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【判例番号】 L07920372

 過料決定に対する抗告事件


【事件番号】 東京高等裁判所決定/令和6年(ラ)第968号

【判決日付】 令和6年8月27日

【判示事項】 宗教法人法81条1項1号所定の解散命令事由の疑いがある宗教法人に対し、法78条の2第1項に基づく報告を求めたところ、このうち一部について報告をしなかったとして、文部科学大臣が、宗教法人の代表役員である抗告人(原審被審人)を過料に処すべき旨通知し、原審が過料10万円に処した事案の抗告。抗告審は、民法上の不法行為は、法81条1項1号の「法令に違反」する行為に含まれるとし、本件では長期間にわたる信者らの行為に係る22件の民事判決で認定された不法行為が対象となっており予測困難性もないなどとして、原決定は相当とし、抗告を棄却した事例

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集79巻3号1067頁
       LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 1 本件抗告を棄却する。
 2 抗告費用は抗告人の負担とする。

       理   由

第1 抗告の趣旨及び理由
   本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、抗告人を過料に処さない旨の裁判を求めるものであり、その理由は、別紙「抗告理由書」及び「抗告理由補充書」(各写し)記載のとおりである。
第2 事案の概要
   本件は、東京都渋谷区(以下略)に主たる事務所を置く宗教法人であるA(平成27年8月26日付け変更前の名称は「A’」であり、以下、同変更の前後を通じて「本件宗教法人」という。)の所轄庁である文部科学大臣(以下「通知人」という。)が、本件宗教法人について宗教法人法(以下「法」という。)78条の2第1項3号(法81条1項1号所定の解散命令事由があること)に該当する疑いがあると認め、本件宗教法人に対し、令和4年11月から令和5年7月までの間に法78条の2第1項に基づく報告を求めたところ(以下「本件報告徴収」という。)、本件宗教法人がこのうちの一部について報告をしなかったこと(以下「本件不報告」といい、本件報告徴収で報告を求めた事項のうち本件宗教法人が報告をしなかったとする事項は、原決定別表不報告事項一覧表(以下「不報告事項一覧表」という。)の「不報告事項」欄記載のとおりである。)が法88条10号所定の事由に該当するとして、原審に当たる東京地方裁判所に対し、本件宗教法人の代表役員である抗告人(原審被審人)を過料に処すべきであるとする通知(以下「本件過料通知」という。)をし、原審においてこれを審理した事案である。
   原審は、被審人を過料10万円に処する旨の裁判(原決定)をしたため、これを不服とする抗告人が即時抗告をした。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、抗告人を過料10万円に処することが相当であると判断する。その理由は、原決定を次のとおり補正するほか、原決定の「理由」第2に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、原決定を引用する場合、「別表」を「原決定別表」に読み替える。)。
  (1)原決定2頁23行目の「うち20件の判決」から26行目の「認定されていること」までを次のとおり改める。
  「うち20件の判決では、①本件宗教法人の信者が、本件宗教法人の教義を伝道する過程で、その信者を獲得し、本件宗教法人に献金させることを目的に献金勧誘等行為をしていること、②本件宗教法人の信者による献金勧誘等行為の内容が本件宗教法人の教義と密接に関連し、当該行為自体がその教義の実践とされていること、③当該行為による献金等に係る経過の中で、本件宗教法人の儀式が行われるなど、本件宗教法人の教会が関わる形で献金等がされていること、④本件宗教法人の信者による献金勧誘等行為として、全国的に画一的な内容の活動が行われていること、⑤本件宗教法人の信者による献金勧誘等行為が、その相手方からみて、本件宗教法人の活動と認識されるものであること、⑥当該行為による献金が、本件宗教法人に対して行われ、本件宗教法人に帰属していること、⑦本件宗教法人の本部から全国の教区や各教会に対する、献金等の目標達成率を示す表や、献金勧誘等行為に関する指示文書が存在すること、⑧多額の献金を行った者に対し、本件宗教法人の本部から感謝状が贈られていること、⑨本件宗教法人が、信者や信者組織の活動状況について、報告を受けて把握していること等が認定され、本件宗教法人が献金勧誘等行為をした信者を指揮監督することができる立場にあったとして本件宗教法人が民法715条に基づく損害賠償責任を負うことが、その余の2件では、本件宗教法人の信者による献金勧誘等行為について本件宗教法人の組織的な不法行為であるとして、あるいは本件宗教法人自身が行った不法行為ということもできるとして同法709条に基づく損害賠償責任を負うことが、それぞれ認定されていること」
  (2)原決定3頁21行目の「「法令」の」を削り、同頁26行目から同4頁21行目までを次のとおり改める。
  「(ア)法81条1項柱書きは、「裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。」と規定し、同項1号は、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定するところ、これは、同号に規定する行為があった場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わせることが可能となるようにした趣旨の規定であると解される(最高裁平成8年(ク)第8号同年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁(以下「最高裁平成8年決定」という。)参照)。
   (イ)そこで、まず、法81条1項1号の「法令」について検討すると、同号は、文理上、この「法令」について何ら限定を付していない上、司法手続によって法人を強制的に解散し、その法人格を失わせることが可能となるようにした点において同趣旨のものであると考えられる会社の解散命令(最高裁平成8年決定参照)と対比しても、平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)58条1項3号が「刑罰法令ニ違反スル行為」(会社法824条1項3号では「刑罰法令に触れる行為」)と規定していることに照らし、法81条1項1号がこのような刑罰法令等に限定した規定になっていないことは明らかである。また、同号は、法令に違反する行為が公共の福祉を害するものであることを定めているところ、およそ刑罰法令(又は行政法令)に違反する行為によってのみ公共の福祉が害されると限定されるものでもない。これらのことに鑑みると、同号の「法令」は、民法を含む全ての法令(法律、命令、条例等)を意味すると解するのが相当である。
   (ウ)次に、法81条1項1号の法令に「違反して」についてみると、民法は、私法の一般法として、同法1条において、「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」(同条1項)、「権利の濫用は、これを許さない。」(同条3項)などとして基本原則を規定し、さらに、同法90条において、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と規定するなど、私権の行使に関し、市民社会における市民ないし私権の相互間の関係等を規律している。そして、不法行為について定める同法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しているところ、これは、行為者に故意又は過失がなければ賠償責任を負うことはないという、いわゆる過失責任主義の見地から定められたものと考えられる。これらのことからすれば、同条は、故意又は過失によって他人の権利等を侵害する行為をしてはならないということ(いわゆる禁止規範)を当然の前提として、かかる行為をした者に対し、損害賠償の責任を課することを定めていると解することができる。そうすると、同条が適用される場合には、他人の権利等を違法に侵害する不法行為が行われたと認められることになるから、このような場合には、上記のような規律(禁止規範)に反したものとして、法81条1項1号の「法令に違反」する行為が行われたと解することができるというべきである。そして、このことは、同法715条が適用される場合も同様である(なお、後記のとおり、刑罰法令においても、禁止規範が明文で定められているとは限らないところ、それらの規定が適用されて刑事罰が科される場合においても、当該規定に違反したということができるのであって、この点において別異に考えるべき理由はない。)。
   (エ)以上によれば、民法上の不法行為は、法81条1項1号の「法令に違反」する行為に含まれると解するのが相当である。」
  (3)原決定7頁10行目から12行目までを次のとおり改める。
  「 以上のとおり、22件の民事判決に係る不法行為が長期間にわたり全国各地で多数の被害者に対して行われ、その被害額も極めて多額に及んでいることなどの諸事情を考慮すると、本件報告徴収の当時において、本件宗教法人について、法令に違反して「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をしたとの事由があるという疑いがあったと認められる。」
  (4)原決定7頁14行目の「解散命令請求事件」を「解散命令申立事件」に改める。
  (5)原決定8頁6行目の「(被審人は」から12行目末尾までを次のとおり改める。
  「(抗告人は、刑法等の刑罰法令に禁止規範又は命令規範が含まれることをその主張の前提としているが、例えば、刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定するにとどまり、一定の要件があると認められる場合に法令を適用して一定の効果が生じる旨を定めていることは民法709条と同様で、明示的な禁止文言又は命令文言を用いて規定しているわけではない。)。前記(2)ア(補正後の引用部分)で説示したとおり、民法上の不法行為は、法81条1項1号の「法令に違反」する行為に含まれると解されるのであって、民法709条が適用される場合には、不法行為が行われたものとして上記「法令に違反」する行為が行われたと解することができ、このことは、必ずしも抗告人のいう明示の「禁止規範」又は「命令規範」が法定されているかどうかに関わらないものというべきである。」
  (6)原決定8頁26行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
  「 なお、抗告人は、上記平成9年最高裁判決が「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり」、「加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。」、「我が国においては、加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられている」などと判示していることに照らし、民法709条の不法行為は、法81条1項1号の法令違反行為に該当しないなどと主張するが、上記平成9年最高裁判決は、アメリカ合衆国のカリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償制度との対比において述べられたものであり、上記のとおり本件に適切でないほか、その判示を前提としても、不法行為の加害者に対し、民法709条が適用されて損害賠償が命じられた場合において、これとは別に刑法上又は行政上の法令を適用することにより将来の同様の行為を抑止する効果をもたらす措置等を実施することが禁じられているということはできないのであって、本件において、民法709条の不法行為があったことを、別途、行政上の法令である法81条1項1号の適用に当たって考慮することが上記の判示に反しているということもできない。」
  (7)原決定9頁2行目から3行目までの「平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)」を「旧商法」に改める。
  (8)原決定10頁14行目末尾に次のとおり加える。
  「また、抗告人は、憲法31条の趣旨に照らし、法81条1項1号の「法令」に民法709条が含まれるとなると、どのような行為が同条違反に当たり、かつ、上記「法令」違反に該当するかを予測することが困難である旨主張するが、法81条1項1号は、上記のとおり、「著しく」、そして「明らかに」公共の福祉を害すると認められる行為に限って解散命令事由があるものと定め、本件においても、全国各地において生じた昭和50年代から平成26年頃までの長期間にわたる信者らの行為に係る22件の民事判決で認定された不法行為を対象としていることなどに照らすと、予測困難性に係る上記の主張を採用することはできない。」
  (9)原決定11頁23行目末尾に「そして、文理上、旧商法及び会社法が上記のとおり行為の主体を規定しているのに対し、法81条1項柱書き及び同項1号は、その主体を上記のように明示的に特定していないのであるから、前記アで旧商法及び会社法が「刑罰法令」と規定しているのに対し、法81条1項1号では「法令」と規定していることについて述べたところと同様、同号について行為者を抗告人が主張する範囲に限定して解することは相当ではないというべきである。」を加える。
  (10)原決定13頁24行目の「みることができ」の次に「(現に22件の民事判決のうち20件の判決では、本件宗教法人について、民法715条に基づく責任、すなわち実質的な指揮監督の関係に基づく使用者責任が認められているほか、その余の2件の判決では、民法709条に基づく責任、すなわち本件宗教法人自身の不法行為責任も認められているところである。)」を加える。
  (11)原決定17頁11行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
  「 これに対し、抗告人は、最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決(民集46巻7号1174頁)を挙げ、宗教法人審議会の議事録の詳細が公開又は開示され、その内容、過程等が明らかにならない限り手続遵守の立証はされないものというべきところ、本件ではこれらの詳細が明らかではない旨主張するが、上記判決は、原子炉施設の安全性に関する判断に関し原子力委員会や原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた原子炉設置許可処分の取消訴訟に係るもので、本件とは事案が異なる上、通知人が宗教法人審議会に報告を求める事項及び理由を示して諮問し、同審議会から諮問のとおり報告を求めることが相当である旨の答申を受けていることは、上記認定のとおりであるから、上記主張を採用することはできない。」
  (12)原決定21頁23行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
  「 なお、抗告人は、別件の宗教法人解散命令申立事件(東京地方裁判所令和5年(チ)第42号)において、通知人が「本件宗教法人がコンプライアンス宣言を発出したことは、法81条1項1号及び2号前段所定の解散命令事由該当性の判断を左右するものではない」と述べていること(乙88)をもって、上記のコンプライアンスに係る事情について報告を求める必要はなかった旨主張する。しかし、一件記録によれば、通知人は、上記のとおり、本件宗教法人が特に平成21年以降において信者らの献金勧誘等行為についてのコンプライアンスの確保等に取り組んできたと主張していたことを受けて、その具体的内容を明らかにするためにこの点に係る本件報告徴収に及んでいること、抗告人が指摘する通知人の主張においては、上記の宣言の実効性等に関する主張も含まれており、その中でこれらの点に関する報告がなかったことについても言及されていることが認められるところ、通知人は、不報告の結果やこれに関連する諸事情を踏まえて、別件の解散命令申立事件において上記のような主張をするに至ったとみることができるのであって、この点に係る本件報告徴収の必要がなかったということはできないから、上記主張を採用することはできない。」
  (13)原決定22頁21行目から22行目にかけての「主張するが、」の次に「一件記録によるも、これを個別的に、あるいは具体的に認めるに足りないほか、」を加える。
  (14)原決定25頁11行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
  「 これに対し、抗告人は、令和5年11月2日に参議院議員が参議院に質問主意書を提出し法81条1項1号の「法令」の特定を求めたところ、同月14日付け内閣総理大臣答弁書において、「現在、裁判所に係属中の事件に関わる事柄であり、これらを明らかにすることは、今後の審理及び裁判に影響を及ぼすおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。」などと述べていることに照らし、本件宗教法人においても裁判等で係争中の案件について回答しないことに正当な理由がある旨主張するが、本件報告徴収は、通知人がその所轄する本件宗教法人に対し報告を求めるもので、それらの情報を公にさせることを求めるものではないところ(また、国家公務員が守秘義務を負うことも前記(3)のとおりである。)、参議院における質問や答弁と比較することはできないから、上記の主張を採用することはできない。」
