メーリングリストの思わぬ落とし穴 -メーリングリストの落とし穴(2)- 2000年12月1日号 UP01/04/13 本文約2000字 MAC||HOME |
リード 筆者は、いくつかのメーリングリスト(ML)に参加し、また複数のMLを自分で主催している。今回は、筆者も参加している弁護士専用MLで実際におきた「笑えない話」を取り上げることにする。議論や情報交換の手段としては、MLは、非常に有用なツールだが、気軽に使いすぎると落とし穴もある。MLを効果的に使うためにも他山の石としていただければと思う。 ■メーリングリストでおこる事件 MLに参加していると、いくつか「事件」がおきる。前回に引き続き、取り上げるのは日本弁護士連合会消費者問題対策委員会が主催し運営するML(略称CAM)。CAMのテーマは消費者問題。参加資格は、弁護士であれば、消費者委所属の弁護士に限られないが、原則として弁護士に限られる。現在全国各地の弁護士約300人が参加し、消費者問題に関する議論や情報の交換が活発になされている(CAMについての詳細はhttp://homepage1.nifty.com/kito/cam.htm参照)。 CAMは、1999年1月に始められたが、参加者に、「投稿の心得」として、4つの義務を課している。 ①個人の責任において発言する。 ②他の参加者への誹謗中傷発言をしない。 ③委員会の活動を阻害するような発言をしない。 ④その他、管理者の指示に従う。 参加者が弁護士だけということもあり、心得に反する「不届き者」はまだ見当たらないが、時に「笑えない事件」がおきる。 ■コンピュータウイルスの危険 「依頼者から下記のようなメールが送信されてきましたので、念のため転送いたします」 ある日投稿されたメールはさらにこう続く。「I Love Youウイルスが下火になったら、それを上回る強烈な新ウイルスが発生したそうです。ハードディスクのメモリーが全て消え、治療法もないそうです。もしも、Lets watch TVというメールが届きましたら、開かないで、そのまま消去して下さい。この情報は多くの人は知りません。十分にご注意下さい!」 このメールを見て僕は、思わず、吹き出してしまった。本人は善意のつもりだろうが、これは典型的なデマウイルスである(ウイルスの詳細はhttp://www.nai.com/japan/virusinfo/vsearch.asp参照。ウイルス名「KALI」で検索してみてください)。 デマウイルスとは、チェーンメール化を狙った嘘のメールのこと。受取った人が騙されて転送することで、結果的にメール転送型ウイルスと同じ機能を持つことから、名づけられた。 このケースは、嘘を見抜く専門家である弁護士さえも、簡単にデマに騙されてしまう好例だろう。ちなみにCAMではまだ例がないが、ある大学のMLに参加した際には、学生から届いたメールに本物のコンピュータウイルス「Happy99」が添付されていたという事件もあった。 MLに参加する場合、当然多数の人からメールを受けることになる。ウイルスに対する知識と対処は最低限必要だろう。 ■プライバシーの誤発信 「〇〇先生。ご査収ください」というメールにファイルが添付されている。ファイルを開くと、裁判に出す書面の原案が。もちろん依頼者の名前など実名で入っている。もうおわかりだと思うが、別の弁護士に宛てて送付するはずのメールを、誤ってCAMに投稿してしまったという事件だ。 そのためCAMに参加する弁護士全員に依頼者のプライバシーが公開されてしまった。プライバシーはいったん流出すると、復旧が不可能な権利。「削除してください」というメールを出しても、あとの祭りである。幸いCAMは、弁護士専用サイト。参加する弁護士から外へプライバシーが流出することはないものの、それは不幸中の幸いにすぎない。 以上、MLは、議論や情報交換の手段として非常に有用なツールだが、「落とし穴」もあることが、わかっていただけたと思う。 ■メーリングリストでおきた犯罪 ところで、最近MLがらみで逮捕されたケースも出ている。警視庁は、2000年10月5日までに、以前勤めていた会社の社長を逆恨みし、脅迫メールを送ったとして、東京都狛江市の家庭教師の男性(35)を、脅迫の疑いで逮捕している。男性は、4月、インターネット関連のセキュリティー会社に入社したが、3カ月の試用期間中の6月7日に解雇された。 男性は、解雇された直後の6月9日から、社長宛てとして、同社の全社員が受信できるMLに、「忠臣蔵」などのタイトルの電子メールを投稿。「赤穂浪士をご存じですか?最後吉良は…」「覚悟しとけよ。中途半端はないからな」との内容の電子メールを、計5回にわたり、投稿した。 ちなみに脅迫罪は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金。MLは一体多の公開の場であり、発言の「公然性」が認められれば、名誉毀損罪にあたる可能性もある。そうなると3年以下の懲役または50万円以下の罰金となり、さらに罪状が重くなる。 ただし公然性の要件は、相手が「不特定多数であること」が必要。MLは一種の会議室のようなものと考えれば、「相手特定」のものとして「公然性」は認められない。この事件は社員用MLということで、いずれとも取れる微妙な事案であり、名誉毀損罪が認められてもおかしくないケースである*。 MLに投稿する以上、同時に多数の人が見るという現実と危険を十分自覚して、投稿する必要があり、普通のメールと同じ注意で気軽に投稿するのは危険である。MLに慣れてくると、ついリスクを忘れがちとなるので、要注意だ。 * なお本原稿脱稿後、こんな事件もおきている。 ■わいせつ画像送信の元社員を逮捕 異動辞令の腹いせに、警視庁-00年11月13日 ■ウイルス:河合塾のメーリングリスト 2万人に添付ファイル-01年1月29日 |