福永法源こと福永輝義 平成17年7月15日付け、東京地裁刑事事件判決
最終更新2015/4/8



法の華情報



【判例番号】 L06035117

       各詐欺被告事件

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成12年(刑わ)第1689号、平成12年(刑わ)第2001号、平成12年(刑わ)第2275号
【判決日付】 平成17年7月15日
【判示事項】 一 宗教団体の代表役員及び責任役員であった被告人らが、家族や自己の病気等の悩みを抱える者らに対して、「足裏鑑定」と称する個人面談等を実施し、修行に参加し、又は法納料等を納めれば、確実に病気が治癒するなどと申し向けて、金員の交付を受けた行為につき、詐欺罪が成立するとされた事例
       二 憲法二〇一条一項の信教の自由の保障の限界を逸脱する行為であって、詐欺罪として処罰することが同条項に反するものではないとされた事例
【掲載誌】  判例時報1933号131頁
【評釈論文】 法学セミナー52巻3号114頁

       主   文

 被告人Aを懲役一二年に、被告人Bを懲役四年に処する。被告人両名に対し、未決勾留日数中各一一〇〇日を、それぞれその刑に算入する。
 訴訟費用中、証人H3、同F子、同I3、同D子、同J3子、同K3及び同L3に支給した分はその二分の一を、証人K2子、同B1子、同M3及び同A1子に支給した分はその三分の二を、証人U1、同W1子、同Q子、同I1、同V2子、同B2子、同E3子、同C3子、同F1子、同L子、同E2子、同G2子、同A3子、同M1子、同Z1子、同T2子、同I、同N子、同X2子、同P1子、同J1子、同N3子、同F3子、同E1子、同W子、同Q2子、同D1、同O3子及び同L1に支給した分は全部を、被告人両名の連帯負担とする。

       理   由

 (罪となるべき事実)
 被告人A’ことA(以下「被告人A」という。)は、静岡県富士市《番地略》所在の宗教法人「法の華三法行」(以下「教団」という。)の代表役員であったもの、同Bは、教団の責任役員であったものであるが、被告人らは、病気等の悩み事を抱え、その解消を期待して相談に訪れた者らから、金員を騙し取ろうと企て、あらかじめ、被告人Aが「足ウラ博士」、「生態哲学博士」等と称し、人の足裏を診るなどしてその人の病気等の悩み事の状態や原因を的確に判断し、これを確実に解消する方策を「天声」によって提示し、その主宰する「修行」や「法納」等によって、その病気を治癒させ、その他のあらゆる悩み事を解消させることのできる特殊な能力を有するなどと標榜し、その旨記述した書籍等多数の出版物を「ゼロの力学」等の名称を用いて頒布して宣伝した上、
 第一 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第二事実]
 教団職員Cらと共謀の上、平成六年三月三日ころ、東京都渋谷区《番地略》所在のアースエイド松濤会館において、治療中の長女の脊髄腫瘍の治癒を願って相談に訪れたD子(当時三三歳)に対し、真実は、被告人Aには脊髄腫瘍の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、D子の長女に対して足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びCにおいて、こもごも「家の中心じゃなくて、解脱法納の方だ。」、「子供がまだ修行していないからだ。修行させなさい。修行に行かせると、法説御法行を七〇〇巻天納するころには、何の問題もなくなる。」、「E子ちゃん(D子の長女)は、右脳開発で一〇〇万円です。D子さんは(修行が)二回目なので三万円です。解脱法納は一本です。一本とは一〇〇〇万円です。解脱法納とは、地獄界に落ちた魂を天上界に引き上げることで、天に一番近い法納館に法納塔を納めることです。法納館に法納塔を納めれば、もう絶対に大丈夫です。」などと虚構の事実を申し向け、D子をその旨誤信させて、法納料等合計一一〇三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも法納料等名下に、同月四日、横浜市保土ヶ谷区《番地略》所在の横浜上星川郵便局から現金五〇〇万円を、同月一六日、同市緑区《番地略》所在の緑郵便局から現金五〇〇万円を、さらに、同月二二日、同市西区《番地略》所在の相鉄ジョイナス内郵便局から現金一〇三万円を、それぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第二 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第一事実(訴因変更後のもの)]
 教団職員F子、同G子、同H’ことH子らと共謀の上、
 一 平成六年三月三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、治療中の妻の癌の治癒を願って相談に訪れたI(当時三九歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、Iの妻に対して足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、G子及びH子において、こもごも「癌は頭まで来ている。そのままでは年は越せない。今からすぐ頭を取りに行きなさい。(修行に)行ったら病気が治ります。片方がマイナスを刻むと、そのマイナスが影響するから、二人で行かなければ意味がない。(二人で行けば)癌は治ります。」、「頭を取りに行けば奥さんの癌は治るんですよ。一緒に修行に行かなければ無意味です。」などと虚構の事実を申し向け、Iをその旨誤信させて、修行代合計三〇〇万円の支払を要求し、よって、同人を欺いて、いずれも修行代名下に、同日同所において、現金六〇万円を交付させ、さらに、同月四日、茨城県土浦市《番地略》所在の土浦郵便局から現金二四〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Hコあてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月九日ころ、静岡県富士市《番地略》所在の通称富士天声村において、前同様に装い、被告人A及びF子において、Iに対し、こもごも「I家の家の中心を東に向けて定め、五代前からの両家の生きざま、死にざまの大掃除しなさい。夫婦のすべての問題の原因とその生きざまも含め、I家の死にざまの解脱法納しなさい。」、「天声が下りてます。家の中心代三三三万円、解脱法納代一〇〇〇万円、法説御法行代一〇〇万円を明日納めなさい。J子さん(Iの妻)の癌は治りました。解脱法納をしなければ、治ってもお互いにまた苦を刻むようになるから、癌は再発する。天声に添った場合には、病気を寄せつけない体になる。」などと虚構の事実を申し向け、Iをその旨誤信させて、法納料等合計一四三三万円の支払を要求し、よって、同人を欺いて、法納料等名下に、同月一〇日、茨城県内所在の郵便局から現金四三三万円を、さらに、同月一四日、茨城県内所在の郵便局から現金一〇〇〇万円を、それぞれ前記「富士天声村」あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第三 [平成一二年五月二九日付け起訴状の第一事実(訴因変更後のもの)]
 前記C、教団職員K子らと共謀の上、平成六年一一月八日ころ、前記アースエイド松濤会館において、夫婦関係の悩みや乳癌の再発を恐れて相談に訪れたL子(当時四〇歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の症状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、C及びK子において、こもごも「このままだと家庭崩壊になる。子供たちのほうも空中分解する。足の裏がヒヤッとして冷たい、足の色つやも悪い。先祖からの血の受け継ぎが悪い。(右乳房のしこりは)既に癌になっとる。修行に行けばよくなる。」、「四泊五日の人間生きざま修行に参加し、修行しなさい。L子さんはもう既に癌になってるんだから、修行に行かなければ治らない。修行を受ければ癌はなくなります。人生が一八〇度変わります。主人との仲もよくなる。」などと虚構の事実を申し向け、L子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五万円を交付させ、さらに、同月九日、横浜市青葉区《番地略》所在の横浜美しが丘郵便局から現金二二〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」K子あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第四 [平成一二年五月二九日付け起訴状の第二事実(訴因変更後のもの)]
 教団職員M子らと共謀の上、平成六年一一月一〇日ころ、前記アースエイド松濤会館において、全身の痛みや家族関係の軋轢に悩んで相談に訪れたN子(当時三七歳)に対し、真実は、被告人Aには病気の有無や体調等を的確に診断してこれを治癒、回復させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びM子において、こもごも「これは短命だ。水子が四体いる。毒素が溜まっている。これでは大病してしまう。ともかく修行を受けないといけない、大病をしてしまう。頭を取る修行をしなさい。修行に行けば今の痛みや病気はすべて治る。」、「短命で終わる。あなたには毒素が溜まっている。修行を受けると、すべての痛み、今の悩みも解決になって、良くなっていく。」などと虚構の事実を申し向け、さらに、同年一一月下旬ないし同年一二月上旬ころ、平賀において、福島県喜多方市《番地略》のN子方に電話をかけ、同女に対し、「今だと一二五万円で修行を受けることができます。」などと申し向け、同女をその旨誤信させて、修行代一二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、同年一二月九日、同県会津若松市《番地略》所在の会津若松郵便局から現金八万円を、同月一九日、同郵便局から現金三〇万円を、同月二〇日、同県喜多方市《番地略》所在の喜多方郵便局から現金八〇万円を、それぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」M子あてに電信為替で送金させて交付させ、さらに、同月二三日ころ、前記富士天声村において、現金六万四〇〇〇円を交付させるとともに、同女から被告人Aとの面談料等名下に納付を受けた金員のうちの過払分六〇〇〇円につき、これを修行代に充当することで、同女に対する支払を免れて財産上不法の利益を得た、
 第五 [平成一二年五月二九日付け起訴状の第三事実(訴因変更後のもの)]
 教団職員O子、同P子らと共謀の上、
 一 平成六年一二月六日ころ、前記アースエイド松濤会館において、知的障害者の二女の将来等を案じて相談に訪れたQ子(当時五一歳)に対し、真実は、被告人Aには癌及び知的障害者の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力もないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びP子において、こもごも「このままでは癌になる。足の形も悪いし、先祖からの血の受継ぎが悪い。今年最後の特訓があるから行け。(特訓に行けば)癌も消えてなくなるし、体が全部健康になるし、子孫にいろいろいいことがあって悪いことはみんな救ってくれる。」、「特訓すれば本当にみんなよくなって、どんな人でもみんな元気になって帰ってくる。」などと虚構の事実を申し向け、Q子をその旨誤信させて、修行代等二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代等名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月七日、茨城県つくば市《番地略》所在のつくば学園郵便局から現金二二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Pコあてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月二九日ころ、前記アースエイド松濤会館において、前同様に装い、被告人Aにおいて、Q子の二女に対して足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びO子において、Q子に対し、こもごも「特訓に行けばよくなるのにどうして今まで放っといたんだ。障害を持った子供でも、話もちゃんとできるようになるし、身の回りのことは自分でできるようにちゃんとなるから心配いらない。特訓がだめなら解脱だ。解脱をすれば生活が普通にでき、言葉も出るし、体も良くなる。解脱については一本だ。」、「Q子さんの先祖は地獄界に落ちています。その先祖を天上界に救ってあげるのを解脱法納と言います。解脱法納の観いの定めは一本、つまり一〇〇〇万円です。今まで何人もR子さん(Q子の二女)みたいな方とか病気の子供とか、みんなよくなって、ちゃんと楽しく普通の生活に戻ってます。」などと虚構の事実を申し向け、Q子をその旨誤信させて、解脱法納料一〇〇〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、解脱法納料名下に、同月三〇日ころ、前記アースエイド松濤会館において、現金一〇〇〇万円を交付させた、
 第六 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一事実]
 教団職員S子、教団信者T、同U、同V子らと共謀の上、平成六年一二月ころ及び平成七年二月一一日ころ、前記アースエイド松濤会館及び水戸市《番地略》所在の甲野ホテルにおいて、長男の気管支喘息及び自分の高血圧、リューマチ、老人性白内障等の治癒等を願って相談に訪れたW子(当時七〇歳)に対し、真実は、被告人Aには気管支喘息の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示するなどの能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、同女及び同女の長女に対して足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、S子、T、U及びV子において、こもごも「(足の裏が)汚い。おっかさんが一番悪い。頭を取れば家族全員の病気や不安もなくなる。天行力が背中の中間ぐらいで通らない。修行に行って頭を取りなさい。修行に行けば息子さんの病気も治る。」、「お姉さん(W子の長女)は意外ときれいな足をしてるね。ただ、親指が硬い。このまま放っておくと、くも膜下出血になり死んでしまうよ。頭を取れば人生一八〇度変わり、何もかもうまくいき、不安も悩みもなくなる。すんなり離婚もできる。」、「お母さんが四泊五日の修行に行って頭を取らないと、お母さん自身の病気はもちろん息子さんの病気も治りませんよ。それからお姉さん、A先生が言われたとおり、このまま放っておきますと、本当にくも膜下で死んでしまいますよ。修行に行って頭を取ってくれば、くも膜下にならず、死ななくて済むんですよ。」などと虚構の事実を申し向け、W子をその旨誤信させて、修行代合計二五〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月一三日、茨城県日立市《番地略》所在の日立塙山郵便局から現金二五〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Tあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第七 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第五事実(訴因変更後のもの)]
 前記P子、前記M子、教団世田谷船橋支部長X子らと共謀の上、平成七年一月一四日ころ及び同年一〇月一〇日ころ、前記アースエイド松濤会館ほか一か所において、結婚問題や十二指腸潰瘍による胃痛に悩んで相談に訪れたY子(当時二八歳)に対し、真実は、被告人Aには癌及び十二指腸潰瘍の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びX子らにおいて、こもごも「随分苦を刻んでいるようだなあ。このままだと胃癌になる。(結婚の問題は)一年以内に解決する。頭が付いているから、頭を取らなければならない。」、「先生がおっしゃられたように、このままだと一年、二年で胃癌になります。このままだと赤い糸にも巡り会えず、そのままですよ。一月二一日からの修行に参加しなさい。修行に行かないと胃も治らないし胃癌になります。修行に行けば胃癌にもならないし、今の胃の病気も治るんですよ。」、「あなたは今すぐにでも修行に参加すべきだ。修行に参加すれば今の病気も治るし、結婚問題も解決する。何の心配もなく暮らせる。」などと虚構の事実を申し向け、Y子をその旨誤信させて、修行代一二六万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、同年一月一四日ころ、前記アースエイド松濤会館において、現金一万円を交付させ、さらに、同年一〇月一八日、東京都港区《番地略》所在の世界貿易センター内郵便局から現金四五万円を、同月二三日、同郵便局から現金五〇万円を、同月二五日、同郵便局から現金三〇万円を、それぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第八 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第三事実]
 教団職員であった分離前の相被告人Z子、教団職員A1子らと共謀の上、平成七年一月一六日ころ、前記アースエイド松濤会館において、自己の遠位性ミオパチーの治癒を願って相談に訪れたB1子(当時四八歳)に対し、真実は、被告人Aには遠位性ミオパチーの病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、Z子及びA1子において、こもごも「あなたの足はもう死んでる。このままでは前の奥さんのようになる(死んでしまうの意)。頭を取って修行すれば治るから、後ろの人と相談しなさい。」、「あなたのは、もう首から下は天行力が流れない。このままでは悪くなるばかりだ。」、「やっぱり病気を治すんだったら修行してみてください。修行を受ければ病気も治る。頭を取ればよくなります。」などと虚構の事実を申し向け、B1子をその旨誤信させて、修行代一二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、その場で現金一万円を交付させ、さらに、同月一八日、東京都板橋区《番地略》所在の板橋成増郵便局から現金一二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」A1コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第九 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第四事実]
 教団浦和支部長C1子、教団職員D1らと共謀の上、平成七年二月一一日ころ、前記アースエイド松濤会館において、母親の老人性痴呆症や父親の大腸癌の治癒を願って相談に訪れたE1子(当時五二歳)に対し、真実は、被告人Aには癌等の病状を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、C1子及びD1において、こもごも「悪いところがあるね。天行力が下まで通らない。腰で止まっている。あなたは確実に子宮癌になるね。修行に行って頭を取りなさい。良くなるためには頭を取ること。そうしないと、親子そろって癌で死ぬことになるよ。」、「天声では、二月一八日から行われる修行に行くようにとなっています。あなた一人が修行をすれば、両親の病気も良くなり、家庭の中も明るくなる。」、「あなたも癌にならないで済む。」などと虚構の事実を申し向け、E1子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月一七日、浦和市《番地略》所在の浦和中央郵便局から現金二二五万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」浦和支部C1子あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一〇 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第二事実(訴因変更後のもの)]
