不可思議な民事訴訟法改正案に反対する 初出:松本サリン事件報告-事件から5年を過ぎて- 初出:1999年6月24日 UP00/09/11 |
松本サリン事件の民事裁判の審理は、平成8年12月以来、遺族の声を無視して、裁判所に期日指定を拒否され、2年間半にわたり、たなざらしの状態にされている。 遺族が検察庁が裁判所に求めても、実行犯ら捜査段階の供述調書や法廷での証言調書などの刑事記録が、民事裁判に提出されないのが原因である。 松本サリン事件の第一次損害賠償訴訟は、一連のオウム真理教に対する民事裁判の中で、唯一松本智津夫被告が応訴した事件であり、遺族が直接松本被告を尋問できる事件である。 ところが裁判所は、松本被告以外の全ての立証が終了し、次は遺族らが松本被告の尋問を求めるという段階になって、突如期日の指定を拒否した。 実行犯らの供述調書は当然刑事裁判の前提として、弁護士には開示されているものだ。遺族に公開しない理由はない。ところが検察庁は、遺族ら被害者に対しても、当初その公開を拒んでいた。現状でも閲覧しか許していない。また公判での実行犯らの証言調書は、公開の法廷に顕出されており、これを民事事件に利用できない理由はないはずだが、刑事部は証言記録を民事事件で活用することを拒んでいる。 松本サリン事件に限らず、刑事事件の被害者にとって、こうした刑事記録は、民事裁判においても不可欠な資料である。そうした、言わば税金で集めた刑事裁判の資料が、民事裁判で全く利用できないのはあまりにも不合理だ。このような不正義は、民事訴訟法の改正で解消されると思っていた。 ところが、平成8年6月26日に成立し、昨年1月1日から施行された民事訴訟において、公文書の文書提出命令の対象から、刑事記録等が対象外とされた。今回国会に上程されている民事訴訟法改正案では更に進んで、文書提出命令の対象から、刑事記録等を一律除外とし、行政文書に対する対応よりも後退した内容となっている。しかし、このような刑事記録を一律除外する考え方は、昨今の被害者の権利の確保という流れに明らかに逆行するものである。 事件によっては、刑事記録を民事の裁判所に送付はするものの、コピーは許さない扱いをするなど適宜工夫しているし、今回の民事訴訟法改正案は、非公開で文書を提出すべきか否かを検討するインカメラという手続も採用している。 実務で工夫し、工夫しようとしているこれらの方法を全く無視し、全ての刑事記録等を文書の提出義務からはずす法律はあまりにも時代遅れである。被害者救済の立場から、刑事記録等を特別視しないよう、この改正案は修正されるべきである。 |