身に覚えのない請求にどう対処する?
2003年09月15日号
初出タイトル:デジタル万引きは違法か?
UP04/07/26
本文約2000字
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リード


 「身に覚えのない請求」「架空請求」「不当請求」に関する相談があとを絶たない。多くは「請求書が来たがどうしたらよいか」と対処法を尋ねる相談だが、中には業者から電話などで直接脅された消費者もいる。今回と次回は、こうした請求にどう対処すればよいのか、相談実例を踏まえ、具体的に検証する。





件名「○○事務局から最終通告」


 「貴殿がご利用になられた番組サイトへの入金確認が未だ取れません。請求金額56720円(延滞料金含む)をご確認の上、至急指定口座へ必ずお振り込み下さい」

 突然、消費者のもとに、こうした内容のメールや葉書、はては手紙や電報が突然送られてくる。いろいろバリエーションはあるが、概要次のような文句まで付されている。

 「入金確認が取れない場合は、当社利用規約に基づき調査回収費用(\100000)を別途加算請求させて頂く事をご了承下さい」、あるいは「期限までにご連絡の無いお客様に関しては、お支払いの意志がないものとみなし、弊社関連調査会社のほうで貴殿のご自宅、勤務先等をメールアドレス、アクセスログ、電話番号等から調査、解析し回収員が貴殿のご自宅、勤務先等へ直接、回収に伺う事となりますのでご了承下さい。またその際にかかります費用、調査費用、交通費等の雑費、別途回収手数料も合わせてご請求させて頂きます。 また場合によっては給料差し押さえ手続き等裁判所を通じた法的手段にて対応させて頂く事となります」、ほかにも「今回の通告を無視された場合、すべての情報機関に通達(ブラックリスト登録)をさせて頂きます」などというものがある。


相談業務がパンク


 一般の市民が、こうした通知に驚くのはあたりまえだろう。筆者が弁護団長をしているインターネット消費者被害対策弁護団(LICP、)にも、こうした架空請求や身に覚えのない請求、言いがかり請求、不当請求といわれる類型の相談が多数舞い込んでくる(http://www1.neweb.ne.jp/wb/licp/)。

 ちなみにLICPは、インターネット上の消費者被害について、メールによる相談に乗るだけでなく、具体的な被害の救済のための受任まで視野に入れた唯一の弁護団で、手前みそだが、警視庁からも、「お役立ち情報」として、「インターネットで弁護士に相談したいなら」という表題で、直リンクをいただいている由緒正しい弁護団である (http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/haiteku/参照)。
 ところが最近、この種の相談事例の増加が、ついに弁護団の許容量を超え、対応が必要な緊急な相談にまで支障が出るようになった。そのため、2003年9月8日、対応方法をインターネット上の告知で補い、相談業務は原則停止することにせざるを得なくなった。こうした実情は各地の消費者センターでも同様の状態になっており、国民生活センターでもそのホームページのトップページ(http://www.kokusen.go.jp/)に対処方法を告知するほどだ。注1


対処の仕方は「無視」


 ところでこれまでLICPでは、この種の相談に対しては「支払う必要はない」「対応する必要はない」という答えをしてきた。その際「使ったかもしれない」「無視するのは相手に悪い」「何かあるかもしれない」などと、業者に善意に考えるのは絶対に禁物だ。業者と対応するだけで、業者の方は「自分のほうが悪いかもしれないと考えるタイプ」「強く言えば取れるタイプ」と考え、一層、厳しく請求してくる。問いあわせをすれば、「同姓同名の方に間違って請求がいったかもしれませんから、確認のためご住所とお電話番号を教えてください」などと述べ、照合を装う業者もいる。もちろんこれは相手の連絡先を調べる手口で、絶対に乗ってはいけない。業者は相手の善意をかえって利用する。この種の事案では、「よい人」になってはならない。

 しかもそもそも覚えのない請求は払う必要はない。この点、自分に自身をもってほしい。覚えがないという記憶が正しければ、契約が成立していないのだから、法的な支払い義務は生じない。しかも支払いを求める業者は、こうした法的義務を証拠に基づいて立証する義務がある。立証ができなければ裁判をしても敗訴するだけだ。消費者がどうしても支払いに応じない場合、業者は裁判を起こすしかない。裁判をおこす責任も業者側にある。それが正当なやり方で、消費者をだましたり脅したりして、支払わせれば詐欺罪や恐喝罪にあたる。いずれの10年以下の懲役となる犯罪だ。

 情報料金に関し身に覚えのない請求の相談が始まったのは1993年ころのことで、ダイヤルQ2料金に関するものだったが、筆者がこの種の事件を扱い始めて10年がたつ。しかしこの間、取立てのために裁判をおこした業者は、筆者の知る限り1件もない(注1)。つまり裁判するぞという脅しはまったく屈する必要はない。

 逆に「恐ろしいから」「使ったかもしれないから」と支払ってしまうと、再度同じ業者から「別の未払いの料金があった」と請求されても、きっちり和解書を交わして処理をしているわけではないから「もう払ったでしょう」という理由では、つっぱねるのが困難だ。「根拠薄弱でも払ってくれる人」「和解もしないのに払ってくれる人」は「おいしい顧客」だ。こうした情報は業者間を転々流通し、別の業者から取立てを受ける可能性すらある。(次号に続く)






以下の注は、04/07/24現在のものです。

注1 ついに昨年は、消費者生活センターへの相談のTOPがこの種の相談になっている。増加率も著しい。
注2 この原稿記載時には、この内容のとおりであったが、最近、訴訟を起こしてくる業者も出てきたようで、要注意である。現在その動向に注視しているが、ごく少数の業者にすぎない。