 前記S子らと共謀の上、平成七年二月二八日ころ、前記アースエイド松濤会館において、癌の再発を恐れて相談に訪れたF1子(当時三四歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びS子において、こもごも「間違いなく一年以内に癌は再発するよ。子供たちも同じ病気になる。修行に行けば一年で生活が変わるから、すぐに修行に行きなさい。(夫婦で)修行に行かなければ奥さんの癌は再発するよ。大至急頭を取れ、すぐ修行に行け。修行に行けば癌も治る。」、「このままでいったら奥さんの癌は再発するよ。子供たちも同じ病気になる。すぐに夫婦で修行に行きなさい。修行に行って頭を取って、天行力が通る体になれば病気が治り、子供たちは病気にもならないし、再発もしない。」などと虚構の事実を申し向け、F1子をその旨誤信させて、修行代合計二五〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同年三月三日、北海道千歳市《番地略》所在の千歳郵便局から現金二五〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」G1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一一 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第五事実]
 前記C、教団信者H1子らと共謀の上、平成七年三月五日ころ、横浜市西区《番地略》パシフィコ横浜会議センターにおいて、胆石症の発病を恐れて相談に訪れたI1(当時六二歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、C及びH1子において、こもごも「大分足の裏は汚れてるね。血も大分汚れてるね。爪が上向きになってる。もう今癌になりかかっている。胆石があるね。(天行力が)二・七ぐらいしか流れない。随分流れが悪い。」、「天行力の流れが悪い。これはもう非常に危ない状態です。こんな状態だから天声村に研修に行った方がいい。頭を取る研修があるから、それに是非行くように。研修へ行って頭を取れば癌も治る。胆石も消える。」、「いろんな人を知ってるけど、癌等のいろんな病気、全部治りました。A先生の言うとおりにすればすべてよくなります。間違いないですよ。あなたの病気も治ります。」などと虚構の事実を申し向け、I1をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同人を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五〇〇〇円を交付させ、さらに、同月九日、同人をして東京都八王子市《番地略》所在の八王子上柚木郵便局から現金二二四万五〇〇〇円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一二 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第三事実(訴因変更後のもの)]
 前記F子、前記S子らと共謀の上、
 一 平成七年三月九日ころ、前記アースエイド松濤会館において、乳癌の再発を恐れて相談に訪れたJ1子(当時四七歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びS子において、こもごも「このままでは二か月後にリンパ癌になる。修行を受ければ癌にもならないし、人生が一八〇度転回してよい方向に向かう。すぐ修行に行きなさい。」、「修行は早いほうがいい。三月一一日から四泊五日で富士市の天声村であるから、それに行きなさい。修行に行けばリンパ癌になることはありません。悩みもなくなり、人生も一八〇度よりよいものになります。」などと虚構の事実を申し向け、J1子をその旨誤信させて、修行代一二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月八日、札幌市中央区《番地略》札幌大同生命ビル一階所在の札幌北三条郵便局から現金一二五万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Sコあてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同年四月中旬ころ、札幌市中央区《番地略》所在のホテル乙山において、前同様に装い、F子及びS子において、J1子に対し、こもごも「天声を伝えます。J1家の家の中心二三三万円、両家の法説御法行二〇〇万円、合計四三三万円。これをすることで徳を積むことになるのです。そうしなければ、あなたのこれまでやってきたことはすべて無駄になる。払わないとリンパ癌にもなるし、人生も更に悪くなる。人生は望みどおりにならない。本当は両方とも大事なものですが、それが無理であれば、家の中心からやりなさい。」などと虚構の事実を申し向け、J1子をその旨誤信させて、法納料二三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、法納料名下に、同年五月一日、札幌市中央区《番地略》所在の株式会社北海道拓殖銀行札幌駅前支店から現金二三三万円を静岡県富士市《番地略》所在の株式会社スルガ銀行富士鷹岡支店の「法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第一三 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第四事実(訴因変更後のもの)]
 教団練馬石神井台支部K1子、教団職員L1らと共謀の上、平成七年四月三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、治療中の妹の摂食障害の治癒を願って相談に訪れたM1子(当時二三歳)に対し、真実は、被告人Aには同女の妹の摂食障害の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、K1子及びL1において、こもごも「妹さんの病気を治すには、あなたが変わることだ。」、「出てます、出てます。四泊五日の修行に行きなさいということが出てます。妹さんの病気を治すためには修行に行った方がいい。修行に行けば、妹さんの病気は絶対治る。」などと虚構の事実を申し向け、M1子をその旨誤信させて、修行代一二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金三〇〇〇円を交付させて、同月四日、東京都練馬区《番地略》所在の練馬中村郵便局から現金三五万円を、同月五日、東京都板橋区《番地略》所在の板橋成増四郵便局から現金一〇万円をそれぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」L1あてに電信為替で送金させて交付させ、さらに、同月八日、前記富士天声村において、現金七九万七〇〇〇円を交付させた、
 第一四 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第六事実]
 教団職員N1子、教団松戸支部長O1子らと共謀の上、平成七年四月三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、高血圧症等の治癒を願って相談に訪れたP1子(当時六五歳)に対し、真実は、被告人Aには高血圧症の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、N1子及びO1子において、こもごも「先祖の悪い生きざま死にざまを表している。足の指がそろってなくて凸凹だ。外反母趾で親指が曲がっている。とにかく悪い。このままではいつ倒れてもおかしくないな。天声村へ行って修行を受けなさい。修行を受けて頭を取りなさい。修行を受ければあなたの健康上の問題もすべて解決しますよ。(天行力が)二・五しか通ってない。これじゃ具合が悪いわけだ。」、「足の裏の状況が悪いし、いつ倒れてもおかしくないんだから、近いうちに天声村の修行があるから、そこへ是非行って頭を取りなさい。修行に行けば、高血圧も治ってしまい、健康の問題などは解決し、すべての問題がなくなります。修行を受ければすべて状況はよくなるから、お金の問題もなくなります。」などと虚構の事実を申し向け、P1子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月七日、千葉県我孫子市《番地略》所在の我孫子柴崎台郵便局から現金二二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」N1コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一五 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第七事実]
 前記D1、前記(教団町田支部長)H1子らと共謀の上、平成七年四月二〇日ころ、前記アースエイド松濤会館において、頸部にできたイボ等を気にして相談に訪れたQ1子(当時五五歳)に対し、真実は、被告人Aには前記イボの病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、D1及びH1子において、こもごも「天行力を通したが、腰で天行力の通りが悪いな。腰で止まって、天行力が足まで流れない。首にイボができてますな。そのイボは癌だ。放っておいたらいけない。(喉のポリープも)癌だ。四泊五日の修行に行ったらすぐ治る。」、「修行に行けば、喉のポリープと首のイボが治る。あなたが変わればお孫さんの体のほうも良くなりますよ。」などと虚構の事実を申し向け、Q1子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求して、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金三〇〇〇円を交付させ、さらに、同月二一日、埼玉県大宮市《番地略》所在の指扇駅前郵便局から現金二二四万七〇〇〇円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一六 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第八事実]
 教団下都賀支部長S1子、教団職員T1子らと共謀の上、平成七年四月二九日ころ、前記アースエイド松濤会館において、痔及び腹痛に悩んで相談に訪れたU1(当時六〇歳)に対し、真実は、被告人Aには癌及び痔の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、S1子及びT1子において、こもごも「大分汚れている。これではこの秋には癌だ、大腸癌だ。富士だ、富士へ行って頭を取ってこい。そうすれば癌が治る。」、「五月一三日の富士の修行があるから、その道場へ行って修行してきなさい。癌が治りますから。チャンスがもう二度と来ない。」、「肚をくくって修行に行ってきなさい。病気は治りますから。修行代は命には代えられませんよ、二二五万とね。」などと虚構の事実を申し向け、U1をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同人を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五万円を交付させ、さらに、同年五月一日、栃木県下都賀郡《番地略》所在の野木郵便局から現金二二〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」T1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一七 [平成一二年五月二九日付け起訴状の第四事実(訴因変更後のもの)]
 前記F子、前記M子、教団信者V1子らと共謀の上、
 一 平成七年五月二三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、入院治療中の長女の癌の治癒を願って相談に訪れたW1子(当時五一歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、M子及びV1子において、こもごも「普通の人は(天行力が)全部一〇で流れるけど、あなたの場合は半分くらいきり流れなくて、腰で止まってしまって、お腹にしこりがある。それを放っておけば癌になりますよ。癌患者と同じだ。(娘は)どこに入院してるんだ。そんなところへ入院しているから、だから治らないんだ。あそこの病院の前をよく通るけども、そういう患者がいっぱいいる。修行に行って頭を取りなさい。」、「あなたが修行に行って娘を治してあげなさい。修行に参加すれば、娘は必ずよくなる。」などと虚構の事実を申し向け、W1子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五万円を交付させ、さらに、同月二五日、茨城県稲敷郡《番地略》所在の実穀郵便局から現金二二〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Mあてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同年六月中旬ころ、前記アースエイド松濤会館において、前同様に装い、F子において、W1子に対し、「天声に従いなさい。家の中心代二二三万円、水子の供養代三〇〇万円を法納しなさい。一〇〇体、W1家の場合は地獄に墜ちているんで、法説御法行を一〇〇〇巻書けば、七〇体は救い上げられるけど、あとの三〇体は何もしなくてもいいけれども、三〇〇万を法納すれば、すぐに目に見えて良くなっていく。」などと虚構の事実を申し向け、W1子をその旨誤信させて、法納料等合計五三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも法納料等名下に、同月二二日、東京都豊島区《番地略》所在の株式会社常陽銀行池袋支店から現金二三三万円を、同年七月六日、同区《番地略》所在の株式会社あさひ銀行池袋副都心支店から現金三〇〇万円を、それぞれ前記株式会社スルガ富士鷹岡支店の「法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第一八 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第六事実(訴因変更後のもの)]
 教団法徳士X1、教団成田支部長Y1子らと共謀の上、平成七年六月六日ころ、前記アースエイド松濤会館において、自己の左耳の突発性難聴の治癒を願って相談に訪れたZ1子(当時三九歳)に対し、真実は、被告人Aには突発性難聴の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、X1及びY1子において、こもごも「天行力が頭までしか通らない。足の指が曲がっているから、これだと耳が聞こえなくなって当たり前だ。右耳もかなり悪くなりかけている。放っていたら右耳も聞こえなくなる。六月の一〇日に修行に行きなさい。頭を取ればすべてが解決する。」、「頭を取るというのは四泊五日の研修に行くことなんですよ。先生は治らない人には勧めない。研修に行けば、あなたの左耳は必ず治ります。」などと虚構の事実を申し向け、Z1子をその旨誤信させて、修行代二二五万円を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月八日、千葉県市川市《番地略》所在の南行徳駅前郵便局から現金二二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R1コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第一九 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第九事実]
 H’こと前記H子、前記L1、教団中野支部長A2子らと共謀の上、
 一 平成七年六月一三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、長女の進行性化骨性筋炎の治癒を願って相談に訪れたB2子(当時四六歳)に対し、真実は、被告人Aには進行性化骨性筋炎の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、H子及びA2子において、こもごも「修行に参加したほうがいい。天行力が通ってお母さん自身が変われば、娘さんの病気も必ず治ります。」、「今回娘さんが病気になったというのは、お父さんとお母さんが赤い糸で結ばれた結婚ではないからですよ。修行に行って頭をもぎ取って、天行力が通るようになって、お父さんとお母さんが変われば娘さんの病気は必ず良くなります。」などと虚構の事実を申し向け、B2子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月一六日、東京都日野市《番地略》所在の日野高幡郵便局から現金二二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」H’子あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月二八日ころ、前記富士天声村から東京都日野市《番地略》所在のB2方に帰宅する途中のバス内又は電車内等において、前同様に装い、L1、A2子及びH子において、B2子に対し、こもごも「修行の効果を確かなものとするためには、すぐに三人の頭をもぎ取らなければならない。」、「あなた一人では、効果ははっきりと出ない。娘さんが修行に参加しなければ効果はない。」などと虚構の事実を申し向け、B2子をその旨誤信させて、修行代一〇〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月二九日、前記日野高幡郵便局から現金一〇〇万円を東京都渋谷区《番地略》乙野ビル所在の第二アースエイド会館「ゼロの力学本庁」H’あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第二〇 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一〇事実]
 教団職員C2子、教団川越市古谷上支部長D2子らと共謀の上、平成七年六月一八日ころ、前記アースエイド松濤会館において、虚弱体質や冷え症に悩んで相談に訪れたE2子(当時五二歳)に対し、真実は、被告人Aには癌及び冷え症の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、C2子及びD2子において、こもごも「水ぶくれているのは水虫で、汚い足ですね。今までに苦を刻んできましたね。冷たくて色つやのない足は、先祖の血の受継ぎが悪いからです。このままだと孫ができないし、子孫は絶えてしまいます。首で四、腰で三しか天行力が通っていない。このままだと一年以内に癌になって、放っておけば死んでしまいます。すぐ頭を取る修行に行きなさい。」、「このままだと大変なことになりますよ。とにかく修行に行きなさい。修行を受けると、人生が一八〇度変わって、悩んだり苦しんだりすることは一切なくなります。」などと虚構の事実を申し向け、E2子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月一九日、浦和市《番地略》所在の浦和中央郵便局から現金二二四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」C2コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第二一 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第七事実(訴因変更後のもの)]
 前記F子、前記T、前記D2子、教団職員F2子らと共謀の上、
 一 平成七年七月三一日ころ、前記アースエイド松濤会館において、腰痛や夫婦関係の軋轢等に悩んで相談に訪れたG2子(当時四三歳)に対し、真実は、被告人Aには腰痛及び癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、F2子及びD2子において、こもごも「足が冷たいね。夫婦が仲が悪いのかね。天行力の通りが悪いね。首が五で、腰が二・七だね。修行を受ければ、これらのことはすべて解決します。」、「首で五、腰で二・七。二・五以下だと癌になるんですよ。G2さんは二・七だったから、まだ間に合います。一日も早く修行を受けたほうがいいですよ。そうしないと癌になりますよ。病気も治らないから。修行に行けば病気も治る。」などと虚構の事実を申し向け、G2子をその旨誤信させて、修行代二五五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同年八月一日、埼玉県坂戸市《番地略》所在の北坂戸団地内郵便局から現金二五四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」F2コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月中旬ころ、埼玉県坂戸市《番地略》所在のG2方において、前同様に装い、D2子及びTにおいて、G2子に対し、こもごも「娘さんを修行に参加させることで、あなたも病気が治るし癌にもならない。娘さんを修行に行かせると、これから何事も心配なく暮らせる。」などと虚構の事実を申し向け、G2子をその旨誤信させて、修行代一〇五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金一万円を交付させ、さらに、同月二一日、前記北坂戸団地内郵便局から現金一〇四万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」Tあてに電信為替で送金させて交付させた、
