サイバーストーカーの恐怖
1999年5月1日号
本文約2000字
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リード

 ネット上で、執拗な嫌がらせを繰り返す「ストーカー」を、警察が積極的に摘発するようになってきた注1。被害者が自力で加害者を特定するのが難しいというインターネットの匿名性の影で、警察に頼るしかない現状をどうかんがえたらよいのだろうか





サイバーストーカー・初摘発

 昨年11月5日、大阪府警は、京都市在住の男性会社員(23)を逮捕した。直接の容疑はわいせつ図面陳列罪。大阪市在住のA子さん(28)が開設したホームページの掲示板にわいせつ写真13点を掲載したとい容疑だが、逮捕までの約3ヶ月間、容疑者の執拗な嫌がらせが続いていた。二人は、5月中旬、別のネット上のチャットルームで知り合った。ところが会話の内容がもとでトラブルとなり、容疑者は、7月ころから女性の開設したホームページの掲示板に中傷文を載せるようになった。しかしネット上で「ながせ」と名のっていた容疑者の素性はなかなかわからなかった。この間に容疑者は「A子は淫乱です」「A子のヌード公開中」などと嫌がらせをエスカレート。明らかな犯罪行為であるわいせつ写真の掲示をきっかけに、警察が動き、容疑者の加入しているプロバイダの通信記録などから、容疑者が逮捕に至った。

 インターネットは、通信記録を通じて、プライバシーは、ある種ガラス張りの状態だが、一般市民が通信記録を見るのは難しい。プロバイダが通信の秘密を楯に協力を拒むことが多いからだ。一方、警察は強制捜査権限を持っている。事実上被害者が泣き寝入りの状態にあるこの種の事件において、警察が、本気になってくれさえすれば、容易に逮捕が可能となるという好例と言えるだろう。

 この事件は、マスコミで、サイバーストーカー摘発第1号と大きく報道された。もっとも、すでに昨年8月、神奈川県警は、交際を断われたはらいせに、女性(27)の名前を、恋人募集をうたつインターネットの掲示板に勝手に登録。電子メールで連絡してきた男性たちに、女性の住所や電話番号を返信していたという男性(27)を名誉毀損の疑いで摘発している。女性宅には、4月上旬から5月初めにかけ、1日最高100本以上、計1000本以上の電話が殺到していた。男性が登録した掲示板は15以上に登り、この事件もその執拗さから、サイバーストーカーの摘発例だと言ってもよいだろう。



サイバー・ハラスメント


 ストーカーと言えないまでも、嫌がらせを目的としたこの種のケースが、ネット上で多発している。昨年10月、栃木県警は、インターネットの掲示板に、仕事で知り合った女性の氏名や電話番号を、35回にわたりわいせつな文章とともに登録したという男性(32)を、名誉毀損の疑いで逮捕している。今年1月には、女性の住所や生年月日に、性的な中傷を加えたメールを4000人以上の会員に配信したとして、ホームページの開設者(27)と情報提供者(37)の男性2人が千葉県警に逮捕されている。変わったところでは、昨年9月、警視庁が、業務妨害を理由に逮捕したケースがある。無断欠勤を理由に会社を辞めさせられた男性(26)だ、電子メールを使い、会社の上司の名前でわいせつ画像を無差別に送りつけていた。その結果、会社に苦情が殺到し、会社の業務に支障をきたしたという容疑だ。

 インターネット上の掲示板に中傷文を掲載するといったこの種の事件として、報道に現れたもっとも古いものとしては、秋田区検庁が、97年11月19日、37歳の男性を、侮辱容疑で略式起訴し、9900円の罰金に処したケースがある(97年11月20日付け読売新聞朝刊)。男性は、インターネットの掲示板に、知り合いの女性(24)の実名と電話番号を掲載し、女性が男性を誘っているかのようなわいせつな言葉を掲載していた。これに1週間ほど遅れ、警視庁も、11月下旬、29歳の男性を名誉毀損の容疑で逮捕した。インターネットの掲示板に、同じ専門学校に通う女性(50)の氏名、電話番号とともに、「失楽園して」などと不倫を望んでいるかのような中傷文を掲載したとの容疑だ。



「地上の楽園」事件


 1996年1月、「地上の楽園」というBBS上に、「○○をレイプした人には、賞金10万円を差し上げます」という提示と、その女性の氏名、住所、電話番号、大学、学部、果ては女性の実家の住所や電話番号までが掲載されたという事件がおこった。女性は「襲撃」を恐れ、引越しをせざるを得なくなり。、精神的にも財産的にも相当な被害を受けた。女性は警察に被害届けを出したが、結局掲載は動かず、泣き寝入りとなった(AERA96年4月29日号参照)。

 ところが、今年は1月10日、警視庁は、インターネット上の会員制掲示板に、被害者の女性(27)の実名や住所を記載した上で、「仕事人募集。この女性をレイプしてくれたら30万円を差し上げます。ただし写真かビデオに記録して下さい」と書きこんだケースについて、脅迫罪を適用し、女性の本同僚である男性会社印(30)を逮捕するにいたった。掲示板への中傷文掲載の逮捕事例を積み重ねる中で、まる3年かかって、同種事案の摘発に踏み切った例だ。

 しかしこうした事件で、警察が動いてくれない場合、被害者は泣き寝入りするしかないのが現状で残された課題となっている。




注1 ただし関連原稿参照:
■関連原稿 2000年6月01日 サイバーストーカーとの戦い
■関連原稿 2000年7月15日 ストーカー規制法が成立したが・・・