メーリングリストで、変る議論・情報交換 -メーリングリストの落とし穴(1)- 2000年11月15日号 UP01/04/13 本文約2000字 MAC||HOME |
リード 筆者は、いくつかのメーリングリスト(ML)に参加し、また複数のMLを自分で主催している。今回と次回は、その中で、筆者も参加しているある弁護士MLの実情を紹介したい。議論や情報交換の手段としては、MLは、非常に有用なツールである。だが、同時に、気軽に使いすぎると落とし穴もある。他山の石としていただければと思う。 ■メーリングリストの力 今回、僕が紹介するのは、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会が主催し運営するメーリングリスト(以下ML)で、略称CAM。CAMのテーマは消費者問題。弁護士であれば、消費者委所属の弁護士に限られず、参加は自由だが、参加資格は原則として弁護士に限られる。現在全国各地の弁護士約300人が参加し、日ごろから、消費者問題に関する議論や情報の交換が活発になされている(CAMについての詳細はhttp://homepage1.nifty.com/kito/cam.htm参照)。 たとえば僕が、東京で消費者被害を起こしている会社Aのことを知りたいと思う。そこでA社のこと、そしてこれまでの解決例を教えてほしいとCAM宛てにメールを打つ。そうすると僕のメールはたちどころに、300人のCAM参加弁護士に転送され、A社の事件を取り扱った経験のある他の弁護士がいれば、その弁護士から、A社の解決例などが、たちどころにメールされてくる。全国規模の会社によっては、地域ごとに解決基準が違う場合もあり、こうした情報を参考にして、弁護士は、事件の解決を行うことができる。 MLは、これまで地域ごとに個別に事件を解決してきた弁護士の仕事を、全国的、横断的な広がりを与えてくれるようになった。 CAMのメンバーは現在でも増えつづけており、CAMへの投稿は、もはや読みきれないほどに達している。多忙な時はメールをあけることもできないほどである。そういった時でも、アウトルックなどの検索機能があるメールソフトに保存しておけば、CAMの情報はあとで役にたつことになる。 消費者問題を起こしているB社ことが知りたくなれば、キーワード検索を実施することで、再び過去にB社を取り上げたメールにアクセスすることが可能だからである。 こうしてMLは、時間を超えた広がりをも弁護士の仕事に持たせることになる。 CAMでは、具体的な消費者事件だけでなく、訪問販売法などの消費者関連法の解釈や、今後の法制定に関する意見なども多数投稿されており、情報交換の場であると同時に議論の場でもある。もちろん議論に参加しなくても、ただ見ているだけでも非常に参考になる。日ごろ1人で考えるだけでは、想像すらつかないアイデアを弁護士の仕事に提供してくれる。 ■メーリングリストの仕組み ここで、MLの仕組みを説明しよう。メールの経験はあっても、MLに参加したことがないという方もおられるかもしれないからである。 MLとは、そこに登録されたメンバーの一人が、プロバイダなどから指定されるMLのアドレス宛にメールを送ると、そのメールが、全てのメンバーに自動的に転送されるシステムを言う。 CAMは既に300人以上のメンバーが参加するMLだが、少人数でもMLは可能。10人程度でも会議用にMLを使用すると、とても便利だ。大手プロバイダの多くは、月1000円程度の費用で、MLの開設サービスを始めており、僕自身、弁護士の仲間で作る2つのMLを管理している。 一つは、僕が弁護団長をつとめるインターネット消費者被害対策弁護団(http://www1.neweb.ne.jp/wb/licp/)の会議用、他の一つは、日弁連消費者委内のインターネット部会だけの会議用である。どちらも意見情報交換の場として、積極的に活用している。 ■メーリングリストの意義 インターネットのツールを、大きく情報系とコミュニケーション系の二つに分ければ、メールは、もともと1対1の手紙類似の機能を持ち、コミュニケーション系に属するツールだったと言えよう。これに対してホームページは、情報の発信・受信の手段として、情報系のものに属するものだろう。 ところがインターネットの急速な発展は、もはやこうした初期の分類を急激に曖昧化しつつある。というのも情報系の典型であったホームページに併設されるようになった掲示板は、コミュニケーション系のツールとして、もはやゆるぎない地位を確立すると同時に、ホームページの機能・役割を補完し、ホームページ以上に「情報系」としても重要な部分を占めるようになってきた。 MLは、1対多のツールとして、ニュースの配信のようなサービスを可能とし、メールを情報系の地位に押し上げた。会議の場という観点からは、発言がネット上に存在せず、自分のパソコン内にあるというだけで、掲示板とMLの機能はほとんど同一である。 掲示板上であたかも会議をするかのように、MLの参加者はメールを使用することが可能である。 もちろん掲示板のように、メールを読むだけで参加しなくても構わない。言わばネット公開型の掲示板と異なり、メールが自分のパソコンに蓄積されることで、閉鎖型の会議室のようなものとなる。 MLは、このように人類が得た便利なツールであるが、もちろんその効用ゆえに、落とし穴もある。前置きが長くなった。次回は実際にCAMでおこった「笑える事件」をもとに、その危険性を考えてみたい。 |