 三 同月二七日ころ、埼玉県大宮市《番地略》所在の丙川ホテルにおいて、前同様に装い、被告人A及びF子において、G2子(当時四四歳)に対し、こもごも「天声に添いなさい。すべてが解決する。」、「天声はこのように出ているのよ。G2家は家の中心、解脱法納をしなさい、支部長になりなさいと出ています。家の中心は二三三万円、解脱法納は一〇〇〇万円です。この天声に添えば、五代前の先祖や水子は地獄から引き上げられ、あなたの五代先の子孫まで良い影響があり、すべてが救われ、良い方向に向かいます。」、「G2家には地獄に堕ちている生命体が一三体ある。それを引き上げるために解脱法納しなさい。解脱法納には一〇〇〇万円かかります。解脱法納については少しずつ払えばよく、まず三〇〇万でいい。」などと虚構の事実を申し向け、G2子をその旨誤信させて、法納料合計五三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも法納料等名下に、同年九月一日、埼玉県坂戸市《番地略》所在の株式会社あさひ銀行北坂戸支店から現金五〇〇万円を前記スルガ銀行富士鷹岡支店の「法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させ、さらに、同月一二日ころ、同女方において、現金三三万円を交付させた、
 第二二 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一一事実]
 前記Z子、前記L1、教団職員H2子、教団市川支部長I2子、教団職員J2らと共謀の上、
 一 平成七年七月三一日ころ、前記アースエイド松濤会館において、夫の癌の治癒を願って相談に訪れたK2子(当時四〇歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びL1及びI2子において、こもごも「天行力の通りが腰のところで止まっている。これは旦那じゃないよ。あなたのせいで癌になってる。旦那が死ねば、あんたも三か月後に死ぬ。急いでやらないとだめだ。研修を受ければ病気は治る。ほかのどんな拝み屋に行ってもだめだよ。」、「癌は治るのは奇跡じゃないのよ。修行に参加すれば病気は治ります。修行に行かなければだめです。先生も早く修行に行くように言っている。」などと虚構の事実を申し向け、さらに、その後、L1において、千葉県市川市《番地略》所在のK2方に電話をかけ、同女に対し、「ご主人が死んでもいいのか。そんなにお金が大事なんですか、じゃ、命で払いますか。修行に参加すれば病気が治ります。」などと虚構の事実を申し向け、K2子をその旨誤信させて、修行代一二〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同年八月二日、同市《番地略》所在の北八幡郵便局から現金一二〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月一二日ころ、前記アースエイド松濤会館において、前同様に装い、被告人Aにおいて、K2子の夫に対して足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、Z子及びI2子において、K2子に対し、こもごも「全く生気がない。あと三か月だ。癌は頑固な癌だ。でも、修行を受ければ癌は良くなるし、夫婦で源けばプラスの波動が二乗、三乗になって、元の平和な家庭に戻る。」、「あなたが修行しただけでは癌は治らないのよ。本人が修行を受けないとだめです。修行に参加すれば癌は治ります。」、「一緒に頑張りましょう。癌が治りますから。」などと虚構の事実を申し向け、K2子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月一五日、前記北八幡郵便局から現金二二五万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 三 同月二四日ころ、前記富士天声村において、前同様に装い、被告人A、H2子及びI2子において、K2子に対し、こもごも「この前ちらっと診ただけだけど、もういつ死んでもおかしくない。家の中心を立てて、家を盤石にしなければ、家がつぶれる。家の中心を立てれば大丈夫だから。ご主人の修行はいいから連れて帰りなさい。大丈夫だからいいです。天声に添えば癌は治る。」、「家の中心を立てれば絶対違うから。絶対病気が治って助かるから。代金は二三三万円です。」などと虚構の事実を申し向け、K2子をその旨誤信させて、法納料二三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも法納料名下に、同日同所において、現金二〇〇万円を、同月二五日、同所において、現金三三万円をそれぞれ交付させた、
 四 平成八年一月一四日ころ、東京都渋谷区《番地略》所在の丁原ホテルにおいて、前同様に装い、L1及びJ2において、K2子に対し、こもごも「あなたの両親を参加させなさい。両親を研修に参加させて、お金を払えば、ご主人に天行力が通ります。参加させるためにはどんな嘘をついてでもいいから引っ張ってこい。」などと虚構の事実を申し向け、さらに、その後、J2において、K2方に電話をかけ、同女に対し、「お金を払えば、ご主人に天行力が通ります。天行力が通ると病気も治りますよ。」などと虚構の事実を申し向け、K2子をその旨誤信させて、修行代合計二五〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月一八日、前記北八幡郵便局から現金二五〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」L1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第二三 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一二事実]
 教団職員であった分離前の相被告人L2、同R1子、前記K1子らと共謀の上、平成七年八月一七日ころ、前記アースエイド松濤会館において、夫の癌の治癒を願うとともに長男の登校拒否を案じて相談に訪れたM2子(当時五三歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力も登校拒否の原因を的確に判断してこれを解決するための確実な方策を提示する能力もないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、R1子、L2及びK1子において、こもごも「このまま放っておくと大変なことになる。頭を取るための修行を受けなさい。これさえ受ければすべて解決する。あなたも腰まで癌になっとるよ。言われたとおりにやりなさい。」、「修行を受ければあなたとご主人の癌は治ります。ただ、あなたの足裏は、子供が駄目と出ていますから、息子さんも修行させないと登校拒否は治りませんよ。二〇歳を過ぎてからでは手遅れになりますよ。修行に行けば確実に治るし、これから先は家族安泰です。」などと虚構の事実を申し向け、M2子をその旨誤信させて、修行代合計三三〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、その場で現金一万円を交付させ、さらに、同月一八日、東京都板橋区《番地略》所在の板橋西郵便局から現金三二九万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R1コあてに電信為替で送金させて交付させた、
 第二四 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一三事実]
 前記O子、教団職員N2、教団明石支部長O2子、教団信者P2子らと共謀の上、
 一 平成七年八月二一日ころ、前記アースエイド松濤会館において、慢性関節リュウマチ等の悩みで相談に訪れたQ2子(当時五八歳)に対し、真実は、被告人Aにはリュウマチの病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、O子及びO2子において、こもごも「Q2家の先祖の根が腐っている。(天行力が)癌の人でも二・五腰まで通るのに、あんたは二・三しか通らん。これは駄目だ。もう心不全で終わりだな。即頭を取れ。」、「頭を取る修行に入れば、リュウマチも治るし健康になって、これからのあなたの人生はよくなる。先祖も救われますよ。」などと虚構の事実を申し向け、Q2子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五〇〇〇円を交付させ、同月二二日、神戸市《番地略》所在の神戸天ノ下郵便局から現金二二四万五〇〇〇円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」R2あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同年九月二日ころ、大阪市淀川区《番地略》新大阪天祥ビル五号館二階所在の「ゼロの力学本庁」関西支局において、前同様に装い、P2子において、Q2子に対し、被告人Aの伝える天声と称して、「家の中心代二三三万円、水子供養代一〇〇万円、支部長研修費三〇万円」などと書いた紙を示しながら、「天声はこうなっています。合計三六三万円を二四時間以内に納めなさい。」などと申し向けた上、さらに、同月四日ころ及び同月五日ころ、N2及びO2子において、神戸市垂水区《番地略》戊田三〇三号のQ2方に電話を架け、同女に対し、こもごも「天声に従わないと、頭を取って修行した意味がなくなる。天声に従ってお金を納めれば、これからQ2家も栄えて、あなたの人生も良くなって、病気(リュウマチ)も治ります。」などと虚構の事実を申し向け、Q2子をその旨誤信させて、法納料等合計三六三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、法納料等名下に、同月六日、神戸市須磨区《番地略》所在の株式会社近畿銀行神戸西支店から現金三六三万円を前記株式会社スルガ銀行富士鷹岡支店の「法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第二五 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一四事実]
 前記H2子、前記J2、教団鎌倉支部長S2らと共謀の上、
 一 平成七年九月七日ころ、前記アースエイド松濤会館において、夫の癌の治癒等を願って相談に訪れたT2子(当時五六歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、J2及びS2において、こもごも「色つやのない足だね。つま先まで天行力が通っていないから腰痛になったり病気になるんだ。このままだとあなたも癌になりますよ。修行して頭を取りなさい。天行力の通りがよくなる。」、「あなたが苦を積んでるからご主人が病気になるんだよ。修行して頭を取れば、旦那さんの病気も治る。あなたの病気も治るし、癌にならなくて済む。研修に参加したほうがいいですよ。」などと虚構の事実を申し向け、T2子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金五万円を交付させ、さらに同月八日川崎市川崎区《番地略》所在の川崎大島郵便局から現金二二〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」L1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同年一〇月二一日ころ、前記富士天声村において、前同様に装い、被告人A、H2子及びS2において、T2子に対し、こもごも「家の中心と解脱法納だ。二人(H2子及びS2)でよく説明してやりなさい。」、「天声は家の中心と解脱法納です。家の中心は、先祖の生きざまが悪いから大掃除をして元に戻すことです。家の中心を置けば旦那さんの病気の流れが変わります。あなたのような境遇の人も何人も助かっています。家の中心は二三三万円で、解脱法納は一〇〇〇万円です。そんなに出せないんだったら、一〇〇〇万円の三分の一が限度です。」、「A’先生の言うとおりやった方がいいですよ。言うとおりにやれば、ご主人の病気の流れも変わります、答えも出ますよ。」などと虚構の事実を申し向け、T2子をその旨誤信させて、法納料等合計五八三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、法納料等名下に、同月二三日、川崎市川崎区《番地略》所在の株式会社住友銀行川崎支店から現金五八三万円を東京都文京区《番地略》所在の同銀行大塚支店の「宗教法人法の華三法行」名義普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第二六 [平成一二年七月一〇日付け起訴状の第一五事実]
 前記F子、教団千葉支部長U2子らと共謀の上、
 一 平成七年一〇月九日ころ、前記アースエイド松濤会館において、自分の肝臓病と夫の胃癌の治癒を願って相談に訪れたV2子(当時六一歳)に対し、真実は、被告人Aには肝臓病、癌等の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A及びU2子において、こもごも「汚い足だ。足裏の生命力が弱い。相当これは薬の影響を受けている。親指が完全につぶれている。これは血液の癌だ。余命は二年くらいだ。このままでは命がないよ。天行力の通りが悪く、足裏を診ても生命力が相当弱くなっている。修行を受ければ頭が取れて、天行力が通りやすい身体になる。直ぐにでも修行を受けなさい。」、「あなたやご主人も修行を受ければ、うちの家族みたいに病気がよくなる。」などと虚構の事実を申し向け、V2子をその旨誤信させて、修行代合計四四八万円(本来の修行代から内金として支払済みの二万円を控除した額)の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月一一日、東京都台東区《番地略》所在の浅草橋郵便局から現金四四八万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」L1あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月二三日ころ、前記アースエイド松濤会館において、前同様に装い、F子において、V2子に対し、「あなたは先祖の悪い因縁があり、切開しなければなりません。天声として家の中心を定めなさい。解脱法納しなさい。天声に添った観いの定めとして六六三万円を納めなさい。天声に添えばご主人の病気が良くなる。元気になる。」などと虚構の事実を申し向け、V2子をその旨誤信させて、法納料等合計六六三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、法納料等名下に、同月二五日、千葉県館山市《番地略》所在の株式会社さくら銀行館山支店から現金六六三万円を前記住友銀行大塚支店の「宗教法人法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第二七 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第八事実(訴因変更後のもの)]
 前記L2、前記H2子、教団田無支部長W2子らと共謀の上、
 一 平成七年一〇月一二日ころ、東京都港区《番地略》所在の甲田ホテル別館において、長女の心臓の痛みの原因等について相談に訪れたX2子(当時三八歳)に対し、真実は、L2には前記長女の心臓の痛みの原因等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、L2において、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、L2及びW2子において、こもごも「両方の親指からみると、あなたの父方は短命に終わってますね。あなたが生きざまを変えていかなければならない。あなたが変わればすべてが変わり、家族も良くなります。家族の中で一番初めに天に出会えたあなたに、あなたの汚れきった一家の掃除をしていく役目がある。とにかく頭を取ってきなさい。」、「修行に行かないと、短命な家系を断ち切れず、息子にもそのまま降りかかってくる。研修に行けば、あなたの生きざまが変わり、あなたが変わればすべて変わり、家族も良くなります。短命の家系からも絶対に抜けられます。」、「あなたの観いが娘に向いているんであれば、そうしなさい(娘を研修に参加させなさいの意)。親子で頭を取れば、必ず娘さんの病気は治ります。」などと虚構の事実を申し向け、X2子をその旨誤信させて、修行代合計二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、同月一三日、東京都新宿区《番地略》鈴和ビル一階所在の新宿広小路郵便局から現金一四五万円を、同月一九日、東京都田無市《番地略》所在の田無南町二郵便局から現金八〇万円を、それぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」G子あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月二四日、前記アースエイド松濤会館等において、X2子に対し、真実は、被告人Aには前記長女の心臓の痛みの原因等を的確に診断してこれを治癒させるための確実が(ママ)方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、H2子及びW2子において、被告人Aの伝える天声と称して、「家の中心二三三、法説行一〇〇」などと書いた紙を示しながら、こもごも「これがあなたの天声です。」、「天声に添わなかったら、娘さんの病気のことや短命な家系を断ち切るために一生懸命やり遂げた研修がすべて無駄になる。サラ金からなんでもいいから、借りられるところからすべて借りたほうがいい。天声に添ったほうがいい。」などと虚構の事実を申し向け、W2子をその旨誤信させて、法納料等合計三三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも法納料等名下に、同月二六日、東京都新宿区《番地略》所在の株式会社東京都民銀行新宿支店から現金一〇〇万円を、同年一一月二四日、同銀行から現金二三三万円を、それぞれ前記住友銀行大塚支店の「宗教法人法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第二八 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第九事実(訴因変更後のもの)]
 前記H2子、教団職員Y2子、教団大和高田支部長Z2子らと共謀の上、
 一 平成七年一一月七日ころ、前記アースエイド松濤会館において、自己の腰痛及び夫の狭心症の治癒を願って相談に訪れたA3子(当時五三歳)に対し、真実は、被告人Aには癌の病状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、Y2子及びZ2子において、こもごも「(天行力が)二・五しか通っていない。いつ癌になってもおかしくない。頭を取りましょう。頭を取れば大丈夫だよ。」、「修行に行けば、すべてはよくなります。ご主人もよくなる。癌にならずに済みます。」などと虚構の事実を申し向け、A3子をその旨誤信させて、修行代合計三五〇万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、修行代名下に、同月八日、大阪府枚方市《番地略》所在の枚方郵便局から現金三五〇万円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」N2あてに電信為替で送金させて交付させた、
 二 同月一七日、前記「ゼロの力学本庁」関西支局において、前同様に装い、Z2子において、A3子に対し、「あなたへの天声は、家の中心と解脱法納です。天声に添えば、癌にならなくて済みますよ。ご主人の病気も解決します。すべてがよくなります。(天声に従わない場合は)これまでのすべてが無駄になりますよ。家の中心は二三三万円。解脱法納は三〇〇万円。」などと虚構の事実を申し向け、A3子をその旨誤信させて、法納料等合計五三三万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、法納料等名下に、大阪府枚方市《番地略》所在の株式会社住友銀行枚方支店から、同月二四日現金三三三万円を、同月二八日現金一七五万円を、同月二九日現金二五万円を、それぞれ前記住友銀行大塚支店「宗教法人法の華三法行」名義の普通預金口座に振込送金させて交付させた、
 第二九 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第一〇事実(訴因変更後のもの)]
