがわれない。
 (2)本件宗教法人について法81条1項1号に該当する事由がある疑いの有無について
   ア 法81条1項1号は、「法令に違反」することを、解散を命ずることができる事由の一部として規定しているところ、この「法令」の解釈に関し、通知人は、前記(1)のとおり、不法行為が同号の法令違反行為に含まれることを前提として本件報告徴収をしたのに対し、被審人は、不法行為は同号の法令違反行為には含まれないと主張しているため、この点について検討する。
     まず、法81条1項1号は、単に「法令に違反して」と規定しており、その「法令」について何ら限定を付していないから、文理上、「法令」の範囲から、民法ないし同法における不法行為に係る規定が当然に除外されているということはできない。
     また、法81条1項1号は、同号に規定する行為があった場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わせることが可能となるようにした趣旨の規定であると解される(最高裁判所平成8年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁(以下「最高裁平成8年決定」という。)参照)。そして、不法行為について定める民法709条は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者に対し、その損害についての賠償責任を負わせることを規定するものであるが、この規定は、かかる損害賠償の責任を課すことの前提として、他人の権利等を違法に侵害してはならないとの禁止規範を含むものと解されるから、こうした法の規範に反して、他人の権利等を違法に侵害する不法行為が行われた場合には、その行為は、法81条1項1号の「法令に違反」に該当する(そして、その内容や規模等によっては「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に該当し得る)と解することが、同号が解散命令事由として規定された上記趣旨に適うというべきである。
     したがって、民法上の不法行為は、法81条1項1号の法令違反行為に含まれると解するのが相当である。
   イ 本件においては、前記(1)のとおり、22件の民事判決において、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為について不法行為が認定されており、22件の民事判決で認定された事実関係によれば、全国各地において、長期間にわたり、多数の被害者らに対し、その財産権や人格権を侵害する違法な行為が繰り返されていたとされており、22件の民事判決で認容された被害者らの損害額の総額が15億円超に上っているのであるから、本件報告徴収当時において、上記不法行為及び同種の不法行為を内容とする法令違反行為をしたとの疑いがあったと認められる(なお、ここでいう「疑い」は、法78条の2第1項柱書きに規定されている「疑い」であり、報告徴収・質問権行使の端緒としての「疑い」を意味するものである。)。
     そして、当該法令違反行為が「宗教法人について」(法81条1項柱書き)のものである疑いの有無について検討すると、一件記録によれば、22件の民事判決では、本件宗教法人の信者らが、多数の被害者らに対し、本件宗教法人への入会や献金等を勧誘するために接触をしたこと、「先祖や先立った近親者が地獄で苦しんでいる」、「先祖の悪い霊がついている」、「先祖の因縁によって自身や身内が不幸になる」、「献金をすれば救われる」などと申し向けて、その不安や恐怖心をあおり、畏怖困惑させるなどしたこと、これによって、被害者らに高額な印鑑や壺等の物品を購入させたり、本件宗教法人に対して繰り返し高額な献金をさせたりしたこと等が認定され、これらの行為が不法行為であると評価されたものであり、うち20件では、本件宗教法人について民法715条に基づく損害賠償責任が認められ、その余の2件では、本件宗教法人自身の不法行為に基づく損害賠償責任が認められているところ、本件宗教法人は、「天宙の創造神を主神とし、聖書原理解説の教義をひろめ儀式行事を行い信者を教化育成する為の財務及び業務並びに事業を行う事」をその目的とする法人であることに照らすと、22件の民事判決で認定された信者らによる入会及び献金等の勧誘は、本件宗教法人の教義を広めて新たな信者を獲得し、献金等を勧誘して本件宗教法人の財務に寄与するという、本件宗教法人の目的達成のための活動としてされたものであるとみることができ、したがって、その信者らの行為は、本件宗教法人の業務又は事業の執行又は運営の一部としてされたものと評価する余地がある。
    以上によれば、本件報告徴収当時において、本件宗教法人について法令違反行為をしたとの事由があるという疑いがあったと認められる。
   ウ さらに、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」(法81条1項1号)の疑いの有無について検討する。
     一件記録(通知人の過料事件通知書等に添付の参考資料(以下、単に「参考資料」という。)3~25)によれば、22件の民事判決は、平成6年5月から令和2年2月までの間に札幌、新潟、東京、京都、大阪、奈良、岡山、高松及び福岡の各地方裁判所で言い渡された判決又は同判決に対する上訴審の判決であり、これらの判決の中では、本件宗教法人の信者らが、昭和50年代から平成26年頃までの間に、被害者ら(111名)に対し、その自宅を訪問し、又は、街頭で声を掛けるなどして、ときに本件宗教法人の信者であることを告げず、又は、これを否定しながら、本件宗教法人への入会や献金等を勧誘するために接触をしたこと、被害者らに対して、「先祖や先立った近親者が地獄で苦しんでいる」、「先祖の悪い霊がついている」、「先祖の因縁によって自身や身内が不幸になる」、「献金をすれば救われる」などと申し向けて、その不安や恐怖心をあおり、畏怖困惑させるなどしたこと、これによって、被害者らに高額な印鑑や壺等の物品を購入させたり、本件宗教法人に対して繰り返し高額な献金をさせたりし、中には本人の財産だけでなく、親族の財産を無断で使用して献金をさせることもあったことが認定され、それらの献金勧誘等の行為が社会的に相当な範囲を逸脱した行為であり違法であるなどと評価されて、不法行為に該当すると判断されていること、22件の民事判決で認容された被害者らの損害額の総額は、15億9211万5765円に上っていることが認められる。
