インターネット時代の著作権 2000年9月15日号 UP02/10/19 本文約2000字 MAC||HOME |
リード 著作権は面白い権利である。表現者の権利であると同時に、著作権を保護しすぎると、かえって表現の自由の範囲を狭めることになる。今回は、過去最大の摘発事件となったファミコン決死隊の摘発事例から、誰もが表現発信者となることのできるインターネット時代にふさわしい、著作権法制を考えてみたい。 ■「ファミコン決死隊」(注1)の摘発 「著作権思想の広報・啓発活動の一環として行っております調査活動の成果といたしまして、コンピュータソフトの公衆送信権侵害摘発の結果をお知らせいたします」 2000年7月4日、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)から、報道機関宛てに一通のメールが送られてきた。 ACCSは、コンピュタープログラムが著作物として著作権法に明文化された1985年に設立された団体で、一貫して、ソフトウェアなどのデジタル著作物の権利保護運動などを行ってきた(http://www.accsjp.or.jp/参照)。 今回、摘発されたのは「ファミコン決死隊」。決死隊には、約100人のメンバーが参加し、約150ものゲームソフトを違法にダウンロードさせていた。 過去のゲームソフトの著作権法違反事件では最大の摘発事例となった。長野県警は、2000年6月14日から16日にかけて被疑者らの自宅などの家宅捜索を一斉に行い、2000年7月4日、メンバー4人の逮捕に踏み切った。 逮捕されたのは、宮城県多賀城市の男性会社員A(27)、東京都世田谷区の都内大手プロバイダーの男性派遣社員B(34)、大阪府守口市の無職少年C(17)、秋田県大館市のコンビニエンスストアの男性店員D(21)の4人。 4人は、それぞれ個人で開設していたホームページに、「スーパーマリオワールド」、「レッキングクルー」などのゲームソフトを権利者である任天堂に無断でアップロードし、アクセスしたインターネットユーザーに無償でダウンロードさせていた。Cについては、ソフトウェアの著作権侵害での摘発事案で、初めての少年の逮捕となった。 ■犯行の態様 ACCSによると、主犯格のAは、1998年に「ファミコン決死隊」を開設。ホームページ上で「ファミコン決死隊連隊長」を自称し、メンバーを「大将」「大佐」などの階級に分類して名簿を公開した上で、探しているソフトをホームページ上で呼びかけて、メンバーからの提供を煽り、ホームページ上の「日記」や「声明文」で、「このホームページはファミコン用ソフトすべてのアップロードを目的としており、自らの行為は著作権侵害に直結せず、かえって新規顧客獲得へのプラス要素になる」などと記していた。 B、Cはそれぞれ、自ら開設していたホームページにゲームソフトを無断でアップロードしていた他、「特別相談役」「空軍少尉」の役職でAのホームページに参加していた。 またDは、Aのホームページには参加していなかったものの、Bと交友関係があり、自ら開設していたホームページにゲームソフトを無断でアップロードしていた。 4人の逮捕容疑は、いずれも著作権法違反(公衆送信権侵害、送信可能化権侵害)の疑い。いずれの罪も3年以下の懲役か300万円以下の罰金である。 4人はインターネットを通じて知り合ったが、インターネットは、検索エンジンなどを通じて「同好の志」が集いやすい。ファミコン決死隊は、いわば「逮捕覚悟の確信犯」として、まさにインターネット時代の申し子とも言えるグループで、今後も同種の事件は繰り返される可能性があり、インターネット時代の著作権保護のあり方は、実効性の面から見直しを迫られている。 ACCSによると、現在でも、インターネット上には、ゲームソフトなどを違法にダウンロードさせるサイトは数多くあり、既に、1999年から5件の同種事件の摘発例があるという。 ■インターネット時代の著作権紛争 普段、インターネットにまつわる法律問題を扱っていると、著作権について質問されることが多い。 誰もが自由に表現を発信することを可能にしたインターネットは、同時に市民が容易に著作権を侵害することをも可能にしている。それが著作権処理に関する法的ニーズを増大させている原因だ。 著作権法で規定されている著作権とは「思想、感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」、つまり著作物に発生する権利である。著作権法は、10条で、著作物を具体的に例示しており、小説(1号)や、音楽(2号)、映画(7号)などの著作物に並んで、「プログラム」の著作物性も正面から認められている(9号)。 インターネットの登場前は、著作権侵害事例というと、企業がその利益のために他の企業の著作権を侵害する事例がほとんどだった。 市民の表現発信手段が限られていた時代だったからだが、インターネットの時代に入ると、企業対企業という事例だけでなく、市民対企業という事例も多数生じており、著作権紛争を一変させる事態となっている。 ファミコン決死隊の事件も無償での行為ということもあり、ユーザーである「一市民」側がおこした事件という面も否定できない。 もちろんファミコン決死隊の行った行為は非難されなければならないが、著作権に関する規制を安易に強化すると、他方で市民側の表現の自由と衝突する面もある。 そのため市民の表現の自由の範囲を狭めない形でのあるべき著作権法制のあり方が問われている。 |
注1
■ファミコン決死隊事件-2000年7月4日付け毎日新聞