 前記C、前記O子、教団職員B3らと共謀の上、平成八年七月三〇日ころ、前記第二アースエイド会館において、乳癌の再発や借金の悩みについて相談に訪れたC3子(当時四六歳)に対し、真実は、Cには癌の症状等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、Cにおいて、足裏診断と称する個人面談を実施した上、C、O子及びB3において、こもごも「あなたとあなたの先祖が悪い行いをしてきた結果がたこに現れている。(今のままでは)癌が再発したり、家族がバラバラになる。四泊五日の修行をすれば結果が出る。修正の方法は、A’先生の生きざま修行を受けるしかありません。」、「ご先祖様の霊をゆさぶってしまったので修行を受けないと大変なことになる。(私も)四泊五日の修行を受けて何も悩みも借金もなくなりました。人生バラ色です。頭を取る修行をしなさい。修行をすれば、すべてがよくなる。」などと虚構の事実を申し向け、C3子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において、現金四〇〇〇円を交付させ、さらに、同月三一日、茨城県相馬郡《番地略》所在の守谷松ヶ丘郵便局から現金二二四万六〇〇〇円を前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」J2あてに電信為替で送金させて交付させた、
 第三〇 [平成一二年五月二九日付け起訴状の第五事実(訴因変更後のもの)]
 前記L2、前記C1子、教団職員であったD’3ことD3子らと共謀の上、平成八年八月一三日ころ、前記第二アースエイド会館において、子育てや対人関係の悩みについて相談に訪れたE3子(当時三七歳)に対し、真実は、L2には同女の子供の自殺等を的確に予測してこれを確実に回避するための方策を提示する能力がないのに、これがあるかのように装い、L2において、足裏診断と称する個人面接を実施した上、L2、C1子及びD3子においてこもごも「こんな汚い足の裏見たことない。小指の付け根のところが黒ずんでいる。小指というのは子孫とか子供を表すもので、あなたの子供さん達は病弱で短命、長く生きられない。長男はいじめっ子で、不良になる。次男がいじめられて自殺する。」、「四泊五日の研修に行って頭を取ったら、もうすべてがうまくいくので、すべてが解決するから大丈夫です。E3子さんは八月一七日の研修に行けという天声が下りているので、それに行きなさい。誰でも一生に一度しか受けられない、天声が下りたときだけしか受けられない研修です。最初で最後のチャンスを逃すと、L2先生がおっしゃったような、ああいったことになってしまう。」、「子供が不良になるかならないかとか、自殺するかしないかのこの瀬戸際に立って、まだ、親として何をやっているんだ。」などと虚構の事実を申し向け、E3子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、即時同所において現金二万円を、同日同所において現金一四〇万円を、同月一四日ころ浦和市《番地略》所在の浦和中央郵便局前路上において現金二七万円を、それぞれ交付させた、
 第三一 [平成一二年六月一九日付け起訴状の第一一事実(訴因変更後のもの)]
 前記D3子、前記C1子らと共謀の上、平成九年二月一九日ころ、前記アースエイド松濤会館において、自己が病弱であること等を悩み相談に訪れたF3子(当時三〇歳)に対し、真実は、被告人Aには人の健康状態等を的確に診断してこれを改善させるための確実な方策を提示する能力がないのに、これがあるように装い、被告人Aにおいて、足裏鑑定と称する個人面談を実施した上、被告人A、D3子及びC1子において、こもごも「冷たい足をしてるな。研修を受けなければならない。研修を受けて頭を取りなさい。(天行力の)通りが悪いな。」、「法師様が言われたように修行に行けば、根こそぎ変わります。修行を受ければ、汚れている血がきれいになるし、五代前の先祖も救われる。もちろん、あなたの体も治り、丈夫になります。」などと虚構の事実を申し向け、F3子をその旨誤信させて、修行代二二五万円の支払を要求し、よって、同女を欺いて、いずれも修行代名下に、同月二〇日、埼玉県大宮市《番地略》所在の大宮駅前高島屋郵便局から現金六五万円を、同日、同市《番地略》所在の高鼻郵便局から現金五〇万円を、それぞれ前記アースエイド松濤会館「ゼロの力学本庁」G3子あてに電信為替で送金させて交付させ、さらに、同月二一日ころ、浦和市《番地略》所在の東日本旅客鉄道株式会社浦和駅付近路上において、現金一一〇万円を交付させた
ものである。
 (証拠の標目)《略》
 (法令の適用)(被告人両名について)
 被告人両名の判示第一ないし第三、第五、第八及び第一一ないし第一六の各所為はいずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により包括して同法律による改正前の刑法(以下「改正前刑法」という。)六〇条、二四六条一項に、判示第四の所為は同附則二条一項本文により包括して改正前刑法六〇条、二四六条に、判示第六、第九及び第一〇の各所為はいずれも同附則二条一項本文により改正前刑法六〇条、二四六条一項、判示第七、第一七ないし第三一の各所為はいずれも包括して刑法六〇条、二四六条一項にそれぞれ該当するところ、以上は同附則二条二項前段により、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Aを懲役一二年に、被告人Bを懲役四年にそれぞれ処し、同附則二条三項により、刑法二一条を適用して被告人両名に対して未決勾留日数中主文の掲記の日数をそれぞれその刑に算入し、訴訟費用のうち主文の掲記の分は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
 (争点に対する判断)
 第一 弁護人らの主張
 一 弁護人らは、@ 被告人Aにおいて、教団の教義の趣旨に沿って「病気や苦悩の根本的な原因はマイナスの観いを刻むことにあるから、修行を受けて頭を取りプラスの観いを刻めるようにならなければならない。その後行を繰り返してプラスの観いを刻むことができればマイナスが全部清算され、病気や苦悩を必要としない人間本来の姿に戻る。だから、まずは修行に参加して頭を取らなければ病気は治らないし苦悩も解決しない。」あるいは「解脱法納等をすることによって、病気が治る方向に向かう。」などと説明していたことはあるが、教義の趣旨に反して、判示の各欺罔文言にあるように、修行に行けばあるいは解脱法納をすれば直ちに病気が治癒して苦悩が解決するなどと申し向けたことはないし、被告人Aが、他の共犯者に対し、教団の教義の趣旨に反して被害者らに説明、勧誘するよう指示したり、そのようなことを容認したことはないのはもとより、両被告人とも、他の共犯者らによっても、教義に沿った説明、勧誘がされているものと信じていた、A 被害者らは、天声や天行力が超自然的、非科学的なものであることを理解していたはずであるから、判示のとおり、病気の治癒や苦悩の解決に関して確実な効果があると誤信するような錯誤状態に陥っていたとは認められない、B 被告人A及び他の共犯者らによる教団の教義の趣旨又は天声に添った説明は真実であって、欺罔行為には当たらないし、被告人両名には、いずれも詐欺の故意及び他の共犯者らとの共謀がないなどとして、被告人両名について無罪を主張する。
 二 また、弁護人らは、被告人両名らが行ってきた足裏鑑定、修行勧誘等を始めとする本件行為は、いずれも教団の教義及び天声に基づく布教のための宗教活動及びそれに関連ないし付随するもので、教義及び天声に関する理解、判断なしには評価することができないものであるから、その性質上、法令を適用することにより解決できる問題ではないし、教義内容及び天声を裁判所が判断してその是非や真偽を決することは、特定宗教に対する公権力の介入になり、憲法二〇条一項が保障する信教の自由を侵害するもので許されない、天声に基づく教団の教義は、信教の自由として憲法上保護されるべき正当なものであるなどとも主張する。
 三 そこで、これらの点について、順次検討する(なお、以下において引用している証拠は、主たる証拠を掲げたものである。また、検察官請求に係る関係証拠を証拠等関係カードの甲乙の番号で引用する場合には、不同意により当該証拠に取り調べられていない部分があっても、その旨の注記は省略し、また、公判調書中の供述部分等が証拠となるものについても、「第○回○○供述(○○頁)」等と表記する。)。
 第二 被害者らに対する欺罔行為及びその錯誤状態に(ママ)いて
 一 被害者らの供述要旨
 合計三一名の本件被害者らは、それぞれが抱える悩み、教団へ相談に訪れた経緯、修行参加等を決断して金員を支払う際の心情等において、必ずしも画一的なものでないことはもちろんである。とはいえ、被害者らは、いずれも、自ら又は家族が癌等の病気、体調不良に苦しみ、あるいは容易に解決することのできない家庭不和、家族の知的障害等の悩みを抱え、その病気の治癒や問題解決を切実に願っていたところ、「病苦を超える最後の天行力」等の被告人Aの著書を目にしたり、教団主催の講演会に行くなどして、教団と出会った後、被告人Aによる足裏鑑定又は足裏診断士と称するL2、Cによる足裏診断(判示第二七、第二九及び第三〇)を受け、その際、同被告人ら及びその後の面談フォロー役の教団職員らから、修行に行けば病気が治るなどと各判示のとおり申し向けられて修行への参加を勧誘され(ただし、判示第一においては、修行後に欺罔され法納を勧誘されたものである。)、修行代等として一二〇万円から四四八万円に上る多額の金員を要求され、修行を受けた後も、被告人Aの伝える天声として、同被告人やその天声フォロー役の教団職員らから、天声に添わないと癌が再発するとか修行が無駄になるなどと各判示のとおり申し向けられて二三三万円から一四三三万円に上る多額の法納料等の支払を迫られたり(判示第一、第二の二、第五の二、第一二の二、第一七の二、第二一の三、第二二の三、第二四の二、第二五の二、第二六の二、第二七の二及び第二八の二)、更に家族を修行に参加させるよう求められる(判示第一九の二、第二一の二及び第二二の二、四)などし、これがあまりにも多額であることから思い悩みながらも、他に病気の治癒や問題解決の方法もなく、被告人A及び教団職員らの言葉を信じて、教団に金員を交付したのであって、もし被告人Aらに病状等を的確に診断して病気の治癒、問題解決の確実な方策を提示する能力等がないと分かっていれば、このような多額の金員を支払わなかった旨一致して供述しているのである。
 二 被害者らの供述の信用性判断
 (1) 他の関係証拠との整合性
 ア 被告人A自身、自己の別件民事訴訟の場で、足の裏の状態を見ればその人の歩んできた生きざま、そして今も仮に病気があれば病気の状況というものが全部足の裏に表示されるとした上で、他の面談者に対する足裏鑑定の場においてではあるが、「頭を取らないと七月にリンパ癌になる。」、(長男がうつ状態の人に対し)「足の裏が汚い、先祖が行くところに行っていない、原因は家の歴史、親子のあり方、代々受け継いできた仕事が机の勉強だけで、頭だけ使い生きてきた、今最悪の状態だ、今後決定的な障害が起こるかもしれない、命までも危ない、思い切って流れを断ち切るため、子供と二人で研修に参加すれば治る。」、「このままでは癌になる。」、「研修に参加すれば腰痛は必ず治る。」、「研修に参加すれば腎臓病は必ず治る。」、(口のきけない人に対し)「先祖の霊が皆この子のところに来ている。この子はすぐ話せるようになる。特訓を受ければすぐ治る。」、「母親より早死にする、鬱病の母親には女神が要るな、研修を受ければ病気も治る、薬も要らなくなる。」、(目の不自由な一級障害者の人に対し)「行に励めば、目はよくなる。」などと、修行に参加すれば確実に病気が治癒したり、問題が解決するという天声を伝えたことがあるなどと詳細かつ明確に供述している(乙六の一三二頁(一〇八五八丁)、乙七の三六ないし五九頁(一〇八八三ないし一〇八九四丁)、乙八の五三四ないし六一九項(一〇九八五ないし一〇九九四丁)、六六〇ないし六七〇項(一〇九九九、一一〇〇〇丁)、乙九の九一ないし九八頁(一一〇九五ないし一一〇九八丁))。そればかりか、被告人Aは、公判廷において、病気の人も、四泊五日の修行を受けて、頭が取れ、その後も人間完成修行を続ければ、病気の原因はなくなり、癌等の不治の病も含めて病気は必ず治るというのが教団の教えであるとした上で、病気の人に対して病気が治るという天声が下りたことがあり、それを面談者に伝えたことがあるし、未だ病気でない人に、そのままでは病気になるが、修行を受ければ病気にならないという天声が出て、それを伝えることもある旨明確に供述している(第四四回被告人A供述六〇、六四、六五、七一、一二二、一二三頁)。
 イ 教団ナンバーツーのP’ことP3も、面談フォローを担当した他の天仕(教団の出家信者の呼称。教団職員ともいう。)らが、「病気を治したければ修行を受けなさい。」などとの被告人の発言を受けて、面談フォローの際に面談者を修行に送り込むために、「修行を受ければ全ての問題が解決します。」とか、「修行を受ければ必ず病気が治ります。」などと嘘を言っていたことを認めているし、平成七年八月に、P3を中心に教団内部において、病気が「絶対治る」というような修行の勧め方が弁護士から修行代の返還請求を受けるなどの修行をめぐるトラブルの根本原因の一つであるとの認識の下、その後天仕に周知徹底はしなかったものの、その解決のためには「きっと治ると思います。」などとトークを改める必要があると話し合ったことがあり、その旨記載された議事録が残っているのである(乙一九、二二、二四、三〇)。
 P3以外の教団職員らも、そのような嘘を言って面談フォロー等が行われていたことを認める供述をしているし(第六回H3供述一九頁、第一一回F子供述九、一〇、二七、二八頁、第二〇回I3供述一一八頁、第二一回J3子供述二九、三〇頁)、教団天仕であった分離前の相被告人Z子及び同R1子においても、捜査段階で、具体的な欺罔文言は記憶にないとしながらも、自らが面談フォローを担当した被害者らが供述する欺罔文言は被告人Aがよく言っていた言葉であるし、面談フォローの際にも同様のことを言っていると思う旨供述しているのである(乙八七、八八、一一二、一一四)。
 なお、弁護士らは、P3、Z子及びP1子の各検察官調書(乙一七ないし二七、二九、三〇、八七ないし八九、一一二ないし一一四、一一九)の証拠能力を争う(弁論要旨一五三、一五四頁)。しかし、P3は、教団幹部として被告人Aの下で長年にわたり忠実に活動してきた者であり、証言当時もなお、「私は、Aを否定することはできません。……法の華三法行の教えを信じ、Aには畏敬の念をもって従い、私自身の人生をすべて預け、かけてまいりました。法の華三法行の信仰の礎であります、天、天声、天行力、そしてA’、これらの概念の一貫した目的は、いかに人生を徳高く生きていくか、そのような教えであったと信じております。今も私は心からそのように信じております。」、「私の信仰は一貫して変わっておりません。」、「(被告人Aは)もちろん尊敬してきた方ですから、私の魂の師でございましたので、(現在に至るまで)影響はございます。」(第二九回P3供述一、二、五頁)などと明言したり、客観的な資料を示されて供述を求められても、思い出せないとか分からないなどと被告人Aらに不利な供述を拒否する態度が顕著であること(第二八回P3供述九〇、九一、九五、九六頁)などにかんがみれば、事実を争っている同被告人らの面前である公判廷においては事実を素直に供述し難い関係にあったと認められる一方、前記検察官調書においては、客観的な資料を示されて記憶喚起しながら供述し、読み聞かされた後には訂正を申し立てている状況もある上、捜査段階で被告人Aに宛てた手紙(乙三四)に記された当時のP3の心境等に徴すれば、いずれも相反性はもとより特信性が認められるばかりか、その供述内容等に照らしても信用性も肯定し得る。次に、Z子及びR1子は、被告人両名と併合審理されていた当時も教団の信者としてその教えを信じていたところ、教団の教祖の立場にあった被告人Aらと共犯関係にあって、事実を争っているこれら他の共犯者の面前である公判廷においては事実を率直に供述し難い関係にあった一方、前記各検察官調書においては、記憶にない点はその旨断り、記憶にある点のみを供述しているし、読み聞かされた後には訂正を申し立てている状況もある。その他、Z子については、同人を取り調べた警察官M3の供述及びZ子の公判供述によっても、否認から自白に転じた際の取調べ状況等に特段の問題はないし、R1子については、弁護人のアドバイスを受けて供述したなどの供述経緯があるのであって、いずれも任意性及び特信性が認められるのはもちろん、その供述内容等に照らしても信用性も肯定し得るものである。
 ウ また、教団の足裏診断士であったL2が作成した「足裏診断士養成マニュアル」(物七)の中にも、「足裏を見てまず第一声を吐いて相手をびっくりさせる。『あなたこのままだとガンになるよ!』『汚い足裏ですね!』」などと記載されており、そこに添付された「知恵の表現集」という書面にも、面談者に申し向ける言葉として、「自殺するね」、「今のままでは命を取られる」、「このままでは棺桶に入れない」、「医者ではあなたの病気は直せない」などとの言葉が散見される。被告人Aも、このような言葉が面談者に伝えられることがあると認めているばかりか(乙八の七七七ないし七七九項(一一〇一三丁)、七八五項(一一〇一四丁))、自ら同マニュアルの使用を許可し、天仕らもこれを使っていたというのである(第一九回I3供述三七ないし四一頁。なお、同マニュアルの使用を被告人Aが許可、指示したことについては、後記第三の一の(2)のイのとおり。)。同様に、「足裏診断士マニュアル」(物一一)の中の「足裏診断トークの方向性」という書面にも、頑固な人には、「何名かガンになられた足を見てきましたけど、まさしくその兆候の足ですね」と伝えるなどと記載され、「足裏で面談を決める際の注意点」という書面にも、本当に問題は解決するのかと聞かれた場合には「先生(被告人Aの意味と解される。)が、足裏診断をされて、その人にいちばん必要な解決策をお伝えされますから、まず先生にお会いなさることです。」と勧める旨記載されている。
 さらに、後記第三の一の(3)のとおり、足裏鑑定への勧誘システムの重要な部分を担っていた被告人Aを著者とする「病苦を越える最後の天行力」なる書籍(物一七)には、「天行力は不可能を可能にする」などといったセンセーショナルな標題の下、「私は天行力によって事実多くのガン患者のガンを消し、社会復帰に導くことができた。……ガンで立って歩くこともままならない人が私との握手だけでぱっと立ち上がってみせたり、なかには私が目の前に姿を見せただけで元気になった方までおられた。」(九頁)、「ガンの末期も末期、心臓以外の臓器はすべてガンに冒されて余命いくばくもない男性が訪ねてきたときのことだ。……病院側でも、もうここまでだとサジを投げていたようだ。……とにかく出来るかぎりのことをやってみようと気を入れ直し、最高の天行力をその人に向けて帰したのである。結果、その男性は医者が驚くほどの体力の回復をみせた。……その方は、天行力を受けたその日から、大した痛みを感ずることもなく八カ月以上も生きられたということであった。病院のスタッフも、医学の常識ではとても考えられないことだと皆一様に驚いておられたということである。」(一〇頁)、「天行力は、このように人知を超えた力を見せてくれる。……奇跡とも思える現象が数え切れないほど起きているのである。天行力は不可能をも可能にする驚異的なパワーなのだ。」(一一頁)、「『天行力』をその人の体に貫通させ、その病を取り除いて戦う力をふたたび獲得させ」(三七頁)、「私は、……天の生命活性のエネルギー、『天行力』を彼の体に貫通させ、ガン細胞を取り除く。」(四一頁)などと、あたかも被告人Aの操る天行力に癌等の病気を治癒させる能力等があるかのような記述が随所に見られる(なお、病気を「治す」とは記されておらず、「消す」と記されているとしても、全体として読めば、同義としか解し得ないことは当然である。)(第一一回F子供述二七、二八頁、甲三九八、物一七)。
 エ このように、被害者らの供述は、被告人Aが天声として伝えたことがあるという内容、他の教団職員らの供述、「知恵の表現集」等のマニュアルに記載されている内容、被告人Aの著書の記載、さらには、後記第三の一の(3)の修行参加勧誘システム及び天声フォローのシステムの実態等とも整合している。
 (2) 被害者らは、被告人Aの足裏鑑定を受けて修行参加を勧誘されるなどした結果、前記のとおり、社会通念上極めて高額な金員を支払い、中には修行代等を捻出するために消費者金融から借金したり、自宅を売却した者さえいるところ、このような高額な金員を支払うだけの動機としては、被害者らが供述するように自らの又は家族の病気等その抱える問題を確実に解決できると信じたからと考えるのが自然かつ合理的である。すなわち、病気等の問題が解決するかしないか分からない、あるいは解決しなくてもやむを得ないと考えていたのであれば、一様にこれだけの金員を支払う合理的に説明できる理由は見当たらないのであり、被害者らの金員を支払うに至った経緯、その心理状態等についての具体的かつ詳細な供述には迫真性が認められる。
 (3) これらの諸点に照らせば、被害者らの前記供述は、十分に信用できる。
 三 弁護人らは、本件各欺罔行為及び被害者らの錯誤状態について、様々な主張をするところ、天声、天行力等の真実性に関する主張並びに他の共犯者らによる欺罔行為に関する被告人両名の認識及び共謀に関する主張については後記第三において判断するが、以下においては、それ以外の主な主張を整理した上、順次検討することとする。