     これらの22件の民事判決で認定された事実関係からは、全国各地において、長期間にわたり、本件宗教法人の信者らによって、多数の被害者らに対しその財産権や人格権を侵害する違法な行為が繰り返され、これによって重大な損害が生じていたことが看取されるといえる。そして、22件の民事判決において同種の被害が多数認定されており、被害に遭った者全てが訴訟を提起するとは考え難いことからすれば、22件の民事判決で被害者とされた者のほかにも、本件宗教法人の信者らから同様の被害に遭った者が少なからずいることが推認され、それらの者が、被害に遭ったがその被害を訴えないこと、あるいは、その被害を訴えた上で、訴訟手続によらずに示談等をし、又は、訴訟提起をしてもその後に和解等により解決をして判決に至らないことがあったことも想定されるところである。
     そうすると、本件報告徴収当時において、本件宗教法人について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」との事由があるという疑いがあったと認められる。
   エ 以上によれば、本件宗教法人について法81条1項1号に該当する事由があるといえるか(この点は解散命令請求事件において判断されるべき事項である。)は別として、本件報告徴収当時においてその「疑い」(法78条2の第1項柱書き)があったことは認めることができる。
 (3)被審人の主張について
    以上に対し、被審人は、幾つかの観点から、本件宗教法人について法81条1項1号に該当する事由があるとの疑いはなく、本件報告徴収は違法である旨主張するが、いずれも採用することができない。その理由の詳細は、以下のとおりである。
   ア 不法行為が法81条1項1号の法令違反行為に該当しないとの主張について
     前記(2)アに対し、被審人は、法81条1項1号にいう「法令」とは、禁止規範又は命令規範を定めた刑罰法規又は行政法規を指すから、民法上の不法行為は同号の法令違反行為に該当しないと主張する。
     被審人は、その理由として、まず、民法709条は、賠償規範を定めたものであって、禁止規範又は命令規範を定めたものではない旨指摘する。しかし、同条は、「~をしてはならない。」、「~をしなければならない。」などの明示的な禁止文言又は命令文言を用いるものでないが、かかる直截な文言の有無によって、当該規定が禁止規範又は命令規範を含むか否かが決まるものではない(被審人は、刑法等の刑罰法規に禁止規範又は命令規範が含まれることをその主張の前提としているが、例えば、刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定するにとどまり、明示的な禁止文言又は命令文言を用いているわけではない。)。前記(2)アで説示したとおり、民法709条は、賠償規範であると同時に、他人の権利又は法律上保護される利益を違法に侵害してはならないとの禁止規範を含むものと解することができる。
     次に、被審人は、不法行為が法令違反行為に該当しないとの主張の根拠として、東京高等裁判所平成7年12月19日決定・判例タイムズ894号43頁(以下「東京高裁平成7年決定」という。)が「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって、しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をいうと説示していることを援用する。しかし、東京高裁平成7年決定の上記説示部分が、民法及び同法における不法行為に係る諸規定を当然に「刑法等の実定法規」から除外する趣旨かは定かではない上、いずれにせよ、宗教法人オウム真理教に対する解散命令申立事件という個別事案に対応した説示であって、この裁判例の説示が、本件における「法令に違反」の解釈を左右するものではないことは明らかである。なお、被審人が援用する最高裁判所平成9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁及び最高裁判所平成18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号948頁は、いずれも本件に適切でなく、被審人の上記主張の根拠となるものではない。
     また、被審人は、宗教法人の解散命令制度と同趣旨である会社の解散命令制度について、平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)58条1項3号が「会社ノ業務ヲ執行スル社員又ハ取締役ガ・・・刑罰法令ニ違反スル行為ヲ継続又ハ反覆シタルトキ」(会社法824条1項3号では「業務執行取締役、執行役又は業務を執行する社員が、・・・刑罰法令に触れる行為をした場合において、・・・継続的に又は反覆して当該行為をしたとき」)と規定していることを挙げて、信教の自由に対する特段の配慮が求められる宗教法人の解散命令事由の適用範囲を旧商法ないし会社法が規定する会社の解散命令事由より広く解釈することは許されず、「法令」には刑罰法令違反を伴わない不法行為は入らないと解釈すべきである旨を主張する。しかし、宗教法人と会社とは、種類の異なる法人であって、解散命令制度自体が同趣旨であるとしても、それぞれ異なる解散命令事由を定めていることは文理上明らかであるから、旧商法が解散命令事由として「刑罰法令ニ違反スル行為」(会社法では「刑罰法令に触れる行為」)と規定していることによっても、かかる規定を採っていない法81条1項1号の「法令」を「刑罰法令」に限定して解釈すべきといえるものではない。