  (15)原決定27頁24行目から25行目までを次のとおり改める。
  「 上記の結論は、一件記録に照らし、抗告人が当審において主張する他の様々な主張等を検討しても左右されるものではない。」
 2 よって、抗告人を過料10万円に処する旨の原決定は相当であるから、本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。
  令和6年8月27日
    東京高等裁判所第23民事部
        裁判長裁判官  舘内比佐志
           裁判官  渡邉和義
           裁判官  島村典男


別紙
       抗告理由書
                             令和6年4月8日
 東京高等裁判所民事部 御中
             申立人X1代理人弁護士   B
             同             C
             同             D
 申立人の抗告理由は下記の通りである。
         記
第1 宗教法人法(以下,「法」という。)81条1項1号「法令に違反」の解釈の誤り
 1 憲法31条違反及び判例違背
  (1)原決定の要旨
    原決定(4頁)は,
      不法行為について定める民法709条は,故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者に対し,その損害についての賠償責任を負わせることを規定するものであるが,この規定は,かかる損害賠償の責任を課すことの前提として,他人の権利等を違法に侵害してはならないとの禁止規範を含むものと解されるから,こうした法の規範に反して,他人の権利等を違法に侵害する不法行為が行われた場合には,その行為は,法81条1項1号の「法令に違反」に該当する(そして,その内容や規模等によっては「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に該当し得る)と解することが,同号が解散命令事由として規定された上記趣旨に適うというべきである。
      したがって,民法上の不法行為は,法81条1項1号の法令違反行為に含まれると解するのが相当である。
   と言う。
    要するに,民法709条は「他人の権利等を違法に侵害してはならない」とする禁止規範であり,不法行為はこの禁止規範に違反した行為であるから,法81条1項1号の法令違反行為に含まれ,違反法令は民法709条であるというものである。
    しかしながら,我が国の法律学及び法律実務において,「民法709条違反」などという概念は存在しない。原決定は,憲法31条に違反し,判例に違背するものであり,その取消しは免れない。
  (2)公法上の不利益処分の効果を生じさせる法令違反行為とは何か
   ア 公法上の不利益処分と法令違反の定義
     法81条1項1号の解散事由においては,「法令に違反し」た行為が宗教法人解散命令の行政的不利益処分効果を生じさせる原因行為である。「刑事罰又は行政的不利益処分という公法上の不利益処分の効果を生じさせる法令違反行為とは何か」については,乙1号証「法律意見書(令和4年11月24日付)」で指摘したところであり,ここで一部論旨を抜粋して引用することとする(同3頁~4頁)。
      一般に,個人又は団体(以下,「民」と総称する。)が法令に違反する行為(以下,「法令違反行為」という。)をしたことに対し,国又は自治体(以下,「官」と総称する。)による刑事罰又は行政的不利益処分(以下,「刑事罰等の不利益処分」という。)が法律上予定されている場合,国民の自由を保障するため,罪刑法定主義及び適正手続保障(憲法第13条,第31条,最判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)に基づき,如何なる行為をすると刑事罰等の不利益処分を受けるのかが予め明示されていなければならない。
      刑事罰等の不利益処分が発動されるためには,あくまでも法令に定められた規定に反する行為の存在が前提にあり,行為なくして刑事罰等の不利益処分はない。特定の行為が「法令」に違反したというためには,当該法令は行為を特定してこれを禁止し又は命令する規定でなければならない。一定の行為を禁止し又は命令する規定があってこそ初めて法令違反行為が成立し,その違反効果として刑事罰等の不利益処分が正当化されるのである。これら一定の行為を禁止し又は命じる規範を定めた法規は,官民関係を規律する刑事罰則法規又は行政法規に限定される。
    刑事手続に関する適正手続保障を定めた憲法31条が行政手続にも適用されるか否かについて,前掲最判平成4年7月1日(「成田新法事件」)は,「憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」と判示し,行政手続への同条の全面的適用を認めてはいない。しかし,同判例は,工作物使用禁止命令規定の構成要件に関し,「過度に広範な規制を行うものとはいえず,その規定する要件も不明確なものであるとはいえない」として構成要件不明確の主張を退けていることからすれば,判例が行政処分への罪刑法定主義適用を前提としていることは明らかである。近代立憲主義においては,罪刑法定主義は官民の権力関係において国民の自由を保障する基本原則であり,行政取締法規に基づく不利益処分が刑事罰であるか,行政処分であるかでその保障に差を設ける理由はない。現に,行政手続法12条は,1項で「行政庁は,処分基準を定め,かつ,これを公にしておくよう努めなければならない。」,2項で「行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」と規定し,行政処分に罪刑法定主義が適用されることを当然の前提としている。
    そして,東京高等裁判所決定平成7年12月19日(判例タイムズ894号43頁「オウム真理教に対する宗教法人解散命令抗告事件」,以下,「東京高裁平成7年決定」という。)は,法81条1項1号の解釈について,
      法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」(一号)・・(中略)・・とは,宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって,社会通念に照らして,当該宗教法人の行為であるといえるうえ,刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって,しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(である)
    旨判示し,同号の法令違反行為とは,「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの(行為)」であると定義した。この定義が上記引用した法律意見書の見解と同旨であり,「刑法等の実定法規」が官民を規律する刑事罰則法規又は行政取締法規を指していることは明らかである。
    そして,文化庁自身,東京高裁平成7年決定が出される前の平成7年11月30日に開かれた「参議院宗教法人等に関する特別委員会」(乙83)において,同庁次長(当時)Eが,
      御指摘ございました81条1項1号でございますが,「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」ということでございますが,これは刑法違反等で犯罪行為の疑いが非常に強いという場合でございます。
    と上記同旨の解釈をしている旨明確に述べ,同決定後は完全にこれを踏襲してきたのである(乙4~乙10)。
   イ 公法上の不利益処分効果を生じさせる禁止規範・命令規範とは何か
    (ア)禁止規範・命令規範の目的・機能及び定義
      罪刑法定主義及び適正手続保障(憲法31条)の本質は,公法上の不利益処分(刑事罰と行政処分を含めた概念。以下同様。)を受ける者に対し,「①具体的に如何なる行為を行えば,②如何なる不利益処分を受けるのか」ということを予め実定法規をもって明示しておくことにある。そして,上記①については,禁止規範又は命令規範を実定法規をもって構成要件として明確に定めておかなければならない(「構成要件的自由保障機能」)。
      この点,判例(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁「徳島市公安条例事件」。以下,「昭和50年判例」という。)は,
       ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきである。
      と判示し,同判断基準は実務上完全に確立・定着している。ちなみに,罪刑法定主義を憲法何条に読み込むかについて憲法学者の間で議論があるが,上記判示が罪刑法定主義を憲法31条に読み込んでいることは明らかである。
      次に,公法上の不利益処分効果を生じさせる原因となる「実定法規の定める禁止規範又は命令規範」とは具体的に何か,その定義について考える。
      公法上の不利益処分は,禁止規範又は命令規範に違反した行為に対し,官が民に課する制裁である。これは,一定の行為を抑止・予防する目的から,実定法規をもって禁止規範又は命令規範を定め,その違反に対しては,官が民に対し制裁をもって臨むことを意味する。この「抑止」・「予防」・「制裁」は,公法上の禁止規範又は命令規範の不可欠な目的・機能である。したがって,公法上の不利益処分効果を生じさせる原因となる「実定法規の定める禁止規範又は命令規範」とは,
       法が一定の行為を抑止・予防する目的を持ち,その違反に対して官が民に対して制裁を課すことを予定した禁止規範又は命令規範
     と定義される。
      上記で論じた罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)から来る「構成要件的自由保障機能」(昭和50年判例)と公法上の実定法規が定める禁止規範又は命令規範の不可欠な目的・機能である「抑止」・「予防」・「制裁」とは,互いに密接不可分の関係にある。公法上の実定法規が定める禁止規範又は命令規範の違反に対しては官による「制裁」が課されることから,憲法31条が適用され,禁止規範等には「構成要件的自由保障機能」を果たすことが厳格に求められる。そして,禁止規範等の構成要件が明確であることにより,国民は「具体的に何が禁止・命令されているのか」を認識することができ,その効果として「抑止」・「予防」という法の目的が達成されるのである。
    (イ)私法上の禁止規範・命令規範との違い
      民法1条3項「権利の濫用はこれを許さない。」との規定は私法が定める禁止規範である。しかし,その違反効果はあくまでも権利濫用とされる権利行使の否定・制限という私法上の効果に留まり,同違反を理由に公法上の不利益処分を課すことは予定されていない。上記違反に対する私法上の効果は「私人間の利益調整」を目的とするものであって,違反者に対する「制裁」ではなく,同項には「抑止」・「予防」の目的はない。この理は,民法1条2項「権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。」という私法上の命令規範についても,全く同様である(乙1:7頁~8頁参照)。
      このように,私法上の禁止規範又は命令規範は,「私人間の利益調整」を目的とし,あくまでも私法領域に留まる規範であって,「法が一定の行為を抑止・予防する目的を持ち,その違反に対して官が民に対して制裁を課すことを予定した禁止規範又は命令規範」ではなく,法は,これら私法上の禁止規範等に対する違反の効果が公法に及ぶことを予定していない(本理由書添付図面1参照)。
      原決定(3頁~4頁)は,
       法81条1項1号は,単に「法令に違反して」と規定しており,その「法令」について何ら限定を付していないから,文理上,「法令」の範囲から,民法ないし同法における不法行為に係る規定が当然に除外されているということはできない。
     として,法81条1項1号の法令は公法に限定されず,私法である民法も含まれ,民法709条違反をもって同号の法令違反であるとする。
      原決定の上記論理からすれば,民法が定める禁止規範に対する違反行為であることが明白な「権利濫用行為」は同号の「法令違反」に該当することになるはずである。しかし,前述の通り,「私人間の利益調整」を目的とする民法1条3項の規定には,抑止・予防・制裁の目的・機能はなく,その違反に対応する公法上の法律効果はない。しかも,同項の構成要件「権利の濫用」は余りにも漠然とし過ぎていて,「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準」(昭和50年判例)は読みとれず,およそ構成要件的自由保障機能を果たしていない。したがって,権利濫用の行為者がその違反の故に「法令違反」条項を介して想定外の公法上の不利益処分を課されるなど,罪刑法定主義及び適正手続保障(憲法31条)に反することは明らかである。これを分かりやすく言うと,
       具体的にどのような権利行使が濫用に当たるとして禁止されているのかを予め認識し,それに違反すれば,単に私法上の法律効果に留まらず,民法1条3項という法令に違反したということで,公法に定められた幾多の「法令違反」規定に該当することとなり,そこに定められた公法上の不利益処分を受ける
     などと誰が認識し得るのか,ということである。
      この理は,私法上の命令規範である民法1条2項に違反した信義則違反行為についても全く同様である。
      民法1条2項及び3項の例からも明らかな通り,私法上の禁止規範又は命令規範の規定は簡略に過ぎて構成要件が不明確であるところ,それでも憲法違反とされないのは,その違反効果が私法上の効果に留まるからである。すなわち,これら私法上の禁止規範又は命令規範には罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)が適用されず,厳格な構成要件的自由保障機能は求められない。むしろ,法は,私法上の禁止規範又は命令規範の構成要件を敢えて簡略にすることで,裁判所による解釈・認定の裁量範囲を広く認め,具体的事案に応じて「私人間の利益調整」が柔軟に図られることを期待しているのである。
      以上,公法上の禁止規範・命令規範と私法上の禁止規範・命令規範は,それぞれ目的を異にするものであり,罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)の適用の有無において決定的な違いを持つ異質な規範なのである。
      上記を踏まえ,(3)以下では,多角的な視点から原決定解釈の検証を行い,その誤りを明らかにする。
  (3)不法行為制度の目的
   ア 判例・通説から導かれる帰結
     判例(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁。以下,「平成9年判例」という。)が,
      我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照),加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも,加害者に対して損害賠償義務を課することによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎず,加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。
     と判示する通り,不法行為制度は加害行為に関する私人間の損害補填・原状回復制度であり(乙1「法律意見書」添付資料2「新注釈民法(15)債権(8)」263頁,加藤一郎「不法行為(増補版)」3頁~4頁),民法709条は,これを定めた「賠償規範」であって,「加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではな」く,同条は,上記(2)で定義した「法が一定の行為を抑止・予防する目的を持ち,その違反に対して官が民に対して制裁を課すことを予定した禁止規範又は命令規範」ではない。
      この点,「新注釈民法(15)債権(8)」263頁も不法行為制度の目的について次のように言う。
        判例・通説によれば,これら制裁・抑止の作用は,被害者が被った不利益を回復するために加害者に損害賠償を負わせたことの「反射的,副次的な効果」に過ぎない(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁(懲罰的賠償を否定))。つまり,制度の本来的な目的ではなく,事実上の機能にとどまる。
        判例・通説の理解は,民事責任と刑事責任の分化・峻別を前提に,不法行為による損害賠償の制度には損害補填・原状回復の目的を割り振り,制裁(応報)や抑止(一般予防)の目的については刑事制裁制度に委ねるものである(加藤(一)3頁)。このような役割分担が言われる背景として,不法行為制度は,加害者への責任追及にあたって故意と過失を区別せず,さらには無過失責任まで認めている。また,不法行為による損害賠償義務は,被害者の受けた損害の額に制約されている。
      上記は,古くは刑事責任と民事責任が未分化の状態にあったものが,歴史を経て,それぞれの社会的機能に応じて制度的に分化し峻別された帰結である(幾代通・徳本伸一補訂「不法行為法」2頁)。