 (1) まず、弁護人らは、本件各欺罔文言について、@ 被告人Aにおいて、既に面談者本人又はその家族が病気、障害を抱えていて相談に来た者に対して修行を受ければ病気、障害が治るという説明をしたとされるものについては、「修行を受ければ、それだけで病気は治る」という意味で説明したことはなく、「修行を受けて頭を取ると、プラスを刻める行に入れる。そこから、病気が治っていくスタートが切れる。それまでの人生で刻んできたマイナスが全部清算されれば、天行力が一〇〇パーセント流れていき、『法則』に基づいて、問(ママ)違いなく、人間である以上は病気は治る。」(以下「法則」という。第六九回被告人A供述一ないし五頁、弁二六の一、二頁)という意味で説明していたし、他の共犯者らにおいても、同様の説明をしていると信じていたのであって(弁論要旨一九頁@、二一頁E、被害者らもその「法則」の意味を正確に理解していたはずである(弁論要旨二七ないし三九頁)、A 被告人Aにおいて、既に面談者本人又はその家族が病気、障害を抱えていて相談に来た者に対して解脱法納等によって病気、障害が治るという説明をしたとされるものについては、「解脱法納等の観いの定めをすることによって、病気、障害が治る。」とだけ説明したことはなく、「自らが頭を取りプラスを刻む生活を始めても、五代前からの先祖の生きざまの悪影響を受けて、マイナスを清算することができないことがあり、五代前からの先祖の生命体を解脱法納によって引き上げるなどすることによって、そのような悪影響を排除することができる。」(以下「解脱法納等の効果」という。第六九回被告人A供述三九、四〇頁)という趣旨の説明をしていたし、他の共犯者らにおいても、同様の説明をしていると信じていたのであって(弁論要旨一九頁A、二一頁F、二二頁H)、被害者らもその解脱法納等の効果を正確に理解していたはずである(弁論要旨四二ないし四七頁)、B 被告人Aにおいて、未だ病気になっていない面談者に対してこのままでは病気になるとした上で修行を受ければ病気が治ると説明したとされるもの(判示第五の一、第一六)については、修行を受ければ病気にならないという趣旨の天声を伝えることはあるが、まだ病気になっていないのに修行を受ければ病気が治ると言うことはあり得ない(弁論要旨二〇頁C)、C 被告人Aにおいて、未だ病気になっていない面談者に対して既に病気になっているとした上で修行を受ければ病気は治ると説明したとされるもの(判示第三、第一一、第二二及び第二六)については、既に医学的な意味で癌等の病気になっているという意味では述べていない(弁論要旨二〇頁D)、D 被告人A以外の足裏診断士を始めとする教団職員らにおいて、未だ病気になっていないあるいは問題が生じていない面談者に対して、このままでは病気になるとか問題が起きると判断した上で、修行を受ければあるいは解脱法納等すれば、問題が起きないと説明したとされるもの(判示第二九及び第三〇)については、そのようなことは被告人A以外の者には判断できないことであり、そのような説明はしていないと信じていた(弁論要旨二二、二三頁GIJ)などと主張する。被告人Aも、公判廷において、同様の供述をする(第六九回ないし第七一回被告人A供述)。
 しかし、@の点については、被告人Aにおいて、弁護人らが主張するような「法則」についての詳細な説明がされた事実はなく、むしろ、足裏鑑定では、その大半が病状等の診断や修行に行って頭を取れなどとの簡単な指示がされただけで、後は面談フォロー役の共犯者らに引き継いでいるのが実態である。また、面談フォロー役の共犯者らにおいても、同様に前記のような「法則」を詳細かつ正確に説明していた事実は認められない。弁護人らが主張するような「法則」を単に「修行を受ければ病気が治る(問題が解決する)」と表現して伝えること自体、不正確かつ不適切であり、このような表現のみから弁護人らが主張するような「法則」を理解することは不可能である。すなわち、「マイナスが全部清算されれば」などといった不確定要素があるばかりか、弁護人らが主張するように「『プラスを刻む』とか『マイナスを刻む』ということ自体が一般経験則によってその真偽が判断不能な概念」(弁論要旨二六頁)であるにもかかわらず、病気の治癒等の問題解決を切に願って相談に訪れた面談者に対して、このような不確定要素及び判断不能要素の存在を正確かつ明確に強調して説明することなく、「修行を受ければ病気が治る(問題が解決する)」と言えば、文字通り修行を受けることで病気が確実に治る(問題が確実に解決する)のだと理解するのは当然であり、それ以外に理解しようがない。被害者らは病気が治るか治らないか分からないが治ることもあるということであれば、判示のような高額な金員を支払うとは到底考えられないのであり、所論は採用できない。病気が治るとか問題が解決するといった現世利益をあたかも確実なものとして謳いながら、その実は確実性のないあるいは一般経験則によっては判断不能な要素に左右される利益であるということ自体、「法則」等の真偽を論ずるまでもなく、欺罔行為であるといわざるを得ない。
 Aの点についても、被告人Aにおいて、弁護人らが主張するような「解脱法納等の効果」についての詳細な説明がされた事実はない。むしろ、単に解脱法納等の指示や天声に添うようにとの指示をするだけであったり(判示第一、第二の二、第二一の三、第二二の三及び第二五の二)、解脱法納すれば障害が治ると説明するだけであって(判示第五の二)、後は天声フォロー役の共犯者らに引き継いでいたのが実態である。それにとどまらず、被害者らに直接天声を伝えることすらしないものや(判示第一二の二、第一七の二、第二六の二及び第二八の二)、天声として法納の種類と観いの定めの金額を記載したメモに基づき天声フォロー役の共犯者らから伝えさせているだけのもの(判示第二四の二及び第二七の二)すらある。また、天声フォロー役の共犯者らにおいても、同様に、前記のような「解脱法納等の効果」を詳細かつ正確に説明していた事実は認められない。弁護人らが主張するように解脱法納等をすれば病気、障害が治るという「方向性がある」だけで、直ちに効果が返ってくるものではない(弁論要旨三九ないし四二頁)というのであれば、やはりそのように正確かつ明確に説明すべきであって、判示のような説明で弁護人らが主張するような「解脱法納等の効果」を正確に理解することはできるはずがない。むしろ、判示のとおり、解脱法納等をすれば病気等が確実に治る、又は病気の再発が防止できると申し向けているのであり、「解脱法納等の効果」等の真偽を論ずるまでもなく欺罔行為であるといわざるを得ない。所論は、「この天声に添えば、五代前の先祖や水子は地獄界から引き上げられ、……すべてが救われ、良い方向に向かいます。」(判示第二一の三)、「家の中心を置けば旦那さんの病気の流れが変わります。あなたのような境遇の人も何人も助かっています。」、「言うとおりにやれば、ご主人の病気の流れも変わります、答えも出ますよ。」(判示第二五の二)との文言については、教団の教義そのものを述べたものであるか、その教義に照らして誤りはないものであり、「虚構の事実」を述べたのではないなどというが、足裏鑑定又は足裏診断、これに続く面談フォロー、更には修行を受けた後で、前記のとおり錯誤状態にあった被害者らにとっては、そのように言われれば、「天声に添って解脱法納等をすれば、病気が快方に向かい治癒する」と理解するのが当然であって、弁護人らがいうように単に病気、障害が治る方向性があるにすぎず、治るかどうかは更に不確定要素によるというように解釈することなどできない。また、被害者らは、病気が治るか治らないか分からないが治る方向性があるというだけであれば、判示のような高額な金員を支払うとは到底考えられない。
 Bの点については、確かに、一方でこのままでは病気になるとしながら、他方で既に病気になっていることを前提としてその病気が治るというのは、一見すると矛盾している。しかし、判示第五の一の被害者であるQ子については、面談当時すでに胃に痛みがあったというのであって(第五二回Q子供述四、五頁)、放っておくとこの痛みが将来癌になるが、修行に行けば癌にならずに痛みも消えるという趣旨にも理解できるし、判示第一六の被害者であるU1についても、修行を受ければ癌にならないという趣旨と理解したというのであって(弁論要旨五二頁。第五一回U1供述四七、四八頁)、かかる理解が全体の趣旨として不自然とはいえない。なお、所論は、そのような趣旨であれば、「法則」によれば、修行を受けることは病気などの悪しき結果を「確実に回避する方策」なのであるから、「このままでは病気になるが、修行を受ければ病気にならない。」と述べても「法則」からはずれておらず、教団の教義に照らして真実であるなどと主張する(弁論要旨四七ないし五二頁)。しかし、後記第三の一の(5)のとおり、医師の資格もない被告人Aが病気を的確に診断し、その確実な罹患防止策を提示する能力がないことは明らかであり、そのような文言もまた虚偽であるといわざるを得ない。
 Cの点については、被告人Aは、一方で、医学的検査で発見できる程度にまでなっていなくても、医学的に癌細胞が発生しているときに「癌になっている。」と天声を伝え(判示第三及び第一一)(第六九回被告人A供述二九、三〇頁、弁二六の一一、二四頁。弁論要旨五三、五四頁)、他方で、既に医学的な意味で癌になっているという意味ではなく、「いつ癌になってもおかしくない。」という意味であったり(判示第一一及び第二六の一)(第六九回被告人A供述三〇、三一、四七頁、弁二六の一四頁。弁論要旨五五、五六頁)、非常に大きな難点があるというときにも、比喩的表現として「癌になっている。」と言うというのであるが(判示第二三及び第二六の一。弁論要旨五七、五八頁)、被害者らにおいて、本件各欺罔文言からその両者の違いを区別することなどできるはずがなく、同被告人の説明は後付の詭弁というほかない。「(右乳房のしこりは)既に癌になっとる。」(判示第三)、「もう癌になりかかっている。」(判示第一一)、「腰まで癌になっとるよ。」(判示第二三)、「血液の癌だ。余命は二年くらいだ。」(判示第二六の一)と言われれば、不治の病と恐れられている医学的意味での癌に既に罹患している、あるいは罹患し始めていると理解するのが当然である。実際にその後の面談フォローにおいても、そのような前提で修行参加の勧誘がされているのである。
 Dの点については、被告人A以外の足裏診断士と称する教団職員が、「足裏診断」と称して、面談者の癌の症状(再発可能性)等を的確に診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がないのに、あるいは、子供の自殺等を的確に予測してこれを確実に回避するための方策を提示する能力がないのに、これらがあるように装って、修行参加を勧誘していたことは、被害者らの供述及び前記「足裏診断士養成マニュアル」(物七)、「足裏診断士マニュアル」(物一一)を始めとする関係証拠からも明らかである。そして、被告人A自身認めるように(第四三回被告人A供述七頁、第六九回同被告人供述一六、五五、五六頁)、被告人A以外の教団職員には、天声が聞けず、将来の発病や問題発生については判断できないというのであるから、これらの足裏診断士らが行った将来予測を伴う診断は明らかな欺罔行為である。
 (2) また、弁護人らは被害者らの錯誤状態について、@ 被害者らは、天声や天行力が超自然的、非科学的なものであることを理解していたはずであり、前記「法則」、「解脱法納等の効果」を受け入れて修行参加等を決意したのであって、判示のとおり、病気の治癒や苦悩の解決に関して確実な効果があると誤信するような錯誤状態に陥っていたとは認められない(弁論要旨八、二七ないし三九、四二ないし四七頁)、A 被害者らの中には、修行参加後又は解脱法納後も病気が治癒していなかったり、家族が亡くなっているのに、なおも家族を修行に参加させたり、法納をしたり、行を続けたり、教団の行事に参加していた者(D子、J3子、K2子、V2子ら)がいるところ、これは修行参加等により病気が確実に治癒するなどとは信じていなかったことを裏付けている(弁論要旨三〇、三一、三四、三五、四五頁)、B 判示第二三の被害者であるM2子は、診断カルテ、アンケート葉書等において「自分を変えたいと思い、変える方法はある」との部分に印を付ける(甲一四八添付資料二、六)などしているところ、このことは教団の教義を受け入れており、必ずしも天行力に頼り、願い、すがっていたわけではないし、医学的診断及び解決策を求めていたものでもないことを示している(弁論要旨三五ないし三八頁)、C 判示第一七の被害者であるW1子は、修行を受ければ自らが癌にならないという説明を長女の癌が治ると誤解した可能性がある(弁論要旨三九頁)などと主張する。
 しかし、@の点については、前記被害者らは、病気の治癒等の問題解決には不確定要素、判断不能要素があり、修行を受けるなどするだけでは問題解決をしないという、極めて重要な部分を正確に理解していないのであって、決して前記「法則」、「解脱法納等の効果」なるものを受け入れていたとは認められない。このことは前記第二の三の(1)の@Aの点に関する検討で指摘したとおりである。また、天声や天行力が超自然的、非科学的なものであることを理解していたとする点についても、教団は、後記第三の一の(3)のイのとおり、宗教性を秘匿して勧誘活動等を推進していたのであって、少なくとも、純粋な宗教上の教義に基づくもので全く科学的、医学的根拠のないものと理解していたわけではないことは、その各供述からもうかがえる(例えば、第五三回V2子供述三五ないし三八頁)。
 Aの点については、D子は、長女が亡くなってから、天声、天行力は嘘ではないかと思い、それまで続けていた三法行を止めた一方、教団の行事に参加したのは自分が騙されたという現実を信じたくないという気持ちからであるなどと供述し(第二三回D子供述一五ないし一七頁)、J3子は、自ら及び娘の修行後、解脱法納等の観いの定めをする直前に、講演会で聞いていたとおり、手の平にキラキラ光る金粉のようなものが見えたように思ったこともあり、修行の効果を信じ、更に法納をしたり行を続けないと折角頭が取れたのにまた悪くなると思ったなどと供述し(第五七回J3子供述三七、三八頁)、K2子は、夫を修行に参加させようと考えた点について、夫を死なせたくない、なんとしてでも助けたいという気持ちからであり、夫の死後も教団の行事に参加するなどしたのは、今までせっかくやってきたのに、死んだからといって直ちに嘘とは思えなかった、やめることは自分を否定することになると考えたからであるなどと供述し(第三〇回K2子供述二三、七〇、八三、八四頁)、V2子は、修行参加後も自ら及び夫の病気を治すためには更に天声に添うことが必要だと素直に信じていたし、夫が亡くなってからは、おかしいと思いながらも自分たちの行が足りないのではないかと色々考えたなどと供述し(第五三回V2子供述四三ないし五一頁)、いずれも錯誤状態にあり、これを脱っし切れていない者の混乱した心境等を合理的に説明しており、十分に理解できるものである。そして、これらのことと前記被害者らが「修行に参加すれば、あるいは解脱法納すれば病気が治る」と当初信じたこととは、矛盾するものではなく、所論のようにいうことはできない。
 Bの点については、「診断カルテ」等の記入は、限られた選択肢の中から選ばれたものであり、より直接的に病気を治して欲しいという選択肢がない以上、これをもってそのような意思がなかったとは認められない。むしろ、診断カルテの「A’先生に聞きたいこと、相談したいこと」の欄には、自分又は家族の病気等に悩み、それを解決したいことを端的に記載しているのである(甲一四八添付資料六)。このような足裏鑑定を受けた動機、その鑑定結果として四泊五日の修行参加が示されたこと、高額な修行代を払っていることなどに照らしても、病気が治るなどと信じて修行参加を決意したとのM2子の供述は十分に信用できる。
 Cの点に至っては、判示認定の被告人Aらの文言に照らしても所論指摘のような誤解がなかったことは明らかである。さらに、W1子が足裏鑑定の際に記載した「診断カルテ」(甲一〇二添付資料)の中の「今日、A’先生に聞きたいこと、相談したいことを具体的にご記入ください。」との欄に「娘R3子が平成五年八月から現在まで病気(ガン)にかかり病院に入院中です。……一日も早い回復を願っています。今回の研修に私が参加させていただき、娘が少し安定しましたら研修に参加させたいと思います。」などと記載していることからも、W1子が娘の癌の治癒を最大の関心事として足裏鑑定を受けたことは明らかである。W1子の面談フォローを担当したQ3子がW1子の娘に宛てた手紙(甲一〇〇添付資料二)には、「このパワー(天行力)で……ガンを克服した人がいっぱいいます。……ガンも必ずよくなります。(法行力を)今度R3子ちゃんにも向けさせて下さい。」などと記載され、W1子の娘が死亡した後にW1子本人に宛てた手紙(甲一〇五添付資料)にも、「結局R3子ちゃんを救ってあげることができなかったことほんとうに申し訳なく思います。ただ、誓って言えることは、R3子ちゃんをなんとかして助けてあげたいというただそれだけの思いだったということです。……R3子ちゃんを助けてあげたいというのも非常に思いあがったことだったと痛感しております。」などと記載されており、W1子の娘の癌が治癒するという前提でW1子が修行に参加したことを裏付けている。
 四 以上のとおりであるから、被害者らは、判示のとおり、被告人Aらから欺罔文言を申し向けられ、錯誤状態に陥って、金員を交付した事実が認められる。
 第三 欺罔文言の虚偽性並びに被告人両名の詐欺の故意及び共謀について
 一 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
 (1) 教団創設の経緯
 ア 「A’誕生」「天声」神話
 被告人Aは、経営していた会社が倒産した後の昭和五四年ころ、これからは通信販売と宗教がもうかるなどと考えていたところ、母親のS3子から、「お寺さんみたいなものを始めたいと思っている。細かいところからこさえていったらいい。Aちゃんに特別な声が聞こえるということでやってくれんかね。」などと、これまでの宗教活動の経験を生かして今後の生活の糧とするため、宗教を始めて教祖になって欲しいと頼まれたこともあり、宗教を始めることとした。そして、自分にのみ聞こえる特別な声として「天声」なるものを考え出し、「普通に天声が聞こえたと言い始めても誰も信じてくれないので、手の平と足の裏の皮をむいて本当に特別なことが起きたように見せる。」として、自分で手足の皮をむいたほか、天声が聞こえたときに釈迦やキリストが現れたという「A’誕生」、「天声」の神話を語り始め、さらに、以前信仰していた宗教団体「自然の泉」の教義等を模倣し、昭和五五年、宗教活動を開始し、教団の設立に至った(第四回H3供述二八ないし六〇頁、第二五回L3供述六ないし一〇頁、甲四九、四〇四、四八四、四八八、四九〇、四九三、乙四)。
 弁護人らは、被告人Aが当時言ったとされる「自然の泉は一〇億円の寄附金を集めた。」、「宗教は無税だから非常にもうかる。」、「これからもうかるのは通信販売と宗教だ。」といった言葉は、単に生活場面でのエピソード、ニュースを表現したにすぎず、これを宗教活動による多大な収益活動の考えを吐露したものと見ることはできないなどと指摘する(弁論要旨六四、六五頁)。しかし、その話は今後の仕事について話す中で出たものであること、実際にその直後丙山社を設立して美容器の製造とこれの通信販売を開始して実行に移していること(第四回H3供述三一ないし三五頁、第七回H3供述一九、二〇頁)に加え、前記の教団創設の経緯等に照らせば、前記発言は宗教活動による多大な収益活動への関心に基づくものであることは明らかである。
 なお、前記認定は、主としてS3子の各検察官調書によるものであるが、弁護人らは、その証拠能力を争う(弁論要旨六三、一五〇ないし一五二頁)ので、その点について付言する。S3子は被告人Aの母親の立場にあるばかりか、教団の立教当初から関わってきた責任ある立場(「如来行主」)にあったのであるから、同被告人に不利な供述をし難い関係にあり、このことは証人尋問での回避的な供述態度等からもうかがえる一方、S3子の各検察官調書について見ると、取調べ検察官である証人西村朗太の公判供述によれば、取調べに無理があったとはいえず、同女の当時の供述能力等にも問題があったとは認められず、特信性及び刑事訴訟法三二五条の任意性があり、同法三二一条一項二号後段により証拠能力が肯定できるし、その供述内容等に照らして信用性も十分に認められる。これに反する所論(弁論要旨一五一頁(4)の主張)は、証拠に基づかないものであるし、そのような事情は、S3子を取調べた西村証人はもとより、取調べられたS3子本人の証言にも何ら現れていない。
 イ 教団の宗教法人化
 その後、被告人Aは静岡県において宗教法人設立のための規則の認証申請を行い、昭和六二年三月二六日、教団は静岡県から規則の認証を受けて設立の登記をし、宗教法人となった(甲五一七、五二四)。
 (2) いわゆる足裏本の出版と足裏診断について
 ア いわゆる足裏本の出版及び足裏診断開始の経緯
 被告人Aは、尊師(後に法師)として、教団最高位の立場に立ちながら教団の活動を拡大していた。そのような中で、「私は百パーセント癌を治した」(昭和五八年一一月出版。その内容は教団の教えに従って行をすれば癌が治るというもの)等いくつかの書籍を出版していたが(甲四〇三、五三六)、昭和六三年ころ、教団の詐欺的な勧誘方法に対するマスコミの批判が高まり、被告人Aの名前で広告が出せなくなったため(甲五七)、自分のゴーストライターであったL3に対し、秘書のT3を介し、「読売新聞にAの名前で広告が出せなくなった。一矢報えないか、ベストセラー本を出そう。」などと持ち掛け、これを受け、L3も、当時、占いブームであったこと、教団でも「法の手」、「法の足」という基本的な発想があったことなどから、被告人Aに対し、足裏占い(足運相)というのはどうかと提案した。被告人Aは、足の裏にはその人の歩んできたすべてが刻まれているなどとの考えもあったことから、この案を採用することとし、「グサッと人の心をつかむような、びっくりする表現がいい。是非ベストセラーにしてください。」などと言って、代作を依頼した。その後、L3は、他の足裏のツボに関する文献等を参考にしながら、科学的根拠はないものの自ら病気や運勢等の判断基準を創作した上、「足裏を見ればその人の病気等やその原因が分かる。」という内容の原稿を被告人Aに見せ、出版の了解を得た。このようにして、被告人Aらは、平成元年三月以降、L3をゴーストライターとした「だれでも運が向いてくる足運相の神秘」(平成元年三月出版)、「ズバズバ当たる足運相術」(平成元年一〇月出版)及び「病をたつ足うら療法」(平成二年七月出版)という三冊の本(以下、これらを「足裏本」という。)を被告人Aの名前ではなく「国司院常照」なるペンネームを使用して出版した(第二五回及び第二七回L3供述、物一三ないし一五、甲五三六、五三七)。