     さらに、被審人は、法81条1項1号にいう「法令」は、同号の趣旨に照らして絞られなければならないと主張する。確かに、法81条1項1号は、解散命令の根拠となる事由を「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」と規定するから、ある法令に形式的に違反する行為をしたとしても、当該法令違反行為によって公共の福祉が害されることがあり得ない場合には、当該法令が同号の「法令」に該当するという必要はないとはいえる。しかし、民法は、公共の福祉(同法1条1項)と無関係の法令ではない上、不法行為によって他人の権利等が違法に侵害された場合に、その内容や規模等によっては、そのことによって公共の福祉が害されることも想定し得るから、法81条1項1号の「法令」の範囲が同号の趣旨に照らして限定されると解するとしても、民法の不法行為規定が、同号の「法令」に当たらないということにはならない。
     以上のとおり、民法上の不法行為が、法81条1項1号の法令違反行為に該当しないとの被審人の主張は、採用することができない。
     なお、法81条1項1号は、宗教法人について法令違反の事実があった場合に、直ちに当該宗教法人に対して解散が命ぜられることとはしておらず、法令違反に伴って「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」と認められた場合に初めて解散が命ぜられることとし、「著しく」、「明らかに」との文言も加えて、解散命令の根拠となる事由を限定しているのであるから、同号の「法令」について、刑罰法規又は行政法規だけでなく、民法その他の法令が含まれると解したとしても、それによって、解散命令の根拠となる事由が過度に広がって、宗教法人ないしその信者らの信教の自由が害されることとなるおそれがあるとはいえない。
   イ 「宗教法人について」「行為をしたこと」(法81条1項柱書き及び同項1号)の解釈の誤りをいう主張について
   (ア)前記(2)イに関し、被審人は、東京高裁平成7年決定が、法81条1項1号の適用対象となる「宗教法人の行為」について、「宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって、社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえる」ものでなければならないとの判断基準を定立し、これが特別抗告審である最高裁平成8年決定でも実質的に支持されているところ、本件宗教法人に関する損害賠償請求訴訟の事案(22件の民事判決)には、本件宗教法人の代表役員等の幹部役職員が関わった事案はないから上記基準に適合しないことが明らかであると主張する。
      しかし、東京高裁平成7年決定は、宗教法人オウム真理教に対する解散命令申立事件という個別事案において、当該事案の事実関係に即して判断をするために上記説示をしたにすぎず、また、その特別抗告審である最高裁平成8年決定では、上記説示に係る点については何らの判断も示されていないのであるから、「宗教法人について」法81条1項1号所定の行為をしたとの事由が認められる場合が、東京高裁平成7年決定で示された場合に限定されるということはできない。そもそも、法81条1項柱書き及び同項1号は、「宗教法人について」、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたとの事由があると認められる場合に、当該宗教法人の解散を命ずることができると規定しており、その規定上も、宗教法人自体が法令違反の行為主体となることを要件としていないのであるから、当該宗教法人の代表役員等が直接法令違反行為に関わっていない限り、当該宗教法人について法令違反の行為をしたとの事由(法81条1項柱書き及び同項1号)を認めることができないと解すべきとはいえない。
      また、被審人は、会社の解散命令の事由については、旧商法58条1項3号で、行為の主体が「業務ヲ執行スル社員又ハ取締役」(会社法824条1項3号では「業務執行取締役、執行役又は業務を執行する社員」)に限定されていることを指摘する。
      しかし、行為の主体を具体的に限定している旧商法(会社法)の上記規定をもって、異なる文言で規定されている法81条1項1号について、行為者を代表役員ないし幹部役職員に限定すべきことの根拠とすることはできない。
   (イ)もとより法人自体が事実的・自然的な行為の主体となることはできず、また、前述のとおり、法81条1項柱書き及び同項1号は、法令違反行為の主体を限定していないことからすれば、「宗教法人について」法令違反行為をしたとの事由が認められる場合とは、自然人による法令違反行為が、社会通念上、当該宗教法人の行為であるといえる場合をいうものと解すべきであり、例えば、当該宗教法人と無関係の者が法令違反行為をした場合はもちろん、当該宗教法人と関わりのある者によるものであっても、当該宗教法人の存在や活動と無関係に法令違反行為がされた場合には、それをもって、当該宗教法人について法令違反行為をしたとの事由(法81条1項柱書き及び同項1号)が認められることはないというべきである。
      他方、宗教団体に、法人格が認められ、法人としての法律上の能力が与えられるのは、当該宗教団体が財産を所有、維持、運用し、その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するためであり(法1条)、また、宗教法人の解散命令の制度が、法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(法81条1項1号)や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為(同項2号前段)があった場合等に、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わせることが可能となるようにしたものであることに照らすと、宗教法人と関わりを持つ者が法令違反行為を行った場合において、当該行為者の当該宗教法人における立場、その行為と当該宗教法人の業務又は事業との関連性(行為の目的及び態様、行為に至る経緯、行為の結果及びその効果の帰属等)、その行為についての宗教法人の関与等の事実関係を踏まえて、当該行為者の法令違反行為が当該宗教法人の業務又は事業の執行又は運営として行われたものと評価できるときは、特段の事情のない限り、その行為は、社会通念上、当該宗教法人の行為であるということができ、当該「宗教法人について」法令違反行為をしたとの事由があると認められることとなると解するのが相当である。