      不法行為は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害(する行為)」(同条)と定義されるが,個々具体的な行為が不法行為に該当する否かは,同条の外にある法秩序が設定した実定法規である禁止規範・命令規範(刑事法規又は行政取締法規)又は「公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)」に照らして評価・判断される(乙1:添付資料3「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34~35頁)。その結果,当該行為が不法行為と評価・判断されれば,同条の「賠償規範」に基づき損害賠償債務発生という私法上の法律効果が生じる(以下,これを『不法行為における階層的規範構造』と言う。最高裁判所平成18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号948頁。詳細説明は「意見陳述書(5)」5頁~10頁を参照。)。上記規範構造は,通知人が好んで引用する「不法行為とは,私的生活関係において他人の権利を侵害する行為であって,法秩序がその権利を保護するために,行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう」(潮見佳男「不法行為Ⅰ(第2版)」2,4頁)という定義と正に合致するところである。
      このように民法第709条は,同条の外にある法秩序が設定した禁止規範・命令規範とは区別される「賠償規範」であって,同条自体は禁止規範・命令規範ではない。
      平成9年判例が「我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。」という通り,公法と私法を峻別する我が国の法体系の下では,一定の行為の抑止・予防及び制裁を目的とする禁止規範・命令規範という概念は公法領域に限られ,私法の領域には存在しないのである(本理由書添付図面1及び2参照)。既に指摘した通り,権利濫用,信義則に見られる私法上の禁止規範・命令規範は,あくまでも私人間の利益調整を目的とするものであって,一定行為の抑止・予防及び制裁を目的とするものでない。
      刑事責任と民事責任が未分化の状態にあったものが,それぞれの社会的機能に応じて制度的に分化し峻別された結果,不法行為による損害賠償の制度には損害補填・原状回復の目的を割り振り,制裁(応報)や抑止(一般予防)の目的については刑事制裁制度に委ねることされた以上(前掲「新注釈民法(15)債権(8)」263頁,前掲幾代通「不法行為法」2頁),「禁止規範」は刑事罰則規定(行政取締法規も含む)において存在すれば足り,不法行為規定においては,その目的・機能と論理的関連性のない「禁止規範」が存在する法的意味はないのである。
      翻って本件を見るに,法81条1項1号の法令違反の行き着く先の効果は,宗教法人解散命令という究極の制裁である。仮に,民法709条の前提に禁止規範があって,同号の法令に「民法709条」が含まれるとした場合,その違反効果は「反射的,副次的な効果」に留まらず,直接的かつ重大なものとなる。その懲罰的制裁効果は,平成9年判例が不法行為制度の枠組みにおいて否定した懲罰的損害賠償の比ではない。民法709条にかかる禁止規範としての違反効果を原因として同号のような公法上の不利益処分が不法行為の加害者に課されるとなれば,私人間の損害補填賠償という不法行為制度の目的を著しく逸脱し,平成9年判例に違背するのみならず,公法・私法を峻別する我が国法体系の根幹を揺るがすことになる(後記(7)参照)。既に指摘した通り,不法行為による損害賠償の制度はあくまでも損害補填・原状回復を目的とする制度であって,禁止規範・命令規範に違反したことに対する制裁・懲罰ではない以上,民法709条の前提に「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という禁止規範が存在することの法律・条文上の意味はない。同禁止規範と同条の目的である損害補填・原状回復のための損害賠償債務発生とは論理的関連性がないにもかかわらず,同条の制度目的の枠組みを外れたところで,「公序違反→禁止規範違反→法令違反→宗教法人解散命令」という異質で強力な公法上の法律効果を生じさせるためだけに,わざわざ禁止規範を同条に読み込むことなど許されない(本理由書添付図面2参照)。
   イ 平成9年判例を無視した原決定の誤り
     原決定(8頁)は,平成9年判例を「本件に適切でない」として無視しているが,不法行為制度の目的の本質を的確に判示した同判例を無視するなど,その見識を疑う。平成9年判例で争点となった懲罰的損害賠償の是非は,同判例以前から「民事責任と刑事責任との関係」における「性質上の相違点」という文脈で論じられ(注釈民法(19)債権(10)6頁~7頁),不法行為法及び慰謝料の機能として,損害の公平な分担という調整的・補完的機能のみならず,通常の損害補填・原状回復にとどまらない制裁的機能があるか否かは長らく論じられてきたところであった(新注釈民法(15)債権(8)878頁~879頁)。同判例は,この長年の議論に終止符を打つべく,我が国の不法行為制度が加害行為の予防,抑止及び制裁の目的を有するものではなく,それらが刑事罰則法規又は行政取締法規に委ねられていること(公法・私法の峻別)を明確に示したのである。法81条1項1号の「法令に違反」の法令に公法である刑法等以外に民法709条が含まれるか否かが問題になっている本件においては,同判例こそは最も適切な判例である。
     この点,文部科学省は,平成9年判例を「カリフォルニア州における懲罰的損害賠償の制度と我が国の損害賠償制度を比較対照して書かれているものであって,飽くまで各制度の目的ないし直接の効果を対比しているにすぎない。」などと相対化するが(「過料通知書」48頁),同判例では,同省がいう彼我の損害賠償制度の目的・効果の比較対照こそが,日本の不法行為法の機能として制裁的機能をもたせ得るかという論点との関係において主題となったのである。それゆえ,最高裁判所は,言葉を尽くし
      「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,…将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない」,「我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,刑事上又は行政上の制裁にゆだねられている」として,我が国の不法行為制度が禁止規範を前提
    として制裁的に機能するものでないことを明言したのである。
     原決定(4頁)は「この規定(注:民法709条)は,かかる損害賠償の責任を課すことの前提として,他人の権利等を違法に侵害してはならないとの禁止規範を含むものと解される」とするが,明らかに判例に違背する誤りである。不法行為の損害賠償があくまでも損害補填・原状回復であって禁止規範違反の効果としての制裁・懲罰でない以上,損害賠償と論理的関連性のない禁止規範を条文の前提に読み込むことはできない。
     原決定が「民法709条が禁止規範である」とする持論の正当性を主張する上で,同判例を避けて通ることは許されず,同判例との論理的整合性を説明しなければならない。
  (4)不法行為における階層的規範構造に対する無理解
    原決定の誤りの根本原因は,「不法行為における階層的規範構造」に対する無理解にある。
    既に法律意見書及び意見陳述書で繰り返し指摘してきたところであるが,不法行為の類型には刑事罰則法規又は行政取締法規の法令違反を伴うものとこれを伴わないものとがあり(前掲「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34頁~35頁),本件宗教法人が民事裁判で損害賠償責任を認められたのは,いずれも後者の類型,すなわち「公序」と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)に違反したというものである。通知人が証拠提出した民事判決書を見れば明らかな通り,本件宗教法人の信者らが違反したとされたのは「公序」と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)であって,実定法規である法令ではない。同違反により構成された不法行為の法律効果は私人間における損害賠償債務の発生に尽きるのであって,それとは別に民法709条の禁止規範に違反したと二重の違反評価を受けて不法行為が法令違反行為に格上げされ,公法上の不利益処分の根拠とされる理由はない(平成9年判例)。
    そもそも,不法行為の定義(故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する行為)は一般的抽象的に過ぎ,他人の権利等の具体的な内容も侵害行為の態様も条文上特定されておらず,構成要件の外延が不明確であり,「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれ」(昭和50年判例)ない。そのため,具体的な権利等の認定に当たっては民法709条の外にある他法令の規範をもってこれを行い,侵害行為(=違法性)の認定も同様に同条の外にある他法令(刑事罰則法規又は行政取締法規)の規範又は不文の秩序をもって行わなければならないのである(「不法行為における階層的規範構造」)。原決定がいう民法709条の「他人の権利等を違法に侵害してはならない」とされる禁止規範は,仮にこれを禁止規範と呼ぶとしても,同規範に違反したか否かは,他法令等の助けを借りて当該行為が不法行為を構成するか否かの判断を待って漸く定まるのであり,そこでは,むしろ他法令等の禁止規範又は命令規範(前掲「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34頁~35頁)こそが具体的に問題となるのである。例えば,刑事罰則法規又は行政取締法規の法令違反を伴う不法行為においては,当該法令違反行為をもって法81条1項1号を適用すれば足りるのであり,原決定のように,これをわざわざ民法709条違反であると二重に違反評価して不法行為が同号の法令違反であると構成し直す理由などない(原決定は,「民法上の不法行為は,法81条1項1号の法令違反行為に含まれる」として不法行為類型による区別をしていない)。
    不法行為における階層的規範構造を理解していれば,原決定のような二重の違反評価をする誤りはしないはずである。
  (5)禁止規範の中身から明らかにされる憲法違反
   ア 禁止規範の中身の解明
     民法709条に「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という禁止規範(以下,「本件禁止規範」という。)を読み込むと,どうして上記(4)で指摘したようなおかしなことになるのか。それは,本件禁止規範の中身を分析することを通じて明確に理解することができる。
     「他人の権利等を違法に侵害してはならない」と言われても,一般的抽象的に過ぎ,他人の権利等の具体的な内容,侵害行為の具体的態様及びそれらの外延が不明確であり,「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれ」ない(昭和50年判例,構成要件的自由保障機能の欠如)。これは上記(2)で指摘した権利濫用及び信義則違反の禁止規範・命令規範の不明確性と全く同様である。
     ただ,「人を殺してはならない」(刑法199条),「他人の財物を盗んではならない」(同法235条),「他人を逮捕,監禁してはならない」(同法220条),「他人の名誉を毀損してはならない」(同法230条),「人の住む建造物等に放火してはならない」(同法108条),「他人の特許権等を侵害してはならない」(特許法196条),「医師でないのに医業をして(他人の生命・身体に危険を及ぼして)はならない」(医師法17条)等々の実定法規が定める禁止規範の諸々の「~してはならない」が,本件禁止規範の中に含まれることは確かである。さらに,「公序(=社会的相当性)に反する態様で他人の権利等を侵害してはならない」という不文の禁止秩序が仮に存在するとすれば,これも含まれ得るものと思料される。要するに,本件禁止規範は,不法行為に該当すると思われる行為を禁じる幾多の実定法規の禁止規範及び仮に存在するとして不文の禁止秩序の全体を包括して総称したものに過ぎず,それは独自の禁止規範ではない。別な言い方をすれば,「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という本件禁止規範は,外部にある様々な禁止規範中の「~してはならない」の集合体であって,その内実は「人に迷惑を掛けてはならない」と同等の道徳規範に過ぎず,本来,禁止規範と呼ぶには相応しくないものである(本理由書添付図面3参照)。
     私法上の禁止規範・命令規範には罪刑法定主義・適正手続保障が適用されないことから,本件禁止規範のような包括的・抽象的な規範を禁止規範と呼ぶことが許されるとしても,同規範には公法上の禁止規範のような目的・機能はない。加害行為の抑止・予防・制裁の目的・機能は,その括りの中に含まれる諸々の「~してはならない」の出身元である個々の禁止規範(刑法199条,同法235条等)が有し,各々が公法領域において果たしているのであって(平成9年判例),「~してはならない」の集合体である本件禁止規範には何ら目的・機能はない。
     また,仮に「公序(=社会的相当性)に反する態様で他人の権利等を侵害してはならない」という不文の禁止秩序が存在するとしても,同秩序は漠然としており(構成要件的自由保障機能は皆無),かつ,そもそも実定法規でない以上,当然,抑止・予防・制裁の目的・機能があるはずもない。本件宗教法人が不法行為責任を問われた上記類型(不文の禁止秩序違反)は,不文の故に構成要件的予見可能性が皆無であることから,実際に行われた行為を裁判所が「公序」に照らして事後的に評価して決まるという実に特殊な不法行為類型なのである。この場合,違法性判断に参酌される公序とは,「こういうことは社会的に見てやってはならない,あるいはやり過ぎ」といった程度の不文の社会的行為規範のようなものと思料される。しかし,「こういうこと」の具体的な内容は予め決まっているわけではなく,その都度,常識・良識によって判断するしか方法がない。したがって,この不法行為類型の行為者においては,違法性の意識も故意も希薄である。
     以上の通り,本件禁止規範は,公法上の不利益処分効果を生じさせる原因となる「法が一定の行為を抑止・予防する目的を持ち,その違反に対して官が民に対して制裁を課すことを予定した禁止規範」でないことは勿論のこと,その内実は,不法行為に該当する可能性のある様々な行為を禁じる実定法規の禁止規範等全体を包括して総称した道徳規範の類いに過ぎない。
     したがって,刑事罰則法規又は行政取締法規の違反を伴う不法行為において,その違反に公法上の効果を持たせるには,それら刑事罰則法規等の禁止規範等の違反をもって違反評価すれば必要十分であり,実質的意味のない本件禁止規範で二重に違反評価をする理由も必要もない。まして,もともと構成要件的自由保障機能が皆無である「公序(=社会的相当性)」に反するとされた不法行為を,実質的意味のない実態不明の本件禁止規範で何故に二重に違反評価しようと言うのであろうか,正に「机上の空論」という外ない。
   イ 罪刑法定主義・適正手続保障に違反(憲法31条違反)
     法81条1項1号に基づく不利益処分は宗教法人解散命令という法人に対する「死刑宣告」であり,罪刑法定主義及び適正手続保障(憲法31条)が厳格に適用されなければならないことは論を待たない。仮に「他人の権利等を違法に侵害してはならない」が禁止規範であるとした場合,余りにも漠然とし過ぎて,「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれ」ず(昭和50年判例),構成要件的自由保障機能を果たすことができないため,これをもって同号の「法令違反」の効果を生じさせることは罪刑法定主義・適正手続保障に照らして許されない(憲法31条違反)。
     既に指摘した通り,原決定の解釈によって実際に法81条1項1号の「法令違反」とされる不法行為は,公序違反の不法行為類型に限定される。上記(2)で,私法上の禁止規範である権利濫用(民法1条3項)を例に考察したところを,同不法行為類型について同様に考察すると次のようになる。
      刑法等の実定法規の禁止規範・命令規範に違反しなくても,具体的にどのような行為が公序に照らして許されないのかを予め認識し,これに違反すれば,単に損害賠償債務発生という私法上の効果に留まらず,民法709条違反として,公法に定められた幾多の「法令違反」規定に該当することとなり,そこに定められた公法上の不利益処分を受ける
    などと,果たして誰が認識できるというのであろうか。
     これに対し,
      刑法は殺人を禁止しており,人を殺せば死刑等の重い刑事罰に処せられ,他方で法令違反を要件とする刑事罰以外の公法上の不利益処分を受けることもあり得る
    ことは誰でも認識することができる。罪刑法定主義・適正手続保障が適用される法とは,本来,こういうものでなければならない。
   ウ 本件禁止規範の法的意味