 そのころから、被告人Aは、富士天声村において足裏診断(なお、後に教団では、被告人Aが行うものを特に「足裏鑑定」と称し、被告人A以外の足裏診断士が行うものを「足裏診断」と称するようになった。以下では、この二つを併せて「足裏診断」ということもある。)を開始するようになった。被告人Aらは、平成三年春ころにも、L3に対し、「足裏のことなんだけども、はがきの戻りはいいんだけれども、どうも修行に結びついていないんだよ。何か、こう足裏を使って、ガーンと修行に結びつくようなものは作れないかね。」などと、足裏を使って修行に結び付くような体験談を盛り込んだ本を作って欲しい旨依頼し、L3をして、足裏診断と修行で癌が完全に治癒したなどの虚偽の体験談を適当に創作して掲載した「医者が駄目なら足うらで治せ」(平成三年九月出版)(物一六、甲五三六)という本を執筆させ、これを出版した(第二五回L3供述二二ないし三三、四四ないし四八、五一ないし六〇、八三ないし八七頁、物一三ないし一六、甲四七、五六、五七、三〇七、五三六、五三七)。
 弁護人らは、@ 足裏本は、L3が創作した全く根拠のないものではなく、少なくとも東洋医学の考え方を踏まえた経験則に基づくものである(弁論要旨九九、一〇〇頁)、A 前記「医者が駄目なら足うらで治せ」の執筆依頼をしたのは被告人Aではなく、T3である旨主張する(弁論要旨一〇二頁)。しかし、@の点は、足裏本の内容が全く根拠のないものではないとしても、少なくとも、重要部分について、教団信者でもない第三者であるL3が自ら調査、研究を重ねて独自の考えに基づき創作したもので、教団の教義に基づかない部分が多分に含まれていることは明らかである。なによりも、前記「医者が駄目なら足うらで治せ」については、足裏診断と教団の修行で癌が完全に治癒したなどとの虚偽の体験談が多数掲載されているのである。また、Aの点も、L3は、記憶が曖昧であるとしながらも、「ガーンと」という言い回しは被告人A独特のもので、同被告人から執筆を依頼されたと思うと証言しているし、少なくとも執筆依頼の席に同被告人が同席していたことは明らかであって、同被告人の意向により執筆依頼されたと認められる(第二五回L3供述五二、五三、八七、八八頁)。
 イ 足裏診断の実態
 被告人Aは、足裏診断を本格化させるべく、平成三年一月ころ、教団足裏事業部のアドバイザーとして企画を担当していたK3らに対し、「相談に来た者には、病院で初診者に書かせているようなきちんとしたカルテを書かせるように。悩みごと、過去の先祖の状態、家族関係をきちんと書かせるものを作れ。収入、借金、資産の状況についてもきちんと書かせろ。それがないと法納させる金額が決められないから。」などと指示し、面談者の悩みごとの内容や経済状態等の項目を盛り込んだ「診断カルテ」の書式を準備させた。なお、平成三年九月に被告人Aの指示で足裏法納が中止となったことなどに伴い、書式も変更された。そして、足裏診断に先立ち、面談者に「診断カルテ」を記入、提出させ、面談前に前記事項を含めて面談者の私的事項を把握していた(第二四回K3供述七二ないし八三頁、甲五八の六四ないし七二頁)。
 また、被告人Aは、平成二、三年ころ、天行道場主育成と足運相修得のための「天行道場主修徳セミナー、足裏法洗修行」なるセミナー又はその準備の席において、「別に足運相がわからなくてもいい。一目見て、ワアーッと驚くことが大事だ。そうすれば、相手は不安になる。そこで、すかさず、『国司院常照先生に診てもらった方がいい。』と言って俺のところへ連れてくればいい。嘘も方便だ。」などと話し、足運相など単なる信者獲得のための道具にすぎず、足裏診断士による足裏診断において嘘を付いてでも相手を不安な気持ちにさせて同被告人のところにつれてくればいいと露骨な指示をしていた(第二四回K3供述三四ないし三八頁、甲五六の四八ないし五一頁)。そればかりか、L2が作成した前記「足裏診断士養成マニュアル」(物七)及びそこに添付された「知恵の表現集」には、前記第二の二の(1)のウのとおり、「足裏を見てまず第一声を吐いて相手をびっくりさせる。『あなたこのままだとガンに成るよ!』『汚い足裏ですね!』」などと記載されているところ、被告人Aは、平成四年八月一日開催の「天仕合礼」と称する天仕全員が出席を義務づけられていた集会(平成四年以前は朝礼と言っていた。)において、同マニュアルについて、「実は、足裏診断士というのは、天声が出ておりました。ええ、実は、昨日、その全ての項目を仕上げたマニュアルが出てまいりました。これも、……即出た天声は、これ一〇〇点満点OKということでございまして、この足裏診断士のマニュアルが全て認められ、認められまして、ええ、これは足裏事業部、特にL2天仕が作りあげたもんだろうと思いますけれども、一〇〇点満点ということで、これで全ていける。」(甲六三の一〇二〇九丁)とお墨付きを与え、同マニュアル等を足裏診断士養成の際に用いるよう指示し、実際に教団内部で使われていたのである(第一九回I3供述三七ないし四〇頁、第二四回K3供述八四ないし八六頁、第二一回J3子供述二五ないし二七頁、甲六三、五二七の一二一三二丁、物二、七、一一)。
 弁護人らは、@ 修行代は、あらかじめ一二五万円、法説御法行と合わせて二二五万円と決まっていたのであって、法納させる金額を決めるために診断カルテが必要であるなどと指示するはずがない(弁論要旨一〇二頁)、A 天行道場主修徳セミナーというのは一般の行者を対象としたセミナーであって、天声、天行力を信じているこれらの行者の前で公然と嘘をついて勧誘するよう勧めるなどということは経験則上あり得ない(弁論要旨一〇五頁)、B 足裏診断の際の勧誘マニュアルには「足裏診断士養成マニュアル」(物七)と「足裏診断士マニュアル」(物一一)の二つがあるのであって、平成四年八月一日開催の天仕合礼で使用を認めたマニュアルが「足裏診断士養成マニュアル」であるという根拠はなく、したがって、同マニュアルに添付された「知恵の表現集」について、被告人AがL2に命じて作成させたとか、使用を認めたという証拠はない(弁論要旨一〇六、一〇七頁)などと主張し、被告人Aも、公判廷において、これに沿う供述をするところ、特に「足裏診断士養成マニュアル」、「足裏診断士マニュアル」については使用を許可したことはなく、その存在すら別件民事訴訟の際に初めて知ったなどと供述する(第四三回被告人A供述一七ないし一九頁、第六九回同被告人供述五六ないし五八頁)。しかし、@の点については、当時存在していた足裏法納には「生きざま法納何年、水子法納何年」等と幾つかある上、その年数によって法納額も違っていたのであって(第二四回K3供述八一ないし八三頁、甲五八の五三ないし五八、七八ないし八〇頁)、所論は失当である。Aの点については、天声、天行力を信じていた行者にとって、天声を聞ける唯一の存在である被告人Aのもとに面談者を連れてくることこそが至上命題であって、前記認定程度の指示、講話をすることは、不自然とはいえないし、K3供述(甲五六)は同人が当時使用していたメモ帳によっても部分的に裏付けられている。また、実際に、平成七年一二月末ころに開催された「足裏診断士養成セミナー」において、L2が同様の説明をしていたこと(第五六回Q1子供述二〇ないし二二頁)、同様の指示内容が、前記の足裏診断に関するマニュアルにも明確に記されていることなどによっても、裏付けられている。Bの点についても、被告人Aが、許可もしていないマニュアルが教団内に出回り使用されているということは、細部にわたり「天伺い」と称して被告人Aに許可、決裁を求めていた教団の指示命令系統からして考え難い。なにより、「足裏診断士マニュアル」(物一一)中の「3.結婚……成行本」欄には、前記天仕合礼の開催日(平成四年八月一日)より後に出版された「愛を超える結婚があった」(平成六年一〇月出版)、「愛されたいなら足うらを磨け」(平成五年七月出版)(甲五三六、五三七)といった書籍名が記載されていることからも、同マニュアルが既に作成されていて前記天仕合礼で紹介されたということはあり得ず、もう一方の「足裏診断士養成マニュアル」(物七)について、被告人Aが使用を認めたことは明らかである。まして、両マニュアルいずれについても知らなかったとの第四三回公判における被告人Aの供述は、前記天仕合礼の際の同被告人の発言と明らかに矛盾しており、到底信用できない。
 なお、前記認定の一部は、K3の各検察官調書によるものであるが、弁護人らは、その一部(甲五四ないし五六、五八)の証拠能力を争う(弁論要旨一〇一、一〇二、一〇四ないし一〇六、一一五、一五三、一五四頁)。しかし、K3は、平成元年に教団の修行に参加したのを切っ掛けに、約一年間にわたり教団内で本部修行生として過ごした後、当時抱えていた借金を返済するための融資を受けて教団との間で行務委託基本契約を締結し、同一二年ころまでの長期間にわたり、被告人Aの意向に従いながら教団事行の企画運営を任されて多額の報酬を得ていたのであるから(第二四回K3供述五二ないし五四頁)、まさに被告人Aに救われて恩義を感じ(第二六回K3供述一一一、一一二頁)、同被告人に不利な供述をし難い関係にあり、このことは証人尋問においてK3自身未だ同被告人のことを時に「先生」と表現する(第二四回K3供述一二五頁、第二六回K3供述九〇頁)などしている供述態度等からもうかがえる一方、K3の各検察官調書について見ると、同人が認めるように取調べ検察官は紳士的で素直に供述できたというのであって(第二六回K3供述一一一頁)、多数の資料を踏まえながら記憶を喚起し、正直に供述していたものと認められ、相反性はもとより、その供述内容等に照らしても特信性があり、刑事訴訟法三二一条一項二号後段により証拠能力を肯定できるし、信用性も認められる。
 (3) 修行参加勧誘等のシステムの確立
 ア 虚偽の体験談が掲載された教団刊行物の多量配布
 教団では、天仕のほか、全国各地に「支部長」ら多数の在家信者を擁し、日常的に修行参加の勧誘活動に従事させていたところ、平成三年ころから、病気等の悩みを抱える者に足裏鑑定及び足裏診断を受けさせるために、被告人Aには「天声」と称する啓示を聞き、「天行力」と称する宇宙のエネルギーを操る能力があるという話や、癌で半年の命だと宣告され、一歩も歩けず尿も出ないほど重症であった八歳の女児(判示第一の被害者であるD子の長女)が、両親が天声に添って修行に参加するなどした結果、歩くことができるようになり、病気が治癒したなどといった虚偽の体験談等を織り交ぜ(第二一回D子供述一三ないし一八頁、甲一二六、一二七、一六六)、あたかも天声に添えば病気等の悩みを解決できるかのように記載した被告人Aの著書「病苦を超える最後の天行力」(平成五年一一月出版)(物一七)等を出版したり(甲三九八、乙二六)、S3子が頭を打って一時は危険な状態にあったが、南無天法地源如来行の掛軸をつかんで、その掛軸が同女の身体を包み、怪我が奇跡的に快方に向かい、「如来行主」に生まれ変わったなどといった虚偽の記事を掲載した機関誌(甲五五添付資料二「ちえのわ新聞」第六五号平成二年一二月一〇日付け、甲五五、四六一、第一〇回被告人A供述五七ないし六〇頁。甲一二六添付資料七「ゼロの力学」通巻一九号、第二一回及び第二三回D子供述)を発行し、これらを多量に販売又は無料頒布していた。特に、「病苦を超える最後の天行力」については、平成六年一〇月、「病苦一〇〇万部プロジェクト」と称しまた、平成七年ころ、「病苦一〇〇〇万部成行」と称して、街頭、病院前等を対象として大量無償頒布を組織的に行い、修行勧誘を強力に推進した(第一六回U3供述二七ないし二九頁、第一九回I3供述二七ないし三二頁、第二一回J3子供述三九ないし四九頁、甲五五、乙二三、二六、物八ないし一〇)。
 弁護人らは、前記「病苦を超える最後の天行力」(物一七)について、被告人Aは多忙だったため、その内容を当時確認していたわけではなく、虚偽の体験談が掲載されているかどうかも執筆者や出版担当者を信用しており、知る由もなかったなどと主張し、(弁論要旨一二〇頁)、同被告人も、同書籍を含め同被告人名(国司院常照名を含む。)による他の書籍及び教団刊行物について、当時読んだことがなく、内容も知らなかったなどと供述する(第四四回被告人A供述二〇ないし二三頁、第六九回同被告人供述一一、一二頁、第七〇回同被告人供述五九ないし六一、六二ないし六四頁、第七一回同被告人供述四、五、一八ないし二四頁)。同様に、被告人Bも、同書籍を読んでおらず、内容を知らなかったなどと供述する(第四二回被告人B供述二八頁、第六八回同被告人供述一〇四ないし一〇六頁)。しかし、前記「病苦を超える最後の天行力」のゴーストライターであるV3子は、同書籍に掲載された体験談については、教団側から実例のアウトラインが送られてきたのを文章にしたものや送られてきた原案そのまま載せただけで、自分が創作したことはない旨明確に供述している(甲三九八)。また、被告人Aについては、自らの名前で出版し、まして平成六年一二月に開催された「天行力大祭」において、「『病苦を超える最後の天行力』を一〇〇〇万人に読ませれば、この世から病人が消える。」と発表するなどし(乙二三)、面談者等に対してもこれらを読むよう勧めていたばかりか、天仕合礼等で「四泊五日を受けるか迷っている人は、この『病苦を超える最後の天行力』を読むことによって最後の一歩を踏み超えることができる非常に有効なものである。」などと高い評価をし、前記のとおり、教団の一大プロジェクトとして組織的に大量無償頒布まで指示しておきながら(第一九回I3供述二七ないし三〇頁)、校正段階等を含め一度も読んだこともなければ内容も知らなかったなどということは、余りに不自然、不合理かつ無責任な弁解であって信用できない。被告人A自身、別件民事訴訟において、「病苦を超える最後の天行力」あるいは「私は百パーセント癌を治した」の内容を理解しているように振る舞いながら答え、その内容を知らなかったなどとの弁解は一切していない(乙五、六)ばかりか、「病苦を超える最後の天行力」は自分で書いたとまで供述し(乙五の一〇七五七丁)、「私は百パーセント癌を治した」という記述は事実がそのまま題名になったなどと答えている(乙六の一〇八五七丁)。他の出版物についても、必ず出版に先立ち「天伺い」をするというのであれば、同様に読んでおらず内容を知らなかったというのは不自然、不合理であるし、その題名のみを見ても、修行や天行力は病気を治すものではないという教義から逸脱しているようなものすらあるのであって、教祖として関心を持たないはずがない。被告人Bについても、教団の一大プロジェクトとして大量頒布をする計画がある「病苦を超える最後の天行力」について、後記第三の三の(1)のエのとおり責任役員として「最高会議」に出席していながら、全く読んだことがないというのは不自然というほかなく、自らが信仰する天声、天意に基づいて出版された人間完成のために必要な書籍であると認識していたこと(第六八回被告人B供述一一頁)、被告人Aの著書の著作者紹介欄に「足ウラ博士」、「生態哲学博士」などと記載されていたのは認識していたこと(第六八回被告人B供述一四頁)、前記のとおり天仕合礼の場で被告人Aが高い評価を与えていた書籍であることなどからしても、教団幹部として当然にその内容を把握していたものと強く推認される。
 イ 足裏鑑定とその後の修行参加勧誘システムの確立
 教団内では、これらの著書(「病苦を超える最後の天行力」等)の読者から送られてくる折り込みのアンケート葉書(戻り葉書)等をもとに、病気等の悩みを抱えている読者に対し、被告人Aの足裏鑑定を受けるよう勧誘し、この勧誘に応じるなどして、あるいは支部における説明会等の勧誘活動を通じて面談に訪れた者に、まず同被告人が足裏鑑定を実施し、前記のとおり、事前に「診断カルテ」と称するアンケートに記入させるなどして面談者の悩み事を把握した上、面談者に天行力をどの程度通すことができるか試す仕草をするとともに、殊更に具体的に病気等の悩みや不安を煽ったり、このままでは病気になるなどと衝撃的な文言を浴びせた上、足裏鑑定により修行に参加するようにという鑑定結果が出ている旨告げ、面談フォロー役の教団職員らに引き継いでいた。なお、足裏鑑定における結果は、ほぼ例外なく「修行を受けるように」というものであった。被告人Aの足裏鑑定から面談者を引き継いだ教団職員らは、「面談フォロー」と称して、修行に参加すれば病気等の問題が解決する、教団主宰の四泊五日の修行へ参加するよう天声が出ているなどと申し向ける一方、面談者から修行内容を聞かれても「老人や子供でもできる内容です。」などとだけ答え、あえて修行内容を秘したまま、執拗に勧誘し、その場で修行参加を決断させるや、すぐに高額な修行代を伝え、その日のうちに一部でも支払うよう求め、残金についても、ローン会社で借金をしてでも用意するよう捻出方法まで教示するなどした上、二四時間以内に天声に添わなか(ママ)れば効果がなくなるなどと申し向けて、その早期の支払を強く求め、高額な修行代を「観いの定め」と称して徴収していた(第一九回I3供述二三ないし五九頁、第二一回J3子供述二八ないし三二頁、甲五八、乙一九、八七、八八、一一四)。
 また、被告人Aは、前記のとおり、その教えが他の宗教の教義の模倣の部分があり、教団も歴とした宗教法人であるにもかかわらず、法の華は「願わず、求めず、頼らず」の行中心の教えだから、既存の宗教を超越する「超宗」であると称し、関係組織に「株式会社アースエイド」、「ゼロの力学」(平成三年九月ころ教団の宗教性を秘匿して修行参加者を集めるためにできた組織。被告人Aの著書を「ゼロの力学シリーズ」として出版するなどし、アンケート葉書の宛先、修行代金の送金先等も「ゼロの力学」とされていた。)あるいは、「有限会社ヒューマンライフ研究所」といった名称を付したり、自らを「足ウラ博士」、「生態哲学博士」と称したり、「A’」の名前での出版は避けて「国司院常照」なるペンネームを使うなどしていた。また、被告人Aの書籍の一つである「これが驚異の天行力だ」(平成五年八月出版)には、その第二章で「宗教によってほんとうに人間は救われるのか」との標題の下、「宗教によって人類は救われただろうか。答えはノーだ。」(九九頁)、「我欲のためなら真理までねじ曲げてしまうような人間の生きざまを救うのは、人間の頭で体系化された『宗教』では無理だ」(一〇〇頁)などと、一見すると被告人Aが説いていることは宗教ではないかのような記述まである。そればかりか、被告人Aは、天仕合礼等の場において、天仕(教団職員)らに対し、何度も「宗教かどうかと聞かれたら、宗教を超えたものだとか、宗教ではないと答えろ。」などと直接指示し、実際に天仕(教団職員)らも、面談者から宗教ではないかと確認されても、これを否定し、あえて既存の宗教ではないなどと曖昧な対応をし、殊更にその宗教性を秘匿し、あたかも科学性、確実性を有しているかのように装っていた(第二四回K3供述六九、八六ないし九六頁、甲四七、五七、五八、二一九、三九八、乙二六、四四、物一一「足裏診断士マニュアル」中の「足裏で面談を決める際の注意点」五、物一三ないし一七)。
 弁護人らは、法の華は「願わず、求めず、頼らず」の行中心の教えであって、本当の宗教であるという意味で一般の人たちがイメージする既存の宗教ではないと説いていただけであるなどと主張し(弁論要旨一〇九、一一〇頁)、被告人Aも、公判廷において、同様の供述をする(第四四回被告人A供述二三、二四頁)。しかし、そのような趣旨であるならば、「本当の宗教だ」ということを明確に説明すべきであって、宗教かとの問いに、「既存の宗教ではない」とか「宗教とはちがう」と答えれば、通常は法の華が宗教団体ではないのだとしか理解できない。前記「足裏診断士マニュアル」(物一一)の中の「足裏で面談を決める際の注意点5」においても、今はやりの宗教かと聞かれた場合の答え方として、「先生のご指導は、あなたが本来持っている力を引き出すものです。ですから、これは自然の法則に沿わせるためのご指導です。本来の自分に戻るためのものです。これは宗教とは言えませんよね。」と答えるように記載され、「本当の宗教だ」と説明するよう指導してはいない。実際に、面談フォローを担当した共犯者が被害者らに宛てた手紙(甲一〇〇添付資料中のQ3子からR3子宛の手紙)の中にも、「ヘンな新興宗教かと私も最初は思いましたが、これは宗教とはちがいます。宗教は『神さまお願い』とすがるものですが、これはR3子ちゃん自身が体感できるパワーです。」などとのみ記載されており、文脈からすれば宗教ではないと言っているものと理解できるのである。所論が失当であることは明らかである。
 ウ 四泊五日の修行の内容
