くろ坊のこと
UP99/04/11
更新02/01/04

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第3話「きずな」


 僕は、くろ坊とちゃあ坊2匹を、いつまでも下宿の部屋の中で飼うことはできないことはわかっていました。

 そのころの部屋は5畳一間でとても狭く、そこにベット、机、本棚などがあって、とても2匹の猫が暴れて遊ぶだけのスペースはありません。しかも2匹の猫はだんだん大きくなります。それに元々外界の楽しさを知っている猫たちです。生活が安定して元気になれば、2匹は、必ず外に出たいと言って暴れることはわかっていました。

 ただ2匹は、いまとても僕に慣れているとしても、もともと捨てられた猫たちです。外界での生活も少し経験しています。2匹を外に放つと、もう帰ってこないかもしれません。それはあまりに悲しいことです。また帰ってくるとしても、「2匹が自分達の都合のよいときだけ帰ってくる」、つまり、僕が大学から帰ってきても、いつまでも遊びに行って帰ってこないのも心配になります。

 そこで僕は、いつか2匹を外に出す日のことを考え、あることを考えつきました。
 
 くろ坊とちゃあ坊に、毎日2回は、えさとお水をあげます。僕は、この時、必ず口笛をふきながら、あげることにしました。これを毎日続けていくと、くろ坊とちゃあ坊は、僕が口笛をふくと、えさやお水ををもらえるものと考え、、「にゃあ」と鳴きながら、一目散に僕に飛んでくるようになりました。

 こうして「訓練」をつんだ後、くろ坊とちゃあ坊との生活を始めて、1週間ほどたったある日、初めて2匹を外に出しました。2匹は、初めは「きょとん」とした顔をしていましたが、まずは喜んで、ドアの外に出ていきました。

 刀根山周辺は、その名のとおり、坂の多い地域です。そのころの僕の部屋は2階で、西側と北側に窓があったのですが、西側の窓は、一階の高さしかありませんでした。そこに3台ほど車が止まるだけの舗装されていない小さな駐車場がありました。

 くろ坊とちゃあ坊は、まず視界から僕が消えるのが不安だったのでしょう。その駐車場に行き、2匹で、走りあいながら、取っ組み合いのけんかをしたり、体が痒いのでしょうか?体をころがして砂にこすりつけたりして、遊びました。

 西側の窓は、昼間は、さんさんと太陽の光に照らされます。夏場は、熱いですが、窓をあけて、2匹を見ながらベッドでくつろぐ日々は、いつも最高でした。

 2匹は外界に慣れてくると、そのうち、駐車場の隣にある家の屋根で遊んだり、駐車場の向こうには、4メートル道路をはさんで、かなり広い林となっているのですが、そこまで遊びに行ったり、下宿そばの刀根山公園に行ったりして、遠出をするようになりました。、

 ただ2匹はどんなに遠出をしていても、僕が口笛を吹くと、一目散に戻ってきました。
 
 たとえば僕が、昼間、大学に行き、夜帰ってくるとします。僕は帰ってくると口笛をふきます。しばらくすると、遠くでかすかに「にゃあ」という声が聞こえてきます。その間も僕は、口笛を吹きつづけます。そうしているうちに、だんだん「にゃあ」「にゃあ」という声が大きくなり、ついにくろ坊とちゃあ坊の姿が現われ、そして2匹は競争のように、われ先にと僕の足元にまとわりついてくるのです。

 もちろん2匹が近くにいるときは、ものの数秒で2匹は帰ってきますが、口笛を吹いても10分くらい戻ってこないこともあります。それでもやはり次第に遠くで「にゃあ」という声が聞こえるようになり、2匹は走って帰ってきます。2匹がわれ先と走ってきても10分はかかる距離です。かなり遠くに行っているのだと思います。猫の足で10分、1キロ以上は遠くにいるのではないでしょうか?

 それでも猫の耳には、僕の口笛が聞こえるのです。これはすごいことだと思いました。猫の聴覚は優れているとは聞きますが、本当なんだと理解した出来事でした。

 そうして僕はいつも2匹が帰ってくると、目の前で、2匹にごほうびのえさとお水をやりました。その後、また2匹は外出することはありましたが、いつも2匹、寝る時は、僕の部屋で寝ます。放し飼いをした猫は何件もの「自宅を持つ」とも言います。でも2匹は最後まで、僕の部屋が「母屋」だったと思います。
 
 それはとても幸せで、のどかな日々でした。



 次回は、くろ坊とちゃあ坊との生活に、下宿の大家さんが気づきます。大家さんは当然、怒ります。くろ坊とちゃあ坊の運命はいかん?
 まだまだ続きます。今後も応援してくださいね。





第1話「出会い」 UP99/04/11最終更新02/01/04
第2話「抱き癖」 UP00/04/15最終更新02/01/04
第3話「きずな」 UP00/07/27最終更新02/01/04
第4話「決 意」 UP02/01/03最終更新02/01/04




なおこの内容は、いつか書籍(絵本や童話)にすることを考えており、
どなたかご興味のある出版社の方は、ぜひご連絡ください。