カメラ付き携帯電話の普及がもたらす意味 2003年2月15日号 UP03/07/14 最終更新04/03/15 本文約2000字 MAC||HOME |
リード J―フォンからカメラ付き携帯電話が発売されたのは2000年11月のことだ。2002年には、KDDI、NTTドコモも、カメラ付き携帯市場に相次いで参入し、普及台数は1500万台を突破した。今後も着実に伸び、最終的にはすべての携帯電話が「カメラ付き」となると予想されている。今回は、日常にカメラが持ち込まれる社会の意味を検証したい。 ■新たな「いじめ」が発生 2003年1月7日付け毎日新聞が、大阪府内のある高校で、2002年5月ころから、カメラ付き携帯電話で撮影した女子生徒の写真が、実名や悪口を付けて生徒などに広がっているという事件を報じている。 メールには、受け取った人がさらに複数の人に転送するよう求める文書が付いていて、チェーンメール化し、この女生徒は、駅のホームなどで、知らない人から突然名前を呼ばれるという被害を受けたという。 さらにひどい「いじめ」のケースも報道されている。2002年4月23日、愛知県尾張地方の市立中学校3年の女子生徒ら数人は、1年の女子生徒に「態度が悪い」といいがかりをつけ、近くのスーパーのトイレに連れ込んだ。その場で服をぬがせカメラ付き携帯電話で裸の写真を撮影、これを友人に送信した。 2002年7月10日付けの毎日新聞によると、学校側の調査で、上級生らは事実関係を認め謝罪したというが、流行のカメラ付き携帯電話がいじめの質を大きく変えつつあることが明らかだ。 ■盗撮犯罪も続出 カメラ付き携帯電話で盗撮事件もあいついでいる。携帯電話各社は、悪用防止のため、シャッター音を消したり小さくしたり出来ない構造にしているというが実状はひどい。 報道された主なものをあげる。もちろん報道された事件は実際の犯罪の中のごく一部にすぎないし、逮捕事例もまた氷山の一角である。 古くは、2001年4月9日夜、埼玉県警大宮署が、同県熊谷市の24歳の無職男性を県迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕したという事件がある。この男性は大宮市のCD店で、カメラ付き携帯電話で、CDを選んでいた女性客(22歳)のスカートの中を盗撮した。 2002年6月11日夜には、神戸市のJR三ノ宮駅構内で、無職男性(26)が県迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕されている。 2002年11月26日には、埼玉県警は、埼玉高速鉄道鳩ケ谷駅の上りエスカレーターで、同県川口市の女性会社員(36)の背後からスカートの中を隠し撮りをしたという容疑で、県迷惑防止条例違反の現行犯で同県鳩ケ谷市の男性会社員(43)を逮捕している。 2002年11月30日にも、千葉県警が、29日午後8時20分ころ、同県JR柏駅前の屋外に設置された上りエスカレーターで、私立高校2年の女子生徒(17)のスカートの中を背後からカメラ付き携帯電話で撮影したという容疑で、迷惑防止条例違反で同県野田市の会社員(40)を逮捕している。 ちなみに2002年6月29日付けの毎日新聞によると、兵庫県警では、こうした盗撮の手口は2001年秋から出始め、既に7件を県迷惑防止条例違反容疑で摘発した。ビデオなどを含む女性への盗撮の摘発件数は昨年1年間で37件だが、うち携帯電話を使った手口は秋から3件で、2002年上半期では18件のうち4件を占めたという。 ■法廷持込の禁止も 2002年10月5日付けの毎日新聞は、「法廷内での隠し撮りを防止するため、裁判所が撮影機能のある携帯電話の持ち込みを禁止するケースが全国で相次いでいる」ことを伝えている。 法廷内の撮影は禁止されているが、大阪地裁では、2001年、イトマン事件の許永中被告(55)の公判で、傍聴席の男性がカメラ付き携帯電話で法廷内を撮影し、これに気づいた職員が写真の削除を求めたケースがあったことをきっかけに、カメラ付き携帯電話の法廷内持込を禁止している。普通の携帯電話は電源を切ったうえでの持ち込みを認めているのと対照的だ。 ■カメラ付き携帯電話の普及 電気通信事業者協会(TCA)が、2003年1月10日に発表したデータによると、2002年末の携帯電話の加入者数は、前年同期比9・6%増の約7351万台となり、携帯電話とPHS(簡易型携帯電話)を合わせた人口普及率は62%に達している(http://www.tca.or.jp/)。 携帯電話全体の新規契約から解約を引いた年間純増は約641万となり、最低でも900万台の純増があった過去とは異なり、携帯電話の加入者数の伸び率は確実に鈍化している。しかし2002年にはカメラ付き携帯電話市場に、4月にKDDIが、6月にNTTドコモが相次いで参入した結果、カメラ付き携帯電話は1500万台を突破したとされ、近い将来、すべての携帯電話が「カメラ付き」にとってかわられることが予想される。 ■画像110番―携帯電話に監視される社会 こうした中、「カメラ付き」の威力を活用しようという動きもある。大阪府警は、2002年4月1日から、新たな110番通報の手段として、画像情報をカメラ付携帯電話等で送信する「画像110番」をスタートさせている。撮影した犯人の姿や犯罪に使用した車両等を目撃画像情報として、犯人の検挙活動等に活用することが狙いだ(http://www.police.pref.osaka.jp/topics/07.html) カメラ付き携帯電話が日常化する時代、盗撮問題など「民と民」の問題も深刻だが、ちょっとしたことで画像付きで通報することも可能で、「官による民の監視化」も生む危険もある注1、注2。 以下の注は、03/07/20現在(04/03/15更新)のものです。 注1 2003年9月15日号「デジタル万引きは犯罪か?」参照。 最近では「デジタル万引き」が問題となっています→朝日新聞2003年7月6日付け「書店で「デジタル万引き」横行 雑誌協会が対策に着手」 。ただしデジタル万引きはは、それだけでは犯罪ではなく、立ち見の延長線上の行為でしかありません。もちろん個人として楽しむ範囲を超えると著作権の問題が生じてきますが、ただ撮影するのは別に何も問題はありません。ただ著作権の問題は序の口です。しょせんは企業の利益、そして負け組みの論理でしかありません。 情報誌TOPのリクルートは静観しています(ちなみにリクルートは、反「デジタル万引き」キャンペーンを実施している日本雑誌協会から締め出されています)。 情報誌は発売した時点で既に古いというのはもはや常識。リクルートは、早くからインターネットの威力に注目し、リアルタイムで情報が更新可能なサイト:ISIZEと連動した雑誌戦略をたてています。今やISIZEは、情報誌系一のインターネット視聴率を誇ります。雑誌が売れないのをデジタル万引きのせいにするのは、負け惜しみの感が否めません。 カメラ付き携帯の問題は、本質的には、本稿で述べたような個人のプライバシーの危機の問題だと思います。 注2 海外の動きも、最近報じられています。 ・CNET Japan - カメラ付きPDAで、教師の横暴を暴露―2003年7月18日(金) 19時48分 ・CNET Japan - カメラ機能付き携帯電話を締め出す韓国企業―2003年7月8日(火) 16時57分 |