     本項目の最後に本件禁止規範の法的意味を改めて考察する。「人を殺してはならない」,「他人の財物を盗んではならない」などの実定法規が個別に定める禁止規範は,私法である民法709条の前提にあるとされる本件禁止規範の中に含まれるとしても,同条においては抑止・予防・制裁という目的・機能はなく(本抗告理由書添付図面2参照),これらは公法である刑法199条,同法235条等から「~をしてはならない」という禁止文言だけを私法に移植した道徳規範であるに過ぎない(本抗告理由書添付図面3)。そうすると,民法709条の前提にあるとされるこれら道徳的な禁止規範の集合体である本件禁止規範に,法律上どういう意味があるというのであろうか。
     平成9年判例によれば,損害賠償が禁止規範の違反に対する制裁・懲罰ではないのであるから,損害賠償は本件禁止規範の効果ではない。また,「加害者に対して損害賠償義務を課することによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎ(ない)」のであるから,この反射的,副次的な効果ですら本件禁止規範の効果ではない。不法行為の効果は損害賠償債務の発生に尽きるのであり,それが本件禁止規範の効果ではない以上,どう考えても,本件禁止規範が民法709条の前提に存在することの法的意味を見出すことはできない。
     「禁止規範」という以上,その違反に対する法律効果として,公法であれば制裁,私法であれば私法上の効果が予定されているはずである。ところが,民法709条の本件禁止規範違反に対する私法上の法律効果は何もないのである。にもかかわらず,原決定によれば,不法行為が成立するや,本件禁止規範に違反したとして公法上の「法令違反」を構成し,その効果が公法領域に飛び火して公法上の不利益処分という制裁効果を生じさせるというのである。これを聞いて疑問を持たない法律家がいるであろうか。
     百歩譲って,最高裁判所が判例を変更し,「民法709条の損害賠償は,禁止規範違反に対する私法上の制裁・懲罰の性格を有する」としたとしても,同条の前提にあるとされる本件禁止規範に対する違反の効果が公法に飛び火することなど許されず,それが憲法31条に違反することは既に指摘したところから明らかである。これを乗り越えるためには,最高裁が,「憲法31条を克服する新たな理論に基づき,公法と私法の垣根を取り払う」という驚くべき新判例を出す以外にないのである。
     原決定の誤りの原因を端的に表現するならば,罪刑法定主義・適正手続保障が適用されない私法上の禁止規範とこれら原則が厳格に適用される公法上の禁止規範の相違を知らなかったため,公法と私法の違いに思いを致すことなく,「禁止規範」という表面的な言葉尻に惑わされてこれらが法的に同じものであると勘違いし混同したことにある。
  (6)罪刑法定主義・適正手続保障から見た法81条1項1号の構成要件
   ア 法81条1項1号の構成要件の解析
     上記(2)~(5)で展開した法律論のまとめとして,罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)の観点から法81条1項1号の構成要件を解析することとする。
     「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」の構成要件は,①法令に違反した行為をしたこと,②それが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められること,の2つの要件から成る。罪刑法定主義・適正手続保障の観点から見ると,①の構成要件は特に重要である。②は認定・判断に裁判所の相当程度の裁量が認められる構成要件である(ここではむしろ「信教の自由」に対する配慮が問題となる)のに対し,①は解散事由の原因となり得る行為を定型的に特定する機能を有するからである(裁判所の裁量余地は狭い)。「法令に違反し」という構成要件だけを見れば一般的・抽象的に見えるが,具体的事案に同号を適用する場面では,最初に具体的な法令条項(○法○条○項等)を特定する作業が必要になる。次に,特定された法令条項(以下,「当該法令条項」という。)に定められた禁止規範又は命令規範が,罪刑法定主義・適正手続保障に基づく構成要件的自由保障機能を果たしているか否か,換言すれば「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれ」(昭和50年判例)るか否かが問われることになる。なお,ここで留意しなければならないのは,当該法令条項が本来予定する刑事罰等の不利益処分は法81条1項1号の適用場面では課されず,上記①・②の構成要件を充たした場合に同項の定める解散命令という不利益処分が課されるという「ハイブリッドな規範構造」になっていることである。すなわち,罪刑法定主義・適正手続保障を同号に適用するに当たっては,当該法令条項の構成要件的自由保障機能だけが問題となり,当該法令条項自体が定める刑罰等の不利益処分内容の合憲性(「適正処罰の原則」:最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁)は問題にならない。
     原決定は,
      本件においては,法81条1項1号の「法令」は民法709条であり,同条の前提にある禁止規範が「他人の権利等を違法に侵害してはならない」であり,不法行為はこれに違反したから同条違反である
    というのであるから,本件では,民法709条の前提にあるとされる「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という本件禁止規範が構成要件的自由保障機能を果たしているか否かが問われることになる。
     その答えは,上記(5)イで既に出した。
   イ 民法90条との比較対照
     次に,「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とする。」と規定する民法90条を引き合いにして本件を考えることとする。同条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為をしてはならない」という私法上の禁止規範である。同禁止規範は法律行為に関するものであり,事実行為である不法行為とは直接関係がないが(乙1:添付資料3「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34~35頁),法律行為と事実行為という違いはあれ,本件と対照して考察するには格好の禁止規範である。
     「公の秩序又は善良の風俗」とは,民法90条の外に存在するところの「社会の変動に伴って絶えず変化する不文の秩序・風俗」であるが,同時代に生きる人の間でも,その具体的内容に対する認識は各自で異なってくる捉え所のないものである。同条は,この不文の秩序・風俗に違反する法律行為を禁ずるものであるが,その違反の効果は,当該法律行為の無効という私法上の効力に留まり,権利濫用・信義則違反と同様,公法上の効力など予定していない。「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為をしてはならない」との禁止規範は,他の私法上の禁止規範と同様,「通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準」(昭和50年判例)を読みとることはおよそ不可能であり,構成要件的自由保障機能は皆無である。
     本件では,公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)が禁止秩序として問題となっている。民法90条同様,公序・秩序の具体的内容は明らかではなく,構成要件的自由保障機能は皆無である。原決定は,このような公序・秩序が本件禁止規範に含まれると考えているようであるが,仮にこれに含まれているとしても,それによって構成要件的自由保障機能が備わるわけではない。不文の秩序とされていたものが,民法709条に読み込まれて法律上の禁止規範に格上げされたというだけのことであり,その実態に変更はないからである。
     端的に言えば,原決定は,公序違反の行為をした者に対して公法上の不利益処分を課すことを肯定するものである。仮に刑法に「公の秩序又は善良の風俗に反する行為をした者は,○○万円以下の罰金に処する。」という罰則規定が設けられたとすれば,これが昭和50年判例に照らし憲法31条違反であることは誰の目にも明らかである。
  (7)原決定が我が国の法体系全体に与える深刻な悪影響
    我が国の法令中,刑事罰則等の公法上の不利益処分の構成要件として「法令に違反し」との要件を設けている規定は多数存在するが,そのうち団体の解散命令処分に関連する規定については,乙1号証「法律意見書(令和4年11月24日付)」添付資料1で列挙してまとめているので参照されたい。仮に民法709条が禁止規範として「法令違反」に該当するとなれば,当然,これら規定全てに該当・適用されることになり,かつ,私法上の禁止規範・命令規範である権利濫用行為,信義則違反行為及び公序良俗違反の法律行為も不法行為と同列に扱わなければ平仄が合わない。これにより公法・私法の壁が崩れる影響は,これらの条文に当てはめて考えれば一目瞭然である。例えば,森林組合法110条は,組合が「法令等」を守っているかどうかを知るために,行政庁が必要な報告を徴し,必要な資料の提出を命ずることができると規定している。かような報告徴収に不法行為,公序良俗違反の法律行為,権利濫用行為及び信義則違反行為が絡む業務上の私人間紛争までもが含まれるとすれば,行政庁による私人間紛争への介入を招きかねない。また,同法111条は,組合の業務が「法令等」に違反する疑いがある場合等の検査請求に対する行政庁の検査義務を規定しているが,組合内の派閥対立等が原因で生じた上記同様の私人間紛争を理由に持ち込まれた検査請求に対して行政庁の検査義務が生じるのでは,行政庁にとって過大な負担になるばかりか,私人間紛争に行政が深く足を踏み入れる事態を招来する。
    そして,今後,「法令違反」の要件を設ける新規法令にも同様の影響が及ぶことになるのである。原決定を受け,内閣法制局の心中は穏やかでないはずである。
    万が一にも,原決定が維持されたならば,公法と私法を峻別してきた我が国の法体系は崩壊する。原決定の論理をもってすれば,私法中に禁止規範・命令規範が溢れ返り,それらの違反が大挙して公法領域に侵出して行くという大変な事態を招来するからである。原決定は,民法709条前半の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は」という文言から禁止規範を読み取っているが,同論理を敷衍すれば,同条後半の「…侵害した者は,これによって損害を賠償する責任を負う。」との文言から,「権利侵害した者は損害を賠償しなければならない」という命令規範を読み取ることができ,この賠償義務に応じない者は命令規範違反として公法上の法令違反を問われることになりかねない。
     そして,原決定の論理を敷衍すれば,民法の他の条文からも幾多の禁止規範・命令規範を読み取ることができる。
     例えば,
       第5条 未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。
    という条文からは,「未成年は法定代理人の同意を得なければならない」という命令規範と,「未成年は法定代理人の同意を得ずに法律行為をしてはならない」という禁止規範が読み取れる。未成年者が法定代理人の同意を得ずに契約をしたことで,取引相手に多大な損害を被らせたという場合,法令違反行為として公法上の不利益処分を受けることになる。
     さらに,
       第96条 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
    という条文からは,刑法とは別に「詐欺や強迫をしてはならない」という禁止規範が導かれる。刑事では脅迫罪は不起訴になったが,民事で強迫取消しが認められた場合,法令違反行為として公法上の不利益処分を受けることになる。
     同様に,
       第109条 無効な行為は,追認によっても,その効力を生じない。
    という条文から,「無効な行為をしてはならない」という禁止規範が導かれる。他法令の違反はないものの,無効な行為により会社・法人や取引相手に多大な損害を被らせたという場合,法令違反行為として公法上の不利益処分を受けることになる。
     かように,原決定からは,これまで法学者・法曹関係者の誰も考えたことがない「民法のあらゆる条文中に禁止・命令規範を読み取る解釈」が導かれ,それらが私法の領域を越えて公法領域に侵出して行くことになるのである。上記で挙げた例は「曲解」であると言うかも知れないが,しかし,民法709条の本件禁止規範だけは特別であると何をもって線引きできるというのであろうか。特に,禁止規範・命令規範であることが文言上明らかな公序良俗違反の法律行為,権利濫用行為及び信義則違反行為を,不法行為と区別して公法上の法令違反の対象から排斥することは不可能と言わざるを得ない。
     公法と私法は泰然と区別されなければならないものであることは,上記から明らかである。我が国の全法秩序維持のためにも,原決定は絶対に維持されてはならない。
  (8)原決定解釈の真の狙いと「越えてはならない一線」
    原決定は,これまで法律学及び法律実務に存在しなかった「民法709条違反」という新概念を打ち出したものであるが,「民法上の不法行為は,法81条1項1号の法令違反行為に含まれる」として,法令違反行為に該当する不法行為の類型を限定していない。しかしながら,既に指摘した通り,民法709条の前提にあるとされる「他人の権利等を違法に侵害してはならない」との本件禁止規範が法令違反としての法律効果を生じさせる事案は,本件宗教法人の民事事件に見られる法令違反を伴わない「公序」と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)に違反した不法行為類型に限定される。しかも,同類型は,上記(5)で指摘した通り,予見可能な具体的な禁止秩序を観念し得ないため,個々具体的な行為につき裁判所から事後的評価を受けて結果的に違反が認められて不法行為と認定されたものであるに過ぎず,行為者においては違法性の意識及び故意が希薄である。原決定は正にそこを狙い撃ちにした。すなわち,原決定の解釈は,元々は公序に違反したに過ぎない上記類型の不法行為を,「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という包括的禁止規範を噛ませることで二重に違反評価し,「民法709条違反」という法令違反行為へと仕立て上げ,これを私法の枠を越えて公法領域に飛び火させ,本件宗教法人に解散命令の不利益処分を課すために構築されたロジックなのである。
    文部科学省においては,もともとは「民法709条違反」を主張するつもりであったが,内閣法制局からこれを止められた(乙80:「報告書」)。そのため,同省は,別件解散命令申立事件で本件宗教法人代理人が行った違反法令特定を求める求釈明に回答をせず(乙81の1,2:「求釈明書」及び「回答書」),同事件審問期日に同代理人から「民法709条違反を主張するのか」との確認を求められても頑なに回答を拒み(乙82の1,2:「令和6年2月22日記者会見」の動画及び反訳),遂に最後まで「民法709条違反」の主張をしなかった。これは,民法709条が禁止規範であるとする「民法709条違反」の主張が法律学上「越えてはならない一線」であることを,国(特に内閣法制局)が良く理解していたことを表している。
    にもかかわらず,原決定は,わずか18行(4頁4行目~21行目)をもってその一線を越えたのである。原決定(4頁)は,「法81条1項1号は,同号に規定する行為があった場合には,宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることから,司法手続によって宗教法人を強制的に解散し,その法人格を失わせることが可能となるようにした趣旨の規定であると解される」ことを理由に挙げる。しかし,本件では「同号に規定する行為」である「法令違反行為」の定義・解釈が問題となっているのである。上記は「同号に規定する行為があった場合」を前提として宗教法人解散制度の趣旨を述べたものに過ぎず,同趣旨に関する上記文脈から「法令違反行為」の定義・解釈を導くことはできない。同趣旨から,どうして民法709条が禁止規範であり,かつ,その違反が私法の枠を越えて同号の「法令違反」に当たるとする論理が導けるのか理解不能であり,全く論理的整合性がない。
  (9)原決定に対する苦言
    公法・私法の法令全体を見渡せば,「禁止規範」と呼び得るものが多々存在することは事実である。しかし,罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)の適用がない私法の禁止規範とこれら原則が厳格に適用される公法の禁止規範は,全く別物である。両者を同一のものであると勘違いし混同してはならない。原決定は,法81条1項1号の「法令に違反し」の要件をただ表面的に見て,「民法も法令」→「民法709条は禁止規範」→「不法行為は禁止規範に違反する民法709条違反」→「不法行為は法81条1項1号の法令違反行為」と実に単純に考えてしまったようである。①公法上の不利益処分に憲法31条が適用され,法81条1項1号の「法令違反」の構成要件もその例外ではないこと,②公法上の禁止規範と私法上の禁止規範の相違,③不法行為制度の目的は何か,④仮に民法709条に読み込まれる禁止規範があるとした場合の中身と法律上の意味,⑤私法上の禁止規範の違反に公法上の効果を与えることが公法・私法の法体系全体に与える重大な影響を,原決定が考慮した形跡はない。
 2 その余の反論
  (1)東京高裁平成7年決定について
