民事のルールと刑事のルール 1998年11月15日号 最終更新01/10/08 本文約1300字 MAC||HOME |
リード 損害賠償と刑事罰-講演でよく出される質問の中に、両者の違いが理解されていないものがある。転ばぬさきの杖。サイバースペースに向けて情報を発信するなら、その違いを十分に知っておく必要がある。 1998年9月16日、17日と立て続けに電脳犯罪に関する講演を引き受けた。ちょうどその週は、元XJAPANのTOSHIに関する洗脳報道の真っ最中。破壊的カルトの問題も扱っている僕は、テレビ出演のかたわら講演をこなすことになってしまい大変な忙しさだった。 16日の講演は名古屋にある郵政省関連の東海ニュ-メディア懇談会(当時の名称/1999年2月より東海情報通信懇談会と名称を変更)の依頼。同会は、ニュ-メディアという言葉が流行語となっていた1985年に設立された。会員企業は、NTT、NEC、富士通など200社を越えるという。 会員向けの研究会もいくつか開催していて、その一貫として僕を招いたそうだ(詳しくは同団体のホームページ、http//www.newton.or.jp参照)。 当日、一緒に招かれた講演者は、同会の会員でもある日本テレコム(ODN)の事業部長氏。 ODNでは、当初SPAM(迷惑)メ-ル対策をしていなかったため、世界中から苦情が寄せられたとのこと。急遽対策をとったが、SPAMメール対策を施さない会社はよくない会社という世論を痛感したという話が特に印象的だった。 17日の講演は、幕張メッセで行われたIBM総合フェア98。初日の16日には、現IBM会長のガ-スナ-氏の講演もある大規模なもの。翌日の僕の講演も同時通訳付きで、200名を越える聴衆が集まった(詳しくは、http://www-6.ibm.com/jp/event/sougou98/indexB.html)。 少し前置きが長くなったが、今回は、このIBMフェアで受けた質問を取り上げてみる。 質問を発したのは中年の女性。米国の会社と日本での著作物の販売契約を結んだが、無断でその会社の著作物を売った場合、日本の法律に違反するのか、米国の法律に違反するのかというもの。契約書上は米国の法律に従うことになっているという。 この質問は、実は良く受けるタイプのもので、契約がある場合は、原則として法律よりも契約が優先するという民事ル-ルと、刑罰権は契約で決められる問題ではないという刑事ル-ルが頭に入っていないために生じてくるものだ。 つまり近代国家では、人は原則として自由とされる。そのため人と人が結ぶ約束事である契約も原則として自由であり、弱者保護という憲法原則に反しないかぎり、国家も契約の内容には干渉できない(契約自由の原則)。 人は自分の著作権を契約上自由に譲渡することもできるし、日本国内だけの販売権に限ることもできる。契約上の紛争が起きた場合に備えて、適用する法律を日本法にするのか米国法にするのか、裁判管轄を日本にするのか米国にするのかなどについても、あらかじめ定めておくことができる。 一般に契約の内容は当事者の力関係で決まるのが普通だから、その女性が交わした契約の場合は、すべて米国とされているのだろう。 そうした契約の場合、無断で著作物を売るという契約違反をすれば、損害賠償等の民事裁判は米国法で裁かれる。裁判も米国で行われるから、費用のことを考えると、よほどの会社でない限り、契約違反はただちにその会社の致命傷となってしまう。 次に刑事ル-ルだが、国家の権利である刑罰権を契約当事者が自由に処分することはできない。契約自由の原則は当事者が自由に処分できるものの範囲でしか認められない。日本でおきた著作権法違反事件は当然日本法で処罰されることになる。このように契約違反は、踏んだり蹴ったりとなりかねないので、注意が必要なのだ。 |