表現の自由と著作権の相克 1999年3月15日号 本文約1300字 MAC||HOME 最終更新02/08/02 |
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リード インターネットによる情報発信は、法律の存在を身近にした。中でも著作権法はそのさいたるものだ。しかし著作権を厳格に運用すると、表現の自由は非常に窮屈となる。表現の自由と著作権の調整という難しい課題を、警察の動きとからめて考えてみよう。 今年1月13日、京都府警は、ポケモンの人気キャラ「ピカチュウ」を、自作の猥褻漫画の主人公にして販売したとして、福岡市内の32歳の女性を逮捕した。 著作権法違反は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金だが、表現の自由との調整から、逮捕にあたっては告訴が必要とされる親告罪とされている。告訴した任天堂は、子どもたちの夢「ピカチュー」が猥褻な漫画に利用されたことに我慢できなかったようだ。 東京で年2回開かれているコミックマーケットには僕もたまに行くが、同様な内容のパロディ同人誌が多数売られている。人気キャラで、パロディ化されていないものを見つけることの方が難しいくらいだ。今回の逮捕は、こうしたコミケ文化にとって、大きな衝撃であった。同時にそれは等しく市民側の文化であるホームページ上の表現の自由にとっても、他人の著作物の使用する際の基準も提示している。 ところでインターネットに関し、著作権法違反が問題になった例は、インターネットを通じて集めた客に音楽ソフトを販売したとして、男性会社員が逮捕されたケースがあるものの(島根県警/98年5月11日)、現時点では(1999年2月2日)、ホームページ上の表現が、直接著作権法違反として刑事事件に問われたケースは一件もない。 実はこれまで著作権法違反は、刑事事件としてではなく、損害賠償や販売の差し止めといった民事上のルールで解決されるのが一般であったのである。このような民事優先の解決方法は、表現の自由の観点から、警察が過度の干渉を控えてきたと評価できる面もあるが、インターネットが登場するまでは、著作権紛争は、もっぱら業者間の財産的な紛争の形を取ることが多く、あえて警察がその権限を行使する必要がなかったというのも原因と言える。 ところがこのような状況は、インターネットの登場によって一変している。著作権にまつわる紛争は、業者間の紛争というよりも、市民対業者という色彩が強くなってきている。 CD並の音を再生できる音楽圧縮ソフトMP3の登場によって(注1)、市販の音楽をダウンロードさせるホームページが登場した。日本音楽著作権協会、日本レコード協会などの音楽関連6団体は、昨年10月1日、こうした違法なMP3利用に注意を促すホームページを開設。 違反者に直接メールで警告するほか、プロバイダーにも削除を求める活動をしている(http://www.music-copyright.gr.jp)。アイドルの顔写真と別の女性の裸を組み合わせたアイドルコラージュ(略してアイコラ)と呼ばれる合成写真を掲載するホームページもよく見かける。 この場合、画像が全体として猥褻なものであれば、猥褻物頒布罪となり(2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)、現に、昨年1月、パソコン通信を利用して、猥褻なアイコラを販売していた高校3年生の男子が摘発された例もある。猥褻な写真とまでは言えなくても、一般にアイドルの写真は、生写真を除けば、著作権法違反の余地がある。 こうした領域にまだ警察は介入してきていないが、同人誌の販売が著作権法違反に問われた以上、いつホームページ上の表現にメスが入ってもおかしくない状況にある。しかしそれは表現そのものへの警察の干渉という新しい時代に入ったことも意味している。 注1 MP3の衝撃については、拙文がある。
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