    東京高裁平成7年決定が「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって,しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をいうと説示していることにつき,原決定(8頁)は,東京高裁平成7年決定の上記説示部分が,民法及び同法における不法行為に係る諸規定を当然に「刑法等の実定法規」から除外する趣旨かは定かではない上,いずれにせよ,宗教法人オウム真理教に対する解散命令申立事件という個別事案に対応した説示であって,この裁判例の説示が,本件における「法令に違反」の解釈を左右するものではないことは明らかである。
   などとして,これを事例判例として退けている。
    しかしながら,上記1で詳論した通り,法81条1項1号の法令違反に民法709条が入り得ないことは,法論理から来る帰結であり,東京高裁平成7年決定は,正に同論理(特に1(2))に従った判断を示したのである。同決定は決してオウム真理教事件に特化した事例判例ではなく,その後の明覚寺事件でも踏襲されて確立されている。
  (2)「民法が公共の福祉と無関係ではない」等について
   原決定(9頁~10頁)は,
    民法は,公共の福祉(同法1条1項)と無関係の法令ではない上,不法行為によって他人の権利等が違法に侵害された場合に,その内容や規模等によっては,そのことによって公共の福祉が害されることも想定し得るから,法81条1項1号の「法令」の範囲が同号の趣旨に照らして限定されると解するとしても,民法の不法行為規定が,同号の「法令」に当たらないということにはならない。
   と言うが,平成9年判例に鑑みれば,民法709条が公共の福祉を守るための規定であるのか疑問である。
    また,原決定(10頁)は,不法行為が刑事罰則法規等に対する違反事件に比べて重大性のレベルが劣ることを意識してか,
     法81条1項1号は,宗教法人について法令違反の事実があった場合に,直ちに当該宗教法人に対して解散が命ぜられることとはしておらず,法令違反に伴って「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」と認められた場合に初めて解散が命ぜられることとし,「著しく」,「明らかに」との文言も加えて,解散命令の根拠となる事由を限定しているのであるから,同号の「法令」について,刑罰法規又は行政法規だけでなく,民法その他の法令が含まれると解したとしても,それによって,解散命令の根拠となる事由が過度に広がって,宗教法人ないしその信者らの信教の自由が害されることとなるおそれがあるとはいえない。
   などと取り繕うが,同号の「法令に違反して」の要件と「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」の要件は別物であり(上記1(6)参照),後者の要件が厳しいからと言って前者の要件を恣意的に歪めて緩和することなど許されない。やはり,原決定は,法81条1項1号の解釈適用に罪刑法定主義・適正手続保障(憲法31条)が適用されることに全く気付いていなかったようである。むしろ,「宗教法人ないしその信者らの信教の自由」の保障を尊重するのであれば,前者の要件も厳格に解釈しなければならないはずである。また,「同号の『法令』について,刑罰法規又は行政法規だけでなく,民法その他の法令が含まれると解したとしても,それによって,解散命令の根拠となる事由が過度に広がって,宗教法人ないしその信者らの信教の自由が害されることとなるおそれがあるとはいえない。」というが,実際には,原決定が民法709条を含むとしたことで,解散事由が過度に広がっているのが現実であり,そもそも憲法31条の観点から見れば論外である。この点については,上記1(6)で詳論済みであり,再論しない。
 3 まとめ
   以上,民法709条の前提に「他人の権利等を違法に侵害してはならない」という禁止規範があり,不法行為は民法709条違反であって,法81条1項1号の法令違反行為に該当するとした原決定は,憲法31条違反及び判例違背の重大な誤りがあると言わざるを得ない。したがって,同号を根拠とする本件質問権行使は違法である。
   近代立憲主義に立脚する法治国家において,包括的で抽象的な禁止規範を私法の規定に読み込み,その違反を捉えて公法上の法令違反と構成し,刑事罰等の不利益処分を課すことは許されない。
第2 法人の行為判断基準及び本件適用上の誤り
 1 原決定の行為判断基準の不当性
  (1)東京高裁平成7年決定否定の不当性
    原決定(11頁~12頁)は,「宗教法人について」「行為をしたこと」(法81条1項柱書及び同項1号)について,
     東京高裁平成7年決定は,宗教法人オウム真理教に対する解散命令申立事件という個別事案において,当該事案の事実関係に即して判断をするために上記説示をしたにすぎず,また,その特別抗告審である最高裁平成8年決定では,上記説示に係る点については何らの判断も示されていないのであるから,「宗教法人について」法81条1項1号所定の行為をしたとの事由が認められる場合が,東京高裁平成7年決定で示された場合に限定されるということはできない。そもそも,法81条1項柱書き及び同項1号は,「宗教法人について」,法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたとの事由があると認められる場合に,当該宗教法人の解散を命ずることができると規定しており,その規定上も,宗教法人自体が法令違反の行為主体となることを要件としていないのであるから,当該宗教法人の代表役員等が直接法令違反行為に関わっていない限り,当該宗教法人について法令違反の行為をしたとの事由(法81条1項柱書き及び同項1号)を認めることができないと解すべきとはいえない。
   とした上,
     宗教団体に,法人格が認められ,法人としての法律上の能力が与えられるのは,当該宗教団体が財産を所有,維持,運用し,その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するためであり(法1条),また,宗教法人の解散命令の制度が,法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(法81条1項1号)や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為(同項2号前段)があった場合等に,宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることから,司法手続によって宗教法人を強制的に解散し,その法人格を失わせることが可能となるようにしたものであることに照らすと,宗教法人と関わりを持つ者が法令違反行為を行った場合において,当該行為者の当該宗教法人における立場,その行為と当該宗教法人の業務又は事業との関連性(行為の目的及び態様,行為に至る経緯,行為の結果及びその効果の帰属等),その行為についての宗教法人の関与等の事実関係を踏まえて,当該行為者の法令違反行為が当該宗教法人の業務又は事業の執行又は運営として行われたものと評価できるときは,特段の事情のない限り,その行為は,社会通念上,当該宗教法人の行為であるということができ,当該「宗教法人について」法令違反行為をしたとの事由があると認められることとなると解するのが相当である。
   として,ここでも,東京高裁平成7年決定が示した行為要件判断基準「宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為」を事例判例として安易に退け,民法715条の使用者責任類似の緩和した基準を適用すべきであると言う。
     まず,東京高裁平成7年決定の行為要件判断基準は,事件の組織構図がオウム真理教事件とは異なる明覚寺事件でも踏襲されており,決して事例判例ではない。
     単に法人に損害賠償責任を負わせるに過ぎない使用者責任と宗教法人解散命令という極めて重大な処分とでは,責任原因とされる行為に関する行為要件判断基準の厳格さが同等であって良いはずがない。前者では,「報償責任」の名の下に実質的に無過失責任の運用がなされているのが実態であるが,無過失責任は論外にしても,宗教法人が監督者としての過失責任をもって解散命令という重大な処分が下されるようなことがあってはならず,これは信教の自由に対する著しい侵害である。宗教法人に対する解散命令の原因とされる行為は,社会通念に照らし,誰がどう見ても宗教法人の行為と看做されるべき実態がなければならない。宗教法人の代表役員等の幹部役職員の具体的関与事実がなくても,広く「宗教法人と関わりを持つ者」の行為を法人の行為と評価し得るとする原決定の上記基準が適正手続保障及び信教の自由を著しく害するものであることは明らかである。代表役員等の幹部役職員の関与がないにもかかわらず,信者,末端職員はおろか宗教法人と関わりを持つ外注業者が法人のために行ったとされる行為が法81条1項1号に該当する法人の行為とされ,それが原因で法人解散命令が出されるなど決してあってはならない。したがって,東京高裁平成7年決定の基準が示す通り,宗教法人の代表役員等の幹部役職員が法人の業務として具体的に関与した事実の存在は,法81条1項1号の適用の前提として絶対に必要不可欠である。同決定が定めた基準は,決してオウム真理教事件に対応した個別事例の判断ではなく,中でも「代表役員等が」という行為者限定はその根幹をなす要件であり,これは宗教法人解散命令という重大な不利益処分の性格から来る論理的帰結である。
  (2)旧商法58条1項3号との比較
    原決定(11頁)は,
     被審人は,会社の解散命令の事由については,旧商法58条1項3号で,行為の主体が「業務ヲ執行スル社員又ハ取締役」(会社法824条1項3号では「業務執行取締役,執行役又は業務を執行する社員」)に限定されていることを指摘する。
     しかし,行為の主体を具体的に限定している旧商法(会社法)の上記規定をもって,異なる文言で規定されている法81条1項1号について,行為者を代表役員ないし幹部役職員に限定すべきことの根拠とすることはできない。
   というが,最高裁判所平成8年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁(以下,「最高裁平成8年決定」という。)は,「法81条に規定する宗教法人の解散命令制度は,・・・会社の解散命令(商法58条)と同趣旨のものであると解される」としており,宗教法人と会社法人の解散命令が同旨であるのであれば,両者の間で,法人解散事由の原因行為に係る行為者要件に格差を設ける合理的理由などない。本来,法人は事実行為の行為主体になり得ないにもかかわらず,「個人の行為を捉えて法人の行為と看做すためには,法人組織の意思決定の中枢を担う役職者の行為があることを要件とすべき」との政策判断から旧商法58条1項3号が規定されたことは明らかであり,同立法趣旨は宗教法人にもそのまま適用されるべきである。
 2 本件質問権行使の行為要件欠缺
   万一,不法行為が法81条1項1号の法令違反に当たるとしても,原決定が挙げる本件宗教法人に係る22件の民事訴訟事件中,代表役員等の幹部役職員はおろか,末端の法人職員が関与した事実は1件もないのであるから,法人の行為要件に該当する行為自体が存在せず,したがって,本件質問権行使は違法である。
                                  以上


令和6年(ソラ)第10150号 即時抗告申立事件
申立人 X1
       抗告理由補充書
                            令和6年4月23日
東京高等裁判所民事部 御中
                  申立人代理人弁護士 B
                  同         C
                  同         D
 標記事件に関する申立人の抗告理由(補充)は下記の通りである。
         記
第1 宗教法人法第78条の2第2項違反
   原決定(17頁)は,
     本件報告徴収の実施に当たり,通知人は,宗教法人審議会に対し,報告を求める事項及び理由を示して諮問をし(法78条の2第2項,第3項),宗教法人審議会においてその審議がされ,その意見が答申されて,通知人がその意見を聴取したことが認められる(参考資料34~54)
   と言う。
    しかし,通知人は,本件各報告徴収・質問権行使に関する宗教法人審議会の議事録詳細(以下,「本件各議事録詳細」と言う。)を非公開にしており,上記「諮問」の結果どのような「審議」,判断がなされたのか,それらに不合理な点はなかったのか,その一切が不明である。
    即ち,同審議会の各委員は,それぞれの専門的知見から賛成意見あるいは反対意見を述べ,議論を行い,同審議会としての「意見」を通知人に対して述べるに至ったはずであるが,これらの審議状況及び判断の過程が全く明らかになっていない。
    宗教法人法(以下,「法」と言う。)78条の2第2項が報告徴収・質問権行使を宗教法人審議会の「必要的諮問事項」(乙77「逐条解説宗教法人法第4次改訂版」361頁2行目~3行目)とする慎重な手続を定めた趣旨は,対象となる宗教法人の信教の自由の重要性及び“宗教”という領域の専門性に鑑み,宗教に関する学識経験者等を擁する同審議会の専門的知見に基づく意見を尊重して所轄庁が総合的判断を行うことで,その権限行使の公正性ないし合理性を確保するためであった(憲法20条1項,法1条2項,法78条の2第4項,法84条,乙84:最高裁平成4年10月29日判決「伊方原発訴訟」,乙85「参議院法制局資料」)。
    そのため,法78条の2の立法過程においても,所轄庁の権限行使の公正性を確保するべく,宗教全般に関して高度な専門的学識経験を有する多数の委員から構成される宗教法人審議会の「意見」は,基本的に尊重されるべきと述べられている(乙77「逐条解説宗教法人法第4次改訂版」360頁10行目~361頁7行目)。
    また,報告徴収・質問権行使は,宗教法人に対する極めて重大な不利益処分である解散命令の前提となる国の権限行使であるため,この権限が公正に行使される必要性は極めて高い。
    これと関連して,前掲最高裁平成4年10月29日判決(乙84)は,
       原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
       原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟においては,右判断に不合理な点があることの主張,立証責任は,本来,原告が負うべきものであるが,被告行政庁の側において,まず,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議において用いられた具体的基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,被告行政庁が右主張,立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。
   と述べている。
    この事例と宗教法人法に基づく報告徴収・質問権行使の例を比較すると,法が宗教法人審議会への諮問を必須とした趣旨は,原子炉安全専門審査会に求めたものと同じである。また,宗教法人審議会の調査審議や判断の過程の具体的内容が表れた資料は所轄庁がすべて保有しており,証拠の偏在性の観点からも上記事例と同じ状況と言える。
    したがって,所轄庁による報告徴収・質問権の行使が公正になされたかについての裁判所の審理・判断は,宗教法人審議会の専門的な審議及び判断を基にしてされた行政庁(通知人)の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,「当該報告徴収・質問を行うことは相当である」とした宗教法人審議会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤や欠落があり,行政庁(通知人)の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,行政庁の判断に不合理な点があるものとして当該報告徴収・質問権行使は違法(憲法20条1項,法78条の2第2項)と解すべきである。
    また,行政庁がした上記判断に不合理な点があることの主張・立証責任は,本来,不合理性を主張する被処分者側が負うべきものと解されるが,宗教法人審議会の調査審議・判断の過程に関する資料はすべて行政庁(通知人)の側が保持しているため,行政庁の側において,まず,その依拠した宗教法人審議会の調査審議及び判断の過程等,行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠・資料に基づき主張・立証する必要があるというべきである。したがって,行政庁がこの主張・立証を尽くさない場合には,行政庁がした判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。
    ところが,前述の通り,本件において通知人は本件各議事録詳細を開示しておらず,本件で通知人が提出した資料(参考資料34~54)のみからでは,同審議会の本件各報告徴収・質問権の行使に際する調査審議及び判断の過程に係る具体的状況は全く分からない。
    しかも,本件においては本件各議事録詳細がたまたま証拠提出されていないというわけではなく,現在もこれらは意図的に隠されているため,問題は深刻かつ重大である。
    本年3月12日の参議院総務委員会において,F参議院議員は,本件各議事録詳細が公開されていないのは「信教の自由の観点から問題」だと述べ,本件各議事録詳細の公開を求めた。しかし,これについて文化庁のG審議官は,裁判所の判断が確定するまでの期間は「議事要旨を公開しないことが全会一致で決定されている」と答弁し,議事要旨すら非公開とする旨述べている(乙86)。
