サイバースペースの共鳴現象―自殺系サイトの闇
1999年3月1日号
本文約1300字
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最終更新03/02/13


リード

 
「ここは、志願者が、より、安楽に、そして確実に逝くために適切なアドバイスを戴く診察室です」--自殺指向者の集まるホームページを舞台とした自殺事件。3人の自殺者を出した現象を、我々はどう評価すればよいのだろうか。





 1998年末、ホームページ「ドクター・キリコの診察室」を主催する男性が、自殺指向者6人に青酸カリを送り、杉並区の女性が自殺。一面扱いで大きく報道された(1998年12月25日朝刊各紙)。後に北海道に住む主催者の男性と別の女性が既に自殺していたことも判明した。
 1999年1月7日には、伝言ダイヤルを通じて知り合った女性2人に薬を飲ませて凍死させたという事件が発覚。その後、堰をきったかのように、様々なサイバースペース関連の犯罪報道が続いている。ここで現時点(1999年1月19日)までの報道を、新聞記事の日付順に整理してみよう。


 インターネットで購入したクロロホルムを使った強姦未遂事件(1999年1月9日)、インターネットを利用した競馬のノミ行為(1999年1月9日/競馬法違反)、「レイプしたら30万円」と電子掲示板に書き込みをしたという事件(1999年1月9日/翌10日脅迫容疑で男性が逮捕)、インターネットを使ってゲームソフトを販売した際に、おまけにわいせつ画像入りのCD-ROMを送付したという事件(1999年1月12日)、インターネットを通じて購入した睡眠導入剤を使った女子高生に対する淫行(1999年1月13日/福岡県青少年健全育成条例違反)、インターネット上に女子高生のわいせつ画像を掲載(1999年1月13日)、インターネットで外国人男児の全裸写真を販売(1999年1月13日/わいせつ図画販売)、インターネット取引でパソコン代金を詐取(1999年1月14日)、女性の中傷情報をメールに流したという事件(1999年1月17日/名誉棄損)・・・・・。


 これら事件の中には、本連載で取り上げるべき重要な摘発例もあるが、ここでは特にドクター・キリコ事件について取り上げたい。

 まず大前提として、この事件をインターネット自体の問題に一般化する議論があるが賛成できない。

 青酸カリを送付するという行為が現実社会においてもそうそうあるはずもなく、「ドクター・キリコ」の主催者は、明らかに安楽死を指向した確信犯である。したがって仮にインターネットの匿名姓を排除したとしても、こうした確信犯の出現を防止することはできない。

 一方インターネットという手段があればこそ、現実社会では出会うはずもない自殺願望者を結び付けた点も無視できない。

 以前に有名アイドルが自殺したとき、若者の間に自殺がはやったことがある。1998年は、バタフライナイフによる少年犯罪が流行した。いずれもマスメディアを通じて事件が報道され、一部の人が共鳴現象をおこした結果であった。

 既に、インターネットは、同一指向を持つ一部の人達にとっては、マスメディアと同一の機能を持つに至っている。
 ただし、このサイバースペースの持つ共鳴現象を過小評価することも正しくない。

 インターネットを通じてレイプ仲間を募り、実際に輪姦したという事件も、この原稿執筆時(1999年3月1日)に、報道されただけで2件おきている(1998年8月4日と9月11日の朝日新聞朝刊)。

 ドクター・キリコ事件は、サイバースペースの持つ共鳴現象が「自殺」という自滅方向に向かったことで、ある意味で、この程度の問題に終わっているが、一歩間違えば、オウム真理教真理教事件ような、社会秩序の破壊に向かい得る危険を秘めていることも忘れてはならない。




追加情報00/10/29
00年10月27日付け読売新聞から抜粋

“自殺HP”で出会い心中


 自殺に関する情報を集めたインターネットのホームぺージで知り合った男女が、福井県内の民家で心中しているのが二十五日、見つかった。面識のなかった二人は、今月上旬にインターネットで知り合い、わずか三週間余りで心中していた。メールで頻繁に心中の仕方や服用する薬物の種類、お互いの意思などを確認し合っていたという。インターネットが心中の“仲介役”を果たしたことで、改めて高度通信社会の病理の一端が浮き彫りになり、関係者に衝撃を与えている。

 県警の調べでは、心中したのは、福井県内の歯科医師(46)と愛知県内の元会社員の女性(25)。

 二十五日夜、歯科医師の自宅近くで、家族が二人の遺体を発見。死亡推定時間は同日午後一時ごろで、死因は睡眠薬などを大量に服用した薬物中毒死とみられる。

 関係者や県警によると、二人の間でメール交換が始まったのは今月上旬。自殺に関する情報を集めたホームページに登録してお互いのメールアドレスを知り、薬物の種類や致死量、心中場所などを数十回にわたって連絡しあった。

 二人は「共通の目的を持っていれば不安はない」などのメールをやりとりし、数回目のメールで、歯科医師が調達した睡眠薬を使い、同県内で心中を図る計画を立てたとみられるが、初めて顔を合わせたのは心中のわずか数日前。二度目に会った時に心中を決行したらしい。

 女性は家庭環境で悩み、今月中旬に会社を退職。男性は慢性疾患で体調がすぐれないうえ、家族と別居、二人とも生きる望みを失っていたという。同県警は、メールのやり取りを続けるうちに自殺志願の気持ちが高まったとみている。

 利用したコーナーの登録は無料。自殺志願者の意見や悩みなどの掲載欄もあり、注意書きとして「死亡したり入院する羽目に陥ったり膨大な損害賠償を請求されたりする可能性があります。その責任を一切発行者は負いません。知的好奇心を満足するための読み物としてお楽しみ下さい」などとあった。捜査関係者によると、毒物や禁止薬物の販売など明確な違法行為がない限り、ホームページ管理者の責任追及は難しいという。

 インターネットには、「自殺」という項目だけで四万件以上、「自殺の方法」でも百五十件以上の関連ホームページがある。

 インターネットを利用した自殺では、札幌市内の塾講師が、自殺志願者に青酸化合物を宅配便で送るホームページを開設、一九九八年十二月、無職女性らが亡くなる事件があった。





追加情報03/02/13
2003年02月11日(火) 21時10分 毎日新聞から抜粋

<一酸化炭素中毒>ネットで知り合った3人自殺か 埼玉



 11日午後4時15分ごろ、埼玉県入間市下藤沢のアパート1階の空き室で、近くに住む無職男性(26)と若い女性2人が倒れ、死亡しているのを栃木県内の女子高校生(17)が発見、119番通報した。室内には七輪が置かれ、窓に粘着テープで目張りがしてあった。狭山署は3人はインターネットの自殺志願者が集まるホームページを通じて知り合い、自殺を図ったとみて調べている。

 調べでは、3人は室内の6畳和室で服を着たまま倒れていた。外傷はなかった。和室内にあった数個の七輪の練炭は火が消えた状態だった。3人とも死後数日とみられ、一酸化炭素中毒で死亡したらしい。遺書などは見つかっていない。

 発見した女子高生は同署の調べに対し「インターネットで、この部屋で自殺する人を募っていたので心配になった」と話しており、栃木県から様子を見にきたという。同署は、女性2人の身元の確認を急ぐとともに、集団自殺とみて調べている。

 現場は西武池袋線・武蔵藤沢駅から南西約700メートルの住宅街。

 昨年10月には、東京都練馬区のマンションでも、インターネットを通じて知り合ったと見られる男女2人がマンションの一室で窓などにガムテープで目張りをして七輪を使って自殺をしている。 【高島博之】(毎日新聞)


 


■関連原稿「ネットで出会うということ」