東京地裁平成12年3月24日判決
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原告―有限会社ラーフスペース・シャクティパットグルファンデーション
被告―株式会社フジテレビジョン、株式会社講談社、森本毅郎(司会者)、
紀藤正樹(弁護士)、小笠原伸児(弁護士)、内田信也(弁護士)、浅見定雄(宗教学者)、
江川紹子(ジャーナリスト)ら18人

以下は、判決の抜粋です。
赤字部分は紀藤の方で付した注です。



↓以下判決


主文
判決の結論のことです


一 原告らの請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一 原告の請求(ライフスペース側で裁判所に求めた内容のことです

  被告らは、原告らに対し、別紙謝罪広告を、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産業経済新聞、日本経済新聞の全国版に3回掲載せよ。


第二 事案の概要(裁判所が考えた本件の争点です

一 本件は、被告らが原告らにつき、「カルト」、「破壊的カルト」との評価又はそれに類似する決め付けをする評価の評論を行なって原告らの社会的評価を低下させたとして、原告らが被告らに対し、謝罪広告の掲載を求めた事案である。

二 前提事実(略)

三 争点
1 被告らの発言や記事等が原告らの社会的評価を低下させるか。
2 被告らの発言や記事等による名誉毀損についての違法性が阻却され、又は故意、過失が否定されるか。

第三 争点に対する判断(20頁以下
カルトという表現に対する裁判所の判断です(裁判所によるカルトの初定義となります。)


 甲第69号証及び弁論の全趣旨によれば、「カルト」とは、「崇拝、特に狂信的な崇拝。」「宗教的な崇拝。転じて、一部の集団による熱狂な支持。」「なんらかの体系化された礼拝儀式、転じてある特定の人物や事物への礼賛、熱狂的な崇拝、さらにそういう熱狂者の集団」を意味することが認められる。

 そうすると、「カルト」という言葉それ自体は、崇拝や熱狂的、狂信的な崇拝及びそういう熱狂者の集団を意味するにすぎず、この言葉が直ちに他人の社会的評価を低下させるものであるとまでいうことはできない。

 もっとも「カルト」という言葉の前後の文脈、「カルト」という言葉を修飾している表現、「カルト」という言葉が用いられている文書全体の論調、趣旨等を総合的に考慮すると、「カルト」という言葉が他人の社会的評価を低下させる場合があり得るといえる。


(中略)

僕の発言について触れた部分―そもそも僕は「カルト」という発言を行っていませんから、「名誉毀損発言はない」という認定です(36頁以下)

 
 被告紀藤は、フジテレビジョンの番組において、被告森本との対話の中で、「まあ今の回答ですけれどね、やっぱり意味不明な回答で、しかも彼らのホームページを見てもね、裁判で負けているけれども、それに対して、下品な判決文だとかですね、お坊っちゃま裁判官に何がわかるかという、そういうような言い方でね、いわばかなりいい方としても非常に遵法意識のかけらもないような感じがするんですよね。」、「だから、今回、人が死んでいますからね。それに対するどういう安全を確保していたかということが、基本的な裁判で争点になっていたわけですから、そこについてきちっと回答してそれを裁判でも言わないといけないんですけれども、最終的に高橋弘二本人もね、裁判所には出頭しなかったんですよね。」と発言したことが認められる。

  しかし、この発言を精査しても、被告紀藤が、原告らについて「カルト」との評価又はそれに類似する決め付けをする評価の論評を行なったとは認められない。

  したがって、被告紀藤の発言により、原告ら主張に係る原告の社会的評価が低下したとは認めることはできない。




以下が、インターネット上の表現が名誉毀損にあたらないとした判示部分です。わかりやすくするために、判示部分をまとめてみました)―この争点に該当する被告は2名ですが、いずれのケースも「マスコミの報道だけで、一定の評価を下しても名誉毀損にあたらない」場合がありうることを認めたた初めての判例です。これはインターネットを利用する普通の市民にとっては、画期的な判決で、後世に残すべき判決だと思います。

被告「青春を返せ裁判」を支援する会に対する判示部分


一 争点1(被告らの発言や記事等が原告らの社会的評価を低下させるか)について(31頁以下

 被告支援する会は、インターネット上のホームページに、「他のカルト被害の相談先」として、「ライフスペースを考える会」を挙げ、「ライフスペース(=自己啓発セミナー・高橋弘二代表)」と掲載していることが認められる。

 とすると、被告支援する会は、カルト被害が発生している具体例として原告会社を挙げていることが認められ、被告支援する会が「カルト」という言葉を使用した前後の文脈、「カルト」と言う言葉が用いられている文章全体の論調や趣旨等を総合的に考慮すると、被告支援する会の表現が原告会社の社会的評価を低下させるものであることは否定できない。