    このように,本件各議事録詳細を通知人側がひた隠しにする態度に対しては,宗教法人審議会が本件各報告徴収・質問権行使に際して十分な資料及び専門的な知見に基づく中身のある調査審議・判断を行った実体が存在しないという強い疑念を持たざるを得ない。
    実際,宗教法人審議会内部の異論に対し文化庁が「内閣が飛んでしまう」と訴えて合意形成を図ったとされる旨の報道があり(乙35),宗教法人審議会委員の1人が本件宗教法人に対する解散命令請求は政治日程に左右された政治的意図が絡むと批判している旨の報道もなされている(乙36)。これらの報道内容が事実であるとすれば,同審議会では反対意見が出たはずであり,それが如何なる議論・判断を経て「全会一致」となったのかによっては,「全会一致」の「意見」(法78条の2第2項)自体が不合理であると判断される場合もあり得る。たとえば,「内閣が飛ばないようにする」との政治的配慮を理由に本件報告徴収・質問を行うことを是としたのであれば,そのような宗教法人審議会の判断が不合理であることは明白である。
    したがって,通知人は,本件各議事録詳細を開示し,上記のような不公正な理由による違憲違法な宗教法人審議会の審議,判断はなされておらず,不合理な点がないということを立証する責任がある。通知人による本件各議事録詳細の開示が行われず,法78条の2第2項の要件充足性の判断を十分に行い得ない状況下で,被審人に対して過料が科されるとすれば,適正手続保障なしに不利益処分が科されることになり,不当である(憲法31条違反)。
    そこで,被審人の防御及び法78条の2第2項の要件充足性の判断のためにも,被審人は,当抗告審において,通知人が所持する本件各議事録詳細をすべて開示するよう通知人に求める。
    本裁判は非公開であり,裁判所及び被審人に本件各議事録詳細を開示したとしても,本件各報告徴収・質問権行使に際して宗教法人審議会において適法かつ合理的な審議・判断が行われていたのであれば,通知人においてこれを開示しない理由は何ら存在しないはずである。現に,被審人は,これまで通知人が提出してきた証拠について守秘を貫き,一切漏洩してこなかったし,記者会見等で一般に公開する内容は法律論に関する部分に限定するという配慮をしてきたものである。通知人が本件裁判においてまで本件各議事録詳細を敢えて開示しないとすれば,まさに上記乙35及び乙36で報じられているように,本件報告徴収・質問権行使に関する通知人あるいは宗教法人審議会の判断が政治的な意図による恣意的で不合理なものであったことが強く推認されるところである。
第2 被審人が,本件報告徴収において本件宗教法人が通知人から報告を求められた事項の一部について報告をしなかったこと(本件不報告)には,実質的にみて正当な理由があること
 1 原決定の要旨
   原決定(18頁)は,
     当裁判所は,別表不報告事項一覧表の「不報告事項」欄記載の各事項について,法88条10号に基づき被審人を過料に処すべきか否かに関し,同一覧表の「結論」欄記載のとおり,それぞれ判断するものである
  と言う。
   以下では,被審人の不回答理由(大別して8種類)に関する原決定の判断(19頁5行目~27頁14行目)に対する被審人の反論を述べ,上記一覧表の「結論」欄に記載された内容に対する被審人の反論は本書面の第3で述べる。
 2 不回答理由「①」について
  (1)法78条の2第3項違反
    所轄庁が報告徴収・質問権行使をする際には,必ずその「理由」を「宗教法人審議会に示して」諮問しなければならない(法78条の2第3項)。
    この点,原決定は,報告徴収・質問権の行使について,「客観的な資料を広く,かつ,十分に収集」し(19頁20行目~21行目),「幅広い事項」に関し報告を受けることを要する理由として,
      仮に解散命令の確定によって宗教法人の清算手続が行われれば,信者らが当該宗教法人に帰属する財産を用いて行っていた宗教上の行為を継続することに支障が生じることがあり得る(20頁24行目以降)
   とか,
      通知人は,本件宗教法人について,法81条1項1号に基づく解散命令を請求することが必要でやむを得ないものであるかを検討するため(21頁17行目以降)
   との理由を挙げる(以下,「原決定の示した理由」と言う。)。
    要するに,所轄庁は,解散命令という重大な不利益処分が宗教法人ないしその信者らの活動に対し何らかの支障を生じさせ得ることについて慎重に配慮すべきであり,いわば“疑わしきは罰せず”という真っ当な判断を行うためにも,その前提として事前に詳細な調査がなされるべきであると言うのである。
    しかし,通知人は本件報告徴収に際し,宗教法人審議会に対して原決定の示した理由を1度も示していない(参考資料34~40の「報告を求める事項及びその理由」欄参照)。それどころか,通知人の姿勢はむしろ原決定の姿勢と真逆であった。
    通知人は,本件報告徴収・質問権行使から令和5(2023)年10月13日の解散命令申立てに至るまで,最初から「解散命令ありき」の立場から一貫して“疑わしきは罰する”とも言うべき極めて不公平かつ不公正な姿勢を貫いてきた。たとえば,通知人は本件宗教法人に対する解散命令申立てに際し,元信者とされる背教者の陳述書を300通近く作成して証拠提出した一方,本件宗教法人の現役信者には一切聴き取りを行わず,現役信者の陳述書は1通も証拠提出していない。また,2022年12月9日の日本経済新聞(電子版)によれば,当時は本件宗教法人に対して初回の報告徴収・質問権行使がされた頃であったが,このような予断の許されない時期において,文化庁の担当者は「裁判所でひっくり返されないように証拠を固める」と発言したというのである(乙87)。当初から通知人に公平公正性など皆無であり,一方的で偏った資料集めしか行われていないのである(乙17の6)。
    以上の通り,通知人が本件報告徴収に関する宗教法人審議会への諮問の際に示した「理由」には原決定の示した理由は含まれておらず,通知人が原決定の示した理由により本件報告徴収・質問権行使をすることは違法である(法78条の2第3項違反,憲法31条(適正手続保障)違反)。
    したがって,原決定は誤りである。
    また,原決定(19頁)は報告徴収・質問の範囲について,
      解散命令事由を基礎づける事実の認定に直接結び付く資料のみならず,事案の解明や背景の理解に当たって前提となる当該宗教法人に関する基礎的な資料も広く含まれると言う。
      しかし,「事案の解明や背景の理解に当たって前提となる当該宗教法人に関する基礎的な資料」という内容では,解釈次第で宗教法人のが所持・保有する全資料が含まれ,事実上報告徴収・質問の対象範囲に制限がなくなる。このような解釈は,「必要な限度において」と規定し報告徴収・質問の対象範囲を限定的にした法78条の2第1項柱書の趣旨を没却するものであり不当である。
      したがって,通知人が主張する「不法行為の組織性,悪質性,継続性」と関係がない報告徴収・質問に対しては開示・回答する理由は一切なく,不回答理由①は正当な理由として認められる。
  (2)コンプライアンス宣言関連資料の報告の必要性は,通知人自身が明確に否定している
     原決定(21頁)は,
       コンプライアンスの確保に向けた取組の内容及び実効性等に関する事情についても,本件宗教法人からの報告を求めることが適当であったといえる。
    と言う。
     しかし,これは明白な誤りである。
     なぜなら,通知人自身が「本件宗教法人がコンプライアンス宣言を発出したことは,法81条1項1号及び2号前段所定の解散命令事由該当性の判断を左右するものではない」と述べ,コンプライアンス宣言関連資料を解散命令請求裁判において無価値と考える旨を表明しているからである(乙88:36頁下から10行目~9行目)。
     なお,通知人の本音は,調査すればするほど通知人の言う「組織性,悪質性,継続性」における「継続性」が本件宗教法人に認められないことをはっきり認識するようになったため,上記のようなご都合主義の主張変更を行ったものである。
     もっとも,通知人自身が「解散命令事由該当性の判断とコンプライアンス宣言は関係ない」と述べている以上,通知人が行ったコンプライアンスに関する報告徴収・質問に対して被審人に回答義務がないことは明らかである。
     したがって,コンプライアンスに関する報告徴収・質問について不回答理由「①」が正当な理由であることは明らかであり,被審人が過料に処される謂われはない。
 3 不回答理由「②」について
  (1)国家公務員法100条1項について
    原決定は,単なるプライバシー保護を理由とする不回答には正当な理由は認められないと述べ,その理由として国家公務員の守秘義務(国家公務員法100条1項等)を挙げる(22頁10行目以降)。
    しかし,原決定の上記判断は根本的に誤っている。
    原決定は,要するに,国家公務員は守秘義務を守るため当該国家公務員以外にプライバシーに関する情報が漏れることはないと言いたいようであるが,プライバシーの権利は憲法13条が保障する基本的人権である。即ち,プライバシーの権利とは,対国家的権利であって,プライバシーに関する情報を知られたくない第一義的存在は国である。しかも,個人が如何なる信仰を持っているかを国に知られたくない「信仰告白の自由」は,信教の自由(憲法20条)の一内容を構成する極めて重要な人権である。もちろん,H弁護士連絡会(以下,「H弁連」と言う。)のような悪質な団体に信者のプライバシーに関する情報が渡らないように慎重に取り扱うことも重要であるが,信者が最も情報を知られたくない相手はまずもって国である。仮に,被審人が信者の個人情報を含む報告をしたとして,同報告の中に,官僚,裁判官,検察官,警察官,その他の国家・地方公務員の氏名やその家族の氏名等のプライバシーに関する情報が含まれる可能性があるが,昨今の状況下で,彼らが職務上如何なる不利益な扱いを受けるかを想像されたい。本件宗教法人の信者らは職場,学校,地域社会のみならず,国や地方自治体からもあからさまな差別を受ける被害を現実に被っているのである。本件宗教法人は,信者のプライバシー情報を保持している以上,信者らを守るべき義務をも負っているのであり,本件宗教法人の代表者である被審人において,信者のプライバシーに関わる情報を国に提出することを拒絶するのは当然である。
    通知人において,信者らが不利益を受けることが明らかな報告徴収を何度も執拗に繰り返したことは,憲法違反であって,違法な質問権の行使である。そして,この問題に関しては,国家公務員法100条1項は無関係である。
  (2)通知人とH弁連の緊密な連携
    原決定(22頁16行目~17行目)は,
      報告徴収において収集された情報が,法令等の根拠に基づかずに,法の定める目的の範囲を逸脱して使用される具体的なおそれがあるということはできない
   と言う。
    しかし,乙47の1~3によれば,本件報告徴収・質問権行使あるいは解散命令請求に関して通知人とH弁連が緊密に連携していたことは明らかであり,「緊密に連携」している以上,報告徴収において収集された情報がH弁連に渡るおそれがあることは明らかである。
    また,原決定は,プライバシーが侵害される危険性について「具体的おそれ」などという判断基準を採用しているが極めて不当である。
    本件で問題となっているのは,報告徴収・質問における,宗教法人ないし信者のプライバシーを守るための不回答を過料に処すべきかどうかであるが,情報漏洩すなわちプライバシーのおそれがある状況でも信者の情報を国に渡さなければ過料に処されるというのは明らかに酷である。「具体的」おそれがあるとまでは言えなくとも,プライバシーに関する情報を知られたくない敵対的組織と緊密な繋がりのある相手に対する情報提供を拒むのは至極当然のことである。
    したがって,プライバシーが侵害される危険性については,諸般の事情を総合的に判断して,相当程度のおそれがあると言えるならば,当該情報に関する報告徴収・質問に対する不回答には正当な理由があると解すべきである。
    本件で通知人は,本件報告徴収ないし解散命令請求について,H弁連と緊密に連携しており(乙47の1~3),H弁連は本件宗教法人壊滅を目的として組織された左翼的思想集団であるから(乙17の2の1),解散命令請求に際して通知人がH弁連を利用すべくあらゆる資料を提供しながらアドバイス等を求めるおそれは十分に相当程度存在する。
    したがって,不報告理由「②」は正当な理由であり,被審人を過料に処すのは誤りである。
  (3)マスキングについて
    原決定は,
      被審人は,本件不報告の事項の中には,その事項を報告すると信者の信仰に関わるプライバシー(信仰告白の事由)を損なうものがあったと主張するが,仮にそのような懸念が具体的に存在するのであれば,その事情を説明しつつ,必要かつ合理的な範囲で提出資料の一部をマスキングするなどして報告をすることもできたはずであるから,単にプライバシーに当たるとのみ主張して,当該事項について一律に報告をしなかったことが正当であるということはできない。
   と言う。
    しかし,マスキングを行うということは,その前提として,プライバシーの観点から答えたくない,あるいは守秘すべき事項に関する報告徴収・質問を通知人が行ったことを意味するのであり,そもそもこの報告徴収・質問権行使が違憲・違法かつ不当である。
    したがって,マスキングの責任を宗教法人ないし被審人側に負わせるのは責任転嫁に他ならず,原決定の判断は誤りである。
    そもそも本件報告徴収に際して通知人は「プライバシーに関する情報を含むならばマスキングも可」等といった内容を被審人に対して述べたことはなく,被審人は,本件宗教法人ないし信者らのプライバシーに関する情報を含む内容について一方的に報告徴収を受けたのであり,プライバシーに関する情報を渡してしまわないか細心の注意を払ってすべての該当箇所にマスキングを施した上で回答を行うという“サービス”を行う選択をせず,プライバシー保護を理由に不回答としたとしても,これについて正当な理由が認められるべきことは明らかである。
  (4)以上の通り,プライバシーに関する報告徴収についての不回答には正当な理由があり,このような報告徴収について被審人を過料に処すのは不当である。
 4 不回答理由「③」について
   原決定(23頁)は,
     被審人が既に報告済み等と主張するものの多くは,通知人が,前の報告で本件宗教法人から報告を得られなかった事項について再度の報告を求めたものや,本件宗教法人からの前の報告を前提としつつそれに関連する事項を追加して報告を求めたものであったと認められる
  と言う。
   しかし,前の報告で報告を得られなかった事項に関する再度の報告徴収については,そもそも前の報告において不回答理由「③」以外の7種類の理由のうちいずれかの理由に該当したため不回答となっていたものである。したがって,被審人の不回答には正当な理由がある。
   また,追加の報告徴収についても,基本的に不回答理由「③」以外の7種類の理由のうちいずれかの理由に該当したため不回答となっていたものである。したがって,被審人の不回答には正当な理由がある。
   なお,原決定によっても「【別表】不報告事項一覧表」(以下,「一覧表」と言う。)の「1(6)」は不回答理由「③」の正当性が認められ,そもそも「不報告」自体に当たらないと判断されている。
 5 不回答理由「④」について
   原決定(23頁23行目以降)は,
     本件宗教法人において,そもそも当該資料が作成されていない,又は既に廃棄されたなどの事情で当該資料を所持していないときは,本件報告徴収に応じて資料を提出することができず,その不報告には正当な理由があるといえるから,これを法88条10号所定の過料事由に当たるということはできない。なお,過料が制裁として被審人に対して財産上の不利益を課すものであることに鑑みると,上記場合において,当該資料の存否が不明であるときは,当該資料の不提出をもって過料事由があると認めるのは相当でない。
  と述べており,妥当である。
   もっとも,通知人の本件報告徴収はこれと真逆であり,違法不当である。
   たとえば,通知人は一覧表「1(1)」にある通り,被審人に対して「組織規程」の提出を求め報告徴収を行ったが,被審人は組織規程を成文としては有していなかったため,不回答理由「④」によりこれを提出することができなかった。
   それにもかかわらず,通知人は「『組織規程』の提出は可能であると考えられる」などという意味不明の内容を述べて報告を求め(参考資料31「(別添2)1(1)〈報告を求める理由〉」),しかも「報告をしなかった場合には」「当該法人の代表役員等を10万円以下の過料に処するとされていることを申し添えます」などと述べ,過料の制裁を盾に強い圧力をかけて何度も同一内容の報告徴収を繰り返した(参考資料31の1頁「1」)。
   この点について原決定は,上記の通り「当該資料の不提出をもって過料事由があると認めるのは相当でない。」と述べており,このようなそもそも回答義務のない事項について,「報告しないと過料に処される」との“虚偽”を述べて本件報告徴収を行った通知人の高圧的態度ないし思い上がりは,深く反省し,改められるべきものである。
   報告徴収の被処分者において「そのような資料はない」と回答したものについて,「あるはずだ」などと述べて過料の制裁を盾に何度も同じ報告徴収・質問を行政庁が行うことは,被処分者としては相当強い圧力を感ずるところである。原決定のように,「存在しない」との被処分者の回答を前提にして検討するのが公平公正な判断過程であり,あくまでも行政庁の一方的な思い込みを前提に「あるはずだ」などとして不当な要求を強制するのは,犯罪捜査にも等しい強制力を帯びているとも評価できる(法78条の2第6項の趣旨に反する)。