      したがって、宗教法人の代表役員等の幹部職員が法令違反行為に関与した事実がない限り、法81条1項1号所定の解散命令事由に該当すると解釈することができないとの被審人の主張は採用することができない。
   ウ 本件宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由に該当する疑いがないとの主張について
   (ア)前記(2)イに対し、被審人は、22件の民事判決はいずれも本件宗教法人の幹部役職員が起こした刑事事件に関するものではないから、法81条1項1号所定の解散命令事由の疑いを基礎付けるものではないと主張する。
      しかし、22件の民事判決では、いずれも本件宗教法人の信者らがした本件宗教法人への入会や献金等についての勧誘等の行為が不法行為に当たると認定され、うち20件では、本件宗教法人について民法715条に基づく損害賠償責任が認められ、その余の2件では、本件宗教法人自身の不法行為に基づく損害賠償責任が認められているところ、前記(2)ア、(3)アで説示したとおり、法81条1項1号の法令違反行為には、刑法等の刑罰規定に違反する行為だけでなく、民法上の不法行為も含まれると解され、また、前記イのとおり、宗教法人の代表役員等の幹部役職員が直接法令違反行為に関わっていない限り、当該宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由が認められることがないとはいえない。むしろ、前記(2)イで認定、説示したとおり、22件の民事判決で認定された信者らによる入会及び献金等の勧誘は、本件宗教法人の教義を広めて新たな信者を獲得し、献金等を勧誘して本件宗教法人の財務に寄与するという、本件宗教法人の目的達成のための活動としてされたものであるとみることができ、したがって、その信者らの行為は、本件宗教法人の業務又は事業の執行又は運営の一部としてされたものと評価する余地がある。
      したがって、22件の民事判決が本件宗教法人の幹部役職員が起こした刑事事件に関するものではないとしても、そのことから、通知人が22件の民事判決に基づいて、本件宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由に該当するとの疑いを認めたことが違法であるということはできない。
   (イ)また、前記(2)ウに対し、被審人は、22件の民事判決で信者らの不法行為が認定された事案についても、そこで認定された内容から「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」といえるはずがないと主張する。
      この点に関し、法81条1項1号が、宗教法人の解散命令の事由として、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」と規定しており、単に法令に違反することだけでなく、その法令違反行為によって公共の福祉が害されること、さらに、その程度が著しいことを要求し、加えて、著しく公共の福祉が害されることが「明らかに認められる」ことをも要件として、その事由を限定していることからすれば、同号所定の解散命令事由は、その文言のとおりに限定的に認定されるべきものであるといえる。また、宗教法人の解散命令が確定したときは、その清算手続が行われ、当該宗教法人に帰属する財産を用いて信者らが行っていた宗教上の行為を継続するのに何らかの支障を生じさせることがあり得ることからすれば、憲法が保障する信教の自由の重要性にも鑑みて、当該宗教法人に対して解散命令がされることが、当該宗教法人のした行為に対処するために必要でやむを得ないものであるかという観点からも、法81条1項1号を含む同項所定の解散命令事由の該当性は、慎重かつ厳格に判断されるべきものといえる。
      もっとも、法78条の2第1項に基づく所轄庁による宗教法人に対する報告徴収及び質問は、当該宗教法人に解散命令事由があると認められる場合にされるものではなく、あくまで、所轄庁がその「疑い」があると認めたときに行使する権限とされており、その徴収に対する報告等で得られた資料に基づいて、所轄庁が、解散命令事由に該当する事実の有無を調査し、法81条1項に基づいて当該宗教法人の解散命令を請求するか否かを検討することが予定されているのであるから、上記「疑い」は、報告徴収及び質問の権限行使の端緒と位置付けられるものであって、所轄庁が、その疑いを、単なる風評や憶測に基づいて認めることは許されないが、客観的な資料や根拠に基づいて、合理的な判断によりその疑いを認めたといえる場合には、その所轄庁の判断に基づいてされる報告徴収・質問権の行使を違法ということはできない。
      通知人は、本件報告徴収に先立って、主に22件の民事判決を検討して、本件宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由に該当する「疑い」があると認めたものであるところ、前記(2)ウで認定、説示したとおり、22件の民事判決で認定された事実関係からは、全国各地において、長期間にわたり、本件宗教法人の信者らによって、多数の被害者らに対しその財産権や人格権を侵害する違法な行為が繰り返され、これによって重大な損害が生じていたことが看取され、22件の民事判決で被害者とされた者のほかにも、本件宗教法人の信者らから同様の被害に遭った者が少なからずいることが推認されるところである。
