ストーカー規制法が成立したが・・・ 2000年7月15日号 UP03/11/21 最終更新03/11/21 本文約2000字 MAC||HOME |
リード 2000年5月18日、「ストーカー規制法」が成立した。本連載では2000年6月1日号(5月15日発売)で、サイバーストーカーのことを取り上げ、「ストーカー対策は、法制上焦眉の課題」と指摘そた。その課題がようやく果たされた。今回は、このストーカー規制法について解説し、加えてこの法律が持つ意味、そしてサイバーストーカーへの影響に言及したい。 ■「つきまとい等」と「ストーカー」 正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」。注1 埼玉県桶川市で、帰宅途中の猪野詩織さん(当時21)が、ストーカーと化した元恋人の関係者によって殺害されたのは、1999年10月26日。猪野さんの尊い命が、ストーカー規正法の早期制定を後押しした形となった。 今回成立したストーカー規制法は、まず法律用語として「つきまとい等」と「ストーカー行為」を区別する。 後者は犯罪とされたが、前者は即犯罪とはせず、規制基準を分けた。 まず「つきまとい等」とは、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、相手、その家族など社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の8項目に掲げる行為をすること」とされた。 つまり規制される「つきまとい等」の動機面には、「恋愛感情その他の好意の感情」が必要となる。 恋愛感情に限られないから、「弟子にしてほしい」とつきまとうことも規制対象だが、「嫌な上司」に嫌がらせをするのは規制対象外となる。 一方保護される被害者としては、被害者本人だけではなく「家族などの社会生活において密接な関係を有する者」とされたので、被害者の居所をつきとめるために被害者の友人・知人につきまとう行為も規制対象となった。 次に規正法は「つきまとい等」の具体的態様として8項目を挙げている。 ①つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛ける。 ②行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置く。 ③面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求する。 ④著しく粗野又は乱暴な言動をする。 ⑤電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信する。 ⑥汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置く。 ⑦名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置く。 ⑧性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、または性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置く。 これらの項目の中で、ネットとの関係では⑤が重要だが、電子メールは例示されていないことに注意してほしい。 もっとも電子メールの内容によっては②③④⑥⑦⑧の対象となるが、電子メールの送付は、その執拗さよりも、その内容に着目された。 これは電話やファックスと違い、電子メールは開封する必要がないことなども考慮したものだろうが、今回成立した与党案の対案として民主党が提出していた法案には、「電話その他の電気通信の手段により、不安を覚えさせるような方法で相手方に送信を行うこと」とあり、電子メールも当然対象とされていたことを考えると、不十分さは否めない。 電子メールの執拗な送付自体も、メールを使うものにとっては相当な苦痛だろう。 なお掲示板などへの書き込みについては、⑦⑧の対象となる。 ■法律上の「ストーカー」とは? ストーカー規制法は、「ストーカー行為」を、同一の者に「つきまとい等」を反復することと定義した。 ただし①から④の行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限るとした。 ⑤から⑧はその行為自体が社会的に非難に値する行為だが、①から④は、恋愛やその清算の過程で「説得のために」往々にしておこりがちな行為であり、これを即逮捕とするのは、自由に対する制約が多きすぎるという配慮からである。 そしてこの「ストーカー行為」が、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされた。 一方「つきまとい等」については、即犯罪とせず、警察署長らは、被害者から申出を受け、「つきまとい等」が「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせる」程度に達しているという場合に、加害者に警告を発し、さらに公安委員会は、警告に従わないなどの場合には、当該行為の禁止命令などを発することができるとされた。 この命令に違反した者は、50万円以下の罰金に処せられ、さらに命令に違反してストーカー行為をした者は1年以下の懲役又は100円以下の罰金とされた。 ストーカー問題の多くは「色恋沙汰」からおこることが多い。ストーカー規制法の制定は、現場の警察官に「民事不介入」という言い訳を使えなくしたという意味で画期的だ。 だがこの法律を運用するのも、不祥事が続く警察。「本当に信頼してよいのか」という疑問も残る。注2 規正法は、施行後5年を目途に改正される予定だ。今後5年間で、インターネットはどこまで発展を遂げているのであろうか? そして増加するサイバーストーカーに、この規正法はきちんと対処できるのであろうか?法律の今後を見守りたい。 注1 →ストーカー規正法の条文 →ストーカー規正法の説明 注2 本文の桶川ストーカー殺人事件のような事件でさえ、警察は、刺殺された猪野詩織さんの悲痛な訴えを無視した。刺殺後、埼玉県警の不祥事に発展することになり、現在は訴訟にまで発展している(2003年2月26日一審勝訴-控訴中)。 この事件が警察の不祥事に発展していく経緯につき、紀藤も、一定の役割を果した。その経緯は、鳥越俊太郎&取材班著『桶川女子大生ストーカー殺人事件』(メディアファクトリー)を見ていただければ、幸いである。紀藤も写真入りで出ています。 ただ事件の内容を知れば知るほど、正直言って、被害者の垣根を高くしている、自分も含めた弁護士や弁護士会の至らなさを痛感し、もっと努力していればという忸怩たる思いを感ずる。 情報を共有するというコンセプトを持つ、ホームページLINCをもっともっと充実させなければと思う。 加えて今だ警察への告訴の壁は厚い。紀藤が担当している事件でも、ほんの最近、せっかく出した「告訴状を送り返したい」という検察官まで登場する始末である。その際の検察官の言い分は、「預かっているだけでは、国民の信頼が保てない」という。 「受理せず預かり」にしたのは検察官の都合だ。そこで紀藤は、「送り返してくるほうが、国民の信頼を保てないのでは?」と問い返した。検察官は黙ってしまった。 今年、桶川ストーカー殺人事件は、ドラマ化され、2003年12月13日、テレ朝系で、午後9時より2時間にわたり、放映されます。 紀藤も当時のニュース映像の中で登場します。 本当に重たくつらい内容です。主演の父親の猪野憲一さん役の渡瀬恒彦さんも「救いがない内容で演技が難しかった」と記者会見でおっしゃっていました。ですから最後まで見ると、ずしんと来るものがあります。猪野詩織さん役は、内山里奈さんで、熱演です。 そんな内容ですが、ぜひ視聴率(反響でもかまいません)に貢献ください。 そのことが警察や検察の反省を、さらに促すことにつながると思います。 僕の意見は、形式上の問題は除き、よほどのことがない限り、告訴は全権受理すべきだと思います。調べて問題がなければ、起訴しなければよいのですから。 ■関連原稿 2000年6月1日 サイバーストーカーとの戦い ■関連原稿 1999年5月1日 サイバーストーカーの恐怖 |