変革を迫られる日本人の国民性 2003年09月15日号 初出タイトル:デジタル万引きは違法か? UP04/07/26 本文約2000字 MAC||HOME |
リード 多発する「身に覚えのない請求」「不当請求」「架空請求」に対する対処に明け暮れていると、日本人独特の「信頼」を前提とした牧歌的な感性にたどりつく。1993年ころ、ダイヤルQ2料金に関して始まった「身に覚えのない請求」は、オレオレ詐欺などの応用を生み、日本人の国民性に変革を迫っている。 ■カモリストへの登録 前回に引き続き「身に覚えのない請求」の問題を取り上げる。こうした請求に安易に支払うと、業者から見れば「おいしい顧客」とされ、「カモリスト」に登録され、かえって業者の中を転々流通し、終生、業者から狙われる端緒となる。この種の業者の対応としては、無視すること、そして絶対に支払わないことが肝要だ。しかもほどんどすべての業者は、適当に文章を作って、同文で多数の消費者に請求書を送りつけているだけで、真実、債権を持っているわけではない。詐欺犯と言ってもよい。過去、詐欺罪で摘発された業者も多数いる。一例だが、警視庁は、2003年5月22日、アダルトサイト利用料金の支払いを催促する電子メールを送って現金をだまし取ったとして、東京都品川区在住の男性会社員(34)ら2人を詐欺容疑で逮捕したと発表している。2003年1月21日から3月3日の間、「アダルトサイトの未納料金回収を代行することになった。指定の口座に振り込むように」と虚偽の電子メールを不特定多数の人に送付し、男性会社員(24)ら13人から計約30万円をだまし取った疑いがもたれている。メールには、「入金がない場合は担当員が自宅にうかがう」と書かれ、口座は偽造国民健康保険証で開設していた。容疑者らは、実在のメールアドレスを購入し、1日2000~3000件の請求文書を送り付けていた。口座には、全国の331人から計786万円が振り込まれていた(2003年5月22日付け毎日新聞)。 また「調査回収費用として10万円をいただきます」などと書いてあっても、取立ての費用は消費者から取ることはできないし、遅延損害金も、消費者契約法により、年利14・6パーセントを超えて取ることはできないこととされている。ほとんどありえないことだが、仮に業者が真に債権を持っていたとしても、裁判費用を考えると、わずか数万、数十万の取り立てのために、提訴してくることはない。筆者は、1993年ころからこの種の事件を扱っているが、取立てのために裁判をおこした業者は1件もない。消費者の多くは、直接自宅や会社などに乗り込んで来られるのを恐れるが、こうした強行な取り立てを受けた消費者もほとんどいない。なぜなら業者は、自宅等へ直接取り立てに行くだけでも労力や時間、費用がかかり、電話での交渉だけで安易にお金を取れるところから取ったほうがより儲かるからだ。ただし筆者は、何度か業者から直接取り立てを受けた被害者の案件を扱っている。しかしそれは安易に業者と対応した消費者ばかりで、業者にとっては、労力と時間と費用をかけるだけのメリットがある消費者、しかも相談を受けたのは、すべて都心に住んでいる消費者だった。つまり業者の方でも、取立てのために往復しても時間がかからず、かつ取り立てに応じてくれそうな消費者を選別しているのが実情なのだ。業者は、できるだけ短時間にもうけることばかりを考えており、「無視するタイプ」「請求しても取れないタイプ」は、はなから声をかけない。 ■心配なら警察や消費者センターへ相談を どうしても無視することが心配なら、最寄りの消費者センターや警察に相談してみてほしい。いずれの相談窓口も国民の税金で負担され、無料なんだから、どんどん使うのがよい。この種の事件の1件あたりの被害単価は低い。上述の警視庁の摘発例でも、一人当たりの被害は2~3万円にすぎない。こうした被害をなかなか警察は取り上げてくれないが、仮に業者が取り立てに来たら、逆に、ラッキーと思うくらいでかまわない。対応せず、すぐに警察に通報してほしい。その際、写真や録音ができれば、証拠が残って万全だろう。 ■多発するオレオレ詐欺(おれおれ詐欺) 身に覚えのない請求の手口は、模倣され、応用される。オレオレ詐欺(おれおれ詐欺)の多発も報道されている。既に刑事事件の判決例もある。2003年7月8日、東京地裁は、「子を思う高齢者の不安感につけ込んだ悪質な犯行」と述べ、オレオレ詐欺の被告人に、懲役3年(求刑5年)の実刑を言い渡した。被告人は、2002年11月から2003年2月にかけ、東京都港区や台東区在住の面識のない女性5人(うち4人は70歳以上)に電話をかけ、「おれだけど、今、やくざに捕まっている。殺されちゃう。早く金を持ってきてくれ」などと依頼。指定場所に現金を持って来させるなどの方法で、3人から計1800万円をだまし取った(残る2人は未遂)。 身に覚えのない請求による被害の多発は、実は、日本にしかない消費者被害類型だ。日本人のコミュニケーションの方法は、相手をはなから疑うことはせず、相手への信頼を前提にするのが普通だ。これに対し大陸的発想は、まず相手を疑い、コミュニケーションを通じて次第に相手との信頼を築いていくという手法を取る。つまり日本人の発想方法は、世界標準ではないことに留意する必要がある。「身に覚えのない請求」による被害は、日本人の発想方法に変革を迫っている。 |