      さらに、通知人は、本件報告徴収を行うに当たり、あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞いているが(法78条の2第2項、第3項)、その際、法78条の2の要件を満たすと考えられる事実関係として、22件の民事判決に言及し、そこで認定された事実関係から法81条1項1号所定の事由に該当する疑いを認めたことを説明して、宗教法人審議会の意見を求め、宗教法人審議会から、本件報告徴収が相当である旨の答申を得たことが認められる(参考資料34~47)。
      そうすると、通知人が、22件の民事判決に基づいて、本件宗教法人について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」(法81条1項1号)との事由に該当する「疑い」(法78条の2第1項柱書き)があると認め、本件報告徴収をしたことについて、それが客観的な資料や根拠に基づかない不合理な判断であったということはできない。
   (ウ)このほか、被審人は、文化庁に寄せられた被害申告(通知書)を解散命令事由の疑いの根拠とすることはできないと主張する。
      しかし、本件宗教法人の信者による献金勧誘等の行為によって損害を被ったと主張する被害者らは、その代理人から本件宗教法人に対する通知書を送付して、被害の申告及び返金等の要求をするとともに、これらの通知書を文化庁に対しても参考送付していたところ、通知人は、これらの通知書(本件報告徴収の開始以前で、被害申告者数は312名、被害申告額の総額は約65億2000万円。参考資料26)によって、直ちに被害申告者らの申告するとおりの被害事実があることを認定し、その事実だけで本件宗教法人について解散命令事由に該当する疑いを認めたものではなく、むしろ、22件の民事判決において本件宗教法人の信者らによる多数の不法行為及びそれによる多大な損害が認定されていることを前提に、通知書の件数及びその内容並びにその添付資料等を併せて参考とし、これを上記疑いの一資料としたものであると解されるから、被審人の上記主張は採用することがない。
   エ その他の本件報告徴収手続の違法に関する主張について
     被審人は、本件報告徴収の手続全般が違法であることについて、①通知人による宗教法人審議会への諮問が名ばかりであることが明らかであり、本件報告徴収が法78条の2第3項の要件を欠くこと、②法78条の2第6項の規定に関連して、本件報告徴収が、通知人による犯罪捜査の意図で行われた疑いがあること、③本件報告徴収は、本件宗教法人に多大な労力と時間の浪費を余儀なくさせ、本来的業務たる宗教活動の一切に甚大な影響ないし妨害を与えるものであり、国家による信教の自由の侵害であることなどを主張する。
     しかしながら、上記①の点については、本件報告徴収の実施に当たり、通知人は、宗教法人審議会に対し、報告を求める事項及び理由を示して諮問をし(法78条の2第2項、第3項)、宗教法人審議会においてその審議がされ、その意見が答申されて、通知人がその意見を聴取したことが認められる(参考資料34~54)から、法78条の2第3項所定の手続が履践されたことが明らかであり、本件報告徴収が同項の要件を欠くとの被審人の主張は採用することができない。
     また、上記②の点については、通知人が本件報告徴収で求めた報告事項の内容やその報告徴収の態様等に照らしても、通知人が、本件宗教法人の犯罪を捜査する意図で本件報告徴収を実施したことは具体的にうかがわれず、ほかに、その意図を有していたことを裏付けるに足りる資料はない。
     さらに、上記③の点については、確かに、本件報告徴収は、令和4年11月頃から令和5年7月頃にかけ、7回に分けて、幅広い事項にわたって数百に及ぶ多数の項目の報告が求められたものであり、かつ、その中には、不足のない内容の報告をするためには相当の調査や作業を要すると考えられる事項も含まれていたと認められ(参考資料27~33)、その意味で、本件宗教法人が本件報告徴収に対応するためには、相応の時間と労力を要することとなり、本件報告徴収が本件宗教法人の業務に一定の影響を及ぼしたであろうことは否めない。しかし、通知人は、前記のとおり、本件宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由に該当する疑いがあると認めて、法令の規定に基づいて、本件報告徴収を実施したものであり、本件報告徴収は、通知人が、同条同項に基づく解散命令請求に係る権限を行使するか否かを判断するために必要な手続であったと認められる。また、本件宗教法人が本件報告徴収に対応するために、法人運営等における事務的な業務に影響があったことは想定されるものの、その宗教活動自体に、直接に著しい支障が生じたことまでを認めるに足りる事情はうかがわれない。そうすると、本件報告徴収が、本件宗教法人の信教の自由を違法に侵害するものであったとはいえない。
 (4)小括
    以上によれば、通知人が、22件の民事判決及び文化庁に参考送付された通知書に基づき、本件宗教法人について法81条1項1号に該当する事由がある疑いがあると認め、あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞いた上で、本件宗教法人に対して本件報告徴収を実施したことは、法78条の2の要件を満たす適法なものであったといえる。
    したがって、本件報告徴収自体が違法であるとして、これに対する不報告が正当であるとする被審人の主張は、採用することができない。
 3 各事項についての不報告に正当な理由があるか否かについて
 (1)通知人は、本件過料通知において、本件報告徴収に対して本件宗教法人が別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項について報告をせず、これが法88条10号所定の事由に該当するとして、被審人を過料に処すべきとするところ、これに対して、被審人は、同一覧表の「被審人の主張(報告等をしなかった理由等)」欄記載の各事情を挙げて、本件宗教法人が各事項について報告をしなかったことには正当な理由があると主張する。