   また,このような行政庁の横暴とも言える権限行使は,まさに職権の濫用であり,許される余地はない。
 6 不回答理由「⑤」について
   原決定(24頁20行目以降)は,
     各通知では,報告を求める事項を多数列挙しつつ,それぞれ2週間から4週間程度の提出期限を設けていたことが認められる(参考資料27~33)。これらの提出期限は,通知人において,本件宗教法人の作業に要する期間を考慮して定められたものと一応考えられる
  と言うが,大きな誤りである。
   通知人が定めた提出期限は,「本件宗教法人の作業に要する期間を考慮して定められたもの」では全くない。
   上記の通り,通知人の行った本件各報告徴収・質問権行使ないし解散命令請求は,「政治日程に左右された政治的意図が絡む」と宗教法人審議会委員の1人が批判しているところである(乙36)。
   それ故,通知人が設定した提出期限は,むしろ「本件宗教法人の作業に要する期間」を考慮せず,自己都合により一方的に設定されたものであった。原決定が「一応考えられる」などという控えめな評価をせざるを得なかったのは,たとえば一覧表「2(1)ア」の「領収書」等に関して提出期限の妥当性を検討すると,それが如何に不合理な期間設定であるか一見して判ったためである。
   本件宗教法人が本件報告徴収への対応に割ける人的・物的リソースは,通知人が本件報告徴収を行うために国が用意したそれと比較すれば,圧倒的に少ないというのが実際である。7度にわたる本件報告徴収に対して回答を用意する作業は,単純な印刷作業1つをとっても大変な作業であり,本件宗教法人にとって相当な負担を課すもので,実際,回答を準備している期間の通常業務は著しく滞ることとなった。
   ましてや,仮に,通知人が要求した内容をそのまま用意するべく本件宗教法人にて作業を進めていたとすれば,それは通常業務が滞るどころではなく,通知人が設定した提出期限内に回答を行える回すらそもそも1度もなかったに違いない(令和6年1月29日付意見陳述書(6)29頁5行目~32頁下から2行目)。
   要するに,通知人の期間設定は,すべての回において無理難題の要求であった。
   それで,本件宗教法人は本件各報告徴収に対して,不回答理由「⑤」の観点からも回答範囲を適切に絞った上で,毎回提出期限最終日に何とか回答をしてきたのである。提出期限内に報告できたこと自体が,本件宗教法人にとっては,まさに精一杯のことであった。
   以上の通り,そもそも通知人による毎回の報告徴収・質問の分量及び提出期限がどちらも著しく不当であったのであるから,不回答理由「⑤」による不回答は正当であり,この不回答理由による不回答部分に対して過料を科すことは誤りである。
 7 不回答理由「⑥」について
   原決定(25頁)は,
     本件宗教法人が裁判手続で被害者と主張する者と係争中であるとしても,そのことが,通知人による本件報告徴収に対して応答しないことを正当と認めるべき事情になるとはいえない。
  と言う。
   しかし,本件宗教法人が述べた不回答理由「⑥」については,実はこれと全く同じことを政府も述べていたところであり,「係争中」を理由とする係争中案件に関する情報の不開示に正当な理由があることは明白である。
   即ち,令和5年11月2日,I参議院議員が質問主意書を参議院に提出し法81条1項1号の「法令」の特定を求めたところ,政府は同月14日付け内閣総理大臣答弁書において,
     現在,裁判所に係属中の事件に関わる事柄であり,これらを明らかにすることは,今後の審理及び裁判に影響を及ぼすおそれがあることから,お答えすることは差し控えたい。
  などと述べた(乙80)。
   このような政府の答弁は許容され,本件報告徴収に対する本件宗教法人の全く同趣旨の回答には「正当と認めるべき事情」がないと判断されるのでは,甚だしい不公平であり不合理な差別である。
   したがって,不回答理由「⑥」に基づく不回答に対して過料が科されるべきではない。
 8 不回答理由「⑦」について
   不回答理由「⑦」は,既に入手済みの内容について被審人に回答・提出義務はないという内容であるから,結局のところ不回答理由「③」と同じ趣旨である。原決定は不回答理由「③」の正当性を認めている(23頁3行目以降)のであるから,不回答理由「⑦」も不回答の正当な事情となるのは明らかである。
 9 不回答理由「⑧」について
   原決定(27頁)は,
     当該宗教法人が所轄庁に対し,他の関係省庁に報告・提出済みであることを具体的に回答し,その回答を踏まえて,所轄庁において,当該他の関係省庁からその報告内容を聴取し,又はその提出資料を入手することができたのであれば,所轄庁がする報告徴収・質問権の目的は,実質的に達せられていたということができる。
  と言う。
   そして,本件宗教法人において不回答理由「⑧」を示した箇所については,本件宗教法人が所轄庁に対し,他の関係省庁に報告・提出済みであることを具体的に回答したことになり,また,所轄庁(通知人)は国である以上,他の関係省庁において保有されている資料に関しては,過料の制裁のある報告徴収・質問権行使によらず,まず自ら資料を収集すべきである(乙77「逐条解説宗教法人法第4次改訂版」358頁末行~359頁2行目「一項の規定により,所轄庁が宗教法人に報告を求め・・・中略・・・る場合には・・・中略・・・事前の情報収集の努めることが必要であり(平成八・九・二 庁文宗一三七)」)。
   したがって,被審人の不回答理由「⑧」は正当な理由といえるため,これを過料に処すのは誤りである。
第3 一覧表に記載された各項目の「被審人の主張についての検討」及び「結論」欄に対する反論
 1 「1 組織・運営関係」について
  (1)「項番号1(4)」について
   ア 原決定は,不回答理由「①」を採用できないとするが,上記「第2 2」で主張した通り不回答には正当な理由がある。被審人は500通以上の責任役員会及び評議員会議の議事録を提出しているが,それらの議事内容は,宗教法人法及び被審人の規則に定めのある事項,すなわち評議員の選任,予算,決算,財産処分,財産の取得などの他,宗教的事項に関するもので,そもそも不法行為とは何の関係もない。中でも500通のうち200通以上は教会施設として使用する不動産の購入に関する議決であって,明らかに不法行為と何の関係もない。また,通知人がこれらについての報告徴収を必要とする合理的理由を示したことはない。また,宗教法人審議会において誰がどのような意見を述べてどのように了承の決定をしたのかも公開せず秘匿したままで,通知人が必要な範囲で正当に報告徴収が行われたとする根拠はない。よって,原決定は誤っている。
   イ 原決定は,不回答理由「③」につき理由がないとするが,既に提出した議事録によって議事内容は把握できる。添付書類の提出を必要とする理由がない。通知人は「必要」と述べるのみで具体的な事実を指摘して必要性を説明したことがなく,質問権の濫用であることは明らかである。よって,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不回答理由「⑤」につき,「その作成・提出に甚だしい時間と労力を要するとまでは認められない」とするが,上記の通り不回答は正当である。
     また,添付書類は用紙の形状もまちまちで,それが混在したり,ステイプルや糊で綴じたものがある上,分量も大部に及ぶものなど,提出のための実際の作業は繁雑で甚だしい時間と労力を要する。よって,不報告には正当な理由がある。
     また,そもそも報告徴収は本項目だけではない。特定の項目に限った時間と労力の程度だけで不回答の正当性を判断することは間違いであり,不当である。
  (2)「項番号1(5)」について
   ア 原決定は,不回答理由「①」を採用できないとするが,上記の通りで不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不回答理由「②」を採用できないとするが,上記「第2 3」で主張したとおり,不回答には正当な理由がある。個人情報が記載された賃貸契約書を国に提出すること自体がプライバシーを害することはもとより,通知人からH弁連に情報漏洩の危険性があり,それによる被害は第三者にも及ぶものである。
  (3)「項番号1(7)」について
   ア 原決定は,不回答理由「①」を採用できないとするが,上記の通りで不回答には正当な理由がある。会員登録に関する事項と不法行為の関連性など常識的に考えられないことである上,通知人は報告の合理的な必要性を示していない。被審人に関する情報を無制限に入手しようとするもので質問権の濫用であり,また犯罪捜査の手法にも等しく,不当である。
   イ 原決定は不回答理由「②」を採用できないとするが,上記「第2 3」で主張したとおり不回答には正当な理由がある。通知人は,「報告徴収等において信者等の個人情報に関わる情報を含むことは法が当然予定している」と主張するが,上記の通り,プライバシー保護に関する考え方が根本的に間違っている。法律は憲法の上にあるものではない。
 2 「2 予算・決算・財産関係」について
  (1)「項番号2(1)」について
   ア 原決定は,不回答理由「①」を採用できないとするが,上記の通り不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り不回答には正当な理由がある。
     通知人は,被審人の信者が所属する約300の教会の会計書類の全ての提出を求めるが,これらには信者及び職員のプライバシーに関わる情報が大量に含まれている。これらの提出要求は本件宗教法人の信者等のプライバシーに対する無配慮からくるものであり,違憲違法かつ不当である。不法行為との関連性で必要だと主張するのであれば,何教会の誰に関する情報を提出するようにと具体的に求めればよいのであって,明らかに必要とする範囲を超えており,質問権の濫用である。
   ウ 原決定は,不報告の理由④につき,「書類の一部は存在しないものの,一部は,存在するにもかかわらず提出をしなかったことが認められる」とするが,提出をしなかった書類の不報告の理由は①②⑤によるものである。よって,原決定は誤っている。
   エ 原決定は,不報告の理由⑤につき,「本項目で提出が求められる書類の全てについて,資料の作成及び提出に甚だしい時間と労力を要するとまでは認められない」とし,「証憑類については,その量が膨大で,短期間で写しを作成提出するのは著しく困難であった」と認めている。
     しかし,証憑類のみならず,予算・決算・財産関係で提出を求めた書類自体が膨大である。また,通知人が証憑類を含む膨大な書類の提出を受けて,それを精査することなど不可能であることは常識的に明らかであるのに,通知人が提出不可能である報告徴収を意図的に行っていること自体,質問権の濫用であることに対して,原決定は何ら判断しておらず不当である(意見陳述書(3)及び(4))。
  (2)「項番号2(3)」1段目及び2段目について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
     通知人は,「報告徴収等において信者等の個人情報に関わる情報を含むことは法が当然予定している」と主張するが,上記の通り誤りである。海外宣教援助に関して報告を求める事項は,他団体との関係で守秘義務を負う事項に及んでいるが,その必要性について合理的な理由の説明もない。被審人ないし本件宗教法人に関するあらゆる情報を入手して,法令違反に該当する事実を探知しようとするものと言わざるを得ず,違法不当である(法78条の2第6項)。
   ウ 原決定は,不報告の理由⑧について採用できないとするが,上記「第2 9」で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
  (3)「項番号2(3)」3段目について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
     前記(2)同様で,被審人にはプライバシー保護の義務がある。
   ウ 原決定は不報告の理由③について「提出済のもの以外の資料の提出が求められているのであるから,理由がない」とするが,通知人が本項目において報告を求める事項は,既に回答していることを無視しており不当である(意見陳述書(3)及び(4))。
  (4)「項番号3(4)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記で主張した通り,不回答には正当な理由がある。
     通知人は,全ての預貯金口座の報告を求めるが,それらが不法行為と関係がないことは明らかである。通知人は「解散命令事由該当性を具体的事実関係に基づいて吟味する必要がある」などと主張するが詭弁である。「具体的事実関係に基づいて吟味する」というのであれば,まず具体的に,どの不法行為とのどのような関係性で,どの教会の預貯金口座を知る必要があるのか指摘すべきである。そのような「疑い」(法78条の2第1項柱書)もないのであれば,当該報告徴収・質問は違法である。
     なお,通知人はそもそも関連性のない報告徴収・質問を行っていたために不法行為と関係のある具体的事実を指摘することができないのであって,かかる報告徴収は理由がなく,質問権の濫用というべきである。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由⑤を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,原決定は「その報告に甚だしい時間と労力を要するものであるとは認められない」とするが,約300の教会の他,各部署の預貯金記録を7年間遡って資料作成することは膨大な労力と時間がかかる上,通知人による膨大な報告徴収は本項目にとどまるものではなく,質問権の濫用である。さらに,本項目で報告を求めた内容は,報告した別の会計資料を指摘してそこに記載されていることを述べているのであって,報告自体が不必要である(意見陳述書(3)及び(4))。原決定はこうした通知人の無用で不当な報告徴収の姿勢を無視しており,不当である。
  (5)「項番号3(5)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③について「報告済みであるとは認められない」とするが,本項目において報告を求める事項については,適切に報告を行っている。原決定は,通知人が事実誤認や決めつけに基づいて報告を求めた不当な報告徴収について無視しており,違法不当である。
  (6)「項番号2(6)」上段について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由③について「提出済のもの以外の資料の提出が求められているのであるが,理由がない」とするが,不報告の理由①,②,④及び⑤による正当な理由によって報告しなかったもの以外は全て報告している。よって,不報告ではない。
   エ 原決定は,不報告の理由④について「一部は,存在するにもかかわらず提出しなかったものと認められる」とするが,不報告の理由①,②及び⑤による正当な理由によって報告しなかったもの以外は,資料が存在しない。よって,不報告ではない。
   オ 原決定は,不報告の理由⑤を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,原決定は,「新たな資料の作成を求めるものではないから,理由がない」とするが,新たな資料の作成でなかったとしても,提出のための資料作成に膨大な時間と労力がかかるものは提出不能である。原決定は,項番号2①において,会計書類の証憑類については膨大な量になるから提出が困難であると認めている。しかし,証憑類は新たに作成するものではない。既に存在するものを写すなどして資料作成し提出することを困難と認めたものである。よって,本項目の報告徴収の事項について「新たな資料の作成でない」という理由で不報告とするのは不当な矛盾判断である。よって,原決定は不当であり,不報告には正当な理由がある。
  (7)「項番号2(7)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由③について「回答済であるとは認められない」とするが,本項目の報告徴収はもともと成約ビルについて賃貸契約を結んでいるという事実誤認から発生した報告徴収で,これに対する報告によって正しい認識を得たのであるから,それ以上の報告徴収の理由はなく,また不報告の理由①及び②にも該当するものであって,不報告には正当な理由がある。
  (8)「項番号2(8)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,本項目の報告徴収において「財産台帳に証券,保証金等の記載がない」,「不自然な処理が行われている」などと決めつけて不報告としているが,被審人は報告を行い,適切な処理を行っていることを示して点について,原決定は「採用できない」というだけでその理由については何ら示しておらず,不当である(意見陳述書(3)及び(4))。
  (9)「項番号2(9)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     J教会の不動産取得経緯について,被審人ないし本件宗教法人は詳細に説明をしており,また,不法行為とは何ら関係がないことは明らかであるにもかかわらず,通知人は不必要な報告を求めており,必要な範囲を超えた質問権の濫用である。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     J教会に所属する信者のプライバシーに関する報告徴収は許されない。上記の通り,通知人の「報告徴収等において信者等の個人情報に関わる情報を含むことは法が当然予定している」との解釈は誤りである。また「被審人はプライバシーの観点からどのような不利益が生じるのか具体的に説明していない」とも主張するが,上記の通り,国に個人のプライバシーに関する情報が開示されること自体,重大な不利益である。むしろ通知人こそプライバシー保護の利益より本件報告徴収が優先される合理的理由を全く説明しておらず,不当である。
