ワン切り迷惑電話の登場の意味
2002年3月1日号
UP02/07/29
本文約2000字
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リード

 携帯電話の迷惑メールの問題が一息ついた2001年11月ころから、携帯電話への「ワン切り」迷惑電話の相談が殺到するようになった。迷惑メールについては、2002年2月1日から広告であることを明示する義務を課すなど、国もさまざまな対策を講じてきた。しかし「ワン切り」についてはまったく手付かずの状況だ。





ワン切りの理由


 相手の携帯電話に、一回呼び出し音を鳴らしてすぐに切る。携帯電話の初期設定では、かけた相手に自分の電話番号を通知する設定となっている。そのため通常、そのままかけると相手の携帯電話には、かけた人の携帯電話の番号が着信記録として残される。仮に初期設定を非通知に変更していても、電話番号の頭に186をつけてかけると、相手に自分の電話番号を通知できる。
 
 安くなったとは言え、携帯電話の料金は高い。電話であえて話をするまでもない用件は、着信記録を残すだけとする。こうしたノウハウが、お小遣いの乏しい若者を中心に広がった。そしていつしか「ワン切り」と言われるようになった。合図の意味はさまざまだ。相手が家族なら「かけなおして」、相手が友人だったら「待ち合わせの場所についたよ」、相手が携帯電話に出られない勤務時間帯なら「仕事が終わったらかけてね」という意味といったように。



ワン切りの罠


 ところがこうした方法を悪用した手段が、2001年11月ころから急速に悪徳業者の間に広まった。業者は、コンピュータを使ってランダムに携帯電話の番号に「ワン切り」する。

 携帯電話の番号は、言わば11桁の数字の羅列である。そのためコンピュータで簡単に電話番号を生成できる。2000年末ころから問題が顕在化した迷惑メールが送られてくるからくりは、NTTドコモのメールアドレスの初期設定が@docomo.ne.jpの前に、やはり11桁の携帯電話の電話番号がつくという、誰でも簡単にアドレスが解析できたことに起因する。これが誰にも知られていない携帯電話のメールアドレスに迷惑メールが送くられてくる理由である。このメールアドレス解析の仕組みは、そのまま「ワン切り」にも応用が可能である。業者はこれを悪用した。

 業者からかけられた人は、「誰からだろう」といぶかしがる。そのためかけなおしてみる。かけなおした人も、いつもの習慣で、自分の電話番号を通知して相手にかけている。ところがかけた先は、ツーショットやわいせつな情報を流すことで料金を請求する悪質な業者だったりする。つまりこの段階で相手に自分の携帯電話の番号が知られているわけだ。

 そのためその後、業者から言いがかりのような高額の料金が請求されることになる。こうした業者は、「あなたの住所くらいすぐにわかる。支払わなければ押しかける。そのための費用もあなたに請求する」などと口走る。多くの消費者は怖くなり、支払わされてしまう。



迷惑メールへの対策


 2002年1月10日、経済産業省は、迷惑メールの問題に対処するため、「特定商取引に関する法律施行規則の一部を改正する省令」を公布し、特定商取引法施行規則を同日付けで改正して、2 月1 日より、業者が電子メールにより商業広告を送るときは、既に義務づけられている住所、電話番号等の表示に加え、①業者の電子メールアドレスの表示、②メールの件名欄に「!広告!」と表示、③メールの本文に広告である旨を表示、④消費者がメールの受け取りを希望しない場合に、その連絡を行う方法を表示し、連絡方法を設定しない場合には、件名欄に「!連絡方法無!」と表示することの義務を課した。

 表示義務に違反した場合、業務停止などの行政処分の対象となり、更に違反を繰り返した場合には犯罪となる(2年以下の懲役、または300万円以下の罰金、またはその両方)。

 さらに2002年1月下旬から始まる次期通常国会に、特定商取引法の改正案を提出し、消費者がメールの受け取りを希望しない旨の連絡を業者に行った場合には、消費者に対するメールの再送信を禁止する方針だという(注1、注2)。言わば迷惑メールの問題は、NTTドコモ一社の問題ではないという国の強い意思の表れだが、他方、ワン切りの問題は先送りされた(注3、注4)。



牧歌的時代の終了


 これまで携帯電話は、一般電話と異なり、業者の勧誘電話に悩まされることは少なかった。ところが携帯電話の加入者数は、一般電話の加入者数を大きく越えるようになった。社団法人電気通信事業者協会(TCA)は、2001年12月末現在の携帯電話・PHS加入者数が約6700万人に達し、携帯電話からインターネットに接続できる電話も約4850万人に達したと発表している(http://www.tca.or.jp)。

 もともと業者の勧誘電話や嫌がらせ電話などの迷惑電話で言う「電話」とは、固定電話のことを意味していた。携帯電話が固定電話を上回る社会では、携帯電話の牧歌的時代は終わり、携帯電話に対する迷惑電話の時代は、今から始まるというべきである。

 他方、牧歌的時代が終わった以上、むやみやたらと自分の携帯電話の番号を相手に通知するのは危険だということも心すべきだ。本来一般の人にとって、電話番号を通知して電話してもよいという相手は限られているはずだ。そして携帯電話の初期設定を「通知」としている携帯電話会社は、さらに強く非難されるべきだろう(注5)。





注1 携帯電話などに一方的に電子メールを送りつける迷惑メールを規制する「特定商取引改正法」と「特定電子メール送信適正化法」迷惑メール防止法2法が成立し、2002年7月1日に施行されている。
 メールの件名欄に「未承諾広告※」と表示することを義務づけたほか、「特定商取引改正法」では、消費者がメールを受け取りたくない旨を業者に通知しても送り続けた販売業者に対して経済産業省が改善命令と業務停止命令を出し、命令に従わない業者には罰金や懲役刑を課すことを可能にした。一方、「送信適正化法」でも同様な規制ができるほか、大量のあて先不明メールの原因になる架空アドレスによる送信を業者に禁止することができる。


注2 財団法人日本データ通信協会(谷公士理事長)は2002年7月10日、迷惑メール受信者からの相談を受け付ける「迷惑メール相談センター」を、同協会内に開設している。午前10時から午後5時(土日祝日・年末年始を除く)で、電話番号は03-5815-7201。違反の電子メールに関する情報提供も受け付けている。
 日本データ通信協会は、「送信適正化法」に基づき、電子メール送信適正化業務を実施する指定法人として、総務相から7月10日に指定された。

[日本データ通信協会]
http://www.dekyo.or.jp/
[表示義務違反に関する受付けメールアドレス]
meiwaku@dekyo.or.jp
[再送信禁止義務違反に関する受付けメールアドレス]
mailagain@dekyo.or.jp


注3 こうした行政側の対応の遅れが、2002年7月15日と同7月29日の関西での大規模な通信障害につながったことは明らかである。NTT西日本は、この業者の回線の利用中止に踏みきったが、この種の障害で、特定利用者の通信中止は、NTT発足以来、全国で初めてのことである。
 NTT西日本では、今後約款の変更と、短時間で大量発信を検出し規制する技術の開発を急ぐという。
 →【毎日】<ワン切り>NTTが約款変更 常識超えた落とし穴 


注4 2002年4月には、わいせつ物陳列罪の容疑で、ワン切り業者が逮捕されている。
ZDNN:速報:「ワン切り」業者が初の逮捕


注5 最近のワン切り問題については、近く発売予定のMacFan2002年9 月1日号(8月15日発売)、9月15日(9月1日)発売のCYBER RED CARDにも原稿を書いています。そちらも参照してください。