氾濫する未承認薬の輸入代行サイト 1999年5月15日号 本文約2000字 MAC||HOME |
リード インターネット上で、日本国内では買えないはずの薬を、個人輸入の代行という形で事実上販売している業者がいる。1998年7月には解禁前のバイアグラを服用した男性が死亡、1998年9月には中国から輸入した糖尿病薬を服用した男性の死亡例が公表された。未承認薬にまつわるこうした事態をどう考えたらよいのだろう? ■バイアグラの解禁 1999年3月23日、性的不能治療薬「バイアグラ」が解禁された。1998年7月の承認申請から約8ケ月。通常の新薬の審査には平均2、3年かかっていたことを考えると、破格の扱いだが、それでも遅きに失した感がある。バイアグラが米国でFDA(米食品医療薬品局)の認可を受けたのは1998年3月27日のこと。日本でもバイアグラは異常なブームとなった。そのため解禁前から個人輸入の形を利用したバイアグラの売買が公然と行われる事態となっていた。 バイアグラの服用による初の死亡例が確認されたのは1998年7月。その後、大阪府警が、1998年8月19日に薬事法違反(医薬品無許可販売)の疑いで、バイアグラ1瓶(30錠入り)を10万円で販売していた男性(32)を逮捕したことを皮切りに、同様の容疑で岡山県警(8月21日)、埼玉県警(9月17日)などの摘発があいつぐことになる。 インターネットを使ったものとしては、1998年9月30日、福岡県警が、男性会社員(25)宅や勤務先など6か所を家宅捜索、同年12月3日に、同会社員と化粧品輸入販売会社社長(41)2名を逮捕に至ったというケースがある。バイアグラの販売広告をホームページに載せ、未承認薬の広告を禁止する薬事法に違反したとの容疑だ。 ■わが国の薬事行政 日本国内に流通する医薬品を管理する「薬事法」という法律がある。医薬品の販売や輸入販売業を営むには許可が必要とされ、これに違反すると3年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に処せられる。また未承認の医薬品の名称、効能等を広告すると2年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金となる。しかし薬事法は、未承認薬を個人が輸入することまでを禁じてはいない。ここに医薬品輸入代行業の存立基盤があるのだ。 ところで厚生省は、今回のバイアグラ解禁により「ヤミ取引の抑制につながる」と期待しているようだが、そう簡単にはいかないだろう。米国でのバイアグラの購入審査は日本より緩やかだし、性的不能で医者にかかるのも恥ずかしい。だとすれば簡便な手続きでバイアグラを購入しようとするニーズはそう減るとは思えない。 現に1999年4月6日、兵庫県警は、薬事法違反(無許可販売)の容疑で、豊岡市内の特別養護老人ホーム職員の男性(61)を逮捕し、解禁後、初の摘発例が出ている。この男性は、知人に頼んでインターネットを利用し、海外から4瓶(1瓶各30錠入り、各6万円)購入していた。 ■未承認薬輸入代行サイトの氾濫 ロゲイン、プロザック、メリディア、プリベン、プロペシアと聞いて、これが、すぐに何かわかる人はいるだろうか。薬の名前だとわかる人でも、その効能まで言える人が何人いるだろうか。それぞれ育毛剤、抗鬱剤、ダイエット剤、事後避妊薬、育毛剤の名前である。バイアグラに限らず、こうした日本国内では購入できない海外の医薬品が事実上販売されている。買ってみたいと思ったら、「個人輸入」などのキーワードで検索すれば、誰でも簡単にアクセスできる現状にある。しかし安全性が確認できていいなことが未承認薬たるゆえん。厚生省は、1998年9月25日、中国から輸入した糖尿病薬を飲んだ70代の男性が死亡したという例を発表している。 ■厚生省の怠慢 未承認がインターネットを使って海外から輸入、販売されることが一般化する事態を受け、97年10月8日付けの朝日新聞朝刊は1面で、厚生省が医薬品の販売や広告を規制する方針を固めたと報じていた。 ところが厚生省は、97年度中に何ら実効性ある対策を講じなかった。その結果が1998年4月から始まるバイアグラをめぐる狂騒であったことは明らかだ。ようやく厚生省が重い腰を挙げたのは、既に死亡者が出た後の1998年9月末。ホームページが「未承認薬の広告」にあたるか否かの基準を都道府県に通知し、取り締まりの強化を指示している。 その基準は、①購入意欲を高め、購入を誘う意図が明らかである、②特定の商品名が示されている、③誰でも見ることができるの3点。これらの3点を全て満たすと薬事法違反となるという。 厚生省によれば、バイアグラの個人輸入代行をうたうホームページのほとんどが②と③に該当しているという。つまり違法すれすれの現状にあることを厚生省自体が認めているのだ。 ■未承認薬の取り扱いルールの確立を バイアグラの早期承認は、まさに国境のないインターネットの力を証明した。厚生省は、このインターネット時代にふさわしい未承認薬の取り扱いルールを策定すべき時期に来ているのではないか。その際「なぜ海外で承認されている薬を日本で販売できないのか」という原理的な疑問に厚生省は答える義務がある。その上でその薬を日本ではあえて承認すべきでないという事情があるなら、理由を明示して個人輸入自体も禁止すべきである。一方で輸入者の個人責任に依拠しつつ、輸入代行業者が無秩序に放任されている現状は異常ではないだろうか。現行のわかりにくい薬事行政の早急な改善を望みたい。 |