「電脳犯罪論序説」 1998年10月15日号 最終更新01/10/08 本文約1300字 MAC||HOME |
リード パソコンの普及に伴い「電脳犯罪」が増えている。それなら犯罪を防止する法を制定すればいいのでは、と思うかもしれないが、現実社会でも「犯罪をなくす」ことは不可能だし、犯罪のない国もない。安易な法規制の動きには警戒が必要である。 電脳犯罪、これを定義すれば、サイバースペース上でおこる様々な犯罪となるだろう。この連載では、電脳犯罪をめぐって、今何が起こっているのかについて、法律家の立場から、解説して行きたいと思う。 そんなわけで第1回のテーマは「電脳犯罪論序説」。やたら漢字が並んでしまったが、電脳犯罪を巡る状況を考えるにあたって、犯罪一般に関する基本的事項の確認から入ろうと思う。 凶悪殺人事件がおこると、必ずと言ってよいほど「犯人を厳罰に処すべきだ」「今の法制度は手緩い」などという世論がおきてくる。 しかしどのような法制度をひこうと、犯罪のない国はないという冷徹な現実に向き合う必要がある。その国のシステムがうまくいっているのか否かは、しょせん犯罪発生率というものさしでしかはかれない。 ところが日本より犯罪発生率の高い欧米の制度を参考にすべきだという話まで登場する。 こうした世論の動きを見ていると、人は「犯罪をなくす」というオカルト的理想に突き動かされやすいものであるということを痛感する。 もちろん犯罪は悪である。厳罰を科すという要求もわかる。しかし犯罪を防止するという理想のために「厳罰」や「法改正」を安易に求めたら、自由な雰囲気のない防犯的な国になりはしまいか。防犯的な思想が窮屈なのは、学校の校則なんかではっきりしている。 インターネットは、もともと研究者が情報を交換しあうために広がったネットワーク。自由で自発的なものであったはずだ。規制とは程遠いところで発展してきたと言える。 ところが電脳犯罪があいついでいることで、警察庁は、ハッカー対策を手初めとして、総合的なネットワーク犯罪防止法の制定を急ぎたい構えだ。確かにハッカーを防止する法律がないのは先進国では日本だけだという状況だが、よーく諸外国の法制度を見ると、すべてのハッカー行為を犯罪としている国(英、仏、カナダ、米カリフォルニア、フロリダ、アリゾナ州など)と、営利、加害の目的がある等ハッカー行為のうち特に悪質なものだけを禁止する国(独、米バージニア、テキサス、ニューヨーク州など)の二つの法制があることに注意する必要がある(財団法人社会安全研究財団「情報セキュリティ調査研究報告書」-1997年4月)。 ハッカーは、現実社会の行為で言えば、サイバースペース上の住居侵入罪と言えるもの。その住居侵入罪には「正当な理由がないのに人の住居に侵入した者は3年以下の懲役」などと定められ(刑法130条)、「正当な理由」という限定がつけられている。 好奇心は人間が誰しも持っている基本的な欲求だ。好奇心は創造性の源泉となり社会を発展させる原動力となる。だから実害もないのに何でもかんでも処罰するという方向に進めば、それはインタネットどころか社会の発展も阻害する。 電脳犯罪の危機的状況に目がくらむあまり、国が出してくる安易な重罰化の動きに鈍感であってはならないだろう。自由と規制の調和は難しい。当たり前のことだが「そもそも電脳犯罪を100%浄化することは不可能だ」という現実を前提とした建設的な議論が必要だ。 |