巨大クレジット詐欺・N-BILL事件の教訓
1999年7月1日号
最終更新01/04/13
本文約2000字
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リード

 推定被害額約50億円、被害者は約90万人!日本を含む20カ国以上で被害者を出した史上最大のクレジット詐欺事件は、ネット上でおこった。主犯格は、米国時間の5月4日、偽証などの罪で逮捕。昨年夏以降、日本国内でも多くの被害者を出したN‐BILL事件は、くしくもクレジットカードのセキュリティ問題を浮かび上がらせた。





あいつぐ奇妙な相談


「知らない外国の会社からクレジット代金の請求が来ています。カード会社に問い合わせるとインターネットの利用代金だと言われました。でも私はパソコンもインターネットも使ったことはありません」

 ある日、クレジットの請求書に、知らない米国の会社からの19・95ドルの請求を見つける。会社の名前はN-BILL。すぐにクレジット会社に相談しても「直接N-BILLに問い合わせ下さい」と冷たくあしらわれてしまう。昨年10月30日に開かれた第二東京弁護士会主催のインターネットマルチメディア110番。メールと電話で相談を受けつけたが、全69件の相談中15件までもが、こうした「アダルトサイトの利用経験がない」「パソコンを利用したことがない」のに、クレジット代金を請求されているという相談だった。

 以前からアダルトサイトのクレジット利用代金の解約を巡るトラブルの相談はよくあった。米国にはビリングカンパニーと言われるクレジット決済の代行会社がいくつかある。直接クレジット会社と提携できないアダルトサイトの多くはこうした代行会社を利用し、当然アダルトサイトの利用代金は代行会社の名前で請求される。しかしこの日の相談は、そうした従来の相談の類型とは明らかに異なっていた。

 「何らかの方法でクレジット番号が盗まれたのではないか」
 
これが相談を担当した弁護士の一致した意見だった(この日の110番の結果は第二東京弁護士会のホームページhttp://egg.tokyoweb.or.jp/dntba/参照)。しかし理由がわからない。この日弁護士は、「使っていないものは支払う義務がない」「クレジット会社と強気で交渉に臨む」といった一般的アドバイスしかできなかった。

 ちょうどその頃、この問題を積極的に取り上げ初めていたサイトがあった。WEB110番(http://web110.com)である。昨年10月26日、同サイト内に「N‐BILL事件簿」なるページを開設。寄せられる情報の集約を始めた。僕自身も後味が悪い110番の結果に「N‐BILL」問題に興味を持ってくれるマスコミを探していた。マスコミはいったん取材を始めるとものすごい情報収集力を発揮する。これが悪い面で出ると人権侵害を伴うが、良く出ると被害救済にとってこの上ない助けとなる。僕が声をかけたのはテレビ朝日系の報道特集番組「ザ・スクープ」(毎週土曜日午後11時30分)。こうして「ザ・スクープ」のスタッフがWEB110番を取材。WEB110番の集めた情報がテレビ番組を動かすきっかけとなった。



FTCの摘発とテレビ報道


 事件が急展開したのは今年1月に入ってのことだ。米連邦取引委員会(FTC)が詐欺を理由にN‐BILLを告発したのだ。FTCによると、被害者は20カ国以上で約90万人。被害総額は約50億円。ネットを発端にした詐欺事件がクレジット史上最大の詐欺事件となった。さらに米国時間の5月4日、主犯の2人(といっても夫婦だが)が裁判所の命じた手続きに従わず資産隠しを図ったということで偽証などの容疑で逮捕された。

「ザ・スクープ」は、5月8日、約半年にわたる取材の成果を放映した。視聴率はうなぎ上り。番組当初、6%代だった視聴率は深夜〇時を越えても上昇を続け、最高11・4%に達した。もちろん深夜枠としてはかなりの高視聴率だ。ちょうどときはテレホーダイタイム。多くのネットユーザーがインターネットを接続しながらテレビにくぎ付けとなった証拠だろう(なおhttp://www.tv-asahi.co.jp/scoop/this.html(-ただし01/04/13時点でリンク切れ)にこの日の番組の構成が画像つきでUPされている)。

 これまでテレビ界ではインターネット問題は視聴率が取れないという定説があった。違法コンテンツのあるページは、モザイクばかりで映像化しにく、文字ばかりでは迫力に欠く。しかもインターネットを使ったことのない人には、なんだか難しい英語ばかりが出てきてわかりにくい。要するにインターネットは、テレビ泣かせの存在だった。ところが米国発のN‐BILL事件は、このテレビの定説を完全に覆した。



クレジットの決済方法の見なおしが必要


 ネット上でカード番号だけで決済できる仕組みは確かに便利だ。しかし利便性は一方でセキュリティを犠牲にする。他人が勝手に自分のカード番号をネット上で入力することも可能にしたからだ。「塵も積もれば山となる」ではないが、こうしたセキュリティを一部犠牲にした決済方法がインターネットと結びつくことで、1ヶ月約2000円の被害を約50億円の被害にするマジックを生んだ。普通の通信販売だったら、全世界20カ国以上、約90万にも及ぶこの種の被害を生むことはなかっただろう。つまりN‐BILL事件の教訓を謙虚に受け止め、現行のカード決済のシステムを見なおさなければ、同種の被害は再び起こることになる。インターネットの登場が、クレジットに代わる安全性の高い決済システムを我々につきつけているのだ。