    当裁判所は、別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項について、法88条10号に基づき被審人を過料に処すべきか否かに関し、同一覧表の「結論」欄記載のとおり、それぞれ判断するものであるが、これらの結論を導くに当たり、被審人が主張する各事情について検討した内容は、同一覧表の「被審人の主張についての検討」欄にそれぞれ記載するところに加えて、以下に補足して説示するとおりである(なお、同一覧表の「被審人の主張(報告等をしなかった理由等)」欄及び「被審人の主張についての検討」欄に記載の丸数字は、いずれも後記(2)ないし(9)の各見出しに記載の丸数字に対応するものである。)。
 (2)「①国が主張する『不法行為の組織性、悪質性、継続性』と関係がない報告徴収・質問に対しては開示・回答する理由がなく、開示・回答をしなかった。」との主張について
    法78条の2第1項は、所轄庁が宗教法人に対し、法を施行するために必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、報告を求めることができると規定するところ、通知人は、本件宗教法人について、法81条1項1号所定の解散命令事由に該当する疑いがあると認め、所轄庁として、同事由の有無を調査し、同条同項に基づく解散命令を請求するか否かを判断するために、本件報告徴収を行ったものである。そして、前記2(3)ウ(イ)のとおり、法81条1項1号所定の解散命令事由は、その文言に従って限定的に認定されるべきものであり、かつ、信教の自由の重要性にも鑑みて、解散命令によって宗教団体の法人格を失わせることの要否及び当否についても慎重に吟味されるべきものであることからすれば、所轄庁が、同条同項に基づく解散命令請求に係る権限を適正に行使するためには、当該解散命令事由が既存の資料から容易かつ明白に認定できるような場合を除いては、その権限を行使するか否かの判断の基礎となる客観的な資料を広く、かつ、十分に収集した上で、当該資料についての慎重な調査及び検討をすることが必要になるといえる(なお、上記判断の基礎となる客観的な資料には、解散命令事由を基礎付ける事実の認定に直接結び付く資料のみならず、事案の解明や背景の理解に当たって前提となる当該宗教法人に関する基礎的な資料も広く含まれるものといえる。)。
    この点、22件の民事判決では、本件宗教法人の信者らによる本件宗教法人への入会や献金等を勧誘する行為が不法行為に該当すると認定され、うち20件においては本件宗教法人について民法715条に基づく損害賠償責任が認められ、その余の2件においては本件宗教法人自身に民法709条の損害賠償責任が認められたものであるが、これらの判決においても、本件宗教法人の代表役員や特定の幹部役職員等が被害者に対する不法行為に直接に関与したことまでは具体的に認定されておらず、また、本件宗教法人も、信者らの行為の違法性を争うとともに、信者らの行為が任意団体である信徒会の活動であって、本件宗教法人がこれに直接関わっていたことはないなどと主張して、自らの損害賠償責任を争っていたことからすると、通知人としては、22件の民事判決によって把握される献金勧誘等行為に関する事実関係のみならず、その他の献金勧誘等行為を含めて、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為について、個々の行為の態様や性質、それによる被害の有無及び程度、法人全体での行為の広がりや継続性等に関する事実関係を十分に調査して、それらの献金勧誘等行為が法令違反に当たり、かつ、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為と評価できるか否かについて検討をする必要があったといえ、また、それらの献金勧誘等行為と本件宗教法人の業務又は事業との関連性や本件宗教法人の組織・運営・管理の体制及び信者らの行為についての関与の有無及び程度等に関する事実関係をも調査して、信者らの行為が本件宗教法人の業務又は事業の執行又は運営として行われたものであるか否かについても検討することを要したといえる。
    特に、信者らの献金勧誘等行為が本件宗教法人の財務に関連するものと考えられることからすれば、法81条1項1号所定の解散命令事由の有無を調査するために、本件宗教法人の財産関係について広く把握をすることが肝要であり、さらに、仮に解散命令の確定によって宗教法人の清算手続が行われれば、信者らが当該宗教法人に帰属する財産を用いて行っていた宗教上の行為を継続することに支障が生ずることがあり得ることに鑑みて、そのような支障の有無、内容及び程度をも考慮して解散命令請求の当否を適切に判断するためにも、本件宗教法人の財産関係やその利用状況等についても調査することが相当であったといえる。
    そうすると、通知人としては、本件報告徴収において、本件宗教法人の組織運営関係、教会の管理運営関係、予算・決算・収支(海外送金等の使途を含む。)・資産等の財産関係、信者ないし信徒会との関係、信者らからの献金の関係、信者らの活動に絡む裁判や和解・示談の状況等の幅広い事項に関して、本件宗教法人から、資料提出等による報告を受けることを要したものと認められる。
    また、22件の民事判決では、昭和50年代から平成26年頃までの長期間にわたる信者らの不法行為が認定されており、文化庁に参考送付された通知書では、更に平成30年頃までの被害の申告も含まれていたこと(参考資料3~26)、本件宗教法人は、前記のとおり信者らの行為への関わりを否定しており、他方で、特に平成21年以降については、信者らの献金勧誘等行為についてのコンプライアンスの確保や職員の人事評価等の組織的な仕組みの改善に取り組んできたと主張していたこと(乙15の1・2・4)を踏まえると、通知人は、本件宗教法人について、法81条1項1号に基づく解散命令を請求することが必要でやむを得ないものであるかを検討するために、22件の民事判決において審理判断の対象となった当時の事情だけでなく、その後、本件報告徴収がされる時点に至るまでの上記各事項に関する報告を求めるとともに、本件宗教法人が主張するコンプライアンスの確保に向けた取組の内容及び実効性等に関する事情についても、本件宗教法人からの報告を求めることが適当であったといえる。