 教団では、昭和五八年ころから「頭をもぎ取る特訓」と称して一泊二日の合宿による修行を行うようになり、その後、名称を変更しながら、同六二年八月ころには、「人間A’生きざま修行」と称する修行を開始するようになった。この修行は、静岡県富士市内にある教団施設「富士天声村」において、四泊五日の日程で行われ、教団は、参加者に対し、その期間中の私語を禁止するなどし、睡眠時間を極端に制限して、長時間にわたり、ただひたすら七観行(教団の教典を唱える行)等を繰り返させるといった過酷かつ非科学的な修行を受けさせることにより、極限的な精神状態に追い込んだ上、最終日には修行の成果として「頭が取れた」(教団では、頭が取れれば天行力が流れると説明をしていた。)か否かの判定会を実施し、最後には修行参加者全員に頭が取れたという判定を与えていた(第五回H3供述三二ないし三九頁、第六回H3供述一〇ないし一七、二四、二五頁、第一五回U3供述五三ないし五六、七二ないし八八頁、第一九回I3供述五九ないし六二頁、甲一四五、五三九、乙四二、四五)。
 なお、前記認定の一部はU3の検察官調書によるところ、弁護人らは、それらを含め同人の検察官調書(乙三九、四〇、四二ないし四七)の証拠能力を争う(弁論要旨一五三頁)。しかし、U3は、昭和六〇年四月ころに教団の修行を受け、同年七月ころに教団職員となり、長年にわたり、般若塾塾長、責任役員等の教団幹部として被告人Aの下で活動してきた者である上、自らの公判において本件を否認し、その第一審判決前又は控訴後の時点での証言であったことから、自ら及び被告人Aらの刑事責任を認めるような供述をし難い立場にある一方、U3の前記各検察官調書について見ると、同人が認めるように、その内容は取調べ検察官に対し任意に供述したものであって(第一六回U3供述四五ないし四九、五四、六六ないし七二頁)、相反性はもとより、その供述内容等に照らしても特信性があり、刑事訴訟法三二一条一項二号後段により証拠能力を肯定できるし、信用性も認められる。
 エ 「天声フォロー」の確立
 修行修了後(当初は修行修了時であったが、平成六年九月以降は修行修了の数日後になった。甲一八六、第一九回I3供述八一、八二頁)にも、修行中に天声が下りたなどとして(甲三七七)、被告人Aの伝える「天声」に基づき、「天声講師」なる教団職員が、修行修了者に対し、「天声に添えば病気が良くなりますよ。癌が消えますよ。」などと言って、更に法納料等の名目で「家の中心」という高額な掛け軸の購入や著しく高額な解脱法納等をするように迫り(これを「天声フォロー」という。)、多額の金員を納めさせたり、「天の行」と称して、新たな修行参加者を勧誘しなければ天声に添うことにはならないなどと迫り、更なる修行参加者を獲得していた(第一九回I3供述六二ないし六五頁、第一一回F子供述一一ないし一六頁、甲三二、三四、四六九、乙四五)。
 オ 本件各犯行当時、このような修行参加勧誘等のシステムが教団内には確立しており、教団職員らはそのシステムに従い、勧誘活動等を行っていた。
 (4) 修行参加者の拡大政策
 ア 四七拠点戦略の実行
 被告人Aは、平成六年には、支部制度を中心として修行参加者勧誘のための拠点を各都道府県に作ること(「四七拠点戦略」という。平成七年には一〇地域本部制になる。甲二六三、五九)及び一〇〇〇万人に教団の発行する手帳を持たせること(「一〇〇〇万人手帳」)を命じたりした(第一九回I3供述七四ないし七六頁、乙二六)。「四七拠点戦略」においては、総本部−地域本部−各都道府県支局−支部−班というピラミッド組織を作り上げた上、各支局長、各支部長等の具体的活動内容をマニュアル化した。さらに、教団では、「道場長制度」、「天行道場主制度」等のもと、従前から新たに修行参加者を勧誘することに成功した場合には、参加者が払い込んだ修行代金の中から「喜びの証」等として一定のバックマージン(報奨金)がもらえる仕組みを設けていたが、「四七拠点戦略」においてはこれを更に拡充し、行材、宣伝本の販売やゼロの力学などの雑誌の定期購読獲得に成功した場合にもポイントを付け、バックマージンを支給することとし、勧誘活動を行わせる動機付けを与えることとした。こうして、教団では、修行参加者の拡大を図り、前記第三の一の(3)のアの「病苦を超える最後の天行力」の大量頒布とも相まって、信者獲得数の飛躍的増大に成功した(第六回H3供述二七、二八頁、第一九回I3供述七四ないし七六頁、第二四回K3供述二一ないし四三、一〇一ないし一一九頁、甲五六、五九、七七、五五九、乙一八、四三)。
 弁護人らは、「喜びの証」は布教活動費として支払われていたもので、これをバックマージンと見るのは不適切であるなどと主張する(弁論要旨九七、九八頁)。しかし、布教活動に要した費用と「喜びの証」の金額とには関連性はなく、むしろその金額は修行参加者が払い込んだ修行代金等の金額の一定割合という形で支払われるのであるから、その実質はバックマージンというほかない。教団職員らも、そのように理解していたのであって、これを布教活動費などと見ることはできない。
 イ 勧誘ノルマ達成のための教団職員らの管理
 併せて、被告人Aは、天仕合礼等の場において、天声と称して、教団幹部、教団職員らに過大な勧誘ノルマを課すとともに、「四人鑑定したら三人決めろ。七〇パーセントをキープしろ。徹底して数字を表していく。」などとその勧誘ノルマ達成を求めた。そして、多数の修行参加者を勧誘したり、多額の法納料を法納させた教団職員らに対しては、会合において、「喜びの証」を手渡して表彰する一方、ノルマが達成できない教団職員らには公然と罵倒し、「法の手」と称して被告人A自ら平手打ちしたり、「般若料」と称する天仕(教団職員)らの給料を減額し、制裁金まで徴収するなどして制裁を科していた(第一一回F子供述一九、二〇ないし二七、四八ないし五一頁、第一五回U3供述九、一〇、一三ないし一八、二一ないし三一頁、第一六回U3供述三四、三五頁、第一九回I3供述一八、六四ないし七〇、七三、七四頁、第二一回J3子供述一八ないし二二頁、甲二六三、乙四三)。
 (5) これらの事実等からすれば、被告人Aが「天声」なるものを聞くことができ、「天行力」なる力を操れる特別の能力をもっているとか、その能力を前提に、医師の資格もなくまた児童心理学等の専門知識もない同被告人が、面談者の足裏を診て、病気等に関する専門的な観点から病気等の問題点を的確に診断、判断して、これを治癒(罹患防止を含む。)させ、解決するための確実な方策を提示する能力を持っているというのは、明らかな虚偽である。また、足裏診断士であるL2及びCらの教団職員らが、同様な診断、判断能力及び解決策提示能力を持っているというのも、被告人A自身認めるように(第四三回被告人A供述七頁、第六九回同被告人供述一六、五五、五六頁)虚偽である。さらに、天声に添って、修行に参加して頭を取り、行を続ければ、確実に病気が治癒(罹患防止を含む。)したり問題が解決するというのも、前記のとおり科学的な確実性がないのにそれがあるかのように言う点で、また、そもそも被告人Aに天声が聞けるということを前提にしている点で、虚偽というほかはない。
 S3子も、被告人Aが天声を聞くことができないし、天行力も使えないこと、これまで天行力で病気を治したり、他人の過去の行動を言い当てるのも見たことがないことなどを明確に認めている(甲四六五、四七八、四九〇、四九四、四九九)。そればかりか、被告人A自身、前記別件民事訴訟において、一方で天声に添えば病気が治るなどと現世利益を説きながら、他方で天声に添っても病気が治るとか現世的な利益はないなどと矛盾する供述をしていること(乙八の一〇一三項)などにも顕著に裏付けられている。分離前の相被告人であったZ子及び同R1子も、捜査段階(乙八七、八八、一一四)及び公判廷(第三八回Z子供述四、五頁、第三九回R1子供述一一頁、第四〇回R1子供述六、七頁)において、修行をしたからといって確実に病気が治癒したり、問題が解決することはないことを認めている。確かに、教団の修行を受けることなどにより、病気等の問題を苦にしない心境になり、精神的に充実した人生を送ることができたり、場合によっては副次的に自然治癒力を増す場合もあるという限度では、その効果まで否定するものではないが、それ以上に具体的な病気や問題を確実に治癒、解決できるものではないことは明らかであるし、前記のとおりの修行参加勧誘システム、天声フォローのシステム等は、主として修行参加者から金員を騙し取ることを意図していたものであったといわざるを得ない。
 弁護人らは、被告人Aが述べる前記「法則」(第二の三の(1)の@)は、宗教的な意味においては、病気の病状や原因を的確に判断して、病気を治癒させるための確実な方策を提示するものである(弁論要旨二五、二六頁)などとした上、足裏鑑定の際に同被告人が天声として被害者らに伝えた内容は、教義に基づく天声によるものであったり、教義の趣旨、「法則」又は「解脱法納等の効果」そのものを説明するものであって、いずれも真実であるなどと主張する(弁論要旨二三ないし二七、三九ないし四二頁)。しかし、前記「法則」なるものが宗教的な意味において真実かどうかが問題なのではないし、被告人A自身、天声は医学的にも正しい診断であるとか、修行を受けて頭が取れ、行を続ければ病気は必ず治るなどと明確に供述している(第四四回被告人A供述二六、二七、一一七ないし一一九、一二二、一二三頁)。そして、被告人Aらに医学的に病気等を診断してこれを治癒させるための確実な方策を提示する能力がなく、修行に参加したり、法納等をしたからといって確実に病気が治癒するものではない以上、宗教的利益を超えて現実の医学的、科学的効果を約すれば虚偽であることは論を待たない。また、被告人A及び他の共犯者らによる判示の各文言の中に宗教的な意味合いが含まれているものがあったとしても、「修行に参加すれば病気が治る。」などの明らかな嘘と一体となって欺罔行為を構成しているのであって、決してこのような文言が一般社会において真実であるとは認められない。そもそも、前記第二の三のとおり、判示の各欺罔文言は、明らかに弁護人らが主張する教義の趣旨とは異なるものであって、それをとって見ても、虚偽であることは明白である。
 二 被告人Aの認識及び共謀について
 (1) 被告人Aは、前記第三の一で認定した事実、特に教団創設の経緯、足裏診断開始の経緯及び同診断の実態等に照らせば、自らに天声を聞く能力や天行力を操る能力がなく、したがって、その能力を前提に、面談者の足裏を診るなどしてその人の病気等の悩み事の状態や原因を的確に判断し、これを確実に解消する方策を提示する能力がないばかりか、天声により解決策として提示される、教団主宰の修行への参加、法納等によっても、面談者又はその家族の病気を治癒させ、その他のあらゆる悩み事を解消させることができるというのは虚偽であることについて、誰よりも明確に認識していたものと認められる。なお、他の共犯者らに、前記のような能力がないことは、同被告人が認めるところである。それにもかかわらず、被告人Aは、自ら足裏鑑定を実施し(ただし、判示第二七、第二九及び第三〇を除く。)、天声と称して、判示のとおり虚言を弄し、詐欺の実行行為に及んでいたほか、前記第三の一のとおり、足裏診断士による足裏診断の際に面談者に殊更不安を煽るような虚偽を申し向けるように記載された「足裏診断士養成マニュアル」(物七)等の使用を指示して足裏診断士による足裏診断を実施させたり、虚偽の体験談が露骨に掲載され、あたかも天行力に癌等の病気を治癒させる能力等があるかのような記述のある「病苦を超える最後の天行力」(物一七)等を組織的に大量無償頒布させるなどして、修行参加勧誘等のシステムを確立し、修行参加者の勧誘等を強力に推進したり、四七拠点戦略を実行し、喜びの証等として一定のバックマージンを与えるシステムを設けるなどして、修行参加者拡大を図ったり、さらには、後記第三の三の(1)のウのとおり、天仕合礼等の場で露骨に虚言を弄してでも面談者を修行へ参加させるよう指示までしていたのである。
 以上の事実等にかんがみれば、本件各犯行当時、共犯者らとの間において、虚言を弄してでも修行参加者を多数獲得して、修行代等を納めさせる旨の謀議が成立しており、被告人Aは、教祖として教団のトップに君臨し、天声を聞ける唯一の者として、絶対的な権力を振るい教団を統括しながら、前記システムを構築し、その下で本件の組織的詐欺を積極的に推進していたものと認められる。したがって、被告人Aは、正に本件各犯行の主謀者といえ、詐欺罪の故意及び共犯者らとの共謀が優に認められる。
 (2) 弁護人らは、@ 被告人Aは、ひたすら人類救済をしたい一心で、天声を信じ、それに従い活動してきたのであって、詐欺の故意がないし、A 他の共犯者らとの間で本件各犯行に関する意思疎通はもちろん、他の共犯者らによる本件各犯行の認識すらなかったなどと主張し(弁論要旨九、六一、六二頁)、同被告人も、公判廷において、これに沿う供述をする。
 しかし、@の点については、虚言を弄してでも修行参加者を多数獲得して、修行代等を納めさせることに躍起となり、前記システムを構築し、本件各犯行に及んだものであって、到底人類救済をしたい一心であったとは認められないし、なによりも、自分に天声なるものが聞ける能力などないことは一番良く理解していたはずである。Aの点についても、自ら「修行に参加すれば病気が治る。」など明らかな嘘を言い、他の共犯者らもこれを受けて面談フォローを行うなどして実行行為に及んでいたばかりか、前記システムを構築し、天仕合礼等の場で露骨に虚言を弄してでも面談者を修行に参加させるよう指示していたことなどからしても、他の共犯者らによる犯行の認識どころか、これらの者との共謀に何ら欠けるところはない。
 三 被告人Bの認識及び共謀について
 (1) 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
 ア 被告人Bの行歴
 被告人Bは、昭和六一年ころ、「あなたは自分を守れるか」(同年一二月出版)という被告人Aの著書を読み、教団に関心を持つようになり、同六二年四月、教団主宰の四泊五日の修行に参加して教団信者になった後、平成二年九月に「天仕になるように」との天声を受け、それに添って天仕(教団職員)となった。天仕になってからは、まず富士天声村の中にある天恵庵での行務に、同三年初めころからは富士天声村天地堂の事務所での行務等に就いた後、同四年一月、家主との天声を受け、富士天声村の最高責任者である家主に任じられた。また、同五年ころから同一二年一月ころまでの間、教団の責任役員及び理事を兼務し、その間「最高会議」に出席するなどして教団幹部として活動を続けていた(第三六回被告人B供述、第四二回同被告人供述五六、五七頁、甲五三六、五三七)。
 イ 被告人Bによる面談フォローの担当被告人Bは、公判廷でも供述するように、修行参加は病気の治癒又は問題の解決を目的とするものではなく、これにより確実に病気が治癒したり、問題が解決するとは限らず、むしろ修行に参加して頭を取り、行を続けた結果、病気のままであっても、病気を病気として苦としなくなり、最高と喜べて人間完成することに意味がある、あるいは、修行に参加すれば病気にならないということもなく、天声に添わないと病気になるということもないなどと考えていたにもかかわらず(第三六回被告人B供述二五頁、第四二回同被告人供述五二、六一、六二、六五ないし七〇頁、第六八回同被告人供述九〇、一一〇、一一一頁)、前記のような教団内に確立した勧誘システムの中で、平成四年ころ、足裏鑑定後に修行への参加を執拗に勧める面談フォローを数十回にわたり繰り返し担当していたものであり(第三六回被告人B供述五七頁、第四二回同被告人供述一五、四三、四四頁、第六八回同被告人供述八三頁)、その際に、確実に病気が治癒する、あるいは問題が解決するなどと虚偽の事実を申し向けて修行に参加するよう勧誘していたことを認識していたものと推認される。このことは、同被告人自ら、被告人Aが足裏鑑定の際に面談者に「修行を受けないと脳内出血になる。」などと言ったのを受けて、面談者に対して、「病気(脳内出血)や家庭崩壊を変えるのは行を受けて、自分を変えるしかない。このままだと脳内出血や家庭崩壊になる。修行を受ければ、自分を変えることができて、改善できる。」などと、修行の効果を病気の治癒(罹患防止を含む。)及び問題の解決と関連付けて虚偽の事実を申し向け、殊更に面談者の不安を煽って修行に参加するよう勧誘していたこと(第六五回D1供述九ないし一五、三五頁)を見ても、裏付けられている。
 この点、被告人Bは、公判廷において、面談フォローの際に人の悩みと関連付けて修行参加について説明して勧誘することはなかったと供述するが(第四二回被告人B供述一九、二〇、四四、四五頁)、前記D1供述と明らかに矛盾しているし、様々な悩みを抱えて相談に来る面談者から、高額の修行代を伴う修行の効果と問題解決の関係について聞かれたこともなく、そのような説明をしたこともないなどというのは不自然というほかない。また、同被告人自身、後に、天声で示されていればそれをもう一度伝える形で病気等の悩みと関連付けて修行参加について説明して勧誘することがあるが、当然その人の悩みに関連付けて観い向けするなどと供述を大きく変遷させるに至っている(第六八回被告人B供述八五ないし八九、九四ないし九六頁)。これからの供述状況等に照らしても、同被告人の前記供述は到底信用できない。
 ウ 被告人Bの天仕合礼への出席
 教団では、前記天仕合礼が定期的に開催され、そこにおいて、被告人Aから、教団の運営(甲五六)、修行生獲得のノルマ等に関する指示が伝えられたり(甲一八五、五一二、第一九回I3供述一八、六五ないし六八、七三、七四頁、第二一回J3子供述一八、一九頁)、教団内の各部署から様々な活動報告がされたりしていた(乙一四)。その際、被告人Aは、「四泊五日に座らせたり、四泊五日修了後の天声に添わせるために使う知恵は天に許される。」、「知恵を使え。」、「多少の嘘は、天と出会わせることによって帳消しになる。」、すなわち嘘を言って修行参加者を勧誘しろという趣旨のことを指示し(第一九回I3供述一八、一九、四六ないし四八、五三頁、第二一回J3子供述三四、三八頁、第二二回J3子供述七九ないし八二頁)、「嘘も放便、嘘もA’、嘘も生かしなさい。四泊五日の修行を受けさせるためには、嘘でもいいから座らせなさい。」(第一一回F子供述二八ないし三四頁、第一七回U3供述五六ないし五八頁)、あるいは「お金を一円でも多く取ってやることがその人のためになるんだ。」(甲一八五)などと露骨な金集めを指示、命令していた(甲一八四ないし一八六、五二七、五二九ないし五三一、五三五、乙三九、四〇、第一一回F子供述三六ないし四一頁、第一九回I3供述、第二一回J3子供述三四ないし三八頁、第二二回J3子供述三〇頁)。また、前記第三の一の(2)のイのとおり、天仕合礼の場において、前記「足裏診断士養成マニュアル」(物七)の使用を指示していた。
 被告人Bは、この天仕合礼において、富士天声村の家主として司会進行役を務め、ほぼ毎回出席していたし(第三六回被告人B供述五二、五三頁、第四二回同被告人供述二四、二五、四二、四三頁、第六八回同被告人供述七三、七四頁)、欠席した場合には後日天仕合礼の内容を録音したテープを聴くことになっていたというのであるから(乙一四、第一一回F子供述三六頁)、当然に、被告人Aの前記指示、命令も耳にしていたものと認められる。また、被告人Bは、自身が教団に入信した経験からも、前記システムについては十分に理解していたはずである。
 この点について、被告人Bは、公判廷において、修行生獲得のノルマが示されたことも、「嘘も方便」、「嘘をついても天は許す。」等の指示を聞いたこともなく、「知恵」とは嘘のことではない、また、「足裏診断士養成マニュアル」(物七)については知らなかったなどと供述し(第四二回被告人B供述一〇、一一、二三ないし二五頁、第六八回同被告人供述七四ないし七七頁)、弁護人らも、被告人Bが被告人Aによる前記のような言葉を聞いたことはないし、I3が平成四年以降の天仕合礼の指示内容を記載したというノート(甲五二七、物二ないし四。以下「I3ノート」という。)にも、「嘘をついても天は許す。」等の記載はないと主張する(弁論要旨一一、一四一ないし一四三頁)。
