ホームページの暴力
1999年4月1日号
本文約1300字
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最終更新01/08/08


リード

 1999年1月、無断で女性の氏名や住所、容姿を電子メールで配信したとして、名誉毀損容疑で、ホームページの主催者と情報を流した男性があいついで逮捕された。インターネットによるプライバシーの侵害は、まさにホームページの暴力だ。





 総会屋のホームページというものがある。売り物は企業スキャンダルの告発。企業側も戦々恐々。自社情報の掲載確認のため、企業担当者のアクセスが毎日数千件あるという。

一見そこには総会屋と企業の癒着構造はないように見えるが、情報掲載の見送りへの謝礼などで、裏で多額のお金が動いているというのが本当だろう。企業が総会屋情報誌の購入自粛をすすめる中で新手の資金獲得の手口だ。

 より露骨な方法としてダイヤルQ2を利用した総会屋の企業スキャンダル情報番組といったものもあり、企業がかけたダイヤルQ2料金がそのまま総会屋に流れ込む。

 一昨年から続いている我が国の株式市場の下落に、こうした総会屋ホームページの果たした役割も侮れない。株を信用で売る場合など、ある種の株取引では株価の下落が逆に利益となるから、下落を意図して故意にスキャンダル情報を流しているのではないかという疑惑だ。証券取引法は株式相場の変動などを目的として、うわさを流す行為を「風説の流布」として禁じている。違反すれば3年以下の懲役または300万円以下の罰金(同法158条、197条)。しかし過去株価上昇を理由に摘発されたケースはあるが、株価下落を理由に摘発されたケースは1件もないのが実情だ。

 昨年10月30日、警視庁は、わいせつ鑑賞会に参加していた男性をビデオで隠し取りしてホームページに掲載し、現金400万円を脅し取ろうとした男性を恐喝未遂の容疑で逮捕した。「映像を拡大しもっと顔がわかるようにしてやる。いやなら指定の口座に現金400万円を振り込め」などと脅し、計14回にわたって徐々に拡大した映像を流し続けた。

 「怪文書ホームページ」といったジャンルもあり、「AがBにレイプされた」などという怪情報がそのまま実名で発信されている。総会屋ホームページは、その目的が金銭獲得に向けられているという意味で、ある種自制のきいたものになるが、無償な表現発信は、ときに確信犯という暴走を生む。

 そのさいたる事件が米国でおきた。2月2日、米国オレゴン地区連邦地裁陪審団は、中絶反対派のホームページ「ニュルンベルグファイル」の開設者に対し、約1億900万ドル(約120億円)の支払いを命じる評決を下した。ホームページ上に「反人類的な罪を犯す者」として中絶手術を行う医師計282人の顔写真や住所を掲載。そのうち4人が反対派に殺害され5人が襲われて負傷した。

 殺害された医師の名前には傍線が引かれ負傷した医師の名前は灰色に変えられていた。開設者は中絶を施す日本の病院に出入りする女性の映像も近くホームページ上で公開するなどと発言し、放置すれば遠い国の出来事と無視するわけにも行かない事態だった。

 昨年8月、元英国職員が英国機密保持法違反容疑でパリで身柄拘束された。英国諜報機関MI6によるカダフィ大佐暗殺計画をホームページに暴露しようとしたという容疑だ(注1)。またクリントン米大統領の不倫スキャンダルは、実はゴシップページから火がついた。

 意図はどうあれ、国の情報公開を推し進めるうえで、暴露タイプのホームページの役割も無視できないのだ。しかしその情報発信の力が個人のプライバシーに及ぶとき、表現はまさに暴力となるという背理がそこにある。



追加情報99/05/17
注1 故ダイアナ妃とからんで続報が出ています。

 以下 Mail Magazine【Radica】ラディーカ 1999年 5月17日(月) 第322号 より抜粋


http://www.asahi.com/0513/news/international13008.html -リンク切れです。
http://www.wired.com/news/news/politics/story/19620.html?wnpg=2-英文です。
http://www.asahi.com/0516/news/international16011.html-リンク切れです。

 英国情報機関「MI6」に所属していた元スパイが、組織で働く約 100人の正体をネットで暴露した。組織を解雇され犯罪者扱いされた元スパイが腹いせにやったらしい。故ダイアナ妃とともになくなった息子を持つ富豪が、裏で糸を引くとの話も。 Geocitiesで公開されていたようだが、すでに消滅。スパイ大作戦みたいに自動的に消えたのだろうか?