    このような観点から別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項をみると、それらが、法の定める所轄庁の職務権限を適正に行使して、法を施行する上で必要な限度を超えるものであったことが明らかに認められるものではなく、被審人の主張するような報告徴収・質問権の濫用に当たるものであったということはできない。
    このほか、別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項の内容に照らして、それらが本件宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項(法78条の2第1項柱書き)の範疇に含まれないものであるとは認められず、さらに、それらが犯罪捜査のために報告を求められたもの(同条第6項参照)であるとも認められない。
    したがって、被審人が上記①として主張する点は、いずれも採用することができない。
 (3)「②信者、職員の個人情報に関わる報告徴収・質問に対しては、プライバシー保護のために開示・回答しなかった。」との主張について
    所轄庁は、法律で定められた職務権限(法78条の2第1項)の行使として報告徴収を行うものであり、所轄庁の職員は、国家公務員として、その職務上知り得た秘密について守秘義務を負っていること(国家公務員法100条1項等)に照らすと、報告徴収において収集された情報が、法令等の根拠に基づかずに、法の定める目的の範囲を逸脱して使用される具体的なおそれがあるということはできないから、本件宗教法人が、単にプライバシー保護を理由として本件報告徴収に対する報告をしなかったことが、正当な理由による不報告であるとは認められない。
    また、被審人は、本件不報告の事項の中には、その事項を報告すると信者の信仰に関わるプライバシー(信仰告白の自由)を損なうものがあったと主張するが、仮にそのような懸念が具体的に存在するのであれば、その事情を説明しつつ、必要かつ合理的な範囲で提出資料の一部をマスキングするなどして報告をすることもできたはずであるから、単にプライバシーに当たるとのみ主張して、当該事項について一律に報告をしなかったことが正当であるということはできない。
    したがって、被審人が上記②として主張する点は、いずれも採用することができない。
 (4)「③重複した報告徴収・質問で、回答済みの場合には開示・回答しなかった。一見重複していないようでも、既に実質的に回答した質問についても回答しなかった。」との主張について
    前記第1のとおり、本件報告徴収は7回に分けて実施され、これに応じて、本件宗教法人による報告も7回に分けて行われたものであるところ、本件宗教法人が、本件報告徴収の過程で、報告を求められた事項を実際に報告し、あるいは、提出を求められた資料を実際に提出したのであれば、その後、通知人から重ねて同様の報告を求められた場合に、これに対する応答を拒んだとしても、これをもって報告の懈怠というのは相当でない。
    もっとも、別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項のうち、被審人が既に報告済み等と主張するものの多くは、通知人が、前の報告で本件宗教法人から報告を得られなかった事項について再度の報告を求めたものや、本件宗教法人からの前の報告を前提としつつそれに関連する事項を追加して報告を求めたものであったと認められるから、これらの報告の求めに対しては、本件宗教法人が、前に報告したことを理由として報告を拒んだ場合には、その不報告に正当な理由があるということはできない。
 (5)「④報告徴収を求められた資料が存在しない場合には(内部規定上は作成等が予定されても、実際には作成された事実がない、或いは過去にあったけれども時間が経過したので既に廃棄した等を理由とする場合など理由は様々)提出しようにもできなかった。」との主張について
    本件報告徴収の内容が、本件宗教法人の所持する資料自体の提出を求めるものである場合、本件宗教法人において、そもそも当該資料が作成されていない、又は既に廃棄されたなどの事情で当該資料を所持していないときは、本件報告徴収に応じて資料を提出することができず、その不報告には正当な理由があるといえるから、これを法88条10号所定の過料事由に当たるということはできない。なお、過料が制裁として被審人に対して財産上の不利益を課すものであることに鑑みると、上記場合において、当該資料の存否が不明であるときは、当該資料の不提出をもって過料事由があると認めるのは相当でない。
    他方、本件報告徴収の内容が、資料の提出を求めるものでなく、具体的な事実関係についての報告を求めるもの(事実関係についての報告と併せて、それに関する資料がある場合に当該資料を添付して提出することを求めるものを含む。)である場合には、本件宗教法人が、単に資料が存在しないことを理由にその報告を拒むことはできないというべきである。
    ところで、本件報告徴収において、通知人が本件宗教法人に対して報告を求めた多数の事項の中には、その文言上、必ずしも上記のいずれの場合に当たるかが明らかでないものが含まれているところ、上記の過料の性質に鑑みれば、通知人が具体的な事実関係についての報告を求める意図で報告を求めた事項であっても、その報告徴収の文言の不明瞭さに起因して、本件宗教法人が資料の不存在を理由に報告をしなかったという場合には、その不報告を過料事由とするのは相当でないというべきである。
 (6)「⑤報告徴収を求められた資料の準備・作成に甚だしく時間と労力を要するものは準備・作成せず、提出しなかった。」との主張について
    本件報告徴収において、通知人は、令和4年11月22日から令和5年7月26日までの間に、7通の通知を送付して、本件宗教法人に対して報告を求めたが、各通知では、報告を求める事項を多数列挙しつつ、それぞれ2週間から4週間程度の提出期限を設けていたことが認められる(参考資料27~33)。
