デジタル万引きは犯罪か?
2003年09月15日号
初出タイトル:デジタル万引きは違法か?
UP04/03/15
本文約2000字
MAC||HOME


リード


 立ち読み客が、カメラ付き携帯電話を使い雑誌記事を写す行為、デジタル万引きに対し、2003年7月、日本雑誌協会が客のマナーに訴えるキャンペーンを始めた。J-フォンからカメラ付き携帯電話が発売されたのは2000年11月のことである。盗撮問題などが問題とされてきたカメラ付き携帯は、その普及につれ、我々の文化そのものに影響を与えつつある。





デジタル万引きとは


 今回は、被害者に発信者情報の開示権を認めるプロバイダ責任制限法についての解説を書く予定だったが、内容を変更し、最近筆者にマスコミからの取材が殺到した「デジタル万引き」についてとりあげる。

 プロバイダ責任制限法については、2003年3月、4月と立て続けに、開示を認める初判決、開示を否定する初判決が出されていて、きちんと解説するとかなりの分量になりそうでもあり、次回以降に回すことにする。

 さて急遽デジタル万引きについて書こうと思った、ことの発端は、2003年7月6日付けの朝日新聞などが「書店で「デジタル万引き」横行 雑誌協会が対策に着手」と報じたことだ。筆者のもとに「デジタル万引きは違法か」という取材が殺到することになった。既にテレビその他で僕のコメントに触れた読者もおられると思う。

 デジタル万引きとは、カメラ付き携帯電話を使って、雑誌の一部を立ち読み客が写す行為で、書店やコンビニエンスストアなどで、情報誌を中心に被害が出ているという。

 確かに雑誌記事の中で、「映画の内容、上映時間」「おいしいお店の紹介」「求人、アルバイト情報」「ブランド品、ホテルの情報」「料理のレシピ」などの情報系の内容は、買うまでもなく立ち読みで足りると考えている客も多いと思われる。
 筆者も、外回りをする際に、目的地周辺の地図などを立ち読みすることがよくある。

 しかし「デジタル万引き」は立ち読みの域を超え、雑誌の売り上げに影響が出ていると感じた社団法人日本雑誌協会は、7月の雑誌愛読月間にあわせ、「カメラ付携帯電話などを使って情報を記録することはご遠慮ください」と訴えるポスターを3万枚作製、全国の2万店の書店に配布し、客のマナーに訴えるキャンペーンを始めた。


デジタル万引きは違法か?


 結論を言うと、デジタル万引きは、語感はともかく、それだけでは犯罪ではなく、立ち見の延長線上の行為でしかない。ただし個人として楽しむ範囲を超え、撮影した記事を友達などに送信すると、著作権の問題が生じてくるが、ただ個人として楽しむためだけに撮影するのは著作権法上も何も問題はなく、メモと同様、記憶の保管行為というほかない。
 この点は日本雑誌協会側も十分に理解しており、だからこそ「マナーに訴える」戦略だ。

 もちろん「立ち見禁止」という張り紙はこれまでにもあったし、漫画コミックスなどをビニルで覆うなどの対策もとられてきた。こうした警告に反し、立ち見をしたりビニルをはずす行為をした場合、住居侵入や器物損壊にあたる可能性もあるが、客が口頭での警告を無視して、さらに続けるといったことをすればともかく、ただちに犯罪になるという解釈は現実的でない。

 したがって、たとえ「写真撮影禁止」という張り紙をしたとしても、「デジタル万引き」即犯罪ということにはならない。

 つまり「デジタル万引き」は、「デジタル立ち見」ないし「デジタルメモ」と呼ぶくらいが真相に合致した使い方であり、「万引き」という犯罪を匂わせる用語法は、あくまでもキャンペーン用の運動用語にすぎないことに注意する必要がある。

 ところで日本雑誌協会のホームページ(http://www.j-magazine.or.jp/FIPP/)を見ても「デジタル万引き反対キャンペーン」のコンテントはなく、協会がどこまで本気でこの問題に取り組んでいるのかは疑問のきらいもある。


迫る雑誌文化の変革


 ところで雑誌側も取り組むべき課題はある。最近一般の雑誌でも、情報記事について、袋とじや綴じ込みの記事が増えてきた。
 連載漫画さえ袋とじにした雑誌もある。

 そもそもインターネットが登場した現在、情報誌の内容は、発売した時点で既に古いというのはもはや常識だろう。情報誌の売り上げが落ちているというが、デジタル万引きが理由というよりも、実際はインターネットの威力が、ここに来て情報誌の売り上げに影響を与えているというのが真相だろう。

 情報誌系トップのリクルートは、デジタル万引きには静観の構えだが、同社は、早くからインターネットの威力に注目し、リアルタイムで情報が更新可能なサイトISIZE(http://www.isize.com/)と連動した雑誌戦略をたててきた。

 今やISIZEは、情報誌系一のインターネット視聴率を誇っている。つまり情報誌の未来は予測可能だったものであり、ここに来て雑誌が売れないのを「デジタル万引き」のせいにするのは「負け組みの論理」という感が否めない。

 もっともリクルートの雑誌は広告の集合物に過ぎず、記事主体の雑誌とは次元の違うものだという従来メディア側からの意見もあり、実際、リクルートは日本雑誌協会に加盟していない。

 しかしインターネットは無料の情報の集合体であり、メディアと広告の垣根は完全に崩れつつある。既に従来型の雑誌社さえも広告主体の戦略を立ててきており、デジタル万引きの広がりが、こうした変革をさらに雑誌側に迫りつつある。
の値段について、実務的に、高額化の方向で、見直しがされてしかるべきであろうと考える。注1






以下の注は、04/03/15現在のものです。


注1 カメラ付き携帯電話が、著作権の従来のあり方に影響を及ぼす可能性があるのは本稿のとおりであるが、上述のとおり、実は、それは、メディアというシステムの変更を要請しているにすぎない。その意味で、今は、過渡期というべきで、即座に、法的規制を及ぼすことには反対である。 むしとカメラ付き携帯電話のもたらす真の恐ろしさが問題なのであり、それは、2003年2月15日号カメラ付き携帯電話の普及がもたらす意味」を参照。