インターネット犯罪の系譜
1998年11月1日号
最終更新01/10/08
本文約1300字
MAC||HOME


リード

 1996年以来、警察は、ポルノ画像、宝くじ、ねずみ講などに次々と捜査のメスを入れてきた。こうした警察の動きを追ってみると、そのまま日本の電脳犯罪の系譜をたどることができそうだ。さらに今後問題化してくるケースとは-?





 1996年2月1日-これは日本の電脳犯罪史上に特筆される日だ。インターネット上の犯罪が日本で初めて摘発されたのだ。警視庁は、その日、ネット上に猥褻な画像を流したとして、28歳の会社員男性を逮捕した。逮捕の前日、この会社員と16歳の高校生の自宅、そして当時、日本最大のプロバイダーの一つであったベッコアメ・インタネットも家宅捜索を受けた。こうして逮捕された会社員は、同年4月22日、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。

 その後1996年中は、国内サーバーに猥褻画像をアップロードしたという典型事件の摘発が続くことになる。そのため当時一部ネットワーカーの中で「海外サーバーにアップロードすれば逮捕されない」などという話がまことしやかにまかり通ることになる。

 ところが大阪府警が、1997年2月になって、海外サーバーに猥褻画像をアップロードしたという事件にメスを入れた。4月には、各都道府県警を所管する警察庁内に、総合的なハイテク犯罪への対処を検討するセキュリティ対策室が設置された。
 設置は、警察がインターネット犯罪に本腰を入れようとする強い意思の現れだった。実際、その月、大阪府警は、猥褻画像のモザイクを消すFLMASKといわれるソフトを販売するとともに、モザイク入りの猥褻画像を提供しているホームページへのリンクをしていたというケースを猥褻図画公然陳列罪の幇助犯として摘発した。その後岡山県警が摘発した別の事件で、1997年12月に、モザイクの入った猥褻画像が、取り外し容易として、有罪判決が出されている。

 こうして1996年から始まった猥褻事犯の摘発は、1997年までに、ほぼ考えられるすべてのケースで行われた。ただ猥褻な画像を提供するホームページへのリンクについては、1996年10月、広島県警が摘発した事件が起訴猶予とされ、単なるリンクは犯罪とはならないという基準は一応確立した。


 そのほかの犯罪についての本格的な捜査は、典型的な詐欺(1996年4月、神奈川県警)の事案を除いて、1997年から始まる。新聞記事等の検索から初摘発だけを追ってみる。出資法違反(1997年5月、北海道警)/ハッカー(1997年5月、大阪府警)/売春勧誘(1997年10月、警視庁)/侮辱(1997年11月に罰金命令、秋田県警)/ 銃器販売(1998年1月、宮城県警)/宝くじ(1998年1月、広島県警)/訪問販売法違反(不実告知、1998年5月、兵庫県警)/ネズミ講(1998年8月、福岡県警)。

 警察は、1996年は、国内サーバーに猥褻画像をアップしたという比較的簡単な事件から捜査に着手した。こうしてインターネット上の犯罪の捜査手法に習熟していった警察が、1997年から1998年にかけて、本格的な捜査体制に入ったことは明らかだろう。

 一方電脳犯罪も、今年に入って、インターネットとダイヤルQ2が結び付くことによって、素人型の犯罪がプロ化してきたことが憂慮される。ダイヤルQ2を利用した猥褻画像の提供が本格的に始まり、警察庁は、7月1日、「自主規制が全く機能していない」として、NTTにダイヤルQ2の改善を申し入れる事態となっている。こうした警察の動きを追ってみると、警察が残している捜査課題が、とばく、マルチ商法、著作権侵害の摘発であることが見えてくる。こうした犯罪に初めてメスが入る日もそう遠くないのではないか。