   ウ 原決定は,不報告の理由③について「報告済みであるとは認められない」とするが,本項目において,通知人が不動産の取得家庭を「判然としない」としたのは勝手な決めつけである。被審人においては事実に沿って適切な報告を行っている(意見陳述書(3)及び(4))。通知人は適切な報告を受けながら,これを無視して,不法行為と何ら関係がなく,またプライバシーを侵害する質問を重ねるものであって質問権の濫用である。原決定は,こうした通知人の質問権濫用に何らの判断もせずに不報告としており,不当である。
  (10)「項番号2(10)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     通知人が報告を求める事項は,第三者である個人や団体との関係で守秘義務を負う事項に及んでいる。通知人は,その報告の必要性について合理的な理由の説明もしておらず,不当である。
   ウ 原決定は,不報告の理由③について「直接の回答はされていない」とするが,報告をおこなっているのであるから不報告ではない。
  (11)「項番号(11)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
  (12)「項番号(12)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     特に,本項目にいて不報告とする内容は,通知人が報告徴収を行った後の令和5年度予算に関する書類については,報告徴収を開始した後に作成されたものであり,報告徴収の理由とする22件の裁判とは何ら関係がないことが明らかで,質問権の濫用である。よって,不報告には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③について「提出済のもの以外の資料の提出が求められているのであるから,理由がない」とするが,不法行為と関係がなく,質問権の濫用であるもの以外については回答済である。また,令和4年度決算書を不法報告としているが,提出済である。よって,不報告ではない。
  (13)「項番号(13)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     不動産の取得と寄付に関する事項が不法行為と関係がないことなど常識的に明らかである。通知人は,報告徴収の理由を「解散命令事由該当性を具体的事実関係に基づいて吟味する必要がある」と主張するが,詭弁である。「具体的事実関係に基づいて吟味する」というのであれば,まず具体的に,どの不法行為とどの不動産が,どのような関連性があるのか説明し,報告の必要性を明らかにすべきである。これを明らかにせず行う報告徴収・質問は「疑い」すら欠くものであり違法である(法78条の2第1項柱書)。
     なお,もともと関連性がないために通知人は具体的事実を指摘することができなかったのであり,かかる報告徴収は理由がなく,質問権の濫用というべきである。
   イ 原決定は,不報告の理由③について「回答済の内容以外の報告が求められているのだから理由がない」とするが,そもそも,通知人の報告徴収は不動産の取得や寄付について「不自然な処理が行われている」と決めつけて質問をしたものであり,これに対して被審人ないし本件宗教法人は適切に回答を行い,不自然ではないことが明らかになったのであるから,その他の質問の要はない。よって,通知人の報告徴収は質問権の濫用であって,不報告には正当な理由がある。
 3 「3 献金関係」について
  (1)「項番号3(2)」について
   ア 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     通知人が報告を求める合意書類は,信者の個人情報や信仰上のプライバシーに関する情報が含まれており,被審人が報告を拒否する正当な理由がある。
  (2)「項番号3(3)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原審は,不報告の理由③について「本項目で求められている内容は,資料の提出ではない」とするが,報告徴収では「関係する資料を添付の上,報告されたい」としている。
     そもそも,本項目の質問は,献金がどのようなもので,信者がどのように納めているかというものであり,被審人ないし本件宗教法人は相当の報告を行っている。通知人はそれを理解していないだけであり,それは献金箱の形状に対する質問(報告徴収⑤3(1)①オ)と同じような本質から外れた無意味,不必要な質問である。
  (3)「項番号3(4)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③について「理由がない」とするが,通知人の報告徴収自体が,経理事務を理解せずに「判然としない」などと決めつけたもので,被審人においては報告を適切に行っている(「勘定科目」は収支計算書で明らかである。「経理処理の変更」は公益法人の会計処理の規定に基づく変更である。)。
     よって,不報告ではない上,通知人が行ったのは不必要な報告徴収である。原決定はこれを無視しており違法不当である。
   ウ 原決定は,不報告の理由⑧を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,原決定は,「その他の,法令に基づいて監督官庁に報告されているとは認められない」とするが,被審人は税法その他の法令に基づいて,各関係省庁の監督下で適正に行っている。「報告を行っているとは認められない」とされる根拠もない。また「仮に報告されていたとしても,そのことは本件報告徴収に応じないことの正当な理由に当たらない」というが,税法等に基づき適正に行っている行為に対して,22件の裁判事案との具体的な関係性などもなく行う報告徴収は,それこそ不回答理由「①」に関する本書面「第2 2」で述べた通り,不法行為と何ら関係のない質問権の濫用である。
  (4)「項番号3(5)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     本項目において通知人は「不明な点が多い」とするが,何がどう不明なのか何の説明もしておらず,決めつけにすぎない。さらに,金融機関との契約などは不法行為と何ら関係がないことは明らかで,かかる報告徴収は質問権の濫用である。
   イ 原決定は,不報告の理由⑧について,「その他の,法令に基づいて監督官庁に報告されているとは認められない」とするが,被審人は「外為法,税法その他の法令に基づいて,各関係省庁の監督下で適正に行っている。「報告を行っているとは認められない」とする根拠もない。また,「仮に報告されていたとしても,そのことは本件報告徴収に応じないことの正当な理由に当たらない」というが,外為法,税法等に基づき適正に行っている行為に対して,22件の裁判事案との具体的な関係性などもなく行う報告徴収は,それこそ不報告の理由①に述べるとおりに,不法行為と何ら関係のない質問権の濫用である。
  (5)「項番号3(6)」上段について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     特に,2023年1月以降の和解合意については,本件報告徴収の理由とする22件の裁判案件などとは何ら関係がなく,質問権の濫用である。よって,不報告には理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     和解合意書には本件宗教法人の信者のプライバシーに関する情報が含まれており,保護されるべき正当な理由がある。
  (6)「項番号3(6)」下段について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由④について「資料の提出のみを求めるものではなく,資料の有無にかかわらず報告を求めるものである」とするが,資料は存在しない上,①及び②の理由によって,不報告の正当な理由がある。
     なお,本項目の信徒会の成立経過,運営や活動については,報告①において詳細を報告しており,枝葉末節の報告徴収を意図的に繰り返すこと自体,質問権の濫用である。
  (7)「項番号3(7)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②をを採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由④について「資料の提出のみを求めるものではなく,資料の有無にかかわらず報告を求めるものである」とするが,資料は存在しない上,①及び②の理由によっても不報告の正当な理由がある。
     なお,本項目の信徒会の成立経過,運営や活動については,報告①において詳細を報告しており,枝葉末節の報告徴収を意図的に繰り返すこと自体,質問権の濫用である。
 4 「5 給与手当・退職金関係」について
  (1)「項番号5(1)」及び「項番号5(2)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由③を採用できないとするが,不回答理由「①」及び同「②」に係る以外の報告徴収には資料を提出し報告を行っている。したがって,不回答理由「③」は正当である。
   エ 原決定は,不報告の理由⑧を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,原決定は,「その他の,法令に基づいて監督官庁に報告されているとは認められない」とするが,被審人ないし本件宗教法人は税法,労働法その他の法令に基づいて,各関係省庁の監督下で適正に活動・報告を行っている。「報告を行っているとは認められない」とする根拠は一切ない。
     また,「仮に報告されていたとしても,そのことは本件報告徴収に応じないことの正当な理由に当たらない」というが,税法,労働法等に基づき適正に行っている行為に対して,22件の裁判との具体的な関係性などもなく行う報告徴収は,不法行為と何ら関係なく質問権の濫用である(不回答理由「①」)。通知人は,本項目の報告徴収の根拠として,本件宗教法人の職員が「わずかな小遣いを支給されるのみで,残りの給料は献金に回されていた」とする供述がある旨述べているが,これ自体が虚偽の主張である。通知人は,被審人ないし本件宗教法人から虚偽を指摘された後も,何ら具体的な反論を行っていない。虚偽を述べて報告を求めた悪質で違法な報告徴収であるにもかかわらず,原決定はこの事実を無視しており,不当である。
 5 「6 給与手当・退職金関係」について
  (1)「項番号6(1)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   ウ 原決定は,不報告の理由⑤を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     また,原決定は,「年度ごとの通知書件数,請求額合計,合計件数,合意額の一覧を提出していることに照らせば,本項目で求められる既存の資料(通知書等)の収集,提出のために,甚だしい時間と労力を要したものとは認められない」とする。
     しかし,本件宗教法人が提出した通知書数,件数,請求額,合意件数,合意額の合計一覧は,その年度の終了時に集計したものを統合しただけであり,過去に遡って通知書自体を収集し提出する作業とは作業内容が全く異なる。後者の作業には,甚だしい時間と労力を要する。集積されたデータがあるからといって,通知書の提出が容易であるということにはならないのであって,現実を無視した原決定は間違っている。
   エ 原決定は,不報告の理由⑦を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     原決定は,「被害者とされる側からの一方的な資料によることなく,本件宗教法人から提出される資料にも基づいて,多角的に調査・検討をすべきことは当然」と言うが,通知人が報告徴収に至る過程でH弁連と密接に連携する一方で,被審人ないし本件宗教法人及びその信者に対しては対話を拒否する差別的な扱いをし,公務員として中立公正性を欠く姿勢を取ってきたことは既に述べた通りである(また,意見陳述書(3)及び(4)も参照されたい)。原決定はこれら事実を無視しており,本項目について「被害者からの一方的な資料によることなく」,「多角的に調査・検討をすべき」とするのは明らかに不当である。
  (2)「項番号6(2)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由⑥を採用できないとするが,上記「第2 7」の通り,不回答には正当な理由がある。
     本項目に関連する裁判は,通知人が緊密に連携するH弁連の弁護士が代理人となる裁判であるため,その裁判に関わる事項について回答しないことには正当な理由がある。
     原決定は,通知人が中立公正性を欠きH弁連と連携し背教者らのみの声を聴取してきた事実や,本項目の報告徴収が裁判に及ぼす影響(具体的には被審人,本件宗教法人あるいはその信者が被り得る不利益)について何ら判断をしておらず,また,2023年11月14日付け内閣総理大臣答弁書がまさに係争中を理由に不回答を行った事実を一切考慮せず,不合理な差別的取扱いを行うものであり,極めて不当である。
 6 「7 本件宣言関係・教会管理運営関係」について
  (1)「項番号7(1)」について
   ア 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     通知書対策報告書には,通知人に関わった信者の個人情報等が記載されており,プライバシー保護のための報告拒否には正当な理由がある。
  (2)「項番号7(2)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由②を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
     さらに,本項目の「ガイドライン」を定めたのは,通知人が初回の報告徴収を行った令和4年11月22日以降であり,報告徴収の理由とする22件の裁判案件とは何ら関係がない(不回答理由「①」にも該当)。このような関連性のない報告徴収・質問によって無関係の信者の個人情報等を収集することは断じて許されない。明らかに質問権の濫用であり,不報告には正当な理由がある。
     したがって,原決定は不当である。
     そもそも,本項目7の報告徴収の対象である教会改革やコンプライアンスのための制度や方策は,伝道や献金などが法令違反に問われたり,社会問題とされないようにし,紛争を未然に防止するための制度や方策であり,通知人が報告徴収の理由とする22件の裁判案件の中身とは全く関係ないことが明らかである。しかも,上述の通り,コンプライアンス宣言に関するコンプライアンス関連資料は解散命令事由の存否と関係がないというのが通知人のとる立場なのであるから,このような通知人が行うコンプライアンスに関連する報告徴収・質問に回答する義務や必要性がないことは明らかである。
     原決定は報告徴収の範囲について「背景となる宗教法人の基礎に関する資料も含まれる」として宗教法人の全ての業務,情報の収集が正当化しているのであって,かかる決定は極めて不当なものと言わねばならない(「必要な限度において」法78条の2第1項柱書)。
  (3)「項番号7(3)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。また,不回答理由「①」にかかる以外のものには回答を行っている。
   ウ 原決定は,不報告の理由④につき「資料の有無にかかわらず報告を求めるものであることが明らかであるから,理由がない」とするが,被審人においては可能な限りの資料を提出し報告を行っており,さらに不回答理由「①」の通り,本項目は不法行為と何ら関係なく,質問権の濫用であるから,不報告に正当な理由がある。
  (4)「項番号7(5)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。また,不回答理由「①」にかかる以外のものには回答を行っている。
   ウ 原決定は,不報告の理由④につき「資料の有無にかかわらず報告を求めるものであることが明らかであるから,理由がない」とするが,被審人においては可能な限りの資料を提出し報告を行っており,さらに不回答理由「①」の通り,本項目は不法行為と何ら関係なく,質問権の濫用であるから,不報告に正当な理由がある。
  (5)「項番号7(6)」について
   ア 原決定は,不報告の理由①を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。
   イ 原決定は,不報告の理由③を採用できないとするが,上記の通り,不回答には正当な理由がある。また,不回答理由「①」にかかる以外のものには回答を行っている。
   ウ 原決定は,不報告の理由④につき「資料の有無にかかわらず報告を求めるものであることが明らかであるから,理由がない」とするが,被審人においては可能な限りの資料を提出し報告を行っており,さらに不回答理由「①」の通り,本項目は不法行為と何ら関係なく,質問権の濫用であるから,不報告に正当な理由がある。
                                 以上