 なお被告支援する会は、原告シャクティパットグルファンデーションについては、何ら言及していないから、被告支援する会の表現行為によって、原告シャクティパットグルファンデーションの社会的評価が低下したとは認められない。。

二 争点2(被告らの発言や記事等による名誉毀損について違法性が阻却され、又は故意、過失が否定されるか)について(71頁以下

 乙K第1号証によれば、被告支援する会は、原告会社について、平成7年の新聞報道などで受講者に対し、体に異常をきたすような「風呂行」などを行い死亡事故もあったこと、受講者は高額の参加費を支払ってセミナーに参加していること、受講者が倒れてもスタッフが「大丈夫だから」と言って救急車を帰らせていたこと、原告会社は風呂行の企画自体を否定し、「過去世」や「カルマ」を口にし、前記「シャクティパット」や「体に気を通す」などという非科学的なプログラムを導入していたことなど一般常識を超えるような熱狂的な信念を持った集団であることがうかがわれたこと、平成8年10月29日付赤旗などで原告会社に取り込まれた受講生の家族、元受講生らが「ライフスペースを考える会」を結成していることを知ったことが認められる。

 そして、前記(一)の事実に照らして考えると、前記被告支援する会の表現行為については、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったということができ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとは認められないから、違法性を欠くものといわなければならない。



被告Tについての判示部分―ちなみに、Tさんは、地方都市に住む20代の男性。今回、ホームページ上の表現で、ライフスペース事件に巻き込まれてしまいました。現在、彼のホームページは、残念ながら閉鎖中です。

一 争点1(被告らの発言や記事等が原告らの社会的評価を低下させるか)について(33頁以下

 被告Tは、自己のホームページの「カルトリスト」というページに「ライフスペース」を掲載していることが認められる。

 そうすると、被告Tは、カルトの具体例として原告会社を挙げていることが認められ、被告Tが「カルト」という言葉を使用した前後の文脈、「カルト」と言う言葉が用いられている文章全体の論調や趣旨等を総合的に考慮すると、被告Tの表現が原告会社の社会的評価を低下させるものであることは否定できない。
 
 なお被告Tは、原告シャクティパットグルファンデーションについては、何ら言及していないから、被告Tの表現行為によって、原告シャクティパットグルファンデーションの社会的評価が低下したとは認められない 。


二 争点2(被告らの発言や記事等による名誉毀損について違法性が阻却され、又は故意、過失が否定されるか)について(75頁以下

 乙J第1号証によれば、被告Tは、本件において問題とされているホームページを平成10年9月末日から同年12月17日までオープンしていたこと、被告Tが原告会社をホームページのカルトリストに掲載したのは、平成7年9月11日付毎日新聞うより報道された原告会社に対する訴訟提起についての記事、前記の平成9年1月8日付毎日新聞朝刊の「ビック追跡」の欄において報道された「参加料は5000万円、代表はグル、スペインで合同結婚式も。自殺の青年借金1千万円」などと題する記事、同年1月22日号の雑誌「フォーカス」に掲載された「オウム、統一協会を真似る怪しい集団」という記事、同年4月号の「views」において紹介された原告会社に対する訴訟を担当する被告小笠原の具体的コメント、同年3月発行の雑誌「別冊宝島」に掲載された「洗脳されたい」と題し「マインド・ビジネスの天国と地獄」という副題の下に、いくつかのグループの実態が詳しく紹介されその冒頭に被告米本より書かれた原告会社についての詳細な記事、同年4月に刊行された三一書房の「マインドレイプ」に記載された原告会社の実態に関する記事、同年5月28日に放送された被告フジテレビの「ニュースJAPAN」、同年10月24日に放送された被告フジテレビの「ニュースJAPAN」、平成10年1月17日に放送された被告フジテレビの「THE WEEK」による原告会社に関する特集報道などの情報に基づいていたことが認められる。

  そして、前記(一)の事実に照らして考えると、前記被告Tの表現行為については、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったということができ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとは認められないから、違法性を欠くものといわなければならない。

  また、少なくとも、被告Tにおいて、その表現行為に関して、事実を真実と信じるにつき相当の理由があるといえるから、故意又は過失が否定される。


以下判決の結論部分です(78頁以下)。

4 以上によれば、本件被告らの発言等は、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったということができ、違法性が阻却されるだけでなく、少なくとも、事実を真実と信じるにつき相当の理由があるといえるから、故意又は過失が否定されるというべきである。