 しかし、I3ノートには、修行生獲得のノルマに関しては、例えば、平成五年七月一〇日の天仕合礼の欄には「心臓六〇〇個完了、二一五期 二〇〇一年天声フォロー七〇パーセント超えた」と、平成六年五月二八日の天仕合礼の欄には「特別天仕般若料について 天仕料はあるが、般若料は、その月のトータル心臓数分一%を七つで割った分 ※月に三〇〇個当然という解釈」と、同年八月二〇日の天仕合礼の欄には「今月 心臓 残り一八三個(三〇〇マデ)」と、同年九月二四日の天仕合礼の欄には「今月五〇〇個の天行 今週四三個カラを破らなければいけない」と、同年一〇月一日の天仕合礼の欄には「必ず頭を取る心臓七〇〇個 できなかったらゼロの力学解散、三週続けて四〇台真剣度合いがない、今月から心臓月一個なければその天仕般若料なし」(甲五二七の一二一六六丁、一二二〇〇丁、一二二〇八丁、一二二一二丁、一二二一四丁)などと、随所に修行生獲得のノルマ達成を指示する記載がある。また、確かに、I3ノートには、「嘘をついても天は許す。」、「嘘も方便」、「嘘も生かしなさい。」等の記載は見当たらないものの、「知恵を使う」ことについては、例えば、平成四年二月一日の朝礼勉強会の欄には「知恵を使う。」と、同年五月一六日の朝礼の欄には「心臓をお客さん扱いするのは、本注文の時だけでよい。その他の機会の時は、知恵を存分に使え。」と、同年八月三日の朝礼の欄には「天声は、できない事は出ないが簡単にはいかない。知恵が必要。自分のすべてを使い切らないとできない。」と、平成五年七月三日の天仕合礼の欄には「特訓費定める時に、もうお金はかからないというニュアンスは言ってはならない。知恵を持って対応せよ。」と、同月二四日の天仕合礼の欄には「知恵なくして天仕はつとまらない。」と、平成六年二月二六日の天仕合礼の欄には「頭が取れていても、判定会で頭がつくことがある。特訓生を活かし、気持ち良く帰らせてあげる。……終わり方に知恵がいる。とにかく天声に沿わせてあげれば大丈夫である。」と、同年九月一六日の顔合わせ(東京にいる天仕を集めての被告人Aの指示)の欄には「心と知恵がなければこれから先の天仕はつとまらない。」と、同年一一月四日の顔合わせの欄には「天仕は、観いと身と心と知恵をもっと使いこなせ。」とそれぞれ記載されているし(甲五二七の一二一一七丁、一二一二三丁、一二一三三丁、一二一六六丁、一二一六七丁、一二一八三丁、一二二一二丁、一二二一七丁)、趣旨こそ否定するものの、被告人A本人が、「嘘も方便、嘘もA’」、「嘘をついても天は許す。」と言ったことがあるというのである(第四三回被告人A供述一五ないし一七頁)。そして、I3の供述によれば、被告人Bが出席していた天仕合礼においても、被告人Aは知恵を使って修行参加者を増やすようにという指示を出していたし(被告人BはI3(平成四年二月天仕)よりも先に天仕になっていたのであるから、I3が天仕合礼で聞いた指示を聞いていたものと認められる(第二〇回I3供述八九頁)。)、「知恵を使う」という意味を「嘘を付いても修行に参加させる」という意味であると天仕らは誰もが理解していたというのであって(第一九回I3供述四八、四九頁、第二〇回I3供述八一、八二頁)、被告人Bのみがこのような被告人Aの指示を別の意味で理解していたというのは不自然であり、到底信用できない。さらに、平成六年九月から同八年八月まで教団の天仕であったJ3子(支局勤務)は、天仕合礼で被告人Aが「知恵として、天と出会わせるという事を例えそれがうそであろうと天は許す。」(平成六年ころに開催された法徳士セミナーで配られた資料中にある表現、物六)という趣旨のことを何回も言っているのを聞いていること、「嘘も方便」と言ったのも聞いていること(第二一回J3子供述三七頁、第二二回J3子供述三六、七九頁)に照らせば、天仕の中でも地位の高かった被告人Bが被告人Aの前記のような指示を聞いたことがないというのも信用し難いところである。もとより、天仕合礼での被告人Aによる「足裏診断士養成マニュアル」の使用指示については、前記第三の一の(2)のイのとおり客観的に裏付けられている事柄である。
 エ 被告人Bの最高会議への出席
 教団では、平成五年四月ころから、事行運営上の最高意思決定機関として、主要役員、各部の責任者が一五ないし二〇名程度出席した上、毎週一回「最高会議」が開催されていた(ただし、そのうち議決権が与えられていたのは、責任役員であるP3、U3、Bの三名、理事であるW3、(準)講師であるL2、O子、Cの三名のほか、各事業部の責任者に限られていた。)。同会議の出席者は、全員、「この会議で行われたことは秘密として守ります。きちんと各担当部署に伝達します。」というように秘密保持、伝達責任等を誓約するために「誓詞」又は「誓約書」を書かされて出席していた。同会議においては、平成七年ころまでは、修行参加者の獲得数(教団では「実証の数」と呼ぶこともあった。)や修行参加者を増やすための各事業体の活動状況等が発表され、今後いかにして修行参加者を増やしていくかについての方策等について話し合いがされており、同八年ころからは、内容が変わり、規則規定の制定、人事異動、運営上の改善点、行事の日程等の教団運営の上で重要な事項を決定する場となっていた(第一六回U3供述三三ないし三五頁、甲四三九、乙二七)。
 前記第三の三の(1)のアのとおり、被告人Bは、平成五年当初から、この「最高会議」に責任役員の一人として出席し、末端の教団職員らが知り得ない教団幹部らの機密に関わり、修行参加者を増やすべく様々な方策等について話し合っていたのはもちろん、被告人Aから、修行参加者を増やすべく各責任者が自覚を持って行動するように指示を受け、さらに、修行参加者が天声フォローに従って法納する率が下がったときには、家主として、その原因を分析するレポートの提出について指示を受けることもあった(乙二七)。
 弁護人らは、@ 「最高会議」は教団の重要事項を決定したり、機密事項を扱うような場ではなかったし、A 被告人Bが被告人Aから提出を指示されたレポートも修行後に修行参加者がスムースに帰宅できるようにするための報告程度のものであったはずであるなどと主張する(弁論要旨一一、一三八ないし一四一頁)。しかし、@の点については、前記のとおり、「最高会議」の内容には変化があったとはいえ、その内容はいずれも教団運営上の重要事項に関するものであること、出席者に対して秘密保持を誓約させるため誓約書等まで書かせていたこと、修行参加者を増やすために躍起となって方策が話し合われていたこと、出席者は教団幹部に限定されていたこと(被告人Aに議決権がないのは、単に議決した事項について後に「天伺い」と称して同被告人の意向が反映できるからにすぎないし、会議の場でも発言することにより実質的な影響力を与えていたことは、関係証拠からも明らかである。)などからしても、一般の教団職員が知り得ない重要事項について、いち早く知って議論していたものといえる。また、Aの点については、平成五年一〇月一四日に開催された第一三回最高会議の議事録を見ると、「尊師のお言葉」として、「昨日も天声フォローがあって、仮に落ちた場合には、どこが原因であるかをすぐ講師の方々や家主にレポートを出してもらっている。」とあり(乙二七の八八九一丁)、その前後の流れからすると天声フォローに従わせる率に過敏に反応し、これを上げるための方策についてレポート提出が求められたことは明らかであって、被告人Bも天声フォローの率を上げるための方策の検討に関してその一翼を担っていたと認められる。
 オ 被告人Bによる新人天仕教育
 被告人Bは、富士天声村において、家主として、新人(見習い)天仕の養成、基礎教育を行っていたものであるが、その教育は私語禁止など厳しい管理の下、被告人Aの言葉には全面的に従うように指示するなど教団に対して従順に従う天仕を育成するものであった。また、教団を脱会しようとしたり、教団の方針を批判する天仕がいると「家主預かり」となり、被告人Bが再教育をすることもあったし、電話対応の指導の際には、同被告人の責任の下、「おたくは宗教ですかと尋ねられたら、ここは宗教じゃないと答えるように。」と指導したり、クレーム処理に窮しての問い合わせの際には、「病気が治るんですかとクレームが来たときには、実際に治ったとは答えないように。ただ、他人の病気克服の体験談をあたかも自分の体験談のように話すように。」などと具体的な指導をしていた。また、教団の指導等に疑問や不信感を持つ者に対しては「それはマイナスです。常識やってたら人類救済はできないんだよ。」などと叱責したりもしていた(第二一回J3子供述一三ないし一七頁、第二二回J3子供述四三ないし五〇頁)。
 弁護人らは、@ 前記の電話対応の指導の際等の具体的な言葉は被告人Bが言ったものではないし(弁論要旨一四七、一四八頁)、A 同被告人が担当していた新人天仕教育は、挨拶、身だしなみ、言葉遣い、一般的な電話応対、行納、三法行・御法行・法説御法行の書き方や扱い方等の庶務的な指導であって、修行参加者の勧誘方法等についての指導ではなかったなどと主張し(弁論要旨一〇、一二六、一二七頁)、同被告人も、これに沿う供述をする(第六七回被告人B供述三ないし五頁、第六八回同被告人供述三八ないし四一、五八ないし六三頁)。しかし@のうち電話応対の点については、被告人Bが、責任者として、電話応対のロールプレイング方式による指導場面を設定し、電話応対例として紹介していたものであり(第二二回J3子供述四四、四五頁)、また、クレーム処理の対応の点は、同被告人自身も発言、アドバイスしていたものであり(第二一回J3子一六、一七頁、第二二回J3子供述四七頁)、同被告人が指導したことは明らかである。Aの点については、被告人Bの新人天仕教育は、確かに具体的な修行参加への勧誘方法、足裏診断の方法等について、直接的な指導をするものではないが、その基礎となる教団に対する従順な姿勢を教育する上で重要なものであるし、電話応対の指導等についても、宗教性の秘匿方法、クレーム処理の問い合わせ等に対しての個別アドバイスであって、単に一般的、庶務的な指導にとどまっていたとは到底いえない。
 カ 被告人Bの家主としての他の活動
 前記第三の三の(1)のアのとおり、被告人Bは、平成四年一月から、富士天声村の最高責任者である「家主」の地位にあった。天声村で実施される修行の実態が修行参加者に無理な苦行を強いるもので、病気を抱えた修行参加者の容態が悪化したり、ときに修行参加者が死亡したり、自殺したりすることさえあったが、家主である被告人Bは、危機管理の責任者として修行参加者が急病に倒れた際の救急車の手配、警察対応等の任に当たり、被告人Aに連絡を取っていた。また、脱走者が出た場合も、家主である被告人Bに一早く報告され、応援のための天仕の派遣を行うなどしていた。そればかりか、当時天声講師として天声フォローを行っていたF子から、天声に添わせて法納させた修行参加者が「天声に添ったが病気が良くならない。馬鹿野郎、金を返せ。」などと苦情の電話が何度もかかってきていることについて、その都度、報告を受けており、家主として被告人Aに報告していた(第一六回U3供述一三ないし二一、二五ないし二七頁、第一九回I3供述七七ないし七九頁、第六八回被告人B供述七〇ないし七三頁、甲四〇、五五八、乙四六)。
 弁護人らは、「家主」というのは富士天声村の最高責任者ではなく、修行参加者からの苦情の電話については修行参加者が「法則」を誤解しているだけであり(被告人Bは正しい「観い向け」が行われていたと信じていたなどと主張し(弁論要旨一三五、一三六、一四八頁)、同被告人も、同様の供述をする(第六八回被告人B供述三一、八一、八二頁)。しかし、家主である被告人Bが富士天声村の最高責任者であることは、他の教団職員らが揃って供述しているほか(第二一回J3子供述一二頁、第二四回K3供述九頁、第六五回D1供述二〇頁)、教団のトップである被告人Aが認めるところであり(乙六の一〇八五〇丁、第二二回J3子供述三七頁)、最高会議にまで出席する地位にあったこと、少なくとも、天声講師であり理事の立場にもあったF子らよりも上の地位にあったことなどに照らせば、被告人Bが富士天声村の最高責任者であるとの被告人Aらの供述は誠に自然なものである。また、被告人Bが、「法則」なるものを信じていたとしても、前記のような苦情等がいくつも寄せられているのであるから、まさにその「法則」と異なる虚偽が修行参加のための面談フォロー、天声フォローの際に告げられていることを認識していたものと認められる。
 (2) 結論
 ア 前記のとおり、本件各犯行当時、共犯者ら、とりわけ教団幹部の間には、虚言を弄してでも修行参加者を多数獲得して、修行代等を納めさせる旨の謀議が成立していたところ、(1)で認定した事実からすれば、被告人Bも、その趣旨を理解した上で、前記のような教団内の修行者勧誘システムの中で、最高会議に出席する責任役員、富士天声村最高責任者としての家主、新人天仕の教育責任者等の重要かつ不可欠な役割で、その中枢部に加わっていたものであるし、自らが立ち会った面談フォローにおいては、殊更に虚偽であることを知りながら、修行参加の効果と病気、問題の解決を関連付け、修行参加を勧めていたのであるから、詐欺罪の故意はもちろん、他の共犯者らとの間で共謀を遂げていたことも明らかである。
 イ これに対し、被告人Bは、公判廷において、天声を絶対的に信じ、被告人Aがその天声を聞き、天行力を人に向かって送ることができる特別な人間であると信じていたなどと弁解し(第六七回被告人B供述二一ないし二五頁、第六八回同被告人供述八、五二、五三頁)、弁護人らも、被告人Bは、仮に「今、ここで、天声が降りた、今すぐ死ぬという天声だ。」と言われたら本当に自殺しかねないほどに、他の者よりも教団の教義、天声等を熱心に信じ、その教義の趣旨、天声に添った宗教活動や教団の庶務業務を遂行していただけであるから、同被告人に詐欺の故意はもちろん、他の共犯者らとの間で共謀もなかったなどと主張する(弁論要旨一〇、一一、一四九、一五〇頁)。
 しかしながら、まさにそこに問題があるといわなければならない。すなわち、被告人Bは、被告人Aの伝えるとされる「天声」であれば詐欺等の社会規範から逸脱する事柄であっても、教団幹部として、従順に遂行してきたのであって、後記第四のとおり、それがいかに信仰を背景とするものであろうと、社会規範による規制を受けるのは当然である。また、それ以前に、被告人Bは、一方で、教団は歴とした宗教であり、修行は確実に病気を治したり問題を解決するものではないと考えていたにもかかわらず、他方で、本件各犯行においては、教団の宗教性を殊更に秘匿し、判示のとおり、そのような考えとは全く異なる欺罔文言が申し向けられている実態を十分に認識し、時に自らも面談フォローの際には欺罔文言を申し向けて修行参加を勧誘したり、新人天仕らに宗教性の秘匿方法や虚偽体験談の指導までしていたのであって、たとえ被告人Aの天声、天行力あるいは教団の教義を信じていたとしても、その教義等の理解とは異なる言動を見れば、詐欺罪の犯意に欠けるところは何らないというべきである。
 第四 本件行為の宗教活動性と司法判断の当否及び信教の自由の保障との関係
 一 弁護人らは、被告人Aらが行ってきた本件各犯行による足裏鑑定、修行参加の勧誘、天声フォロー等及びそれらに伴う金銭の受領は、すべて教団の教義、天声に基づく布教のための宗教活動又はそれに関連、付随するものであるし、被告人Bが教団職員として行ってきたことは、すべて布教、儀式行事等の宗教活動のための業務であるとした上、欺罔文言とされるものの虚偽性及び被害者らの錯誤状態については、教団の教義に関する理解、判断なしには決しがたいものであるから、その性質上法令を適用することにより解決できる問題ではなく、また、裁判所が教団の教義内容及び天声の存在を判断してその是非や真偽を決することは、特定宗教に対する公権力の介入になり、憲法二〇条一項が保障する信教の自由を侵害するもので許されないなどと主張する(弁論要旨二ないし六、九、一〇、一二ないし一五頁)。
 二 関連証拠によれば、教団が宗教法人として、一定の宗教活動を行ってきたことは明らかであって、この点についてまで否定するものではない。とりわけ、被告人Bについては、教団の教義を前記第三の三の(1)イのように理解してこれを信じていることは否定できないところであり、その意味では、同被告人の本件共謀は信仰を背景としたものということができる。
 しかし、被告人両名が、現実にした各行為は、そのような教義理解をはるかに逸脱し、自分又は家族に病気等の問題を抱え悩んでいる被害者らに対し、共犯者らと共謀の上、自ら又は共犯者らを介して、「修行に参加すれば病気は治る。」などとあからさまな嘘を言って、その旨誤信させて法外な金員を要求し、これを交付させたという詐欺行為そのものである。これらの行為や著しく反社会的で違法なものであることは明らかであり、憲法二〇条一項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを詐欺罪として処罰することは、何ら憲法の前記条項に反するものではない。
 三 したがって、本件行為は、司法判断の対象となるし、その判断により被告人両名の信教の自由を侵害するものでもないのは当然である。すなわち、宗教活動という名の下に行われた本件行為が、たとえ犯罪として刑罰法規に抵触しても、その適用を免れ、その判断さえ許されないなどという理屈はない。
 (量刑の理由)
 一 本件は、教団代表役員であった被告人A及び同責任役員であった被告人Bが、他の教団職員らと共謀の上、病気等の悩みを抱き、その治癒等を願う被害者らに対し、真実は、被告人Aらには病気の原因等を的確に診断し、これを治癒させるための確実な方策等を提示する能力がないのに、被害者らやその家族が修行に参加すれば、あるいは、天声に添って法納料等を納めれば、病気は治るなどと偽り、修行代ないし法納料等名下に多額の金員を騙し取ったという事案である。
 本件各犯行は、前記システムの中で、その一環として職業的に敢行された組織的かつ計画的なものであり、常習性も顕著である。その手口は、教団のいわゆる宣伝本を読んで興味を持った被害者らが、家族や自分の病気等の深刻な悩みの解消を求めて教団に相談に訪れた際、被告人Aらにおいて、足裏鑑定又は足裏診断と称する個人面談を実施し、あらかじめ診断カルテと称するアンケートに記入させるなどして面談者の悩み事を把握した上、面談フォロー役の教団職員らと共に、何ら根拠もないのに、このままでは病気が悪くなるばかりだ、あなたも死ぬ、あなたも癌になっているなどと衝撃的な文言を浴びせ、被害者らの抱いている悩みや不安を殊更に煽り立てる一方、修行内容を秘したまま、教団主宰の修行に参加すれば病気は治癒するなどと虚言を弄して執拗に勧誘し、高額な金員を修行代名下に騙し取り、さらに、修行修了後に家族を修行に参加させれば病気は治るなどと虚言を弄し、家族までも巻き込んで修行に参加させるよう求めたり、天声と称して法納料等を要求し、天声に添えば病気は治るなどと申し向けて法外な法納料を騙し取ったというものであり、誠に巧妙かつ悪質な犯行態様である。
 被害者らは、自ら又は家族に病気等の深刻な悩みを有しながらも、その解決方法が見付からず、あるいは、現代医学では治療困難と宣告された窮状にあり、せっぱ詰まった気持ちで相談に訪れ、本件各被害に遭ったのであって、人間の自然の情として落ち度と評すべき事情はない。本件の被害者は合計三一名と多数に及び、被害金額も合計一億四九二一万円に上る大規模な詐欺事案であるところ、被害者らは、一様に苦しい中から、大切な預貯金を取り崩したり、自宅を売却したり、あるいは消費者金融から借金までするなどして、一二五万円ないし一七三三万円もの多額の金員を何とか捻出したのであって、その財産的被害は誠に重大である。そればかりか、様々な悩みを抱え精神的にも不安定な状況の中で、更にかかる被害に遭ったことにより負った精神的な傷も深刻である。とりわけ、余命の限られた家族の病気の治癒を真摯に願い本件被害に遭った被害者らについては、最後に最愛の家族を見守りながら過ごすべき貴重な時間を割いて、自らのみならずその病気の家族に無理をさせて修行に参加させ、その後も行や教団活動を続けたことに、今なお後悔し続け、騙された自らを責め、亡くなった家族への責任を感じている者さえいるのである。このような、財産的被害のみにとどまらない被害者らへの深刻な影響は、計り知れず、これを軽視することはできない。したがって、財産的被害については全額被害回復がされ、二六名の被害者らについては示談が成立しているにもかかわらず、なお多くの被害者らが厳しい被害感情を示しているのも当然であるといわなければならない。また、宗教団体である教団による組織的な本件詐欺行為が、社会に与えた影響には非常に大きいものがある。
 二 被告人両名の個別情状についてみると、次のとおりである。
 被告人Aは、前記のとおり、天声が聞こえるなどと自己に特別な能力があるかのように装い、教団を創設した上、教祖として教団のトップに君臨し、本件各犯行を推進した首謀者であって、その刑事責任は他の共犯者らと比べものにならない程重大であることは他言を要しない。同被告人は、一方で、金員を教団に支払うことは、金銭的欲望を絶ち、頭を取るための行の一つであるなどとしながら、他方で、自らは教団に支払われた金員の中から莫大な利益を取得し、高級マンションを自宅としながら高級ホテルに宿泊していたばかりか、妻に対しては着物等の贅沢品を購入して与えていたのであって(これらも、行であったなどと弁解している。)、このような身勝手な論理を前提に、宗教の名の下に自己の金銭的欲望を満たす犯行動機に全く酌量すべき点はない。そればかりか、同被告人は、公判廷においても、自己に天声を聞く能力があるなどと強弁しつつ、都合の悪いことについては、天声で示されたことだから分からないと供述するなど、自己の刑責を免れるための不合理な弁解に汲々としているのであって、全く反省の態度はうかがえない。
 また、被告人Bは、前記のとおり、責任役員等の教団幹部として最高会議に出席するなどして教団の運営に参画し、また、富士天声村の最高責任者である家主として、修行が滞りなく実施されるよう取り計らうとともに、教団の方針に従順に従うよう新人天仕の教育、指導を担当するなど、教団の組織的な本件各犯行において重要な役割を果たしてきたと評価できる。しかしながら、現在まで被害者らに対して謝罪の態度すら示しておらず、教団内での自己の立場を極力矮小化しようとする供述態度からは、やはり反省の態度は看取できない。そうすると、他の教団幹部同様に、同被告人の刑事責任には重いものがある。
 三 以上のとおり、被告人両名、特に被告人Aの刑事責任は非常に重く、被害者らが提訴した民事裁判等の結果、被害金額の全部又は一部が回復された上、その後、被告人Aにおいて、自己の出捐によるものではないが(教団の教義を承継する「天華の救済」なる団体から合計一億〇一六二万円余りを借り受けて被害弁償等に充てている。)、被害者二七名に対して追加的に被害弁償及び慰謝料等の支払を行い、最終的に全員について全額被害回復がされ(なお、被害者一名を除いては、本件被害者額以上の金額は回復されている。)、うち二六名との間で示談が成立していることなどの被告人両名のために酌むべき事情に加え、被告人Aについては、古い前科一犯しかないこと、被告人Bについては、前科前歴がなく、教団に入った経緯、動機は信仰心に基づくものであり、当初からこのような詐欺を行う意思があったわけではないことなどの、各被告人のためにそれぞれ有利に斟酌すべき事情を併せ考慮しても、被告人両名をそれぞれ主文の刑に処するのが相当である。
 (求刑 被告人Aにつき懲役一三年、被告人Bにつき懲役六年)
(裁判長裁判官 青柳 勤 裁判官 野原俊郎 森川佳奈)