    これらの提出期限は、通知人において、本件宗教法人の作業に要する期間を考慮して定められたものと一応考えられるが、本件宗教法人において、その報告をするために実際に必要となる準備及び具体的な作業の実態に即した場合に、当該提出期限までに報告ないし提出をすることが著しく困難であると客観的に認められるものについては、その不報告は、形式的には法88条10号所定の過料事由に該当するといえるとしても、前記の過料の性質に鑑みれば、これについて過料を科すことは相当でないというべきである。
 (7)「⑥裁判等で現に係争中の案件に関した質問には回答しなかった(文部科学省は裁判の相手方である全国霊感商法対策弁護士連絡会と緊密に連携しているため)。」との主張について
    本件宗教法人が裁判手続で被害者と主張する者と係争中であるとしても、そのことが、通知人による本件報告徴収に対して応答しないことを正当と認めるべき事情になるとはいえない。
    なお、通知人が、本件宗教法人について法81条1項所定の解散命令事由があるか否かを調査するために、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為によって被害を受けたと主張する者又はその代理人弁護士(全国霊感商法対策弁護士連絡会を含む。)から情報を収集することがあるとしても、所轄庁の職務権限に属する業務の一環といえるものであり、そのことによって本件報告徴収が公平性を欠くものとなるわけではないから、そのことをもって、本件宗教法人が報告を拒む理由とすることはできない。
    したがって、被審人が上記⑥として主張する点は、いずれも採用することができない。
 (8)「⑦全国弁連から既に入手済みであることが明らかな文書については提出しなかった。」との主張について
    通知人としては、本件宗教法人について法81条1項1号所定の解散命令事由が認められるか否かについて、被害者とされる側からの一方的な資料によることなく、本件宗教法人から提出される資料にも基づいて、多角的に調査・検討をすべきことは当然であるから、仮に通知人が、本件宗教法人の信者らによる献金勧誘等行為によって被害を受けたと主張する者又はその代理人弁護士(全国霊感商法対策弁護士連絡会を含む。)から本件報告徴収に含まれる事項に関する文書を入手していたとしても、そのことをもって、本件宗教法人が本件報告徴収に応じないことの正当な理由があるということはできない。
    したがって、被審人が上記⑦として主張する点は、いずれも採用することができない。
 (9)「⑧外為法、税法、労働法等その他の法令に基づく業務(海外送金、公益法人会計業務、労務管理等)については、各関係省庁(財務省、税務署、厚生労働省等)の監督下でなされ、適正に行われている。文科省からは、これらに関する賢料提出要求があったが、問題とされている不法行為とは全く関連性がなく、宗教法人行政と無関係な法領域における何らかの犯罪を探知しようとする意図が見え透いていたことから、法78の2第6項(「第1項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」)に反すると認め、提出を拒否した。」との主張について
    所轄庁が法78条の2第1項に基づいて、宗教法人に対して報告を求め、又は質問をした場合に、当該宗教法人がこれに応ずべきことは、他の法令に基づいて宗教法人が負う報告義務や提出義務とは別個のものであるから、本件宗教法人が、当該他の法令に基づく業務を各関係省庁の監督下で行い、当該他の法令に規定された報告ないし提出を行っているとしても、そのことを理由に、本件宗教法人が通知人による本件報告徴収に対して応答する必要がないということはできない。したがって、被審人が、単に、他の法令に基づく業務が各関係省庁の監督下でなされ、必要な報告や提出がされていると主張したとしても、それをもって、本件報告徴収に対する報告をしなかったことについての正当な理由があるとはいえない。
    もっとも、所轄庁が、宗教法人に対し、法78条の2第1項の報告徴収・質問権の行使として、当該宗教法人が他の法令に基づいて関係省庁に報告した内容や提出した資料について、同じ内容の報告又は同じ資料の提出を求めた場合に、当該宗教法人が所轄庁に対し、他の関係省庁に報告・提出済みであることを具体的に回答し、その回答を踏まえて、所轄庁において、当該他の関係省庁からその報告内容を聴取し、又はその提出資料を入手することができたのであれば、所轄庁がする報告徴収・質問権の目的は、実質的に達せられていたということができる。そうすると、この場合に、当該宗教法人の上記回答が所轄庁の報告徴収に対する十全な応答となっておらず、形式的には法88条10号所定の事由に当たるといい得るとしても、その行為を処罰するまでの必要はないというべきである。
    なお、前記2(3)エのとおり、本件報告徴収に関して、通知人が、本件宗教法人について解散命令事由の有無を検討し、解散命令の請求をするか否かを判断するために必要な調査をすることを超えて、本件宗教法人の犯罪を捜査する意図を有していたとの事情は認められない。
 4 結論
   以上によれば、本件宗教法人が、本件報告徴収において報告を求められた事項のうち一部を報告しなかったこと(本件不報告)について、被審人は、本件宗教法人の代表役員として、別表不報告事項一覧表の「結論」欄記載のとおり、法88条10号に基づき過料に処せられるべきものと認められる。
   そして、所轄庁の法78条の2の規定に基づく報告徴収の趣旨・目的・性質、不報告を過料に処する趣旨・目的等に鑑み、本件不報告の内容・程度等のほか、被審人の陳述内容その他諸般の事情を総合すれば、被審人を過料10万円に処するのが相当である。
   よって、法88条10号により、被審人を過料10万円に処することとし、非訟事件手続法120条1項、2項、4項を適用して、主文のとおり決定する。
    (東京地方裁判所民事第8部)