三 したがって原告らの請求は理由がないので、いずれも棄却することとし(なお、原告シャクティパットグルファンデーションの本件訴えについては、当事者能力等に関し、いささかの疑念が残るが、事案の性質に鑑みれば、原告側、被告側の双方の利益のため、訴訟判決をすべきか否かの判断を省略し、直ちに本案についての判断をするのが相当と考えられる。)、訴訟費用の負担につき、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。




以上は、今回の判決の画期的な部分の抜粋ですが、
以下は、ライフスペースに対する裁判所の認定部分の抜粋です。


裁判所が認定したライフスペース(46頁以下)


 乙A第1号証、乙C第3、第4号証、乙D第1号証、乙E第5、第6号証、乙F第1ないし第3号証、乙G第2号証、乙J第1号証及び弁論の全趣旨と前記2の認定事実によれば、以下の事実が認められる。

(1) Yが、風呂行の最中に身体に異常をきたして緊急入院し、治療を受けたものの、死亡したため、Yの両親は、原告会社らを被告として京都地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起した。

(2) Yの両親が右風呂行訴訟の訴えを提起したのは、高橋弘二が事情を聞きたいという両親の申し出を無視して瞑想中だからという理由で会おうとせず、Yがセミナー中に死亡したことを他のセミナー参加者に知らせず、当初は風呂行の最中に死亡したと説明したにもかかわらず、次第にYが勝手に風呂に入ったというような責任回避的な態度をみせるようになったためであり、Yの死亡に関して、原告会社に一定の責任が認められる可能性が相当に高かったところ、現にその後平成10年11月27日、京都地方裁判所第6民事部は、原告会社の安全配慮義務違反を認めて、原告会社に対し、Yの両親に損害賠償金の支払を命じる判決を言い渡し、さらにその後の平成11年7月23日、大阪高等裁判所第7民事部は、原告会社の控訴を棄却した。

(3) 原告会社の主催するセミナーの中には、受講金額が500万円という高額のものが存在し、セミナーを受けても願い事が叶わない場合には、精神の力が弱いとされてさらにセミナーの受講が勧誘され、家族関係が悪くなった場合には、人間関係がよくなるというセミナーへの受講が勧誘されるなど、原告会社は、セミナーの種類を増やして、次々とセミナーに勧誘していた。

(4) 原告会社は、高橋弘二が病気を治すというふれこみでセミナーを行なっていたが、その方法たるや、高橋弘二が参加者と面談して病気を言い当て、自ら参加者の額を手で叩くシャクティパットと称する行為をして治すというものであった。そして、本件セミナーおいても、その目的は「からだに気を通す」ことであるとされ、その具体的内容は、瞑想、ブリージング(骨盤の解放を目的とする呼吸法とされる行為)、インタビュー(高橋弘二が参加生に対して参加生の過去生やビジョンについて個別的に対話することと称する行為)、右のシャクティパット、風呂行であった。

(5) 原告会社のセミナーに参加した参加者の中には、高橋弘二にあなたは癌ですと言われたため、高額の料金を払ってシャクティパットを受けた者が存在し、その他にも、原告会社のセミナーを受けるために家族や友人に借金を申し込んだ者や、原告会社のセミナーに参加したことを契機として家族、職場や地域社会等との関係を断ち切り、専ら高橋弘二のメッセージと称する指示に従う者が存在した。

(6) 原告会社及び高橋弘二は、セミナーで集めた金を世界中の腸の不活性な子供のために医療機器を購入すると言明していたにもかかわらず、販売会社は、実際に購入されていたのは、80万円であったと述べている。

(7) 原告会社のセミナーに参加している者の家族や元参加者が「ライフスペースを考える会」を発足させて、同様の悩みを持つ者の相談に乗ったり、解決策を話し合ったりしている。

(8) 原告会社及び高橋弘二は、人の生まれてきた目的、生まれつきの役割を「ヴィジョン」と呼び、高橋弘二には他人の「ヴィジョン」を見抜く力があると宣伝してセミナーに勧誘し、さらに、高橋弘二はシャクティパットグルと名乗って、セミナー参加者の結婚相手まで指名してきた。

(9) 原告会社のセミナーに参加している者の子供たちは、就学年齢に達しているにもかかわらず、学校に通うことなくホテル等で共同生活をしていた。

(10) 原告会社及び高橋弘二は、高橋弘二がサイババの後継者であり、国連本部の最高顧問であるとし、高橋弘二に著書は国連の推薦を受けていると称しているが、サイババの日本事務所が「サイババの後継者を名乗ることを辞めて欲しい。」と申し入れたにもかかわらず、原告会社と高橋弘二はそれを無視し、さらに、国連広報部からはそのような事実はない旨の回答がなされている。